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▼2-人生最大の衝撃

▼2-人生最大の衝撃




 何か柔らかい物に頭を載せて横たわっている感触。

 うっすらと目を開くと、丸い屋根のような物が照明の光を遮るようにカーチャの顔を覆っていた。

 それがアイリスの巨乳であると気付くのに一秒。自分が彼女の膝枕を借りているのだと理解するのに一秒。失神する寸前までの記憶を思い出すのに一秒。計三秒の時間をかけてカーチャは覚醒した。

「ッ!?」

 がばっと起きようとして巨乳の天井に顔をぶつけて跳ね返った。

「あうっ!」

「きゃっ?」

 ぼよん、ととんでもない弾力で押し返されたカーチャは、これまた絶妙な柔軟性を有した膝枕に、ぽよん、と頭を載せなおす。

 ――な、なんて無様なっ。何やってるんですか私はっ!

「す、すみません、ララリス特務曹長……」

「あらあら、いいのよ。もう少しゆっくり寝ていても」

 うふ、と微笑むアイリスを見て、ああこれでこの人って前は男だったのか、などと考えてしまい、カーチャは何とも言えない微妙な気持ちになる。

「い、いえ……ありがとうございました……」

 ありがたいようなそうでないような申し出を丁重に断り、カーチャはアイリスの胸を避けるようにして上体を起こした。

 どうやら気を失っていたのはそう長い時間ではなかったらしい。テーブル上のティーカップに注がれた香茶からは、まだ湯気が立っていた。

 テーブルを挟んだ向こうに、すらりと長い脚を組んで優雅に茶を嗜む上官がいた。

 イオナ・デル・ジェラルディーン。

 特務機関ラーズグリーズが発足したそもそもの元凶と云われている、銀髪の女傑。

 英雄の直系にして、現ジェラルディーン家の当主であり、危険人物のみを集めた特務機関の長。

 ――恐るべし我が上官です。とりあえず噂通り、真性のレズビアンだったのは本人の認める所でしたけれど……まさか女性ウケを狙って男の人の格好までする人だったなんて……!

 この分では、他の噂の信憑性だって馬鹿に出来ないかもしれない。

 一見しただけでは、やはり中性的な優男にしか見えない男装の令嬢は、カーチャの視線に気付くと、

「お早いお目覚めだな、マイ・エンジェル?」

 と、若気た顔でウィンクをしてきた。意識を失ったのはあなたのせいなんですけど、という言葉をカーチャは呑み込んで、居住まいを正す。

「え、えーと……」

 おそらくカーチャを寝かせるために用意したのであろう二人掛けの椅子から、少女はおずおずと腰を上げる――というより、降りる。

 周囲を見ると、すぐ右傍にアイリス。左手前に彫像のように座っているサイラ。テーブル越しの正面にイオナ。

 思えば、紹介を受けるばかりで自分はまだ一度も正式な挨拶をしていなかったのだ。カーチャは父から礼儀をおろそかにするような教育は受けていない。

 カーチャは背筋を伸ばし、踵を揃え、薄い胸を張って、精一杯の敬礼をした。

「本日からワルキュリア軍付属特務機関ラーズグリーズに配属になりましたエカチェリーナ・ファン・ヴォルクリングです」

 何とか噛まずに言い切った。それを褒めるように、右隣のアイリスがパチパチと拍手をしてくれる。

 すると、

「ほう? まさかとは思うが、自己紹介はそれだけで終わりなのか?」

 などとイオナが意地悪なことを言う。そんなことを言われては、何か別なことも言わなければいけないような気がしてくるではないか。カーチャは瞬間的に頭を悩ませつつ、

「えと、階級は特務少佐です。……年齢は、八歳です。あ、性別は女です」

 そこまで喋って黙ると、室内がしんと静まりかえってしまった。空間そのものが『え? もう終わり?』と自分を責めているような気がして、ひどく居たたまれない気分になる。

「え、えっと、あのぅ、そのぅ……」

 ――こ、これっていじめですよね……? 私、そろそろ泣いた方がいいですよね……?

