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不死賢者の迷宮  作者: 漆之黒褐
第肆章 『魔者の軍団』
90/115

第85話 ハーモニーの迷宮、レベル5

 第3階層の後半は、魔者の巣窟となっている。

 ただ、現在は六道輪廻の阿修羅地獄と言っても差し支えない状況となっていた。


 兎に角、魔者が多い。

 以前は飽和する前に弱肉強食のルールで食う者食われる者にハッキリと分かれて安定していたのだが、最近では第4階層から上がってきた大量の魔者達が猛威を奮って、ひたすら戦いが繰り広げられるという様相を呈していた。

 しかも、同族であっても生まれの階層が違うと何故か戦いに発展してしまうため、それが更に種族内での不信感を増長させ、同士討ちまで起こり始めている始末。

 そのエリアに足を踏み入れた侵入者達は例の奈落の影響もあってほとんどいないのだが、それでもすぐに引き返す事を決め込むぐらいには大変な世界と成り果てていた。


 ただ、何も悪い事ばかりではなかった。

 蠱毒。

 壺などの閉所に何種類もの虫を入れ、食べる物を手に入れる事が出来ない状況を作りだし互いに食い争わせ、最後に残った一匹を呪法へと用いる呪術の一種。

 そのエリアは元々それが不完全ではあるが擬似的に散発的に発生する様に仕組まれた構造にしてあったので、強力な個体が生まれる可能性があった。

 それが、最近になってようやく芽吹く事となる。


 生き残った強者の利用方法は言うまでもないだろう。

 侵入者達の撃退――ではなく、ファーヴニル迷宮への先兵として少しずつ確保している。

 ただ、そのままのレベルではまだまだ力不足が否めないため、その強者同士で更に蠱毒の呪法を用いて戦わせ、高レベルの魔者へと育成し続けている。

 その管理を、森の精(アルセイデス)のアレーレ達にお願いしていた。


 当初はアレーレ達に直接下級の魔者を集めさせ、適当に訓練を行ってから送り出す算段をしていた訳なのだが……。

 アレーレ達の住処環境を良くするために、暫定的に第4階層に魔者発生ポイントを多数設置した事から、今回の様な蠱毒呪法が効率的に発生しまくるようになった。

 つまり、第3階層後半の阿修羅地獄は、それが原因で引き起こされた事象である。


 元々、第3階層の後半は『一方通行路』『スイッチ扉』『滑る床』『移動する部屋』『転移』等の罠を盛り沢山に仕掛けた、四角い部屋が所狭しと並ぶエリアだった。

 特に『移動する部屋』を利用したパズル構造で、第4階層へと続く道を侵入者達が自ら作り出すという仕組みがウリとなっているエリアである。

 そこに他の罠が混ざり合う事でかなり複雑化した構造へと至らせている。

 そして各部屋には必ず魔者発生ポイントを設置しているので、頻繁に侵入者達が通り掛かって討伐されない限り、そのエリアには常に大量の魔者達がひしめくことになる。


 その魔者達も罠を発動する事が出来るため、そのパズルエリアは変化し続ける。

 相性の良い魔者が隣り合わせの部屋に来た時は良いが、弱肉強食の関係下にある魔者同士が隣合うと、ほぼ一方的に駆逐される。

 そうならないために弱者側も多少の知恵を絞る訳なのだが、あまりそれが成功した例は少ない。


 他にも、犬猿の仲である魔者同士の部屋が隣合えば戦争が勃発する。

 また各部屋には二方から四方の入出口があるため、最大で4つの他種族魔者と接する事になる。

 非闘争/協力関係下にある魔者の部屋を素通りして遠征に出向く事も出来るため、彼等にとってそこは心休まる場所では当然ありえない。

 故に、迷宮入口へと向けて移動を開始する事になる。


 それが、現在では第4階層からやってきた大量の魔者達によって、より酷い状態へと陥っていた。



「このエリアって本当に抜けられるんですか?」

「超人クラスの侵入者がいれば余裕だろう」

「レベル高すぎですって……」

「というのはまぁ冗談だ。実際にはA級クラスが数人いれば余裕だろう」

「それはまぁC級以下の魔者がほとんどですから、A級クラスの人なら取るに足らない相手ばかりですけど、数が数ですし、それでも突破するのは難しいんじゃないですか?」

「範囲技か範囲法術で一網打尽だろう」

「一応は洞窟の中なんですから、下手にそんな事したら落盤して生き埋めですよ」

「どちらかというと、実力よりは体力と精神力の問題だと俺は思うがな。所詮は烏合の衆だ。時間をかけてチマチマ削っていけば問題ないだろう」

「でも、魔者発生ポイントが至る所にありますから、長時間滞在すると上位派生種が発生しちゃいません?」

「長期間滞在出来るだけの実力を持っている時点で、上位派生種なんかにはやられはせんよ。変異種ならばどうなるか分からんが、そもそもあれ以来、変異種は沸いていないしな。その時は運がなかったとして諦めて貰うしかない」

