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不死賢者の迷宮  作者: 漆之黒褐
第肆章 『魔者の軍団』
89/115

第84話 悪質な迷宮構造

 迷宮第1階層。

 そこは、大量の不死者と、三種の亜鬼と、多くの罠が点在する新人泣かせの場所だった。


 見た目は天然の洞窟、しかしいざ足を踏み入れてみると休む暇もないぐらいに侵入者達へと襲い掛かってくる不死者の大群。

 洞窟の入口に蝙蝠種のデューンバットがいるのは誰もが納得の出来る状況なのだが、その奥へとちょっと進むだけでどう考えても異常としか表現のしようがない理不尽が侵入者達を苦しめる。

 倒しても倒してもきりがない不死者達。

 不死者は侵入者達を待ち受けているのではなく、分岐路の先から次々と現れてくる。

 そんな罠に引っかかった覚えなどないのに、まるで罰ゲームの様に侵入者達を苦しめた。


 不死者エリアをようやく越えた所で、次に侵入者達の身へと降りかかってくる脅威は、三種の亜鬼。

 子供のような背丈と緑の肌を持つ、繁殖力が異常に高い子鬼(ゴブリン)

 二足歩行する豚が手に槍や盾を好んで持ち、女人を捕らえて弄ぶ事を趣味としている豚鬼(オーク)

 やはり二足歩行する人型の犬が反りのある剣を持ち、惨殺する事をまるで生業としている犬鬼(コボルト)

 出会った際の脅威度で言えばこの逆順だが、女性にとって出会いたくない順で言えばこの順番となるそれら亜鬼が、不死者の次に侵入者達を苦しめる敵だった。


 圧倒的な数の暴力と、様々な武器を使いこなして襲い掛かってくるゴブリンは、知能こそ低いが非常に獰猛で、時には死角から弓矢すら飛んでくるので、弱いからといっても全く油断は出来ない。