 非常に惨めな気持ちになりつつ、しどろもどろになっていると、そういえば、と思い出したことが一つあった。

「……もう一人、いますよね?」

「ん?」

 ぽつりとこぼした問いに、イオナが小首を傾げる。カーチャは、いえ、と前置きをしてから、

「ラーズグリーズの構成人数は四名と聞いていました。ジェラルディーン特務大佐に、グロリア特務少尉に、ララリス特務曹長で三名です。あともう一人、どなたかいらっしゃいますよね?」

「ふふん」

 上手くこちらの無茶振りを切り抜けたな、というイオナの金色の瞳。どことなく嬉しそうなのはカーチャの錯覚だろうか。同時にそれでいて、どこか試されているような気もするのだが。

「少佐、いちいち肩書きに〝特務〟をつけなくてもいいぞ。面倒くさいだろう。それに俺のことはイオナ、あるいはダーリンと呼んでくれ。堅苦しい喋り方もなしだ。俺が許す。アイリス、サイラ、お前達も少佐に対してタメ口でも構わんぞ。なに、気にすることはない。ここはある意味、正規の軍事施設ではないのだし、彼女は少佐とはいえ、聞いての通り八歳のお嬢様だ。まぁ天使のように愛らしいからな、あだ名はエンジェルでどうだ? エカチェリーナだから、チェリーなんてのもいいな」

 ぺらぺらと質問の答え以外のことを話した後、イオナはティーカップをテーブルに置き、足を組み直すと、

「さて、質問の答えだが。実はもう一人は、今日はちょっとした用で使いにやっていてな。顔合わせは後になる予定だ。何か不都合でもあるかな?」

「はい、イオナ大佐」

 カーチャの肯定に、ぴく、とイオナの片眉が跳ね上がった。表情から余裕が消え失せて、険がのぞく。

「不都合があると?」

 急に不機嫌っぽくなったイオナに対して『何故?』と内心で首をひねりつつ、カーチャはあくまで素直に自分の希望を述べた。

「ええと、タメ口とかは別にいいのですが、出来ればチェリーとエンジェルはやめてください。私にはカーチャという愛称がすでにあります。あと、ダーリンもちょっと……」

「……ふむ」

 イオナは何故か虚を突かれたような顔をしていた。自分は何か変なことを言ってしまっただろうか? ここに来てから何故か自分の発言に自信が持てない。

 ――いやまぁ冷静に考えれば、おかしいのはここの人達だとは思うのですが……

 イオナは腕を組み、片手で顎を摘み、真剣な表情で、

「変態は良くても、ダーリンはダメなのか……」

「あっ!? ちょっ、そ、それはっ!」

 そういえば謝罪するのをすっかり忘れていた。とはいえ、

「……た、確かに勘違いでしたけどっ、それはこちらの落ち度でもありましたけどっ、別に男の人じゃなくてもいきなり抱きつかれて匂いを嗅がれたりなんかしたら、誰だって吃驚すると思うのですが……!」

 まごまごと言い訳をしていたら、いきなりイオナが大きな声を出した。

「しょうがないだろうッ!」

「ひゃっ!?」

 椅子を蹴って立ち上がり、猛然と腕を振って変態は力説する。

「お前のような愛らしい天使を目の前にしておきながら抱き付いたり香りを嗅いだり手籠めにしたりしないのは失礼に値するだろうが! そんな不作法ができるものか!」

「今すごいこと言ってますけどわかってますか!? ほ、保安中隊! 誰か保安中隊を呼んでくださいっ! ガチレズどころかガチロリな変態がいますよーっ!?」

「まあまあ、落ち着いて? 大佐もカーチャちゃんも」

 穏やかな声でアイリスが無駄に興奮している二人の間に割って入った。

「カーチャちゃん、誤解してしまうかもしれないけれど、大佐はこれでもあなたのことを褒めているのよ? それだけはわかってあげて?」

 緑の瞳で柔らかに微笑みながら、アイリスは背後からカーチャの首に両腕を絡めてくる。小柄なカーチャはなすがままにされつつ、

「そ、それはわかっていますけど……」

 愛らしいだの天使だのと言われて嬉しくないと言えば、それは嘘になる。これでも女の子なのだから。しかし、同時に神童ともてはやされる耳年増でもある。ゴールドフィンガーの示すところは知らなくても、手籠めにするという言葉の意味はちゃんとわかっており、年相応の恥じらいを持つカーチャだった。

 と、その時、

「ただいまぁ」

 談話室の扉を開いて、誰かが入ってきた。

 ――あれが最後の一人? 女の子、ですよね……?

