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第六話 悪意

 数時間後――。

 

 全一層からなる〘小鬼(ゴブリン)の洞窟〙の最奥部。


 両開きの巨大な門扉が、クウヤとミウナの前にそびえ立っていた。いかにも荘厳な雰囲気を漂わせた木の門扉の先にあるのは、『ボス部屋』である。


 この最奥にたどり着いた瞬間のミウナと言えば、感動したように破顔したものだ。

 しかし、今はがっくりと肩を落としている。


「そ、そんなぁ……せっかく、ここまで来たのにぃ……」


 その声は、悲壮感たっぷりである。 


 しかし、それも致し方ないだろう。

 クウヤの助太刀なしに【小鬼】たちと死闘を演じ切り、ヘトヘトになりながらも長い時間をかけて、やっとの思いでボス部屋の前まで到達したのだ。


 ミウナの努力は、クウヤも認めるところである。


 この数時間で、彼女のLv.は16から20まで上昇していた。

 さらに、単純にLv.がアップしただけでなく、プレイヤースキルも上達し、複数の【小鬼】と鼻を突き合わせても――まだ危なげではあるが――慌てずに対応できるようになった。外の〝森〟でも思ったように、一度コツをつかめば飲み込みが早い。

 

 しかし、ミウナの快進撃も、一旦ここでお預けだ。


「しかたねえだろ。今のおまえじゃ、ここのボスはどうあがいても無理だ」


 それが、彼女が落ち込んでいる原因だった。


 クウヤが言うように、〘小鬼の洞窟〙のボスは、まだミウナの力では倒せない。

 これは彼女のプレイヤーとしての技量が足りないというより、アバターのLv.が絶対的に不足してるからだ。


 Lv.が上がれば、それだけアバターのステータスが強化される。

 プレイヤーの技術とアバターのLv.のどちらがより〝強さ〟に直結するかは断言できないが、Lv.が高ければそれだけロストしにくくなるのは間違いない。


 ミウナの安全を考えれば、今日のところは引き返すべきだった。

 あるいは、クウヤがボスを倒すか。


 どちらにしても、ミウナをボスに挑ませるわけにはいかない。


「……クウヤさんのいじわる」


 ミウナはいじけたように言った。


「何とでも言え」


 クウヤは鼻を鳴らし、ミウナのわがままを突っ返す。

 これだけは譲れない。ここまで自力でやってきて、全制覇を目前にしたミウナの気持ちはわからないでもないが、始めから負け勝負をやらせるわけにはいかなかった。


 それに、ここまで何度も【小鬼】の集団と矛を交えたが、三回に一回はクウヤがHPポーションを渡している間は、ボスに挑戦できるだけの十分なプレイヤースキルを持っているとも言い難い。しばらくはアバターのLv.上げに専念し、プレイヤーとしての〝腕〟を磨いたほうが賢明だろう。

 

「おまえ、どうしてそこまで自分の力だけでボスに挑みたいんだ? つーか、ダンジョンにこだわった理由は何なんだ?」


 その二つは、おそらく同種の動機によるものだろう、とクウヤは睨んでいる。


 ……むー、とミウナはヘソを曲げながら、言った。


「……魔塔パンディモニュウムに、あたしと友人(フレンド)を連れて行ってくれた人が、すっごくカッコよかったんです。たった一人でバッサバッサと敵を倒していって、あたしもあんなふうに早くなれたらなって思って……。だから、まずはあたしも一人でダンジョンを攻略してみたくって」


「ふうん」


 クウヤは気のないふうに相槌を打った。

 もっとも、内心ではますます件のプレイヤーには興味を持った。せめて職業がわかれば当たりをつけられるかもしれない――と思ったが、無闇に詮索するのは自重しておく。


 ミウナとの〝約束〟を反故にするつもりはない。ミウナが自立できるようになった暁に、対価としてしっかりと情報を渡してもらう。

 それが実働と報酬を結ぶ、契約というものだ。

 