 遭遇した者が男性であればまず間違いなく滅多刺しにされ命を落とす。

 逆に女性であれば捕らえられ、酷い環境で生かされ続けた挙げ句、ゴブリンの繁殖として利用される事になる。

 死にたくても死ねないという苦痛を永遠に味あわされるのだから、捕らえられた女性達にとってそれは地獄そのものだった。


 そのゴブリンよりも醜悪な顔をしたオークの場合、女性は捕らえても繁殖に利用する事はない。

 オークもゴブリンと同様にそういう事は非常に好むのだが、それ以上に彼等は命を弄ぶ事がとても大好きだった。

 つまり、オークに捕らえられた場合、高い確率で散々弄ばれた挙げ句に殺される事になる。

 長い地獄を見るよりは、例えその未来が確実に閉ざされるとしても死という絶望を選ぶ、という女性は多かった。

 尚、オークは単体でもゴブリンより遙かに強い。

 そのため、数が少なくとも遭遇した場合の死亡率は当然ゴブリンよりも高かった。


 そのオークよりも個体戦闘能力が上のコボルト。

 オークが力任せの攻撃力と鎧や盾などを装備して防御も固めている戦士タイプだとすれば、コボルトは速度と技を活かした剣士タイプだった。

 ただ力がないという訳ではないので、コボルトが繰り出す速度ののった剣刃は、鉄でも容易く斬り裂く事が出来る程。

 つまり、動きが俊敏な分だけ、オークよりも厄介であった。

 そして、彼等は人の肉を好む。

 特に女性の柔らかい肉を好むので、そういう意味では真っ当な魔者だと言えた。


 そんな三種の亜鬼が点在するエリアを侵入者達は進まなければならない。

 そして彼等との戦いを避ける事は、ほとんど不可能とも言えた。


 コボルトが嗅覚で侵入者達を感知し、高確率で先陣を切って襲い掛かってくる。

 その戦闘音を聞きつけて他の二種がタイミングを見て更に襲い掛かる。

 幸いにしてその三種族は互いに牽制し合っている仲なので、協力して襲い掛かってくるという訳ではなかった。

 だがその分、まるで順番待ちをしていたかのように、一種を撃退して一息入れようとした瞬間に別の種が姿を現す。

 その種族を倒せばまた別の種族が襲い掛かってくる。

 その場から動かなければそれが延々と続く。

 ある意味、不死者達を相手にしている時と変わらない。

 但し、不死者よりも広闊で残忍で攻撃方法が多彩なので、厄介度で言えば不死者を相手にするよりも圧倒的に上だった。


 そして、侵入者達を苦しめるもう一つの問題。

 悪質な罠の数々が、不死者と亜鬼の襲撃によって心身共に疲れ果てている侵入者達に容赦なく猛威を奮う。


 迷宮に入った瞬間から死と隣り合わせ。

 滑る床に足を取られていきなり怪我を負ってしまうのはまだ序の口。

 前に滑って行き過ぎれば奈落の穴へと真っ逆さま。

 壁に手を付けば一刺蜂(ビー・スティンガー)の巣へと誘われ、万を超える大群に為す術なく刺され殺される。

 それ以外にも、落とし穴にはまれば出口無しの血吸幼虫(ヒルワーム)部屋、入り組んだ分岐路は一方通行路が混じっているため現在位置を見失いやすく、間違った道を進んでしまった場合には明らかに難易度が桁違いに異なる別の迷宮へと飛ばされるという転送罠までがあり、侵入者達の進軍を困難なものへとしていた。

 例え迷宮の攻略地図を持っていたとしても、連続する戦闘と罠の数々に対処が追いつかず、迷った挙げ句に帰り道を見失うという者達が続出する。


 なお、他迷宮への転送罠は、ある一定以上の力を持った者達であれば遠くの地への簡単な移動手段として使えるので、将来的には意外と重宝される仕組みとなっている。

 まだそれに気が付いた者はいない訳なのだが。


 そんな迷宮でも、第1階層の奥の方まで行けばそれなりに落ち着く事が出来た。

 巨大な迷路にさえ辿り着いてしまえば魔者との遭遇率も罠の配置率も急激に落ちるため、そこまで辿り着く事が出来るかどうかで侵入者達の生存率はハッキリ分かれる事になる。

 同時に、そこまで辿り着く事が出来て初めて侵入者達は命を賭けた対価を得る事が出来た。


 そこからは、侵入者達は素材採集や鉱石採掘に明け暮れる事になる。

 採れるものは粗悪な『薬草』だったり微少含有の『鉱石』などばかり。

 だが、そもそもその迷宮のある辺りでは鉱石の類は採れる場所が見つかっていないため、例え微量といえども資源としては結構貴重だったりする。

 草系にしても、『薬草』は兎も角として薬の材料となる『毒消し草』や『痺れ草』は十分に需要があるため、持って帰ればそれなりの収入にする事が出来る。

 加えて、この迷宮で手に入る『草の種』は低確率でこの地方にはない種類の種である事があり、一攫千金とまでは言わないが侵入者達の期待を膨らませる程度には役に立っていた。


 またその巨大迷路は、現在ウォーラビット達が住んでいる。

 そのため三種の亜鬼の狩猟場にもなっている訳だが、大群で狩りをする訳でもないので、侵入者達はそれらと遭遇しても片手間に蹴散らすだけだった。

 そもそもその場所まで辿り着ける時点で、侵入者達の実力は少数の亜鬼達などまるで相手にならないレベル。

 余程の事がない限り、その場所では侵入者達は死ぬ事はなかった。



「本日の第1階層突破者は、3PTの11名です。被害は0、撤退者はいつものように1人です」

「ファーヴニル軍対策に少し弄ってからは、流石に以前と同様の状況に落ち着き始めたか」

「そうですね。それでも、迷宮に入ってくる人達の数は以前よりも確実に増えてますから、だんだんと知名度があがってきたって事ですよね」

「それはどうだろうな。数は増えているものの、ループしてる者達がほとんどの様にも見受けられるんだが」

「安定して稼ぐ事が出来る人達がいるって事は、そのうち人が増えてくるという前触れにもなってるんじゃないですか?」

「そういう考え方も出来るか」

「入口にある建物がいつ拡張工事を始めるのかちょっと楽しみです」



 そして、見事迷宮第1階層を突破した者達は、次なる階層へと足を踏み入れる。

 迷宮第2階層。

 そこは、運と知能を試される脳筋泣かせの迷宮エリア。


 前半には、一度迷ってしまえば二度と出られないとさえ思わせる妖八陣の迷路。

 進んだ道と戻った道が異なる様に仕組まれたそのエリアは、長大な通路と方向感覚を狂わせるために3次元通路にもなっているため、確実に侵入者達の体力と精神力を削っていく。

