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1・神面都市グラード・ヤー

 我々の住む世界と異なる世界に幾つかの大陸が存在し、その中で一番大きい大陸の南端から、東廻りで沿岸沿いに北上すると潟湖に着きあたる。潟湖の北側には大きな港が見える。

 城塞都市グラード・ヤーの港だ。 

 この周辺を険しい山々に囲まれ、南部は潟湖に面している城塞都市を上空から見下ろせば、天を見つめる人の顔のような形をしている。それ故、人々は神を見つめる都市まち神面都市じんめんとしグラード・ヤーと呼んで、慣れ親しんだと云われている。


 或いは、この世で信仰される、ありとあらゆる教義の神が集い、訪れる者は嫌でも神々と向き合わねばならない為、神と見つめあう都市まちという意味合いで、神面都市と呼称したとも云われている。


 当時の者達が、どう考え、思ったところで、城塞都市グラード・ヤーが神面都市と呼称される事実に変わりはない。


 では、なぜ?ここに各宗派の神殿が集って都市をなしたのか?

 神話において、この地に神の砦を築き、人々を物見せよと神から啓示を受けたという伝承や、砦が築かれた土地自体が大小十三の国に国境を接している要衝であり、交易の要であることなどが要因なのかもしれない。


 集落ができ、城塞が作られた後、諸外国との戦争や都市内での宗派争いなど、内外の幾つかの争いを経て、永世中立を掲げ、十五名の評議員によって統治される都市国家となった。


 この都市で十五という数は特別な意味を持つ。都市を治める評議員は十五人で、各神殿の司祭も概ね十五人だ。

 概ねというのは、契約神ヴェルナを長とする原理の五神と呼ばれる神々の神殿には、きっかり十五人いるが、対になる激情の五神に連なる神々の神殿では十五人を下まわることが多い。激情の五神を信仰する者の大半が、流浪の旅芸人など定住をしない者達だからである。

 唯一上回るが幸運の神ルスタファで、傭兵や盗掘者、はては暗殺者などにも信仰される神である。表向きの司祭だけでも平時は十五人を越える。

 ただ、近隣で大きい戦があった場合は、その限りではない。大半は戦死して帰ってこないという。やはり激情の五神に仕える司祭は十五人を下まわる運命なのである。


 この十五という数、実は信仰の戒律からなどではなく、昔、此処を治めてた独裁者が、頭、左右両目、鼻、口の五つの地区にバランスよく三人の司祭を配置した支配形態の名残であるというのが、教養神サウレソアルに仕える学者達のもっぱらの説だ。つまり慣習からきている数である。 


 永世中立を掲げるようになった神面都市グラード・ヤーは、外においては、どの諸外国とも敵対せず与せず、内においては、どんなに教義内容が隔たりがあり、神学上敵対関係にある宗派であっても表立って争うことはなくなった。


 日常的に争いが起こらぬように地上と地下で住み分けることにしたからだ。世に邪教と云われるものを信奉する者達にとって、日の光は苦痛をもたらす不要のものであり、逆に地上に住む者達には日の光は生きるのに必要不可欠なものであるということだけであった。

 なんのことはない、双方ともに積極的に事を構える気はないのである。


 寧ろ、自分の縁者が被害にあうなど理由がない限り、お互いの領域を侵害しようとする行為は、禁忌タブーとされ、地上、または地下を問わず、同じ領域に住む者から徹底的に非難され、都市の存亡に関わる行為と認定されれば、双方から命を狙われることになる。

 ・・・もっとも、そんな事態に陥った者は神面都市グラード・ヤーが存在してから片手で数えるほどしかいないが。


 何時の世も争い傷つけあうのは神の御業ではなく人の仕業である。そして昨晩も神面都市の片隅でそれはおきた。世にいう殺人事件である。



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[良い点] 読み易い。地の文が多く硬派 [気になる点] 固有名詞が多くエンタメとしては説明に終始 [一言] 筆力が高い。
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