第80話 蜜味の敗北
見辛いという意見があった故、背景色等を少々変更致し候。
ブラック……好きなんだがな。見辛いのは流石に困るか。
気が付くと、変な所にいた。
あれ、何処だろ此処?
四角いお部屋。
なのに草のベッドや木が生えてたりする。
なんだろう。
ジャングル?
でも壁がある。
なんか不自然。
地面をちょっと掘ってみる。
あ、やっぱりお部屋の中だ。
土の下に堅い地面がありました。
わざわざ部屋の中に土を盛ってこの自然を作ってるんですね。
変な場所。
というか、私は何でこんな所にいるんだろう。
あと、なんか頭がズキズキと痛いです。
え~と、え~と。
私、何してたんでしたっけ?
確か、町でウェイトレスのアルバイトをしてて……。
ちょこっとむかついたから色々燃やして……。
そしたら変な叔父さんが現れて、家に案内されて……。
美味しい御飯くれたから、ちょっと気分良くなって頼み事を聞いてあげて……。
それから、変なお店に連れて行かれたんだったかな?
その後、どうしたんだっけ?
う~ん、思い出せないな~。
ま、いっか。
とりあえず、何か食べる物は……っと。
あ、あの草は食べられるやつだ。
いただきます。
ごちそうさま。
他には……この虫達、食べられるのかな?
食べてみよっと。
その前に、ちゃんと毒抜きして……。
生で躍り食いするのは流石に気持ち悪いから、火で炙って……。
って、あれ?
法術が使えませんね、どうしてでしょう。
あ、なんかどこかで見た事のある枷が付けられてる。
捕まっちゃったのかな。
仕方ありませんね。
それじゃ、このままパクリといただきます。
むぐむぐ……意外といけるかも?
ごちそうさまでした。
土の中や木の中にいる幼虫も食べちゃえ。
……。
……。
……。
流石にもう食べる物がないや。
外にも出られないみたいだし、これからどうしよう。
このまま私、餓死しちゃうのかな。
お腹空いた~。
お腹空いた~。
お腹空いた~。
……っと、叫んでみます。
あ♪
御飯が勝手に現れた♪
やった♪
言ってみるものですね。
どういう理由か分かりませんけど、これで飢え死にしなくても大丈夫そうです。
という訳で、いただきます。
ぱくぱく。
むしゃむしゃ。
がつがつ。
う~ん、足りない。
おかわりお願いします。
……っと、言ってみます。
わ、本当に現れた♪
本当に、言ってみるものですね。
ここは天国なのでしょうか?
がつがつ。
むしゃむしゃ。
味付けも全然悪くないですし、何より量があるので私は大満足です。
どこのどなたか存じませんが、ありがとうございます。
あ、もう一回おかわりお願いできますか?
出来ればさっきの10倍ぐらいの量で。
ドサドサドサっと新しい御飯が現れます。
やったやった♪
ぱくぱく。
がつがつ。
むしゃむしゃ。
むぐ……喉に詰まっちゃった!
み、みず~。
んぐ……んぐ……んぐ……ぷはぁ。
あ~、危なかった~。
しかし……まさか桶で来るとは思いませんでした。
ですが、ナイス選択です。
やっぱ質より量ですよね~。
あ、御飯とお水、おかわり出来ますか?
ありがとうございます。
あなたは私の神様です。
むしゃむしゃ。
がつがつ。
むしゃむしゃ。
がつがつ。
「おい」
ぱくぱく。
むしゃむしゃ。
がつがつ。
むしゃむしゃ。
「おーい」
うるさいですよ。
お食事中は静かにして下さい。
伸ばされてきた腕をパシッと掴んで、くるっと回転。
「!?」
地面に叩き付けた後、関節を決めて黙らしちゃいます。
うるさく喚く口は、とりあえず足で塞いでおきましょうか。
あれ、そう言えばなんか服が違う。
それに下着が見えてるままだ。
……。
ま、いっか。
それより御飯御飯っと。
あ、こら暴れないで下さい。
ゴスッ。
うん、大人しくなりましたね。
良い椅子も出来た事ですし、お食事再開です♪
気が付くと、いつも寝ている寝台の上だった。
さて、いつ眠りに就いたのだったかな……。
「あ、目が冷められましたか」
「イリアか? 俺はどれぐらい眠っていた」
「約二日になります」
「……なに?」
身体を起こすと、何故か身体中が動かしにくかった。
恐らくダメージを受けているのだろう。
ほとんど意識する事がないのだが、《痛覚麻痺》の呪いによって痛覚はほとんど遮断されている。
いくら《痛覚10倍》《感覚鋭敏化》の呪いがあろうとも、大抵はその呪いの効果によって俺に痛みは発生しない。
しかし、どういう事だ?