「諦めたら死んじゃいますって」



 実際には、戦闘継続を諦める前に、そのエリアへ挑む者達がいない訳なのだが。

 ただ、そのエリアには当然それまでよりも質の良い宝箱を設置している。

 場所が場所だけに採集ポイントも採掘ポイントは置いていない。

 その代わりに、その第3階層を見事突破する事に成功した場合、ボーナス部屋へと至る道が待っていたりする。

 勿論、そのボーナス部屋は巧妙に隠しており、例え見つけられても中ボス戦を挟まなければ辿り着けなくしてはあるのだが。

 ボーナス部屋なのに見つけるためには障害があるのはいつもの仕様である。


 尚、そのボーナス部屋にはAA級相当の装備品が一式で手に入れられるようになっていた。

 AA級相当といっても、AA級ランクの実力を持っている者用の超高級装備という訳ではなく、もう少し一般的な見知でランク付けされた装備品である。

 M級を1級品とすれば、AA級というのは6級品に該当する。

 数字だけ見れば大した事が無い様にも思えるが、一応AA級は希少(レア)物に相当する高額品である。

 普通にはお店で手に入れる事の出来ない、掘り出し物を越えるぐらいの一品という位置づけだった。


 ただ、そのボーナス部屋で手に入る装備一式は、違う意味でAA級となっている。

 能力的にはA級クラスの7級品レベルなのだが、手に入りにくさと希少性からAA級に部類される。

 何しろ、俺の囲っているエルフ達が作成した一品のため。

 それ故に、レア装備というよりも固有(ユニーク)装備という色合いが強かった。


 手に入る装備一式は、弓職系か法術職系か盗賊系の三種類のうちのどれか。


 弓職系の装備一式の場合は、まず武器として『大樹の守手』ティナシィカ作の大弓。

 消耗品である矢は『緑葉の音色』フィリーチャ作の300本のみ。

 防具には『花飾り』カチューシャ作の身軽に動ける紫蘭綿/妖蘭綿製の四点セットに下着が付いてくる。

 更にアクセサリーとして『輝く宝玉』スールーオゥ作の腕輪と、『天鈴』ウィーリン作の首輪が手に入る事となっていた。


 法術職系の装備一式は、武器は『森の恵み』チェーシア作の杖。

 防具には『花飾り』カチューシャ作の綿装備に『月のしずく』ターチェユが強化した四点セットに下着が付く。

 アクセサリーは『輝く宝玉』スールーオゥ作の指輪2つと、『星の宝石』エレンミア作の封冠と首飾り。

 弓職系装備一式よりも豪華となっていた。


 逆に若干見劣りするの、盗賊系の装備一式。

 武器は『水鏡夢』ファムシェ作の鞘付きの短剣2本と、『宿命』ディートリト作の投擲針5本。

 防具は胴装備と足装備2点のみの綿装備。

 アクセサリーは『愛の娘』レエルノア作の片耳のみのピアス。

 それと、消耗品として『霞初月』アナセリカ作の煙玉が5個ほど付いてくる。


 どの装備も男性用/女性用が取り揃えられており、宝箱を開けた者の性別/職業に限らずどれかが一式で手に入る仕組みとなっていた。

 尚、下着が付いてくるのは女性のみで、男性には付いてこない。

 女性用の下着は活用する機会が多いため、それなりに種類も数も豊富に取り揃えられているので1枚や2枚贈呈した所で問題がないからである。


 但し、ちょっとした嫌がらせとして、宝箱を開けた際には真っ先にその下着が目に入るようにしていた。

 男性のみのPTで宝箱を開けた際にどの様な反応をするのか……というのはまるで興味はないが、男女混合PTで一悶着起こるぐらいは覚悟して欲しい。

 女性のみのPTだと取り合いに発展しないかどうか少し気がかりではある。



「新品、ですか……?」

「当たり前だ」

「この前、私の下着が一着なくなってたんですけど……」

「そう言えば、この前何故か天井から下着が降ってきたな。悪戯好きのピクシーが犯人だとは分かっていたが、そうか、あれはウィチアのだったのか」

「……まだ返ってきてないんですけど?」

「所有者が分からなかったから処分した」

「お気に入りだったのに……」



 まだ誰も足を踏み入れた事のない第4階層は、ほぼ階層全体を物凄く長い一本道で形成されている。

 但し壁を調べれば至る所に『隠し扉』『回転扉』と『一方通行路』を組み合わせた隠し通路が配置されており、また『滑る床』エリアの先に『粘着エリア』『麻痺エリア』『毒エリア』『混乱エリア』『沈黙エリア』等々の罠も多彩に仕掛けている。

