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不死賢者の迷宮  作者: 漆之黒褐
第肆章 『魔者の軍団』
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第87話 ファーヴニルの迷宮

「猿ども! やっておしまい!」



 そのアタイの一言で決着はついた。


 持ち前の高い跳躍力で壁役の石像鬼(ガーゴイル)どもを飛び越えた猿鬼(オロリン)どもが、奴等の頭上から急襲し壊滅的な被害を与えていく。

 力任せの攻撃だったけど、見事にはまったみたいだね。

 流石アタイ。

 雄どもを手玉に取るのはうまいねぇ。



「終わったみたいだね。なら一番弱い子鬼(ゴブリン)ども、そいつ等が持ってた武器防具を装備しな。但し早い者順だからね。生き残りたかったら迅速に動いて少しでも自分を強化しな」



 本当は強い奴等に優先した方が良いんだけどね。

 それをすると数の利を活かせなくなる。

 戦闘経験を積ませての個体能力の底上げは強い奴等からやっていくけど、戦力の強化とそれはまた別物だ。

 何しろ、問題点が山積みだからね。


 まったく……何で全員が全員、装備なしの状態なんだろうね。

 敵地へと送り込むんだから、普通は何かしらの装備ぐらいは用意してくれても良いじゃないか。

 身一つで敵地に特攻なんて冗談じゃない。

 各部隊を取りまとめてる奴等が馬鹿げた強さを持ってなかったら、最初の敵との遭遇で壊滅してたよ。

 ほんと、何考えてるんだろうね。



「んじゃ、いくよ。そのままガーゴイルが先頭で、最後尾は半蜥蜴鬼(トカゲもどき)がしな。鳥鹿鬼(ペリュトン)はその補佐で後方を特に注意して見てな。犬鬼(コボルト)は鼻で索敵しな。前方の調査はさっきと同じでヘルガス、ひとっ走り頼むよ」



 命令すると一斉に雄叫びが返ってくる。

 それはいいんだけど、そんなに大きな声を出したら敵に気付かれちゃうんだけどねぇ。

 ま、こいつらは全員が馬鹿だから仕方がないか。


 ヘルハウンド部隊を取りまとめているヘルガスが奥へと向かって駆けていく。

 相変わらず速いねぇ。

 速度だけならこの中で随一の黒犬野郎だ。

 あの速さなら、奇襲でも受けない限り逃走も容易だろう。


 と思っている間にヘルガスの奴が戻ってきたよ。

 アタイの胸に飛び込んできたのはご褒美が欲しいからだろうね。

 でもまずは先に情報よこしな。

 ご褒美はそれからだよ。



「また雑魚どもがゾロゾロとやってきたみたいだね。今度は右から栗鼠鬼(リカート)、左から黒犬鬼(ヘルハウンド)でいくからね。助走付けて壁を走って飛びかかりな!」



 そんな感じでアタイの操る部隊は一体の損失もなく進んでいく。

 前列に堅いガーゴイルどもを並べ、攻撃にはオロリン/リカート/ヘルハウンドを使う。

 ペリュトンも攻撃役なんだけど、後ろを守る奴もいないとねぇ。

 トカゲどもの壁だけじゃ心許ないんだよ。


 最初の戦闘でゲットした防具は壁役のガーゴイルどもに与えた。

 但しその後の戦闘で得た武器防具は弱いゴブリン/トカゲもどきにまず与え、その次に弱い豚鬼(オーク)/コボルトへと行き渡ってから他の者達に順次割り当てる事にしている。

