表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

獅子は我が子を谷に放置する

二話目を投稿します

気を失った俺はその後……。


「今に至るわけだな」


「そういえばありましたね、そんなことも」


今まで俺の上に乗って寝ていた体を起こし、我関せずで人ごとのように言う女。


「いや、最後のはお前のせいだろ」


「それは違います。あれは事故です……そう、私の下に貴方がいて、地面が濡れて滑りやすくなっていた。それがあの事故の真相であり、それに対して私には全くと言っていいほど……」


「あぁ、わかったわかった! お前は悪くないからっ!」


この後もたんたんと言い訳を聞かされるのは面倒くさいから責めるのは諦める。すると……わかればいいんです。といってベッドから降り、腕を上にあげて伸びる女。寝起きのせいか髪には寝癖がついて乱れている。そしてまだ目も完全には覚めていないらしく、瞼を手で軽くこすっていた。


「あれ……? そういえばお前ってどうやって俺もここまで運んだんだ? っていうかここどこだよ」


そう聞くと、少し目を細めて俺を見た後、少し溜息をついて口を開いた。


「一度に連続で質問しないでくれるとありがたいんですが……まず最初の質問に答えるならば、普通に運んだんです」


「普通に?」


「はい、普通に」


俺が女の行ったセリフを理解できずにいると、女は俺を手招きしてきた。


「なんだ?」


「少し外に出てください。普通に……というのがどう言う意味か教えますから」


そう言って後について行くと、外に出た。さっきまで自分がいた家を見てみると、少し大きめ……というか、楽々一軒家は超えるくらいの大きな家がそこにはあった。


「めちゃくちゃデカかったんだな……あの家」


「そうですか? ……即席で作ったので小さいほうなんですが……」


「何か言ったか?」


「いえ……なにも」


最後の方の言葉が聞き取れなかったが、本人が何もないというなら言及するのは辞めておく。俺も特に気になるというわけでもないしな。


そしてしばらく歩いていくと、山がいくつか見えるところにやってきた。そういえば、女はベビードールを着たままだったことを思い出した……女にベビードールを着せて歩かせている男の図は傍から見たらどんな感じなのだろうか……これは誰にも見られていないことを祈るしかない……。


「着きましたよ」


「こんなに山ばっかの場所でどうするんだ?」


「まぁ、見ていてください」


そういって何かを探し始める女。しゃがんだり腰を曲げているせいで色々と目のやり場に困ったので取り敢えず遠くの山を眺めていると……。


「ありました」


「な、なにがあったんだ?」


「これです」


女の手の中を見てみると、そこには片手で握れる位の大きさの石が握られていた。


「これをどうするんだ?」


「見ていればわかりますよ」


女は石を二、三回上に投げた後……そっと構える。


「えいっ」


「はっ!?」


可愛い声とともに投球された石は、物凄い早さで山へと近づき……轟音と同時に山の上半分を吹き飛ばした。


「な、な……なんだこれ」


「私は少し特殊な存在なので、ただの人間なんかとは比べ物にならないくらいの力を持っています……だから、男性を一人運ぶくらいは雑作もないことです」


「そ、そうなのか……」


俺はこの時、母さんの言葉を思い出していた。『女性は見た目だけでは判断できないの。女性には秘められし何かがあって、その何かは大抵とんでもない事なのよ』……と、今になってその言葉の意味が良くわかった気がする。


「というわけで、理解していただけましたか?」


「あ、あぁ……問題ない。理解した」


取り敢えずそう返しておく……気になることはたくさんあるし、なんでそんな力を持っているのかも気になる、けど流石にそんなことを聞く勇気は今の俺にはなかった。


「それでは一旦あの小屋に戻りましょうか」


「小屋?」


「先程までいたところですよ」


「あ、あれは小屋なんだな……」


この女の価値観はさっぱり理解出来ないが、それを聞くのは面倒なので受け流しておく。


「んで……これからどうするんだ?」


「どうする……といいますと?」


質問に質問で返される俺。確かにいきなりこんなことを言われたら疑問で返されるのも仕方のないことなのかもしれない。でも、俺が聞きたいのは一つだけだ。


「こんな変なところに連れてこられた俺はどうなるんだ? これからの行き先も、何もかもが不透明なんだが」


そう、ドラゴンなんかが出てくる世界に頬り出された俺は正直生きていける気がしなかった。仮にドラゴンが出てこなかったとしても、不思議生物なんかが出てくる可能性だってあるし、それ以前に行く宛がなかったら普通に餓死することだってありうるからだ。