 クウヤが好奇心を押さえ込んでいると、ミウナが「あっ、ち、違うんです!」と慌てたふうに言った。


「あ、あたしは別に、その人のほうがクウヤさんより強いって言ってるわけじゃなくて、ただ憧れとして、その……」


「……わかってるっての。そこまで器は小さかねえよ」


 クウヤは微苦笑する。

 強引に師匠役を頼み込んできたり、大飯食らいだったり……図々しいとばかり思っていたが、こういった気遣いができる一面もあるらしい。


「だが、やっぱ今のおまえにボスをやらせるわけにはいかねえよ。今日のところは、ひとまず帰んぞ。HPポーションも結構減ったしな」


「……あ、あはは、その、それは……どうか、出世払いでお願いします」


 HPポーションのことを言われると弱いのか、ミウナは気まずそうにクウヤから目をそらし、反抗する態度を消した。実際、今日だけで少なくない[HPポーション(L)]が、クウヤのアイテムリストから所持数を減らしている。


 味こそリンゴジュースっぽいものの、薬品のような香りが強く、そう何本も飲みたいと思う代物ではないのだが、ミウナは毎度、不快感もなさそうに飲み干している。

 たいしたものを長い期間、口にできなかった反動だろうか。

 HPポーションでさえ、美味に感じているのかもしれない。


「そら、帰るぞ」


 クウヤはもと来た道を歩いて戻ろうとする。


 ダンジョン内では、移動アイテム[虹渡りの翼]を使うことはできない。


〘小鬼の洞窟〙だけでなく、他のダンジョンすべてが[虹渡りの翼]の使用禁止領域となっている。


 つまり、プレイヤーがダンジョンから出るには、徒歩で地上まで帰るか、ボスを倒すと必ずドロップする[帰還の指輪]を使って一瞬でダンジョンの入口まで転移するか、どちらかになるのだ。


 クウヤがボスを倒したほうが近道ではあるのだが、それは選択肢から外した。


 この[小鬼の洞窟]のボス部屋に入る機会は、ミウナが相応の力を身にみつけたときまでとっておいたほうがいいだろう。

 きっと、彼女のモチベーションの維持につながるはずだ。

 

 そんなふうにクウヤが教え子の心情を慮っていると、


「……残念ッスね」


 名残惜しそうに、ミウナがボス部屋の門扉を指で撫でた。

 

「っ、待てっ!?」


 クウヤは咄嗟に叫んだが、もう遅い。


 ――ボス部屋の扉に、触れてしまった。


 直後、ズズズッ、と鈍い音を響かせつつ、巨大な木扉がゆっくりと開きだした。


「えっ、あっ!?」


 ミウナは驚きの声を上げる。

 自動で開門し始めたボス部屋へ、何者かに操られるような足取りで入っていく。

 クウヤもまた、アバターの支配権を〝システム側〟に奪われていた。

 

 体の自由がきかない二人がボス部屋に入室し終えると、退路をふさぐように、ゴオォンッ、と扉が固く閉ざされる。


「ク、クウヤさん!?」


「……すまん、言っておかなかった俺が悪い」


 初心者にはわからなくて当然だ。


 Daemons Mother Onlinのボス部屋は、扉に触れることが入室の条件となる。


 言い換えれば、一度でも体が接触したら、一時的にアバターのコントロールがシステム側に移され、プレイヤーの意思を問わずして強制的にボス部屋へ入場することになる。

 しかも、[虹渡りの翼]をつかえない以上、脱出はボスを倒すまで不可能――。


 これは〝新生〟Daemons Mother Onlinにおいて、軽視できない現実である。


 現在、ログアウトできないプレイヤーの多くが、リアルの世界に戻る方法を探し求め、活動している。〝旧〟時代になかったクエストが大量に追加され、また特定のダンジョンの進入条件まで改変されたことで、この〝新生〟Daemons Mother Onlinを攻略していけば、いずれログアウトの方法が見つかるのではないか、という考察のもと、行動しているのだ。