 入室してきたのは、長い金髪の少女のようだった。だが、もはやカーチャは油断などしない。女の子に見えるというだけではもう安心しない。自然と、相手を見る目が厳しいものへと変化していた。

 とはいえ、だ。見る限りでは、やはりその人物は少女にしか見えなかった。

 蜂蜜色に輝くセミロングのカーリーヘア。吊り目がちだがぱっちりと大きな瞳は深いラピスブルー。まるで精巧な陶器人形のごとき美貌に、一瞬だけ心を奪われた。

 愛らしいだの天使だのという言葉はあちらの方こそ似合うのでは無かろうか。カーチャがそう思っていると、

「ラケルタさんのところ行ってきたよ。足長おじさんが言うには、説得や説明は全部ボクらに任せるってさ。適当だよねぇ」

 陶器人形は言いながら、こちらに近付いてくる。

 そんな陶器人形が着ている深紅の軍服には、他の三人よりも激しい改造が施されていた。至る所に純白のフリルがあしらわれ、ボトムスは布を花びらのように何枚も重ねて形を作るペタルスカートだった。しかもよく見れば、カーチャを含めた他全員が黒革のアーミーブーツを履いているというのに、あちらは赤いエナメルのローヒールパンプスだった。そのパンプスとスカートの間に挟まれた白い素肌がとても眩しく見える。

 年齢はカーチャとさほど変わらないように見えた。まぁカーチャのような特例でもなければ、軍に入れるのは十五歳からなので、大体そのあたりだろう。

 イオナが陶器人形の方へくるりと振り返り、

「意外と早かったな、ベル」

「だって、今日は例の新人が来るんでしょ? ボク、ちゃんと急いだ――んだけど、なんだ、間に合わなかったのか」

 台詞の途中でカーチャの姿を認めたらしい。ベルと呼ばれた陶器人形は、はぁ、と溜息を吐く。あの人は自分のために急いでくれたのか。そう思うと少し嬉しかった。

 確認する。見た感じは、確実に女の子だ。それも美少女だ。そして、サイラの時の教訓を生かして気を配った所、声も問題ない。まだ声変わりしていない可能性もあるが、微妙なアクセントが実に女の子女の子しているのだから、おそらく大丈夫だろう。ただ気掛かりなのは、一人称が『ボク』であること。とはいえ、少し前まで通っていた大学にも『ボク』という一人称を使う女性徒は何人かいた。なので、これも問題なしと判断出来る。

 ――というか、よくよく考えてみればイオナ大佐も、サイラ少尉も、アイリス曹長も、結局は女の人でしたっけ。

 それもそうか、と納得する。ここは仮にも〝戦女神の寝所〟とまで称されるワルキュリア軍の中央基地なのだ。男子禁制の敷地内に男なんぞいるわけがなかったのだ。アイリスとて、イオナの口振りから察するにすでに性転換は済ませてあるのだろうから、男性不可侵の掟はしっかり厳格に守られているのだ。

 だから安心していい。間違いない。ここには男っぽい女か、女っぽい女のどちらかしかいない。つまり、陶器人形は見た目通りの美少女なのだ。

 不意に目があった。

 すると陶器人形が、蕾が花開くようににっこりと微笑んだ。カーチャも反射的に笑みを返す。が、すぐにはっと気付いて、アイリスの両腕を振りほどき、慌ただしく敬礼をした。

「ほ、本日から配属になりましたエカチェリーナ・ファン・ヴォルクリングです。階級は特務少佐です」

 かしこまるカーチャとは対照的に、陶器人形は砕けた感じで、あは、と笑い、

「ボクはベル。階級は特務軍曹だよ。今日からよろしくね」

 と、カーチャに歩み寄り、手を差し出してきた。その気軽さが嬉しくて、カーチャは再び破顔してその白魚のような手を握った。まるで心の器に温水が注がれていくような、暖かい感覚がカーチャの小さな胸を満たす。