「そうですね……一先ずは都市に向かいましょうか」


「都市?」


「はい、都市です」


「都市はあるんだな、普通に」


「ええ……私が封印されてからまだ数年しか経っていないようですし、この世界が突然滅んだりしていない限りは立派な都市の筈ですよ」


都市……危険がいっぱいありそうな世界にそういうものがあるというだけでなぜか心強く感じてしまうのはどうしてだろうか。安全かどうかはわからなくても、その響きに安全感を抱いてしまう。それはさておき、女の言葉にやはり疑問を感じた。


「会った時から思ってたんだが……なんで封印なんてされてたんだ?」


「……それは、時期がきたらお話しますよ」


「そ、そうか……」


少し言いよどんだ後答える女。本人がそう言っているんだから、無理に聞き出しても仕方ない。というわけでそれに関してはゆっくり待つことにした。


「私からも少しいいですか?」


「ん……なんだ?」


「貴方がつけているその髪留め……派手ではないですが、女性用ですよね?」


そう言って俺の前髪あたりにつけている髪留めを指さしてきた。


「あ、あぁ……これか? これはまぁ……簡単に言っちまえば……」


「好きな女の子から盗んできたんですか?」


「んなわけあるかっ!」


突然とんでもないことを言い出す女。誰が好き好んで異性の髪留めを盗んでつけるなんて所業をするというのだろうか。むしろそんな男だと思われていたことがショックだ。


「冗談ですよ……流石にそんなことは思っていないですよ。さしずめ……髪留めしてる俺、チョー可愛い! とか思っているんでしょう?」


「的外れすぎるぞ!? 」


この女の神経がやっぱり理解できない。第一、俺可愛いと思っているならもう少し身の回りに気を使うはずだ。こんなに髪をボサボサにもしないし、いろいろケアしてる。


「はぁ……それじゃあ、なんなんですか?」


少し言うのに戸惑った……別になんてことはない理由だし、言ったところでどうなるというわけでもない。だが……いや、いいか。


「これは母さんの……まぁ、かたみってやつだ」


「筐?」


「あぁ……俺が小さい頃に病気でな……」


「そうだったんですか……」


周りが暗い雰囲気に変わる。常識外れなことばかり言う奴だが……こういう雰囲気も出せるようだ。


「私の母様は……生まれた後すぐに死んでしまいましたから……そういう筐というものはありませんね」


女は俯いた……。その顔は見えなかったけど、寂しそうな雰囲気を纏っていたのはなんとなく感じ取れた。……俺はこういうのは苦手だ……


「っ……」


気づけば俺は女の頭を撫でていた……特に意味はない。特に意味はないけど……つい撫でてしまった。これで少しでもその雰囲気が緩和されればと、会って間もない女の頭を撫でた。馴れ馴れしいことは重々承知で……俺だったらうざいと思うかもしれないことを……してしまっていた。


「あっ……す、すまん」


「いえ……気にしなくて大丈夫ですよ。ただ……」


「ただ……?」


女は俺に顔が見えない方向を向いて、ほんの少しずつ歩き始めた。


「撫でられたのは初めてだったので……びっくりしただけです」


そういってあの家の方に向かって歩き出す女。怒らせたり、気分を害していないようで少しほっとした。この状況下で怒らせでもして頬って置かれたらそれこそ危ないし……何より俺は……いや、考えるのはやめとくか。