 ただ、それは迷宮内にいる魔者達も同様であるため、迷った挙げ句、その迷路から出る事を諦めて住み始める魔者も続出した。


 配置している魔者はフライワームとクロウタートルだが、今ではあらゆる魔者がその迷路内に住み着き、群雄割拠の様相を呈している。

 その中にファーヴニル迷宮からやってきた蜥蜴鬼(リザードマン)翼人鬼(ハルピュイア)が混じっているのは御愛嬌だろう。

 何らかの理由で部隊長を失ったファーヴニル軍の兵士達は、それまでの統率された動きから一転して、思い思いの行動を取り始める。

 その行動のほとんどが、過程はどうあれ、生命を存続させる方法を確保して最終的にそのままそこに住み着くというのが常だった。


 意外にも、孤高の蜥蜴鬼(はぐれリザードマン)孤高の翼人鬼(はぐれハルピュイア)は、ゴブリン、オーク、コボルトといった三種の亜鬼とは敵対関係をあまり取らず、むしろ物々交換などをするぐらいには友好的に振る舞っていた。

 それは恐らく、いくら単体の能力が彼等よりも高いとはいえそこは本来彼等が生きるには適した土地ではなく、また数の暴力で攻められれば一溜まりない事を理解出来る程度には彼等の知能が高かったからだろう。

 そう言う訳なので、群雄割拠する妖八陣エリアは侵入者達やファーヴニル軍がやってこない限りは基本的に平和な状態にあった。


 尚、ファーヴニル軍がやってきた場合には、同種族であった場合に限り、部隊からはぐれていた彼等は軍に復隊する事になる。

 何故なら、はぐれリザードマンやはぐれハルピュイアが発生するたびにファーヴニルが次回に投入出来る戦力は減っていくため、放置し続ける訳にはいかないからだ。

 微妙な所で面倒な迷宮侵略戦争仕様である。


 第2階層の中盤には、石兵八陣という迷路がまた現れる。

 そこは妖八陣ほどには複雑ではないが、迷い易さでいえば妖八陣の上をいく。

 多くの広間と通路はほとんど似たような光景となっている上に、通路を隠すように色々な小細工までされている。

 特に擬態草(ミミクリーグラス)は厄介で、草音により聴音幻覚効果や思考力の低下などを随時引き起こすため、簡単に気がつける事でも時間の経過と共に徐々に気がつけなくされていく。


 加えて偽装人形体(ガデュアズ)も石像偽装により通路を隠して塞いでいたり、同士討ちを誘発させたりする。

 草で生い茂った地面に隠れている宝箱の中に『人食い箱』が混じっており、それらをガデュアズが時々リアルタイムで移動させるというのも侵入者達が混乱する要因にもなっていた。


 ただ幸いにして第2階層の構造は初期から変わっていないので、迷宮地図を持っている者達にとってはそれほど脅威にはなっていない。

 脅威にはなっていないのだが、そのエリアには第1階層以上に採集ポイントや採掘ポイントが点在しており、また獲られるアイテムランクも一つ上のものとなっているため、ついつい寄り道してしまう者達も多かった。