 『時間経過扉』の罠によって通行規制もあり、更にはその罠を組み合わせた迷宮構造自体がガラッと変わる仕組みにもしてあった。

 道が3次元に交差している部分を利用しての『落とし穴』『時間制限床』による強制移動もあるため、やはりこの階層も突破は非常に苦しいものとなっている。


 それに加えて、最近では魔者発生ポイントを大量に配置したので、魔者も溢れかえっている。

 ただあまり数が多すぎると折角その階層で消費させた瘴気が、大量の魔者がいる影響でまた濃度が濃くなってしまうため、『強制移動床』や『落とし穴』などの罠を駆使して第3階層へと誘導するように工夫していた。

 第3階層で殺し合いが発生してまうのでまた瘴気濃度が上がってしまう訳なのだが、今の所、瘴気はループする形で落ち着いているため第5階層には影響は出ていない。

 むしろ、第3階層後半の瘴気濃度が濃すぎて結晶化し始めているのではと勘ぐっていた。


 一本道を横道にそれる事無く進むといったいどれだけの時間が掛かるか分かったものではないその長大な通路の先には、第4階層の最後の砦となる中ボス部屋が待ち受けている。

 待ち受けているのだが……需要がないため中ボスはまだ配置していなかった。

 温存である。



「植物系のボスを配置して、第5階層に流れ込もうとする瘴気を吸収してもらうというのはどうでしょうか?」

「ふむ、それも良いな。ただ、植物系は色々とフラグを立てそうだからな……」

「フラグ、ですか?」

「長く討伐されないまま成長し続けると、迷宮全体をその植物が覆ってしまう可能性などがある」

「瘴気系の迷宮だったのが、植物系の迷宮に入れ替わってしまうのですね」

「そうなると、触手属性が……ふむ、それも良いか」

「やっぱり却下です」



 そして現在の最終地点である、第5階層。

 その階層も前半、中盤、後半と分けており、それぞれが独立した大部屋になっていた。


 まず第5階層の前半部は、上から見下ろす事が出来る立体迷路の構造となっている。

 飛び越えられてしまわないように法術による飛翔を禁止するフィールド効果を付けている上に、翼を使ってもズルが出来ない様にその大部屋は常に強風が吹き荒れていた。

 広さが尋常でないため、上から全体像が見えていてもその立体迷路をクリアするのは大変だろう。


 加えて、物質系の魔者も多数存在するので奇襲に事欠かない。

 何かに擬態化してただじっと待ち続けるというのは、物質系の魔者にとっては十八番のようなものである。

 同様に『人食い箱』も息を潜めて開けられる瞬間を今か今かと待ち続けているので、精神的な負担は相当なものだろう。



「モノマネしてても誰も来ませんけどね」

「奴等の努力が報われるのは、いったいいつになる事やら」



 第5階層の中盤は、アルセイデス達の住処となっている。

 前半と同様に大部屋になっている訳なのだが、前半の迷路が3次元に対して、この中盤は沼地や水溜まりなどを利用した2次元迷路という様相にしていた。

 当初は3次元構造であり、方向感覚や平衡感覚を失う工夫が凝らされた上で全体像が見えにくいという空間立体迷路となっていたのだが、アルセイデス達の生存環境を整えた際にそれらのほとんどは水没してしまっている。