 その間に攻撃役の面々の経験を十分に積ませていく算段だ。

 まぁ、オロリンはともかく四足歩行のリカート/ヘルハウンドどもは剣とかの武器はたぶん持てないし防具の形状もあわないから後回しにしているだけなんだけどね。


 さて、最低限の武器は行き渡ったみたいだし、部隊編成を少し弄るよ。

 ゴブリン/オーク/コボルト部隊は解体して2体ずつ攻撃役の部隊に配属していく。

 喧嘩になりそうあったらアタイの魅了で黙らすだけだ。

 残りものの3種各2体はとりあえず遊軍扱いとして、手持ちぶさたとなったゴブロース、オーグル、コボランと一緒にさせる。

 ちなみに順に、ゴブリン、オーク、コボルトの取りまとめをしてた奴等だよ。


 おっと、数が減った事で扱いやすくなったのか、早速こき使い始めてるねぇ。

 そんなのいいから、早く成長してくれるとアタイとしても大助かりなんだけど。


 む、部隊編成はちょっと早まったかもしれないかねぇ。

 まだ1階層なのにボスっぽい奴が待ち受けていたよ。



「少しは強そうなのが出てきたみたいだね。アンタたち、油断するんじゃないよ! 今回ばかりはガルゴが前に出てみんなを死守しな! それと攻撃は基本、その辺に落ちてる石コロとかを投げな。但し仲間に当たるといけないから、このままの位置で戦うよ。それじゃ、攻撃開始!」



 ガーゴイルの中で一際大きなガルゴが敵の最初の攻撃を受け止めると同時に号令をかける。

 今回の敵はガタイが大きな竜人鬼(ドラゴニュート)

 見ただけで下級じゃないのは分かったけど、まぁアタイ達の敵じゃないね。

 ガタイが大きい分、アタイ達の攻撃は当たりやすいからね。


 ただ、ガルゴだけはちょっと大変かもしれない。

 何しろ、下手な鉄砲数打ちゃ当たると言わんばかりのノーコンがいるからねぇ。

 四足歩行してるヘルハウンドの犬っころには大変な作業だよ。

 その分、威力がないからガルゴも問題とは思ってないみたいだけど、コツンコツンと後ろから石をぶつけられるのは精神的にちょっとねぇ。

 後でたっぷりとサービスしてやるから、今は我慢我慢。


 敵が咆吼してびびらせようとするけどガルゴが平気なら問題ない。

 弱い奴等は怯んで動きが止まったけど、被害はそれだけだから気にする必要はないね。

 もしガルゴが突破されてもガーゴイルどもを間に配置してるから問題なし。

 その時にはオロリンどもを取りまとめてるオロダロスとかが力尽くで押し返すだけだしね。


 ちなみにアタイはちょっとびびっちゃったよ。

 だってねぇ、アタイは戦闘員じゃないんだからさぁ。

 心構えってものがあるじゃないかい。

 まぁとどのつまり、油断してたってだけの話なんだけどね。


 それにしても、雑魚どもの石ころ攻撃は全然きいちゃいないけど、やっぱりオロダロスとかゴブロースとかが投げる石は痛そうだね。

 おっそろしい速度で放たれていた石がぶつかるごとに敵さんの顔が歪むんだから、見てる方には楽しいねぇ。


 さて、そろそろ沈むかな?



「槍をよこしな」



 んじゃ、一番美味しい所を貰うとするかね。

 狙いを定めて力一杯投擲する。

 丁度、ゴブロースの投げた石が顔面へとぶつかった瞬間にだ。


 んで、頭を串刺しにされたドラゴニュートの一丁あがり。

石の雨の中から飛んできたアタイの槍に気が付く事なく逝ったみたいだね。

 はい、さようなら。



「雄叫びをあげなぁ! 勝ち鬨だよ!」



 思いっきり騒いだ後は食事の時間だ。

 まだ殺したてのドラゴニュートを適当に分配させる。

 当然、その中にアタイの取り分なんてない。

 だってアタイの食事はアンタたちとは違うからね。

 たっぷりと搾り取ってやるから覚悟しな。

 まずは一番頑張ったガルゴからだよ。


 ご褒美が終わった後はひとまず休憩。

 まだ先は長いんだ。

 焦ると碌な事がないからね。


 おおっと。

 ちょっと休みすぎたみたいだね。

 奥から新しいドラゴニュートがやってきたよ。



「起きな! 獲物の方からやってきたよ! さっきと同じ様に動きな!」



 とまぁ、一度闘った相手なのでアタイはあんまり心配してなかったんだけどね。

 でもやっぱ馬鹿がいたよ馬鹿が。

 石を投げる事に夢中でちょっと前に出すぎてしまった馬鹿が、石を拾おうとして前屈みになった瞬間、前につきでてた首をザシュッと。

 コロコロとゴブリンの頭が転がったよ。


 まったく、あれほど注意しろと言ったのにねぇ。

 なんだいその顔は。

 まさか死んだ事にも気付かなかったのかい?

