第75話 迷宮侵略戦争
ファーヴニルとの会話は、正味1時間程度で終了した。
折角の新しい出会い。
しかもここに来て初めて同姓に出会ったというのに、ファーヴニルの口から出てくる言葉は迷宮に関しての事ばかりだった。
意外と話が通じそうで、実は俺となれ合うつもりはないらしい。
俺の迷宮に突然現れた謎の侵入者達。
それは簡単に言うと、迷宮の侵略戦争だった。
ある程度迷宮が成長すると、例のレベルアップサービスによって他の者達が運営する迷宮に遊びに行く事が出来る様になるのだとか。
遊びに行く、イコール、侵略戦争な訳だが。
但し、今の所それが可能なレベルまで迷宮が成長しているのはファーヴニル以外にはいないという。
他にいる同業者は2名。
予想していた名前として、あの死竜に襲われた時に一緒に襲ってきたウルボロスという死狼の名と、ハリオンという男の名がここであがってきた。
この空間に閉じ込められてから俺の時間感覚でいって既に約数ヶ月が経っているが、さてこの目の前にいるファーヴニルも含めて彼等はいったいどのぐらいの期間、この迷宮ゲームで遊んでいる事やら。
しかし、彼等の名をここで聞く事が出来たのは良かったかもしれない。
何故なら、レビスの出してきた解放条件が、正確にではなさそうだが履行される事が分かったのだから。
彼等3名は、同じ迷宮の創造者でありながら、望めば外に出る事が出来る様だった。
そして同時に、望めば引き続きここに引き籠もる事も出来るという事になる。
勿論、それはレビスの傘下に加わるという事になってしまう訳だが、それ以前に完全にレビスの下から解放されるとは到底思えないので、それは仕方のない事なのだろう。
不死賢者レビスの力は、およそSS級。
最低でもS級以上だという事は確かである。
俺が今現在、迷宮に放つ事の出来る魔者は、最下級のD級と、その次の位であるC級がほとんどだ。
D級の強さが、普通の人ではまず倒す事は難しい猛獣レベル、もしくはそれだけの脅威も持っている種族とされている。
流石に最下級なのでピンからキリまであるが、かつて俺が森の中で闘ったD級不死眷属魔者である彷徨う腐死者が、個々の強さでは大した事ないが、数の暴力で圧倒しようとした様に。
その上位派生種なのか、元はオーガと思われるゾンビに軽くあしらわれた様に。
D級だとしてもまるで安心出来ない強さや特性を持っている。
オーガのゾンビは流石にC級だと思いたいが、動きは遅かったので、実際にはD級という可能性もあった。
おおそよの危険度を現す階級は、DCBAと続いた後、AA級、AAA級と続く。
と言われた所で、その様な階級名を聞いただけではイメージしにくいので、俺は少し俺流にアレンジして覚えている。
バランスの良い4人PTで闘うと仮定して。
Lv15ぐらいまで苦戦する可能性がある敵を、D級。
Lv25ぐらいまで苦戦する可能性がある敵を、C級。
Lv40ぐらいまで苦戦する可能性がある敵を、B級。
あくまでこの辺は感覚であり、最大値の数字として考えている。
実際にはB級の敵でも、装備次第でLv25のPTぐらいから闘う事は十分可能と考えるべきだろう。
相性の問題もあるので、やはりピンからキリだ。
そして、ここからは個人の能力レベルとして考えていく。
PTだと、個々の能力だけでなく連携度も綿密に関わってくるため、上限と下限に幅が出来過ぎるため。
Lv60~100程度の個人戦闘能力を持つ、A級。
Lv100~150程度の個人戦闘能力を持つ、AA級。
Lv150~250程度の個人戦闘能力を持つ、AAA級。
AAA級の時点で強さの指標に破綻が起きている様にも思うが、個人戦闘能力で考えるとどうしてもこの様な感じになってしまう。
しかし、いわばレベル差によって引き起こされる圧倒的なステータス暴力と考えれば少しは納得出来るかもしれない。
AAA級の実力を持った敵に対して、A級の実力者4名ではまるで歯が立ちそうにない。
だが、Lv150程度のAAA級を倒すには、Lv99程度の4名ならば実は倒せない事もない。
相手の実力を見極め、それに対して的確に作戦を立てれば、強者に打ち勝つ事は決して不可能ではないというのは、この世界でも常識の様だった。
数は連携はやはり暴力となる。
ただそれ以前に、それだけの驚異的な強さへと至る事自体が大変な訳だが。
この強さの指標は、魔者だけでなく人にも適用される。
また恐らくではあるが、俺の鑑定スキルで見れるレベルとは、ほとんど関係ない。
それは、あの少年フェイト・ジーン=ローと、俺の主であるリーブラからしても、確信出来た。
懐かしい名ついでに思い出すが、二人の職業とレベルは以下の通りである。
ローは、風の導士Lv4。
リーブラは、星の聖者Lv14。
このレベルと、俺が強さの指標としているレベルとは、別物だ。
それは俺の所持している各種職業レベルと、各種特技のレベルからしても分かる通りである。
あくまで、ゲーム感覚で換算した場合のレベル指標だった。
カチューシャやターチェユ、ティナシィカとチェーシアは逆にレベルが異常に高い訳だが、実際にそれほどの脅威度は感じない。
あのターチェユがS級?