 その第5階層中盤にいる魔者は、アルセイデスを除けば擬態草(ミミクリーグラス)のみ。

 他にも植物系の魔者を配置したい所だが、湿地帯に適応する植物系魔者が今の所いないため見送り続けている。

 その代わり、その大部屋の端の方には色々な草花を配置して、ピクシー達もたまに旅行や水遊びにやってくるぐらいの景観は作りだしている。

 水遊び場の水の清浄化は、アルセイデス達が管理してくれている様だった。

 やはり少しばかり寂しいと感じていたらしく、ピクシー達が遊びに来てくれる事が分かってからは色々と配慮しているらしい。



「イリアもたまに水遊びしているらしいな。ウィチアは行かないのか?」

「迷宮内は怖くてちょっと歩けません」



 そして現在の最終地点となる、迷宮第5階層の後半。

 大部屋なのは変わりないが、難易度で言えば確実にこの迷宮内で一番と言える様な場所。

 それは頭を使う迷宮的な意味ではなく、もっと直接的な意味での理由でそうなっていた。


 部屋に入ってすぐの場所には物質系の魔者発生ポイントが多数配置されているのだが、その奥へと進むと大小様々な牢屋が軒を連ねている。

 その牢屋の中に入っているのは、第3階層の後半で蠱毒呪法によって生み出された高レベルの魔者達。

 迷宮バランスを一気に変えかけないそれら兇悪な魔者達を、そのエリアでは隔離していた。


 それに加えて、アルセイデス達が捕らえて精神改造した上で鍛えた魔者達も、その周囲では暮らしている。

 彼等彼女等は、アルセイデスの魅了によって捕らえられ、一度こってりと絞り尽くされて恐怖を植え付けた後で各種麻薬を注入されて精神を壊されていた。

 当初はファーヴニル迷宮への先兵として鍛え上げるという名目の下で集められた魔者だったのだが、実質的にはアルセイデス達が自身の食事用のペットとして飼っている状況と言った方が良いだろう。

 蠱毒呪法によって強化された魔者達も、少しずつアルセイデス達の毒牙に掛かり始めている様だった。


 迷宮はそこで終わる。

 一番最深部まで進んだとしても、特に何もない。

 豪華な宝箱がある訳でも、迷宮入口に戻れるような道がある訳でもない。

 ただ、次の階層へと向かうための細い通路の先で行き止まりになっているだけだった。



「ファーヴニルさんが怒りません? ゴールはもっとちゃんと作れって」

「侵入者達がそれを言ってくるなら兎も角、ファーブニル相手には必要ないだろう。奴にとってはゴールに辿り着いた時点でこの暇潰しゲームは終わりになる訳だからな。それに迷宮で報酬を貰わなくても、勝利した時点で別の報酬が待っている。わざわざ追加報酬を用意してやる意味はない」

「それはそうなのですが……なんか寂しい気がしまして」

「侵入者達が第4階層に足を踏み入れる様になったら、中ボスも含めてまた改めて考えてやる。それまでは現状維持だ」

「実は考えるのが面倒なだけじゃ? 第六階層以降の造りはファムシェさんに丸投げしてますし」

「否定はしない。遊んで暮らせる地盤は整ったからな」

「これまでも十分遊んで暮らしていたと思いますけどね。主に女遊び的な意味で」

「……久しぶりにちょっと躾けておくか」

「え? あっ……!?」



 互いに迷宮画面の方へと身体を向けた状態で、今回は椅子の上で楽しむ。

 どっちが後ろにいるかは言うまでもないだろう。

 部屋に(たむろ)していたピクシー達は、いつの間にか何処かへと消えていた。

 何処かといっても、画面を見ると第5階層に光点が増えていたので、ほとんど丸わかりだったが。


 気を失ったウィチアをベッドに捨て置いて、迷宮画面を操作し始める。

 これまでの確認はただのついでで、そろそろ本来の目的を果たす事にする。


 ファーヴニル迷宮へと送り込んでいた部隊が、ようやく全滅した。

 随分前に送り込んだC級の浮遊する強酸生物(レイム)100体と、その指揮官であるC級死魂の精霊(ウトゥック)1体。

 恐れていた懸念事項が当たってしまい、その部隊は長期に渡ってファーヴニル迷宮に隔離されていた。

 本当に隔離されていたかどうかは分からないが、常にレイムがレベル1のままで100体という数を維持していたのがその証拠だろう。

 ただウトゥックの方はチマチマとレベルが上がっている様だった。

 霊体だけに、完全な隔離は出来なかったのだろうか。

 どちらにしても、合計101体の魔者が同じタイミングで倒された事により、俺はようやく新しい部隊を送り込む事が出来るようになったため、その仕事へと久しぶりに取りかかった。


 送り込む魔者は、当然の事ながら第5階層後半の牢屋の中に捕らえている魔者達。

 高レベルとなっているが職業を獲得させていない子鬼(ゴブリン)豚鬼(オーク)犬鬼(コボルト)の亜鬼達に加えて、ゴブリンとオークによって孕まされたファーヴニル軍翼人鬼(ハルピュイア)が産んだ半翼人鬼(ハルピュイアハーフ)