 ほんと馬鹿だねぇ。


 ほんと……馬鹿だねぇ。



「殺りな」



 その一言は別にいらなかったみたいだね。

 アタイが怒ると、アタイに魅了されてる全員がその感情に引き摺られてしまう。

 それに仲間意識も芽生え始めていた頃だ。

 そいつの死に、気が付けばほとんどの者が目を血走らせて地面を強く蹴ってたよ。


 アタイが合図するまでもなく、次々とその暴挙を働いたドラゴニュートに飛びかかっていく馬鹿ども達。

 最も速いヘルガスが、そいつが持ってる曲刀をまず噛み砕く。

 その後にヘルハウンドどもが真っ直ぐ首や手首へと殺到する。

 次に、突進するより跳躍する方に力を使ったオロリンどもが放物線を描いて拳を振り降ろす。

 ガーゴイルとトカゲもどきがタックルを次々と決め、更に武器を持ってる奴等が続く。

 リカートは壁を蹴って三角飛びに死角から襲い掛かってたね。

 そしてペリュトンどもが駆け抜け攻撃を加えた後、トドメにオロダロスやゴブロース等が次々と強力な攻撃を叩き込んでいった。


 完全にオーバーキルだよ。

 終わった時には原型が残ってなかったねぇ。

 それでも肉としては食えるから問題ないんだけどね。

 ついでに死んだ馬鹿の肉もみんなでいただいたよ。


 ああ、まずかった。

 ほんと……まずかったねぇ。



「馬鹿は一匹で十分だ。アンタたちまで馬鹿になるんじゃないよ!」



 これからどんどん苦しくなっていくんだ。

 こんな事はこれっきりにしておくれよね。










 どうやら第1階層から被害が出たらしく、順調という訳ではなかった。


 だが、D級魔者が一体だけなので、連携は十分に取れているみたいだな。

 適当に戦っているだけならば、間違いなくその程度の被害では終わらない筈だ。

 この調子でじっくり時間をかけて成長しながら進んでくれると助かる。


 攻撃の次は防御。

 防御といっても、今まで通りリアルタイムで妨害工作を行う訳ではない。

 状況を確認して、今後の参考にする程度だ。


 第4階層にいる部隊は、予想通りまだそれほど進んでいない。

 一本道とはいえ道が長すぎる上に、途中にある『一方通行路』や『落とし穴』などにはまると一気に戻されるからな。

 しかも方角を間違えると第三階層へと戻ってしまう。

 第3階層パズルエリアを見てみると、その名残があった。


 そのパズルエリアの入口付近では、無理矢理突破した本体からはぐれた者達が今も苦しんでいる。

 下手をすれば閉鎖空間へと入ってしまい蠱毒に巻き込まれ命を落とす。

 蠱毒では個体能力がいくら高くても運が悪ければ負ける事も多い。

 ただ敵が勝ち残ってしまう確率も十分にあるため注意が必要だろう。

 ノーリスクという訳にはどうしてもいかない。


 更に戻って、巨大な奈落の穴エリアにいる者達。

 周囲にいるのは彼等にとって雑魚ばかりなのであまり苦労していないみたいだが、そこを抜けるのは至難となっているのか。

 恐らく最初は頭の良い指揮官がいたから突破出来たが、残された者達だけでは頭が足りずループに陥っている模様。

 着実にレベルアップしてしまっている事を除けば、そこまで脅威にはならないだろう。


 それより前にはファーヴニル軍はいない。

 代わりに何人か侵入者達の姿があった。

 どうやら迷宮の外に出て行ってしまった者達が呼び水となった様だ。

 外と此処の時間の流れは違うみたいなので、彼等が旅立ってからいったい何日経ったのかは分からない。

 だがすぐにやってきたという事は、旅立った者達はきっと倒されてしまったのだろう。


 そう考えると、この侵入者達はかなりヤバイ可能性がある。

 手間暇かけて作った最高部隊を倒したのだから、少なくとも今のこの迷宮内に存在する魔者達では例外を除いて太刀打ち出来ないだろう。

 またルーンピクシーのキュイの出番がやってくるのか。

 その出番がやってこなかった場合には……キュイがその侵入者達を脅威だと感じて戦わない選択肢を選んだ場合、迷宮の最奥へと辿り着いてしまわれる事は覚悟しておくべきだろうな。