 その最中(さなか)、強化されたボスと切り結び、消失したプレイヤーの事例は後を絶たない。

 ダンジョンもといボス部屋は、ある意味でもっとも注意しなければならない場所なのだ。

 

「まあ、入っちまったもんは、しゃあねえよな」


 ミウナの様子からして、ボス部屋の入り方を本当に知らなかったのだろう。

 こうなると、事前にPTを組んでおいて正解だった。


 もしPTメンバーでなかったら、ミウナだけがボス部屋に進行していたところだ。ボス部屋はPTでなければ、一緒に足を踏み入れることができない。もし遅れて部屋に入ろうとしても、同型の別マップに転送されることになる。


 それは、ボス攻略PT以外の第三者プレイヤーが、ボスを倒した後のドロップアイテムを横取りできないようにするための仕様である。

 

「おまえとアレを対面させるのは、もっと後にしようと思ってたんだが……せっかくだ、いずれお前が倒すことになるボスがどんなのか、しっかり見とけ」


「え……?」


 ダンジョンの通路とはうって変わり、照明もないのにはっきりと明るい、広々とした部屋。地中海のような色鮮やかな水色(アクアカラー)が、天井、壁、床を彩り、幻想的な空間を演出している。

 

 クウヤが顎をしゃくり、その中央を示すと、


「……っ!」

 

 ミウナは体を緊張させた。

 

 ボス部屋の中央を陣取る、四つの影。

 

 そのうちの三体は、同じ姿形をしていた。

 この場所にたどり着くまでに、ミウナがさんざん戦った【小鬼】だ。

 しかし、三体とも皮鎧を装着し、剣を所持している。

【小鬼】の上位モンスター、【小鬼戦士(ゴブリンウォーリアー)】である。

 

 そして、彼らの背後にもう一体、静謐に佇む人型の姿があった。


 シルエットは甲冑とヘルムを着た騎士そのものだ。しかし、頭から足まですべて石で構成されており、床に突き立てている大剣も石製だ。

 名は【石像騎士(ゴーレムナイト)】――。〘小鬼の洞窟〙でもっとも強いモンスターだ。


【小鬼戦士】はLv.32。


【石像騎士】はLv.40。


〝旧〟の頃はLv.20以下だった双方とも、現在はステータスが大幅に上方修正されている。現状のミウナとは、二倍もLv.が離れていた。クウヤがボス部屋の攻略を断念させたのは、これだけ力量差があったからだ。

 

 上級者でも、Lv.20の差をプレイヤースキルで埋めるのは、並大抵ではない。

 

 ミウナも本能的に敵わないと感じ取ったのか、おびえたようにクウヤの陰に隠れる。


「あ、あたし、ナマ言ってました……あんなの、まだ一人じゃ無理です」


「だろ」


 クウヤは軽く答え、一歩前に出る。


「つーわけで、おまえはそこで待っとけ。俺がちゃちゃっと片付けてくっから」


「ク、クウヤさん!? 一人でやるつもりですか!?」


「たりめえだろ」


「だ、大丈夫……なんですか?」


「ん……?」


 クウヤは彼女が何を言っているのか意味を捉え損ねた。

 だが、心配そうにするミウナの顔を見て、得心する。


 ミウナはまだ、クウヤが戦っているところを一度も目にしたことがない。

 強いという噂は聞いていても、実際にどの程度であるのかは知らないのだ。


 そう思うと、よくもまあ全然知らない人間に師匠役を頼み込んだものだと、あらためて呆れた。どれだけ、切羽詰まっていたのだろうか。


「そう心配すんな。Daemons Mother Onlinに二人しかいない、≪武帝(ぶてい)≫の力を見せてやっからよ」


 クウヤは言って、ミウナの頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でた。

 