「覚えておられないのですか?」
「……説明を頼む」
「新しい方がこられたので、いつものようにハーモニー様は手籠めにしようと近づき、そして返り討ちにあっただけです」
「事実をねじ曲げるな。手籠めにしようとした覚えはない」
「普段のハーモニー様の私生活を見ていますと、そう誤解されても仕方のない事かと……」
「主観をまじえるな。……それで、俺は何で生きている?」
「どうやら餌付けの効果があった模様です」
「もう少し具体的に頼む」
「あの方は食事に夢中でハーモニー様の事など眼中にありませんでした。ですので、大量の食料を部屋の隅に置くとそちらにフラフラと寄っていきましたので、その間に捨て置かれたハーモニー様を回収させて頂きました」
「……そうか」
言われて思い出す。
投げられて関節技を決められた時には死も覚悟したのだが。
意外と俺の運もまだ残っているらしい。
「それで、どうされますか? 兵糧攻めにして体力を奪った後でゆっくりと手籠めになさいますか?」
「手籠めにする発想以外はないのか……」
「そこはハーモニー様ですし……過程はどうあれ、結果は変わらないかと」
此処に捕らえられた時点でもはや運命は決まったものだしな。
「……暫く様子を見るとしよう」
「兵糧攻めは行いますか? それとも水攻めに致しますか?」
「死なない程度に食事は取らせてやってくれ。但し、あまりやり過ぎるな。あの尋常な胃袋を毎日満たしていたら、どちらが兵糧攻めにされているのか分からなくなりそうだ」
「食料の備蓄に関して心配なさらなくても大丈夫なのですが」
「あれは小国ぐらいなら簡単に潰すような勢いで食べていた気がするんだがな」
むしろあれだけの食料を出す事が可能な方が異常にも思える。
レビスはいったいどれだけの人数を養えるようにここを設計しているのか。
小国を潰すというのは流石に言い過ぎだが、100人規模の集落で消費される一日の食料をあれはペロリと平らげていたような気がする。
物理的な壁をいったいどうやって越えているのやら。
突然に闖入してきたあれは言葉通り暫く放っておいて様子を見る事にして。
本来の目的を果たす事とする。
その前に……あれから二日も経っているという事なので、また準備に時間を費やす。
そして頑張って準備を終えた後。
未だにガツガツと大量の食料を胃に収めている少女の姿を出来る限り見ない事にして、その隣にある牢屋へと入る。
牢屋の中には一匹の魔者が捕らえられていた。
透き通るような艶のある緑色の肌から木の枝やら葉っぱを生やした女性。
見た目の妖艶さでいえばダントツと言える大人びた容姿に豊満な胸と尻を持つ、俺よりも若干背の高い人ではない者。
くびれた身体は色気をたっぷりと振りまき、ついでに高揚効果が含まれている澄み切った森のような薄い香りを彼女は常に振りまいていた。
その髪も蔦のような蔓のような根のような自然溢れる様相をしており、やはりというか所々に葉っぱが生えている。
なのに、美しいと思ってしまう。
一見するだけでその美貌に惹かれてしまいフラフラと近寄りたくなる衝動を抑え、一定の距離を保ったまま俺は彼女とコンタクトを試みようとする。
「此処は何処?」
しかし、先にコンタクトを試みてきたのは彼女の方だった。
「貴男は、誰?」
「此処は俺が隔離されている迷宮の中だ。そして俺の名はゼイオンという」
「私はアルハントウィンティエーレ。見ての通り、森の精よ。どうして貴男は正気を保っていられるの?」
「勿論、事前に対処をしているからだ。御前の魔性にあてられないためにな」
「そう……それを知っていて、私を此処に捕らえたのね。目的は何? ただの娯楽用なら別の方にするのをお勧めするわ。何しろ、私達は加減を知らないからね。絞りきるまで終わらないわよ?」
「怖い事だ。だが、その方面では間に合っている。とはいえ、対処出来ない事もないから、気が向いたら少し付きあって貰う事になると思うが」
「その時を楽しみにしているわ」
B級精霊眷属魔者、アルセイデス。
以前、ファムシェと話した時の会話に出た木の精や水の精の親戚みたいなものである。
既に迷宮内に設置しているD級眷属魔者擬態草と同様の植物型の魔者だが、どちらかというと精霊に近いので精霊眷属に部類されていた。
「それで? まだ貴男の目的を答えて貰っていないけど?」
「簡単に言えば、協力して欲しい」
「相手をして欲しいという事であればいつでも相手をしてあげるけど? まぁ、そういう協力を求めている訳ではないでしょうね。もう少し具体的に教えて頂けないかしら? それと、私にいったいどんな利益があるのかもね」