 そのキュイだが。

 現在、行方不明となっていた。

 迷宮の中にいれば一発で分かるというのに、迷宮内には表示がない。

 という事は俺のいるこの部屋にいる可能性が一番高いという事になる。

 しかし周囲を見渡してもキュイの姿はない。

 当然、俺の頭の上にもキュイはいない。

 いったい何処にいったのやら。


 いないものは仕方がない。

 どっちにしろ、俺の指示で動いてくれる奴でもないしな。


 迷宮2階層でピクシー達が侵入者達を完全スルーしたのを見届けた後、最後に第1階層を見る。



「……ん? イリア?」



 珍しくイリアを示す光点が迷宮内に現れていた。

 イリアが迷宮内にいる時は、大抵が外から来た侵入者の誰かが気絶したという事になる。

 つまり、また新しい住人をゲットするかもしれないという事だ。


 そのイリアが向かった先は、ほとんど迷宮の入口といってもいい場所。

 迷宮入口から滑る床を越え、足止め様の雑草地帯よりほんの少しだけ先に行った部分。

 つまり、スライムプール跡の絶壁穴だった。


 よく見ると、確かに薄暗い光点が存在している。

 気絶している時の薄さだ。

 つまりあの穴に落ちたというのに、運良くまだ生きているという事か。

 なんとも運の良い奴だ。

 間違っても生きていられる様な高さではないというのに。


 程なくしてイリアが辿り着き、それを回収する。

 もしそれが男性だった場合、以前ならばスライムプールで溶かされてジ・エンドだっただろうが、そのスライムプールが蒸発してなくなってしまった今では、イリアが接触した瞬間にトドメを刺す。

 しかしどうやら今回はそうならなかった様だ。

 薄い光点はイリアを示す光点にピッタリひっついて運ばれていく。


 その行き先は、当然此処だ。

 迷宮の通路とは繋がっていない完全独立エリア。

 一度入ると例外を除いて二度と出る事の叶わない牢獄。


 いったいどうやってすり抜けているのか、イリアは俺への供物を連れたまま壁の中をすいすいと進んでいく。

 そして前室へと辿り着き、しばしの間、色々と事務処理をした後。



「ただいま帰りました。お待ちかねのお楽しみタイムです」

「……まるで俺が見ていたのを知っているかの様な口ぶりだな」

「それはもう、長い付き合いですので。分かりたくなくとも分かってしまうというものです」



 随分な言われ様である。

 だが真実なので仕方がない。


 早速、囚われの姫を毒牙にかけるべく俺はその部屋を後にする。

 そしてまだ気を失っている囚われの姫を一方的にひたすら攻めて強制的に意識を取り戻させた後、更に飽きるまで無理矢理蹂躙し続ける。

 泣こうが叫こうがお構いなし。

 好い加減、気遣うのも面倒臭くなってきたからだ。

 どうせいずれこの運命を諦めて従順になってくるのだからな。


 たっぷりと楽しんだ後は、ポニー部屋へと放り込む。

 放り込みついでにポニー二人も楽しむ。

 そして最後にまたもう1回戦、三人まとめて相手をする。


 ふむ……赤髪ポニーはまだ従順にはなってくれていないのか。

 ほんと頑張るな。

 やたらと気高すぎないか?

 いったい何がそうさせているのか、今度じっくり聞いてみるとしよう。


 そしてすっかり満足した後、部屋に戻ると……。



「あ、どうも。お邪魔しています」



 俺の天敵が待ち構えていた。

 ――なに?

2014.02.16校正

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