 その寄り道をしてしまう主な理由には、第2階層の後半には迷宮入口へと続いている一方通行路があるからでもある。

 迷宮探索ツアーにとても便利な帰り道であったため、そこで帰って行く侵入者達は多い。


 ファーヴニル軍にとっては、その帰り道へと続く通路がある広場が人生最後の場所となっている訳だが。



「またまたお手柄ですね」

「殲滅までの時間がどんどん短くなっているのは、やはり着実にレベルが上がっているという事なんだろうな」

「それでもたまに被害が出るんですよね。今回は大丈夫だったみたいですけど」

「被害が出ると途端に彼奴等は五月蠅く騒ぎ始めるからな……色んな意味で被害は出ない方が良いと最近思う様になってきた」

「何故でしょう? 常に15匹でいる事に何か意味があるんでしょうか?」

「彼奴等の事だ、どうせくだらない理由だろう。5人×3チームじゃないとゲームが面白くないとかなんとか」

「それなら別に18匹でも30匹でも良いんじゃないですか?」

「花畑の大きさから言って15匹ぐらいが丁度良いんだろう」

「あの広場の大きさから言うと、十分に広いスペースだと思うんだけどな~」



 玄武陣だとかトライアングルスリーだとか、色んなフォーメーションを試しながら戦闘しているようにも映っていたが、やはり気にしない事にした。

 ピクシー達の性格からして、本当にゲーム感覚で遊んでいるだけの可能性が十分に高い。

 職業とか戦闘方法とかにも凝っていても全く不思議には思わない。



「まさか戦隊ものではないよな……?」

「はい? 何か言いました?」

「いや、何でもない」



 迷宮第2階層の後半にある三分岐路の真ん中の道を選べば、迷宮入口とピクシー部屋への道がある広場へと出る。

 逆に三分岐路で左側の道を選ぶと、少し大きめの広間が待っている。

 その広間には多数の宝箱が設置されているのだが、中身はほとんど呪いシリーズ。

 誤って装備してしまうと大変な事になる事間違い無しだろう。

 しかもその広間には、広間に入って暫くしてから中ボスが沸く。


 中ボスは、巨大石人形(ビッグゴーレム)

 その名の通り、身体が堅い石で出来ている大きなゴーレムである。

 ランクはB級。

 大きさは人の5倍程度。

 完全に力押しの魔者である。


 ただ、その広間には法術阻害のフィールドとなっているため、法術は一定確立で発動が失敗するようになっていた。

 つまり、第2階層でようやく脳筋タイプが活躍出来る場所である。

 その広間までやってくる事の出来る侵入者達の実力から考えれば、ビッグゴーレムは十分に倒す事の出来る相手だった。

 ――呪いシリーズに手を出してしまっていなければ、の話だが。


 三分岐路で右側の道を進むと、やはり少し大きめの広間へと案内される。

 その広間にもやはり宝箱が多数設置されているのだが、中身は錆びたシリーズが入っている。

 そのままだとまず間違いなく価値のない代物なのだが、中には当たりのアイテムも低確率で入っているようにしているため、欲に目の眩んだ侵入者達ならば全ての宝箱を開ける事だろう。

 そして後悔する。

 宝箱には『人食い箱』は混じっていないのだが、錆びたシリーズのアイテムを取らないまま宝箱を閉じてしまうと、その度にある数値がカウントされていく。

 カウントは、同じ宝箱で同様の事を行ってもカウントされる。

 いらないからといって手に入れないという選択肢は、実は不正解であった。


 その広間でも、入ってから暫くすると中ボスが現れる。

 そして中ボスを倒さない限り、奥へと続く扉は開かない。

 戻るための扉も閉まったまま開かない。


 中ボスは、巨大怪鳥(ベアトリス)