ありえないだろう。
AA級で達人クラス。
その道を極めた一級の実力者だと認められる訳だが、この辺りの実力者は、実は世界中を探せばそれなりにゴロゴロいる。
恐らく、天武の才と称される者達もこの中に加わると俺は見ていた。
数はそれなりにいるにはいるが、やはり本当に凄いと思わざるとえない強さらしい。
この情報を教えてくれたドワーフ老ガルゴルの話では、ガルゴル自身が良くてA級の実力者なのだが、その彼が長年PTを組んでいる6名が、対策を立てて挑んでも軽く圧倒されるのがAA級という。
そんな話を聞いたとしても、実際にガルゴルの実力をこの目で見て確かめた訳ではないので、やはり俺にはピンと来ない訳だが。
AA級の更に上であるAAA級は、超人クラスと言われている。
名の如し、とりあえず理解の範疇を超えている強さを持った者達。
敵として出会えば、まず命を諦めろと言われるぐらいの脅威度を有した化け物。
そのため、化け物クラスとも呼ばれているらしい。
但し、化け物といえどやはり数の暴力で攻めてこられれば屈する事になる。
そのため、このAAA級というクラスは、戦争時などでその軍隊の強さの指標としてもたまに利用される。
AAA級の戦力を用意し戦争に投入するというのは、本気で攻め滅ぼしにかかっているのだと敵国や周囲の国々に知らしめているのと同じ意味を持つ。
故に、対する敵国もそれ相応の対応をしなければ、瞬く間に蹂躙される。
尚、多数の敵でも圧倒する事の出来る強さであるAA級は、一騎当千。
万を超える敵の前ですら、まるで臆する事のない強さを誇るAAA級は、万武不当とも呼ばれる。
そして、それを越える存在。
S級の、英雄クラス。
推定Lv250~500の、もはや超人すらも超越した存在。
別の指標を持ち出すならば、その英雄クラスの強さは一千年級を越える空の王者、大竜すらもただ一人で立ち向かう事が出来る程だと言われている。
実際に、S級を冠した者が、大竜を単身で撃破したという伝説も残っているぐらいに、この話は有名なのだという。
そんな強さを持った者が、本当に存在するのか。
と言われれば、間違いなくこの大陸の者達は口を揃えて以下の名を思い出すという。
一人は、かつて《草原の狼》の異名を持った騎士ブロラルド=ヴェルンシュター。
愛馬『草龍飛天』に跨り、SS級魔者である竜王ゼ・イルの牙から作りだしたと言われている至宝の炎槍『ゼ・イルのランス』を振るう、《草原民国コーセティアーク》の軍神だった。
しかしそれも今となっては過去の事であり、彼の者は年には勝てず、既に退役。
愛馬も既に亡くなり、至宝の炎槍『ゼ・イルのランス』もその手にはない。
大陸三強の一角を冠していたのは、既に過去の出来事だった。
その軍神とも名高いブロラルド=ヴェルンシュターと常に渡り合っていたのが、もう一人の英雄クラス、老将バス・ファード=エル・ドーガ。
《草原民国コーセティアーク》の隣に位置する《神国アリティア》にて、あらゆる脅威からその国を長年守り続けた、《神剣の盾》の異名を持った武人だった。
その手には、ただ『神の盾』とだけ呼ばれる神器を持っていたという。
しかし彼もやはり、既に時の人。
大陸三強の一角を冠していたの過去の事であり、少し前に亡くなったのだと言う。
その隣あう両国において紛うことなく総大将であった、個としてだけでなく戦術にも通ずる強者2名が、この大陸ではとても有名の様だった。
その理由の一つは、彼等が至宝の武器なり神器なりを持っていた事にも起因するのだろうが、最大の理由はまた別の所にある。
この広大なる大陸の東側のほとんどを統べる超大国、《ミネルヴァ帝國》。
俺が以前にいた『緑園』の森の中にあるルーラストンの村も領土としていた国。
彼の国は、至宝や神器といった類の物を多数所持しているだけでなく、その圧倒的な軍事力によって常に世界統一の覇道を志している国だった。
一度動けば、軽く万を越える軍勢が進軍した土地を焦土と変え、時には数十万にも及ぶ大軍勢が、一瞬にしてその進路にある国々を踏み滅ぼしていく。
また圧倒的な数の暴力だけでなく、至宝や神器といった物まで巧みに扱う勇将智将も多く在籍し、人材育成にも力を注いでいるというとても厄介な国だった。