「それでは一旦準備を済ませて……都市に向かいましょうか」


女にとっては小屋。俺からしたら立派な家に到着すると、そう言い残して女は部屋らしきところに入っていった。そういえば今更だが、女は服を着ていなかった筈なのに……一体どこでベビードールを手に入れてきたんだろうか。


「不思議な事ばっかりだな……」


俺は床に寝転がり頭を回転させる。今思えば、こうやって息をつく暇をやっと得たような気がした。洞窟に入って、気づいたらあの女が現れて……しかも全裸で……それに、あいつの肌……白くて綺麗だったな。一瞬だけだったけど、あの白髪の髪と白い肌が相まって……そう、人離れした人形のような感じがした……そしてさらに目を引くのはあの赤い瞳……ずっと見ていたら飲み込まれてしまいそうなほどに綺麗で……


「って!! 何考えてるんだ俺はっ!」


さっきまで考えていたことを振り払って、思考を正常に戻す。一番驚いたのはあのありえないほどの力だ……たった一個の石で山を半分消し飛ばしたんだから、普通じゃない。あの力があればドラゴンから逃げる必要はなかったような気もするが……それは俺が勝手に女と逃げただけだから責めることを出来ない。


「でも一番不思議なのは……この奇妙な感覚か」


そう……あの女を見ているとやっぱり違和感を感じる。『鏡を見ているような』……なんて言い方は的を得ているが、もっと簡単に言っちまえば……他人のような気がしない。喋り方も、姿も……性別さえも違うのにも関わらず、そんな風に思ってしまうのはなぜだろうか。


「お待たせしました」


思考の海に沈んでいると、あの女の声で一気に引き戻された。どうやら準備はすんだようだ。


「あぁ……おかえり。 用意は済んだの……か?」


そこには黒っぽいマフラーをつけ、白を基調とした服と黒いオーバーニーソックスを身につけた女が立っていた。


「? この格好、何処かおかしいですか?」


「い、いやっ! 全然おかしくないぞ! 似合ってる似合ってるっ! うん!」


慌てて女から目を逸らす。正直、見惚れていた……今まで女って生き物で母さん以外にとここまで話したこともなかったし、なによりこいつは元が綺麗なおかげもあってか、服を着たことによってさらに可愛い……いや、綺麗に見えてしまったんだ。って……何考えてるんだ俺は……。


「そうですか……それより、貴方はこの服をどうやって手に入れたのかって聞かないんですね」


「へ? あ、あぁ……もうそういう細かいことはいちいち聞かないことにしたんだ。 こんな変なところに来たんだ、いちいちツッコンでたら体が持たねぇよ」


「確かにいい考えだと思いますよ、私は摩訶不思議とマフラーの塊ですからね」


「摩訶不思議は否定しねぇが、マフラーという認識でもいいのか?」


「私のデフォはマフラーですからね」


「そ、そうか」


やっぱりさっぱりわからない女だった。



**



あれから数時間、ひたすら俺達は都市に行くために歩き続けていた。しかし、進めど進めど森ばかりで……いつになったら都市とやらにつけるのか、少し心配になってきた。長距離を歩かされて文句を言うほど子供でもないが、流石に心配になってくる。


「お〜い……いつになったら都市とやらにつくんだ?」


「もう少しですよ」


「もう少しって……あれから何時間歩いたと……んっ」


突然肩に何かが当たったようなきがしたが、木の枝かなにかだろうと思い、無視することにした。


「たぶん二時間弱でしょうか」


「正確な時間はわからねぇけど、たぶんそうだろうよ……んんっ」


また肩に何かが当たる。これだけの森なのだから、枝の一つや二つ当たっても当然だろう。いちいち気にして、気の小さい奴だと思われても面倒だしな。


「後、三十分くらいの辛抱ですから……頑張りましょう」


「励まされなくても大丈夫だけどな」


こちらを振り返ることなく無駄に優しい声音で諭すように言う女。完全に俺を子供扱いしているようにしか聞こええない……ここはガツンと……と、思っていると、肩のあたりを連続で何かに叩かれたような衝撃に襲われた。衝撃といってもポンポンっという感じだったのだが。