 それに、猿鬼(オロリン)栗鼠鬼(リカート)蜘蛛鬼(アラクネ)という三種のC級魔者を混ぜた混成部隊を作り出す。


 この中で、D級魔者のゴブリンとハルピュイアハーフを蠱毒呪法で育てるのは苦労した。

 特にハルピュイアハーフは数が少なく自前で繁殖させて数を増やさなければならないので、ゴブリンの様に蠱毒の試行回数で確立を引き当てる事も難しい。

 一度成功してしまえば次の蠱毒で生き残る可能性もかなり高くなるため、その後の成長はさせやすいのだが、3回ほど成功した後の最後の仕上げでハルピュイアハーフが殺されてしまった時には流石に少しイラっときた。

 ただその時に生き残った魔者が、現時点において能力的にはトップクラスにいるので、その苦労は無駄ではなかった事がせめてもの救いである。


 その7種の亜鬼を100体ほど集め、指揮官のアルセイデスに預ける。

 骨抜きにされている魔者はまだ半分にも満たなかったが、各種族の中で力の強い者から順番に調教させたので、その力関係の御陰で互いに殺し合うという事はなかった。

 その部隊の中で戦闘には特化していないアルセイデスが実力的には一番弱いのだが、魅了と調教洗脳によって今の所事なきを得ている。


 尚、最初にコンタクトを取ったアレーレが指揮官ではないのは、彼女がアルセイデスのトップに君臨しているからである。

 最初に産まれたのがアレーレであり、レベルが他の者達と比べて少し高いのと、俺との交渉役となっている事もあって、種族の中でその地位を確立させた模様だった。


 また、そのもう一つの理由として、アルセイデス達は離れていても自然を通して意思疎通が出来るという能力を持っていた事があげられるだろう。

 つまり、ファーヴニル迷宮に送り込んたアルセイデスから、ほぼリアルタイムに近い時間で情報のやりとりが出来るのである。

 その能力を利用して、アレーレにはファーヴニル迷宮内の構造を筆に起こして貰う様にお願いしていた。


 例え帰還出来なくとも、相手の迷宮の情報を手に入れる事が出来る。

 侵略値をあげなくとも、相手の迷宮の構造をマッピングする事で、そのリアルタイム情報と照らし合わせる事で現在の部隊位置を把握する事が出来る。

 だけでなく、アレーレを通じて指示も出せるため、これほど都合の良い魔者はそうそう他にいなかった。


 尚、コミュニケーションを取れるという意味では、アラクネも一応は該当する。

 ただ、アラクネはほとんど人を獲物としか見ていないため、言葉を理解出来てもまるで聞く耳を持たず、どれだけ融通してもまともに交渉するのは不可能であった。

 本能的に敵対者であり捕食者であり、家畜にも似た相手の言葉に耳を傾ける気がないのは当然だろう。

 職業持ちとなって更に成長を果たした後であればそれなりに知能も高くなってくるので、もしかしたら交渉次第で相手をしてくれる様になるかもしれないが、隙を見せた瞬間に捕食される可能性も十分に高いため、今の所試す勇気はない。


 ちなみに、アラクネという魔者は雌のみの種であり、雄の場合はまた種族名が異なるらしい。

 子供を産むためだけならば他種族の雄を食って種を取り込む事でも出来るという話なので、そういう行為は必ずしも必要ではなかった。

 快楽として受け入れている様である。



「さて、ファーヴニルの迷宮の構造がどんな風になっているか、少し楽しみだな」



 その俺の呟きに反応してくれていたウィチアは既にリタイアしているため、俺は一人気楽に迷宮画面を眺め続ける。

 既にアレーレは牢屋の中に用意した特別席に呼び出していた。

 流石に牢屋の外に出して自由にさせるのは、色々な意味で危険が大きいため出していない。


 アルセイデスは男女に関係なく食事を取る事が出来る。

 勿論、好むのは男性の方なのだが、別に女性が嫌いという訳でもなかった。

 つまり、アレーレを牢屋に閉じ込めているのは、俺の身を守るためというよりは、他の女性陣の命を守るためである。

 《欲望解放》の呪い効果で死ぬ程の精気を失う事だけは免れている俺とは違い、俺以外の面々はアレーレに襲われれば間違いなく精気を奪い尽くされて殺されてしまう。

 一応は注意しているが、相手はれっきとした魔者なので、絶体とは言い切れない。

 現に、第5階層の後半に連れてこられた魔者の中には限界を越えて搾り取られた結果、呆気なく死んでいった魔者がそれなりの数がいた。

 アレーレのレベルが地味に上がっているのは、そうした理由からである。


 そして――。

 意図的なのか、それとも実はあれで本気だったのか。

 膠着状態を続けていた両者の戦いに、遂に俺が動いた事で、本格的な火蓋が切って落とされた。

2014.02.15校正

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