 名が体を表すように、見た目そのままの巨大な鳥だった。

 速度を乗せれば鋼鉄さえも貫く優れた硬度を持つクチバシに、羽ばたかせる事によって強烈な突風を発生させる翼。

 そして最も厄介な、触れた物を錆び付かせるという悪質な息吹を吐く。

 しかもその息吹は広間の中に滞留し、拡散して薄くなったとしても徐々に錆びさせる効果を持っていた。


 拡散すれば人体には直接影響の出ないその悪質な気体は、侵入者達には気付かれないまま徐々に彼等の装備を蝕んでいく。

 そこに関わってくるのが、例のカウントである。

 カウントされた数値が高ければ高いほど、その影響を受ける装備範囲が増えていく。

 数値が低ければ大抵の装備は錆びないのだが、高いと本来錆びない装備までもが錆びていく。

 いや、錆びていくというよりも蝕んでいく。

 そしてある時突然に壊れる。

 金属類は目に見えてその浸食度が分かるのだが、木材系や布系の装備は一見して分からないレベルで浸食されていくので、その時の動揺は侵入者達に致命的な隙を生む。

 ビッグゴーレム同様、油断すれば命取りになりかねない攻撃力をベアトリスは持っているため、その隙は時に致命的だった。


 尚、息吹をまともに受ければカウントされた数値に関わらず、大変な事になる。

 うら若き少女がまともに浴びれば、それはもう大変な事になる。

 息吹を浴びた次の瞬間には、身に付けていた装備が全てボロボロとなりほぼ裸状態にされる。

 男性陣の目は釘付けだろう。

 もっとも、同時に強烈な目眩が襲い掛かってくるので、仲間の視線を気にする余裕などまるで無い訳だが。

 そして、ついつい目を奪われていると容赦なくベアトリスの攻撃で命を刈り取られてしまうので、その息吹はやはり厄介な攻撃だと言えた。


 また、カウントの数値は高いほどベアトリスを倒した時の報酬を良くする仕様にもなっている。

 報酬設定は迷宮レベルが5に上がった時に手に入ったシステムである。

 やはりそう言うのが無ければ中ボスと戦うメリットがないしな。

 まぁ、迷宮第3階層に進むためには中ボス戦は必須戦闘としている訳だが。


 報酬は少ないが戦闘難易度が低いビッグゴーレムを倒すか、報酬は多いが色々と厄介なベアトリスを倒して進むと、ようやく第3階層へと足を踏み入れる事が出来る。

 ただその二つの道は繋がっているため、道の選択を間違えると反対側の中ボス広間へと入ってしまう事になる。

 地味に中ボス2連戦という罠がそこには仕掛けられていた。



「この侵入者達、ずっとぐるぐる回ってばかりで一向に進みませんね」

「仕組みを理解して味をしめられたか……」

「でも、中ボスを倒した際に獲られる報酬は一回限りですよね?」

「一度迷宮を出ればまた貰えるようになるがな」

「そうすると、次回のための特訓でもしてるんですかね」

「まぁ、あながち間違っている訳ではないな。安定した経験値稼ぎ狙いあたりか」

「修正を入れます? ……って、やられちゃいましたね」

「……ベアトリスの息吹を甘く見すぎた様だな。南無」



 迷宮第3階層の序盤は、扇状に広がる盛大な分岐路エリア。

 分岐しまくりの場所ではあるが別に迷路という訳ではなく、通路同士がすぐにくっついている構造なので方角さえ気にして歩けば基本的に問題なかった。

 ただ、出口は一つしかない。

 そのエリアへと入ってきた道は一方通行路となっており、出口の先にある一方通行路を通らない限り第2階層へは戻る事は出来ない構造となっていた。


 地図さえ持っていれば簡単に抜ける事が出来るのだが、扇状の分岐路の要所要所には宝箱が設置されているし、採集ポイントや採掘ポイントも盛り沢山ある。

 しかし、やはりここでも欲をかくと碌な事にはならない。

 このエリアにもカウントの罠が存在していた。


 宝箱を開けた回数とそのエリアに留まった時間に比例して、魔者が多く滞在している部屋の扉が開放されていく。

 しかも場所は扇状の分岐路エリアなので、四方八方からの飽和攻撃でその魔者達は侵入者達へと襲い掛かっていく。

 あまり悠長に留まれる様な場所ではなかった。


 但し、メリットも勿論ある。

 魔者が滞在していた部屋にも宝箱が設置してあるので、それを回収する事でそこそこの収入にはなるようにしてあった。

 と言っても、やはりそこまで頑張る侵入者達はほとんどいない訳だが。

 少しだけアイテムを回収して、サクッと通り過ぎる者達の方が全体的に多かった。


 第3階層の中盤では、かつて大量の水溶の粘体生物(アクアンスライム)達を流し込んでいた奈落の底が姿を現す事となる。

 今はすっかりと枯れてしまっているその場所は、天井も高く見晴らしだけはとても良かった。

 ただ、先に進むためにはその奈落の大穴を越えなければならない。

 簡単な道などやはり何処にも存在していなかった。


 奈落の亀裂ともいえるその空間上に見えている細い道。

 明らかに不自然と言うしかないその道の上を歩く事で、侵入者達は先に進む事が出来る。

 ただ、見えている道は隣合う道と距離が離れているために飛び越える事が出来る部分は非常に少なく、またその見えている細い道はとても入り組んでいるため、普通に迷路となっていた。