俺はアレーレに説明を開始する。
名前がやたらと長いので省略させて貰った。
特に何も思う事がなかったのか、彼女はその名前を受け入れてくれた。
「面白そうな話ではあるけれど、危険が大きすぎるわね。それに手間と報酬が釣り合っていないわ。それとも、それは強制的になのかしら?」
「強制はしない。あくまで協力の要請だけだ。改善希望があれば善処する」
「ならまず、私に毎日餌をちょうだい。それでなくとも、私にとって此処は住みよい場所じゃないの。すぐに干涸らびちゃうわ」
「餌、というのは?」
「分かっている癖に。別に貴男がくれても良いのよ? 命の保証はしないけどね」
「……最近、そっちの労力ばっかり期待されている気がするので、出来ればこちらから希望しない限りは遠慮したい所なんだがな」
「貴男の事情なんて私には関係ないわ。私はただ生きるために必要なだけ。仲間を増やすためにも必要だけどね。どうするの? この条件がまず受け入れられない限り、そもそも私は協力すら出来ないんだけど?」
「……ちなみに、仲間が増えた場合はどうなる?」
「条件はきっとみんな同じになるわね。でないと、此処ではすぐに死んでしまうもの」
「死ぬというのは、具体的に言うとどれぐらいの期間で死ぬんだ?」
「生きるだけなら、きっと100年は保たないでしょうね……」
「それだけ生きれば十分だろうに」
「ずっと苦しみながらの100年よ? 耐えられなくなってすぐにみんな自ら命を絶つわ。快楽も娯楽も希望も未来ない世界では、誰も長く生きていたいとは思わないから。瘴気も濃すぎて住み辛すぎよ」
「……ああ。アレーレ達は瘴気に弱い種だったのか」
「魔の精や邪の精達と一緒にしないで」
魔者にも色々いるとは分かっていたが、まさか瘴気を嫌う魔者がいるとは思わなかった。
やはり人に害を成すから魔者に含まれているのだろうか?
ただ、これまでの経験から言って、瘴気に対する耐性の方はその内なんとかなるだろう。
キュイ達ピクシー種のように、放っておけばそのうち耐性のあるアルセイデスが迷宮に設置した魔者発生ポイントから現れてくるようになる筈だ。
となると……今目の前にいるアレーレに頼むより、後から現れるアルセイデスに協力要請した方が楽になるか。
……いや、それは止めておくとしよう。
ピクシー達のように、瘴気に対する耐性がついてしまったため悪戯好きな性格として生まれてくる可能性も否めないため。
悪戯好きなアルセイデス……まさに魔性の存在だな。
いったいどんな悪戯をしかけてくる事やら。
あっち方面なのはまず間違いないだろう。
「それで、どうするの? 私を雇うのかしら? 雇うのなら最初だけ前払いでお願いできないかしら? 正直、今だって本当に辛いの」
艶めかしい動作をしながらそんな風に言って俺を挑発してくるアレーレ。
その両腕と両足と、やたらと多い手足じみた枝を全て壁から伸びている鎖で拘束された嗜虐的な姿は、牢屋という場所で見れば男なら簡単に理性を吹き飛ばしてしまう事だろう。
見た目だけでなく男女共に異常に高い高揚効果をもたらす独特の香りも常に振りまいているため、その毒牙に掛かって亡くなる者は後を絶たない。
最後に至福の時を長く感じながらその至福に包まれたまま逝けるらしいので、彼女達に養分とされ犠牲となった者達を俺は別に可哀想だとはまるで思わない訳だが。
「……しょうがないな。正直まだ決めかねているのだが、とりあえず貸しだけは作っておくとしよう。この迷宮に呼び出した者としても、御前に死なれては少し後味が悪いしな」
「私の命を無償で救ってくれるの? ならそれは随分と重い貸しになるわね。精一杯、頑張らせてもらうわ」
「むしろお手柔らかに頼む。加減を知らないから絞りきってしまうのだろう?」
「貴男ならきっと大丈夫。何故だか分からないけど、そんな気がするの。どうしてかしらね……貴男にはその心当たりがあるんじゃないかしら?」
その問いに答えないまま、俺は限界と見極めていた線をあっさりと越えた。
後の事は覚えていない。
しかし気が付けばまた、いつも寝ている寝台の上に俺はいた。
やはり……欲望を抑えるために事前にガス抜きしていた事で、体力の方が保たなかったらしい。
アルセイデスも、予想通りそっち方面では底無しだと身体で理解させられた。
初めての敗北。
次は全快の状態で挑む事を俺は心に決めた。
2014.02.15校正