「ねぇキミ、歳はいくつ?」

「や、八歳です」

「そっか。ボクは十四歳だよ。歳も近いし、仲良くしようね」

 はて? とカーチャは小首を傾げた。確かワルキュリア軍に入隊できるのは十五歳からだったはずだが、これはどういうことだろう? そういえば、アインヘルヤル軍なら十二歳から入隊できると聞いた記憶があるのだが――

「……え?」

 にわかにベルと握手していた腕が引っ張られた。手首を掴まれ、なんだかつい先程にも経験したような気がする流れに導かれ、カーチャの手はベルのスカートの中へ潜り込んだ。

 ふに。ころ。

 なにやら名状しがたい感触が掌に伝わり、瞬間、電撃がカーチャの神経網を駆け抜けた。冗談抜きで目の前に火花が散った。

「――。」

 身体が石になった。

 自分に何が起こったのか。それすら理解できなかった。

 許容量以上の情報が入力されたのだ。ちっちゃな頭蓋骨にどんと詰め込まれた巨大な事実を、それでもカーチャの脳細胞は懸命に処理しようとした。噛み砕き、要約し、加工し、オブラートに包んだ。

 けれど、その結果を大脳皮質が拒否した。それは到底受け入れることなど出来ない、恐るべき事実だったのだ。

 ガクガクと、油の切れた機械のように不穏な動きで面を上げて、カーチャは涙目でベルの顔を見つめる。

 カーチャの涙混じりの目線に気付いたベルは、にぱー、と満面の笑顔を返した。スカートの中に先の尖った黒い尻尾を隠していたとしても不思議ではない笑い方だった。

 カーチャはぷるぷると全身を小刻みに震わせながらベルから顔を逸らし、その背後にいるイオナへ助けを求めるように視線を向けた。

「ん? どうした、カーチャ?」

 イオナの態度は素っ気ないものだった。が、その唇が微妙にわなわなと蠢いているのをカーチャは見逃さなかった。ほぼ確実に、それは笑いを堪えている表情だった。

「な、な、な、なに、なに、なにになになになになななににに」

 粉々に砕けた言語機能をそれでも駆使したところ、唇からその破片がぽろぽろ零れるだけだった。無論、涙もぽろぽろ零れている。

「なに、なに、なにか、なにかが、な な な な」

 壊れたレコードのように一音を繰り返す声に、その内段々と感情がのってきた。

「なっ、なにかっ、なにっ、なにっなになになにっ、なにか、なにかっ、なにか……なにかがっ! なにかがっっ! なにかがっっっ!」

 はっはっはっはっ、とイオナが弾けたように笑い出し、鷹揚に頷く。

 そしてこう言った。

「ああ、【ナニ】がついているな」

「(声にならない叫び)」

 電光石火の動きで腕を引いた。

 顎が外れんばかりに口を開き、カラスのごとき『あ』に濁点のついた声で悲鳴をあげる。

「唖――――――――――――――――――――――ッッッ!!」

 ここにいるのはどうせ全て女。そう安心しきっていただけに、眼前の現実との落差はとんでもない衝撃だった。

 号泣と共に絶叫する。

「お と こぉ――――――――――――――――――ッッッ!!」

 凄まじい慟哭だった。

 よしよし、とアイリスに抱き竦められても半狂乱になって意味不明な言葉を喚き散らすカーチャを無視して、イオナは背後からベルの肩に手を乗せ、

「ベネディクト・ロレンス特務軍曹。愛称というか源氏名というか、通称がベルだ。まぁ見ての通り――いや、【触っての通り】、こいつは【男】だ。ここのみならず、ワルキュリア軍で唯一の男性軍人だぞ。珍しいだろ?」

 と、ものすごく楽しそうな声音で紹介した。

 珍しいとかそういう問題ではない。男がここにいていいのか。この基地は男子禁制だったのではないのか。というか、いきなり股間を触らせる奴は変態ではないのか。ここは変態の巣窟なのか。いきなり抱き付いてきたり匂いを嗅いだり股間を触らせたり一体なんなのだ。自分が一体どんな悪いことをしたというのだ。助けてお父様。