 足を踏み外せば奈落の底へと真っ逆さまのその細い道を通って、侵入者達は向こう岸へと渡る訳なのだが、当然のようにそこにも罠は色々仕掛けられていた。


 『一方通行路』の罠によって通ると消えてしまう道。

 『移動床』の罠によって、急に動き出す地面。

 『時間制限床』の罠によって、長く滞在する事が出来なくなる場所。

 事前にじっくり道順を確認する事が出来るのに、それらの罠の影響で侵入者達は次々と奈落の底へと落ちていく。

 面白いように……。


 加えて、そのエリアは法術による飛翔を禁止されている区域となっている。

 つまり、翼でも持っている種族でない限り、その穴を飛び越えるという事はまず出来なかった。

 勿論、力任せにジャンプして飛び越える事は禁止していないので、脚力に物凄く自信のある者であれば、点在する足場を巧みに踏んで渡る事は可能である。

 ただ、PT全員がそのような事が出来る訳でもないので、あまり意味はない。


 また、ちょっとした嫌がらせの様に、そのエリアにはデューンバットが飛び交っていた。

 しかもそのデューンバットは嫌がらせをするだけで、明確に攻撃は仕掛けてこない。

 流石にそこまでやってこれる侵入者達に対して、デューンバットも勝てるとは思っていないからだ。

 ただ、ロープなどを這わして渡ろうとする者達には、容赦なく妨害行為を行う。

 そんな簡単な命令を下せる様になっているのも、迷宮レベルが5になった御陰だった。


 そして、もし奈落の底へと落ちてしまった場合だが……。

 奈落の底は、落ちた衝撃で死んでしまわない様に造られている。

 『痺れ草』をこれでもかというぐらいに敷き詰め、また『人面樹』という人の顔のような形を持つ木の罠と、人面樹(フェイスツリー)というC級魔者を多数解き放っているため、落ちて来てもその草と葉と枝のクッションで高確率で生き残る事が可能だった。


 但し、無事にその場所を斬り抜けられるかどうかは別の話である。

 大量の『痺れ草』の影響で身体の動きは阻害され、木なのか魔者なのか分からないフェイスツリーが所狭しと森の様な世界を形成しているため、不意打ちを受ける確立も非常に高い。

 更には、迷宮第3階層の奥の方から迷宮入口へと向けてやってくる多くの魔者達も、奈落の底で当然の様に落ちてくるので、侵入者達はそれらも退けなければならない。

 当然、住み着いている魔者もいるので経験値稼ぎには事欠かない場所となっていた。


 奈落の底から抜けるには、一応は断崖絶壁に道を造ってあるのでそこを通れば良い。

 但し脆い造りのため、過剰に重量を掛けると崩れ去る。

 崩れ去っても時間経過で修理される道なので、慎重に登れば侵入者達だけでなく魔者達も上へと上がる事が出来るようになっていた。

 そして当然、その登った先は迷宮入口に近い方の崖上へと出る。

 奈落の底を通って反対側に抜ける事は、基本的に出来ない造りとなっていた。

 まぁ、崖を無理矢理ロッククライミングで登れば可能ではあるが。


 尚、奥へ行くためには大変だが、実は戻ってくる分には楽だったりする。

 『一方通行路』の罠は、なんと便利な事か。

 渡りきった侵入者達は、そこに見える確かな一本道を発見して、ちょっとガックリと肩を下ろす事だろう。

 間違って渡ってしまったら、再び悪夢の道程へと挑まなければならない訳だが。



「あれ? そういえば、この第3階層以降は迷宮入口に戻る事の出来る一本道はありませんよね? となると、第2階層でまた中ボスと戦わないといけないんですか?」

「勿論だ」

「そこにも帰り道を用意してあげれば良いのに……」

「第3階層の戻り道は、エリアの性質上必要と感じたから設置しただけだ。むしろそっちの方を問題とするべきだろう」

「えっと……さっき調べてみて分かったんですけど、中盤にあるあの高所恐怖症の方は絶体に越えられない道、反対側から渡ろうとすると途中で途切れて絶対に渡れないような構造になっていたんですけど」

「……仕様だ」

「考えてなかったんですね」

「あの規模の迷路構造を考えるのは結構疲れるんだ。面倒だから途中で考えるのを止めた」



 侵入者達の足が止まっているのも、そのエリアだった。

 それ以降のエリアには、ほとんど足を踏み入れていない。

 何しろそれ以上奥に進むと、更に兇悪なエリアが待ち構えていたため。


 その先は、まさに地獄だった。

2014.02.15校正

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