 い、痛ッ、痛いッス、それ痛いぃッッ――というミウナの悲鳴を一通り聞いてから、肩をぐるぐると回し、悠然とボスモンスター四体に向かって歩き出す。


【小鬼戦士】と【石像騎士】の敵愾心(ヘイト)が、クウヤに集中する。


 それが、開戦の合図となった。


「さあ、遊ぼうぜ」


 クウヤは一足で加速し、ボスたちに接近した。


 高速移動スキル〈縮地〉――ではなく、純粋に極めきった敏捷性(AGI)の力を行使し、真正面にいた【小鬼戦士】に突っ込む。


「まずは一匹め」


 フェイントも何もない、ストレートパンチ。【小鬼戦士(ゴブリンウォーリアー)】の鼻づらをとらえた瞬間、オーバーキルもいいところなダメージ値が表示され、一発KOする。

 

 悲鳴を上げる間もなく、【小鬼戦士】は白煙と化して消えた。


「ギャギャッ!」


 クウヤの左右にいた【小鬼戦士】が反応し、挟撃するように剣を振るう。

 

 それを、クウヤは上体を後ろにそらし、(かわ)す。


 二本の太刀が、ガギンッ、と彼の眼前で交錯し、火花を散らした。


「ほい、ご苦労さん――っと」


 クウヤは上半身を跳ね上げ、交差する剣の〝交点〟に拳を叩きつける。剣がはじかれたのにつられ、二体の【小鬼戦士】が体勢を崩した。

 

 その隙を狙い、クウヤは【小鬼戦士】たちの頭部を両手でわしづかみにする。シンバルを鳴らす要領で胸の前に引き寄せ、頭同士を激突させた。


【小鬼戦士】のHPゲージが二体ともゼロになり、消滅(ロスト)する。


 残すは――


「おまえだけだな」


 刺突の構えを取っていた【石像騎士(ゴーレムナイト)】が、石製の大剣をクウヤへ放った。

 

 クウヤに牙を突き立てようと豪速で迫るが、


「甘えよ」


 剣を閃かせるように、クウヤは手刀を石剣の鎬に叩きつけ、強引に軌道をそらした。石剣の切っ先が、クウヤの脇を虚しく過ぎる。

 

「終わりだ」


 空を切った石刃を、〝再装填〟させるだけの時間を与えるつもりはない。


 クウヤは【石像騎士】の懐に密着し、弓を引くように腕を背後にまわした。その腕がまばゆい銀の光華を帯びる。


 クウヤは、ふっ、と小さく呼気を吐き出し、【石像騎士】の硬質な胴部めがけて――


 光芒一閃。


 銀光をまとった腕を、叩き込んだ。


「ギギギギギィ――」


 石像型モンスターの鳩尾(みぞおち)を穿つ、必殺の拳打。


 金属をすり合わせたような奇怪な悲鳴を響かせながら、【石像騎士】が吹っ飛び、奥の壁に衝突した。石の体が粉々に砕け散り、煙を吹き上げる。

 

〖武闘家〗専用スキル、〈ソニックブリッド〉。


 通常攻撃の拳速を何倍にも加速させ、決まれば敵を吹き飛ばしてダウンを強制する必殺技だ。スキルの発動に必要な『スタミナ値』を著しく消費するが、それに見合うだけの効果を秘めている。

 

 もっとも、この場でそれを使わずとも、クウヤなら楽に【石像騎士(ゴーレムナイト)】をしとめることが可能だった。今回の仰々しい戦い方は、言ってみればパフォーマンスみたいなものだ。

 

 もちろん、ミウナに対しての、だ。


「……」


 ミウナは言葉を失っていた。茫然と、クウヤを見つめている。

 クウヤが「おーい、終わったぞ」と声をかけても、立ち尽くしたままだった。

 

 しかし、


「……………………あは」


 耳を澄まさなければ聞こえないぐらいの、小さな笑い声を漏らし、


「すっ――――――――ごいッス師匠!!! なな、なんスか今の!? 何なんスか!? ビュビュビュンッ、って動いて、どんどん敵が煙になっちゃって!? どどど、どうやったらそんなことできるようになるんスか!? やっぱLv.ッスか!? それとも毎日おいしいもの食ったらなれるんスか!? とにかく、師匠はうわさどおりすごいっ!!」