「あぁ〜っ、木の枝がさっきから鬱陶し……い……」


「どうかしましたか……? 」


勢い良く振り返ると、そこには大きな花に口がついていて……根っこや枝のように見えるものをゆらゆらと動かしている何かがいた。えっ? 何かってなんだよって? 生憎、俺はこんな生物を言い表せるような言葉を知らない。


「な、なぁ……これなに?」


「あぁ、それはですね……人喰い花、又の名をデビルフラワーといいまして、一応植物とされていますが主食は肉だったりする面白い生き物です」


「へ、へぇ……それは面白いな……」


その人喰い花ことデビルフラワーは、その枝のような物を使って俺の体に少し触れた後……口から光る液体を垂らし、赤っぽい色から青っぽい色に自分の体の色を変化させた。


「あ……デビルフラワーの体の色が変わりましたね」


「変わると……どうなるんだ?」


「デビルフラワーはですね……誰も襲わない時は赤。どちらか迷っている時、または審議中の時は黄色。そして……」


「そ、そして……?」


「獲物を見つけて襲う時は青に変化します。つまりは止まらないってことですかね」


「色々言いたいことは山ほどあるが……信号かよぉぉぉぉぉ!!」


「キシャャャャャァァァァ!!」


俺はそう言い捨てるのと同時に体の向きを変えて、全速力で走り出す。デビルフラワーの雄叫びを背に受けながら俺は思った。あのわけのわからない化物からなんとかして逃げなくては……油断したら最後、食われて死んでしまうかもしれない……と。


「なんで逃げるんです?」


「あったりまえだろうがっ!」


「なぜ?」


「あんな化物と戦って勝てるとでも!?」


「私は勝てますよ?」


「じゃあ、代わりに倒してくださいおねがいしますっ!」


全力疾走をしながら女の方も見ずに言う。確かにあいつが倒してくれた方が安心出来るし手っ取り早い。男の俺がそう考えていると物凄く情けなく思えてしまうが。


「それはダメです」


「なんで!?」


「私は貴方にこの世界に慣れてもらう必要がありますから……だから私は獅子の子落としということわざにのっとり、貴方を冷たく突き放すんです」


「それは断じて子供に強くなってもらうためとかそんなんじゃなく、弱い子供を捨てる手段だからな!?」


「そうなんですか?」


キョトンとしながらわざとらしい表情をする女。やばい、なんとかして生き残らないと……ライオンの子供よろしく捨てられるっ!?


「だれかぁぁぁ! たすけてくれぇぇぇ!!」


気づくとあの女の姿はなく、俺一人であのデビルフラワーとの命懸けの追いかけっこをし続けた。このおかしな場所に来てから二度目の追いかけっこ。マジで洒落にならない……本当に誰かたすけてくれぇ!!


「しゃ、しゃがんでくださいっ!」


「へっ? うぉ!?」


俺に覆いかぶさるようになにか……いや、誰かが現れた。その可愛らしい声によって少し気が抜け、躓くようにしてその場に倒れる俺。


「キシャァ!?」


すると背後からデビルフラワーの驚くような、息絶えたような……そんな短い声が聞こえてきた。ゆっくりとその声がした方を向くと。


「なっ!?」


そこには体を真っ二つにされたデビルフラワーの姿があった。デビルフラワーはそのまま倒れ、少し光ったかと思うとまるで花火のような光を放って弾けて跡形もなく消えてしまった。


「だ、大丈夫ですか? えっと……」


俺に話しかけているであろう声の聴こえた方を向くと、そこには少し怯えた様子で俺を見つめる、黒髪の褐色少女がいた。


「怪我はない……ですか?」


目を潤ませ怯えながら人を心配する姿に、俺はこう思った。


……天使は実在したんだ……と。





ここまで読んでいただきありがとうございますっ

この話の最後に天使が降臨しましたねっ


では、次回もよろしくお願いいたします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