そんな超大国《ミネルヴァ帝國》を、軍神ブロラルド=ヴェルンシュターを擁する《草原民国コーセティアーク》と、老将バス・ファード=エル・ドーガを擁する《神国アリティア》は、その武と類い希なる知略/戦術によって数十年間に渡って跳ね返し続けた。
それは同時に《ミネルヴァ帝國》が大陸南西部へと侵攻する妨げともなっていたため、大陸南西部に住む者達は非常に感謝していたのだという。
まさに、世に名を残すほどの英傑。
至宝や神器の力によって辛うじてS級の位に足を踏み入れているのだと言われていたが、彼の者達が指揮する軍隊は、紛うことなくS級の軍と呼べるのだった。
その他にも、S級の実力者として有名なのは、別大陸にある騎士大国《カルナス聖王国》に仕える騎士達だろう。
その大陸は、別の名で《魔大陸》とも呼ばれている。
その魔大陸の中央に位置する《カルナス聖王国》で最高位《聖》の称号を与えられた騎士は、S級の実力を持っていると言われている。
ただ……。
その最高位《聖》の称号は、《カルナス聖王国》においては、四聖騎士団、聖国十三騎士団、それ以外にもう一つある特殊な騎士団の長に与えられる称号でもあるため、合計で18個も存在する。
故に、彼等が実際にS級の実力を持っているのかは、少し疑わしいものがあると俺は思っている。
そして、問題のSS級。
通称、魔人クラス。
俺をこの迷宮へと閉じ込めたあの不死賢者レビスが位置する位。
五千歳級以上の竜王にも匹敵するという、災害としか思えない強さを、レビスは持っているのだという。
勿論それは実際に証明された訳ではなく、500年以上を生きているレビスに対して、周囲が勝手につけたものかも知れない。
その例としてあげるならば、不死賢者と呼ばれる不死魔者は、実はAAA級の位に位置する魔者である。
とはいえ、それはあくまで最低ラインの強さと言われているだけで、その強さが長年生きている事によって変わらないという事は絶対にない。
竜という種族はその典型だろう。
一千年を生きてS級とされる大竜も、三千年を越えて生きれば竜王と呼ばれ、五千歳でSS級となる。
七千年を越えれば竜皇となり、一万年を越えれば龍へと名が変わる。
更に五万年でSSS級の龍王となり、十万年で龍皇となる。
ちなみに竜神や龍神と呼ばれる類もいるが、それは別種の存在で、神族の一種だという。
SS級の上に関しては、もうどうでもいいレベルだろう。
先にも言ったように、SSS級が龍王クラス。
更にその上の最高位にはM級という神クラスがある訳だが、ここから上は次元が違いすぎてもはや一緒くたにされている。
また、SS級以上はLv500以上だと考えても既にピンとこないので、これ以上でのレベル指標は意味をなさない。
が、敢えて言うならば、Lv2000以上でSSS級、Lv10000以上でM級と言った所か。
余談が、俺の鑑定スキルではレベルが不明の場合は????と四桁で表記されるので、測定不能なM級は五桁とした。
兎も角として、SS級である不死賢者レビスの下から逃れる、解放されるというのは、思うだけで無駄な事だろう。
巨大な象が小さな蟻に対して何かを遠慮する事などない。
それこそ、気まぐれでしかあり得ない。
この世界とは違う世界から何らかの理由で飛ばされてきたと思われる蟻の如き俺個人に対して、象ですら虫螻でしかないレビスが、いったい何の配慮をするというのだろうか。
それこそ、気まぐれでしかあり得ない。
俺の元を訪れ、勝手にベラベラと喋っていったファーヴニルは、自身を龍だと言い切った。
龍ということは、SS級に位置する。
そんな存在を、いったいどうやってレビスは己の配下にする事が出来たのか。
話を聞く限りは、深い眠りについている間に肉体と魂を分離されて、龍の肉体には別の悪霊が何かの魂でも突っ込んで使用されているのだという。
但しその結果、強靭な龍の肉体は制御しきれずに腐敗し、死竜に成り果てた。
あの口から吐き出される毒霧ブレスは確かに脅威ではあったが、しかしローが己の法術の力をブーストした後で放った聖術の一発でその毒霧ブレスごと死竜を退けた事からしても、既に肉体は龍としての力をほぼ全て失い、間違いなくあの死竜の強さはS級の大竜ですらない。