 ミウナは大興奮しながらクウヤに駆け寄り、その腰に抱きつこうとする。

 

 クウヤは彼女の額を手で押さえつけ、無遠慮なホールドを拒み、


「……とりあえず、落ち着け」


 若干、引き気味に言った。

 ある程度の反応は期待していたが、ここまで来るとさすがにウザい。


 これからが本番になるかもしれないというのに、浮かれすぎだ。

 

「もういいから、さっさと【石像騎士】がドロップしたアイテムを取ってこい。ほら、[帰還の指輪]と[蒼角の剣(サファイヤソード)]落ちてんだろ」


「了解ッス!」


 ミウナは【石像騎士】がロストした壁際まで飛ぶように走っていき、[帰還の指輪]を二つと、剣身が鮮やかな青の長剣――レアアイテム[蒼角の剣]を拾い上げた。


 その瞬間、重々しい音をたてながら、ボス部屋の扉が開け放たれた。


 ボスがドロップするアイテムを回収すると、ボス攻略プレイヤーが[帰還の指輪]を使用するか、その足で部屋を出ていくまで、扉が解放される。

 一定時間が過ぎても退出しないと、強制的に扉の外に追い出されることになるが、それまではボス部屋が閉ざされることはない。


 つまり、その時間はダンジョンルートとボス部屋が、一時的に『連結』することになる。


 ―― 近頃(・・)それを悪用する事件が(・・・・・・・・・・)頻発していた(・・・・・・)

 

「――〈沈黙の鈴音(サイレントノイズ)〉」


 それは、突然だった。


 波紋が広がるように、緑の光が門扉の外からボス部屋へ侵入した。あっという間にボス部屋の隅々まで拡散し、室内全体が淡い緑の輝きに包まれる。


 へっ!? えっ!? と、ミウナは戸惑い、答えを求めるようにクウヤを見る。


「……ワイルドシーフ」


 クウヤはそう呟いた。

 

 クウヤの脳裏にちらつく、〝監視者〟の存在――。

 面倒な連中である。


「さっさと出てきやがれ。イカれた盗賊集団」


「ヒャッハッハァッ! だぁれが、イカれてるってえぇぇ?」


 黒板をひっかいたような、耳障りな笑い声。

 

 と、様々な風貌のプレイヤーが十数人、ボス部屋になだれ込んできた。全員が下卑た笑みを顔面に貼りつけ、ぐるりとクウヤを取り囲む。


「お初にお目にかかるなあぁぁ、≪武帝≫さんよおぉぉぉ? こうして会えて俺様はうれしいぜえぇえええ?」


 そして、もったいぶるように、痩身の男が最後にボス部屋の門扉をくぐり、姿を現した。


 頭に巻いた、赤いバンダナ。爬虫類を連想させる、妖しい琥珀色をたたえた瞳。デスメタルが似合いそうな、パンクなファッション。

 

 首を四十五度傾け、べええ、と舌を出し、嘲笑を浮かべている。


 男の頭上に表示された名前は、〝Big snake(ビッグ スネーク)〟。


 多人数で襲いかかり、消失(PK)をちらつかせてプレイヤーからレア装備を脅し取る、最低最悪の盗賊集団『ワイルドシーフ』の(サブ)リーダーと噂される男だ。


「愉快なパーティーの始まりだぜええぇ。俺たちに痛めつけられたいか、おとなしく[竜顎の篭手(ドラゴファング)]を渡すか、選ばしてやるううぅうぅ」


 ビッグスネークはねっとりと笑い、流人が両腕に嵌めている[竜顎の篭手]に視線を絡みつかせた。獲物に狙いを定めた、まさに名のとおり蛇のような男だ。


 クウヤはハエにたかられた気分になり、ため息を一つ吐き出した。


 それから、不遜に口角をつり上げてみせる。


「これが欲しいんなら、力づくで奪ってみやがれ」

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