 そんな内容のことをまき散らしたカーチャであったが、残念なことに呂律が全く回っておらず、周囲にとっては全く意味をなす言葉になっていなかった。

「もう、ダメよベルちゃん。カーチャちゃんはまだ小さいんだから、そんな変なことしちゃ」

 どうどうとカーチャを宥め賺しているアイリスが、めっ、とベルを叱るが、しでかしたことの大きさに比べれば全く軽い怒り方であった。当然、叱られた側も、

「ごめんごめん、【つい】。だってさー、こういう小っちゃい子ってからかうとすっごくおもしろいんだもん。ボクこういう小動物系ってだーいすき♪」

 このようにこれっぽっちも悪びれない。合わせた両手に頬を寄せるその額には、目に見えない、ねじくれながら伸び上がる二本の角が生えているに違いなかった。

 ――だっていうのに、全然男に見えませんし! そんな小悪魔的な仕種がすんごい似合う美少女ですしっ!

 愛らしいだの天使だのはベルの方が似合う、と思ってしまった自分が間違っていた。この女装男子にぴったりなのは『変態悪魔』という単語しか有り得なかった。

 散々喚き散らして少し落ち着いてきたカーチャは、それでもこれだけは看過できぬ、と声を荒げて詰問する。

「これはどういうことですかイオナ大佐! 男性がいるだなんて私は聞いていません!」

「ああ、それはそうだろう。俺達のことは基本的に機密扱いだからな。お前が事前に知っていたなら、その方が問題だ」

 しれっと、とんでもない事を言ってくれる。イオナは急に真剣な顔付きになり、人差し指で、びし、とカーチャを指差し、

「いいか、カーチャ。ここは伊達に特務機関を名乗っているわけではないぞ。お前もわかっているだろうが、【ここに集められているのは只の軍人ではない】。どいつもこいつも臑にキズある奴らばかりだ。常識で考えていると、しまいには火傷してしまうぞ?」

 低い声で突き放すように言い放ち、唇の端を釣り上げた。優男風の顔で粘つくような笑みを形作る物だから、その表情は余計に凶悪に見えた。イオナはそのまま両手を広げ、まるでこの胸に飛び込んでこいと言わんばかりの体勢で、

「改めて歓迎しよう。ようこそ、我が城、ワルキュリア軍付属特務機関ラーズグリーズへ。今日からここがお前の魂のふるさとだ」

 ばっ、と勢いよく右手をカーチャに向かって差し出す。

「今この時、この瞬間より、お前も俺達と同じヘンタ――特務機関の仲間だ!」

「言い直しましたよねいまっ!? ヘンタまで言い掛けて言い直しましたよねっ!? むしろヘンタイって言っちゃいそうになってましたよねっ!? うわぁんもう嫌ですぅぅぅぅぅお家に帰りたいぃ――――――――ッ!」

 カーチャは再び声を上げて泣いた。

 神様という存在を恨んだのは、生まれて初めてだった。

 上役である大佐は男装趣味で、ガチレズで、ロリコンの気もあって、言動は変態チックで、横暴。

 部下の少尉はどう見ても異族の男で、筋骨隆々で、でも中身は意外と若そうで、女性で、無口で、不気味。

 もう一人の部下の曹長は優しくて、暖かくて、柔らかくて、綺麗で、グラマラスで、でも元男。

 最後の部下である軍曹は、可愛らしくて、明るくて、歳も近くて、仲良くなれるかもと思ったが、実は現在進行形で男の子で、女装していて、意地悪。

 ――どう考えても、ただの変人集団じゃないですかっ……!

 運命のサイコロが投げられ、ひどい目が出たことはここに来る前からわかっていた。しかし、現実はその予想の遙か上を行っていた。

 自分は、今日から、この変人集団の仲間になるのだという。

 もはや考えるまでもなかった。

 カーチャの前途は、多難に満ちている。

 無論、握手などしてやらなかった。

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