良くてAA級。
予想ではA級程度。
一緒にいたシルミーですら毒霧ブレスを防ぐ事が出来たのだから、ドワーフ老ガルゴル達のPTでも十分に討伐可能な部類だろう。
勿論、肉体は腐っても龍の身体なので、無限にも似た再生力で完全に消滅させる事は出来なさそうだが。
そのファーヴニルの話な訳だが。
迷宮同士の侵略戦争というのは、互いの迷宮をより成長させるための措置でもあるのだという。
迷宮が経験値を得るには、侵入者達を殺すか捕虜とするしかない。
侵入者達がいくら罠に掛かろうとも経験値は入らず、逆に宝箱などの中身が使用されたり迷宮外に持ち出されたりすると経験値を失ってしまう。
経験値を失ってもレベルが下がる事はないが、レベルが高くなればなるほどこの仕組みのせいでレベルが上がりにくくなっていく。
それは、二人目の迷宮創造士でもあるファーヴニルが実際に体験した苦悩だった。
ちなみに、一人目の迷宮創造士は、このシステムの作成者である不死賢者レビスである。
兎に角、ファーヴニルの作った迷宮は途中からなかなかレベルが上がらなかったらしい。
『緑園』の森の中にあるあの《不死賢者の迷宮》も、現在ではコーネリア教団という巨大な組織が様々な利益を得るために、色々と創意工夫しながら強者を集めて迷宮へと送り込んでいるため、レベルは頭打ち状態。
それ以前に、既に迷宮レベルが上がりすぎて、レベルは上がり難い状況ではあるが。
そんな状況を打破するために生み出されたのが、迷宮戦争というシステム。
経験値を得るための侵入者は別に人でなくてもいいため、ならば互いの迷宮を繋げて、迷宮内で無限生成され続ける魔者達を適当に送り込んでしまえばいいという考えに至ったのだという。
ただそれが可能になるのはかなりのレベルが必要らしく、俺にはまだまだ先の事なのだが、攻め込まれる対象として選ばれた場合には、ほぼ同じ様な恩恵を受ける事が出来る。
本来は高レベル者同士で行うものだが、レビスが迷宮の運営をほぼ放棄しているため、同じ高レベル者であるファーヴニルは相手に困っているのだとか。
と同時に、残り2名の同業者は、才能がないハリオンと、迷宮自体に興味のないウルボロスという人選だったため、俺の様な新参者へと白羽の矢がたった。
但し困った事に、最低限の規定レベルに達するまで俺は時間を掛けすぎているので、あまり期待していないとの事。
無茶を言わないで欲しいものだな。
この迷宮戦争システムだが、勿論、無尽蔵に永遠に送り続けるという訳にはいかないので、ある程度の制約は存在する。
いわばルールが存在する。
いや、定めたといった所だろう。
ルール無用だと、レベルの高い迷宮側が、強力な魔者を送り込んでしまえばそれで終わってしまう。
レビスとファーヴニルのいったいどちらの迷宮レベルが上なのかは知らないが、兎も角としてそういう事にならない様に幾つかのルールをレビスは定めた。
例えば、一度に投入できる魔者の数。
今日初めてファーヴニルが奇襲にも似た方法で大量の魔者を俺の迷宮第一階層へと送り込んできた訳なのだが、その数はざっと数えて百隊程度だった。
いきなり百隊も送り込んでくるとは、かつての使い捨て奴隷部隊を思い起こされる訳なのだが。
幸いにしてというか厄介にしてというか、彼等はただがむしゃらに攻めてくる様な事はしなかった。
今も地道に迷宮内を散策し、その領土を広げ続けている。
その彼等の強さなのだが、指揮官らしき存在を除いて全員がC級の魔者だった。
名は、蜥蜴鬼。
何となくその名前からだけでも俺の迷宮にいる同じC級の豚鬼や犬鬼より強そうなイメージがあるのだが、その実力は今の所まだ未知数である。
但し、そろそろオーク部隊と一戦交えそうな場所まで達しているので、少しすれば判明するだろう。
果たして、一階層の罠によって半分以下まで数を減らした敵リザードマン部隊が、ほぼ同数が丁度揃っている魔者発生ポイント付近の低レベルオーク部隊とどの様な戦いを繰り広げてくれるのか。
相性は優劣はなさそうなので、純粋に力と統率の差が出てくる筈だ。
このC級の魔者という所が、また一つのルールでもある。
投入できる魔者は、指揮官を除けばC級まで。
しかもレベルに関しても制限がある様で、迷宮内へと侵略してきたリザードマン達のレベルは全員一桁台だった。
但し、今では迷宮踏破中に遭遇した魔者達を倒しているため、そのレベルに若干の上昇が見られる。
故に、ほぼレベル1に近いオーク部隊との戦闘は、こちらが負ける可能性が高かった。
数と強さというルール以外にも、侵略戦争に参加している魔者達は迷宮内に散らばる宝箱を開いて武器防具のグレードアップを行う様な事が出来ないとか、こちらかの指示や操作は何も出来ないだとか、侵略値がある程度高い通路でないと俺やファーヴニルには侵略先の迷宮内が見えないとかいうルールも存在する。
つまり、侵略に送り込んだ魔者達は、魔者達自身の思考で迷宮内を散策し、撤退等の判断も彼等任せになる。
それは同時に、彼等が侵略だとは思っていなければ相手先の迷宮に居着いてしまうだとか、迷宮の入口から外に出て行ってしまう事態も含まれている。
とはいえ、そもそも自身の迷宮内であっても、魔者達には命令する事は出来ないので、ただ見ている事しか出来ない訳だが。
この迷宮戦争システムによって、一応は相手の迷宮に送り込む事だけは出来るのだが、見て楽しむのはほぼいつも通りだった。
その唯一の例外と言えるのが、指揮官という存在だろう。
指揮官には、C級よりも若干強いB級の魔者まで任命する事が出来た。
しかも、その指揮官魔者には、牢屋に捕らえた魔者も任命出来るらしかった。
つまり、一度牢屋に捕らえて意思疎通や調教を行った上で、相手の迷宮へと送り込む事が出来るという事。
牢屋に新たな使い道が出来た瞬間だった。
しかし、そもそも意思疎通が出来るかどうかも分からないので、牢屋内で対面した瞬間に襲い掛かられて殺されるというケースには十分に注意しろとも言われた訳だが。
俺の強さを良く理解してくれている忠告だった。
そういう意味では、俺にはまともな指揮官を送り出すことが難しいというハンデが実はこっそりと存在している訳なのだが。
その辺は、懐柔したルリアルヴァ達を使用して何とか試行錯誤してみる事としよう。
いや、まずは彼女達を完全に懐柔させる事から始めなければならないのか。
さて、何か良い手立てが無いものかな。
尚、魔者の捕獲に関しても、イリアとウィチアの両名が行うしかないので、実力的にも厳しいという事が後で判明する。
卵から孵して根気よく育てるとかしなければならないのか。
そんな新たな今後の課題を朧に考えつつ、早速この迷宮戦争を行ってみるべく部隊を編成する。
今現在、俺の迷宮内を進軍しているリザードマン部隊は放置。
オーク部隊は全滅するだろうが、敵の数は限られているので、今後に出会うコボルト部隊や迷宮内にまだいる真の侵入者達の手によって、迷宮最奥に到達される前に全滅させられるだろう。
とりあえず、適当に捨て駒として使用しても全く問題ない不死者達を選抜していく。
D級の腐った死体を50体。
D級の骨戦士を20体。
D級の黒い影を20体。
D級の新参者、堕ちた幽霊を5体。
C級の新参者、死眼を5体。
そして、指揮官としてファントムガイスト=ユー・イ・ムオーカを指定……する事は予想通り出来なかったので、丁度沸いた口なし腐喰鬼を指定しておく。
このガーデニアグールであるが、アドルゾンビの上位派生のもう一種の様だった。
しかし確率的には、多少首無し鬼人の方が沸きやすく、だいたい5回に1回の割合でガーデニアグールが沸く。
変異種というほど沸きにくい訳でもなく、またロストヘッドロードとさして強さは変わらないという事から、ガーデニアグールはそれほどレアな存在でもない。
但し、凶暴さで言うとガーデニアグールの方が間違いなく上だろう。
ロストヘッドロードが獲物を感知しても緩慢に移動するのに対して、ガーデニアグールはその感知圏内に侵入者達が入ると、物凄い勢いで一直線に襲い掛かっていく。
まさに奇襲の如く、襲い掛かる。
恐らくは、喰いたくても肝心の口がない事から、その欲求が溜まりに溜まりまくっているのだろう。
以上の101体の不死魔者達を、ファーヴニルの迷宮へと放り込む。
その頃には、ファーヴニルが俺の迷宮へと解き放った第一陣のリザードマン部隊は全滅していた。
2014.02.15校正




