第71話 永遠の若さ
迷宮第5階層まで作り終えた時、ふと思い出した。
最近、ステータスの確認を行っていない。
前に確認したのはいつだっただろう。
それも仕方のないこと。
ここに来る前ならば生きるために能力アップはほぼ必須事項だったが、今はまるで違う。
適当に、しかも怠惰に過ごしていても何ら問題ない生活。
活かす機会がないのだから、その必要性もなくなる。
さて、今はどうなっている事やら。
■ハーモニー 男 人
■《星の聖者》の従者:Lv2
■HP:44/44
■MP:11/13
■欲望解放 痛覚麻痺 死の宣告 死後蘇生(不死者化) 迷宮の呪縛
■欲望半減 欲望減衰 理性増幅 痛覚10倍 感覚鋭敏化 生命共有化(隷属)
■武器:
■頭:
■体上:紫蘭綿の肌着、妖蘭綿のルリアルヴァクローク
■体下:紫蘭綿の下着、妖蘭綿のルリアルヴァスロップス
■手:
■足:紫蘭綿の靴下、戦兎皮の靴
■他:《蒼天の刃》の腕輪
■職業一覧:剣士Lv3 戦士Lv9 闘士Lv7 拳法士Lv4 盗賊Lv1 狂戦士Lv3 魔法使いLv1 聖術使いLv1 迷宮創造士Lv5 《星の聖者》の従者Lv2 薬士Lv3 毒薬士Lv4 調合士Lv2 鍛治士Lv1 彫金士Lv2 木工士Lv2 石細工士Lv2 金属細工士Lv1 裁縫士Lv4 縄士Lv6 鍵開士Lv3 詐欺士Lv4 強姦魔Lv83 色魔Lv69 奴隷Lv1 奴隷使いLv16 調教士Lv9 拷問士Lv14 霊姫使いLv7 遊び人Lv20
■特技一覧:片手剣術Lv1 片手槍術Lv7 両手槍術Lv9 片手棍術Lv4 両手棍術Lv3 短剣術Lv6 二刀流Lv5 拳撃Lv11 脚撃Lv10 投擲Lv4 護身術Lv2 盾術Lv3 風の魔法Lv1 風の聖術Lv1 逃走Lv6 警戒Lv5 観察Lv15 分析Lv9 熟考Lv12 現実逃避Lv210 助産Lv2
■才能:
まぁこんな所だろう。
装備がやたらと上等にな物に変わっている原因はカチューシャ。
折角作ってくれるというのだから、断る理由はない。
有り難く使わせてもらっている。
戦闘関連職のレベルが上がらないのは仕方がない。
代わりに、生産職系の獲得とレベルアップをしている。
椅子や扉を作ったり、風呂を作ろうとしてみたり、薬草や毒薬を調合してみたりとしたからだろう。
でもかじっただけ。
天職にはならなかった。
他にも、多少純度が上がった鉱石を加工しようとした事で得た職もある。
それはそれとして、あっちの方は……やたらと上がりやすくないか?
特技に関しては、ペットな幼女と一時期戦闘訓練をしていたので多少の上がりを見せている。
逃走が上がっているのは何故だろうな。
使用頻度の高い観察はやはりそれなりにレベルアップしていたか。
現実逃避はもう諦めた。
やはりこれといって見るべきものはない。
見なくても良かったな。
「なんだ、もう寂しくなったのか? 仕方ないな。本当はとーーーっても嫌なんだが、今度は私が直々に相手をしてやろう。だから、他の者達にはもう手を出すな」
息抜きにルリアルヴァの部屋に入ると、まるで俺の事を待ちわびていたかの様にカチューシャがそう言いながら近づいてきた。
カチューシャがこんな風に言い寄ってきた時、ちゃんと相手をしないと後で盛大にいじけられる。
そうなると、そのあまりの落ち込み様に他の者達から少し避難の目が向けられてくるため非常に居心地が悪くなるという罠。
本当は、最近吹っ切れたのか明るくなってきたティナシィカと一緒に風呂タイムにしようと思っていたのだが。
仕方なく、随分と言動と本心が食い違っているカチューシャにいつも通り目隠しをしてから壁に繋がっている鎖を外して部屋の外へと連れ出す。
風呂タイムは次の機会にするとしよう。
「少しお疲れの様ですね。肩をお揉み致しましょうか?」
「御前は事あるごとにそれを望むな。俺がそれを許すと思っているのか?」
「いつかは許してくれると信じています。私はゼイオン様に忠誠を誓いました。あれからもうどれだけの月日が経ったのか。もう少しぐらい私に心を開いても良いのではないでしょうか」
「その言葉を素直に信じられる程、俺は今のこの状況を楽観視していない」
「私がゼイオン様に牙を剥くと?」
「御前の娘チェーシアを筆頭に、既に何人かには牙を剥かれている。用心を怠っていれば……一つ間違えば俺は死んでいた可能性があった。その上で御前を信じろと?」
勿論、これは嘘。
実際には誰にも牙は剥かれていない。
リトゥーネの件は別として。
「はい。私はゼイオン様に真名を聞かれ、それに応えました。それなのにどうして裏切る事が出来ますでしょうか?」
「あれは事故だ」
「例えそうだとしても。私、カチューシャは……プリンヴァール・アーヴルは、その生涯をゼイオン様に捧げると心に誓ったのです。それを曲げる事は出来ません」
「大樹カーランの加護を失うとしてもか?」
「はい。ゼイオン様がそれを望むのであれば」
「どうでもいい。ルリアルヴァであろうとエルフであろうと、俺にとってカチューシャはカチューシャだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そんなっ……種族も肩書きも関係ない、私個人を愛してくれているなんてっ!? とても嬉しいです、ゼイオン様」
誰もそんな事は言っていないのに。
曲解したカチューシャが頬を赤らめ、その喜びに身体を震わせながらよよよっと俺の方へと倒れてくる。
というか身を預けてくる。
俺はその身体を受け止めず、サッと横へと逃げた。
寄りかかってくるのは多少嬉しいが、それはもっと体力を奪ってからの話。
今この時点でもし本当に牙を剥かれたら、例え枷を付けていたとしても密着状態から押さえ込まれて逃げ出す前に絞め落とされる危険が十分にある。
「ひどいです、ゼイオン様。本当に私の事はまだ信じてくれていないのですね」
「御前は特にな。そういう変わり身の演技が出来る分、信用ならない。好い加減、いつもの覇気ある態度に戻れ。俺はそっちのカチューシャの方が似合っていると前にも言わなかったか?」
「……あっちが本来の私だと、私は前にも貴様に言った気がするのだがな。これで良いか?」
「問題ない。というか、俺に忠誠を誓っている割にはこの件に関しては随分と強情だよな、御前は」
「いつまでも責任を取ってくれない貴様が悪い!」
毎度の事ながら、ああ面倒だ。
このやりとりを経由しなければ、カチューシャはこの威勢の良いバージョンには戻ってくれない。
これを怠ると、暫く意気消沈の精神不安定モードに入り、部屋から連れ出さなかった時と同様に他のルリアルヴァ達から非難の目が飛んでくる。
喜怒哀楽の感情が非常に分かりやすいカチューシャだったので、彼女が俺に対して決して持ってはいけない感情を持ってしまっている事は、既に全員にばれていた。
羞恥の事実だった。
気が付いていないのはカチューシャ本人のみ。
とても近しい関係にあったターチェユ辺りは、あの真名を聞いてしまったその日には既に気が付いていた様だった。
これで一族の長という大役を担っていたのだから、大樹カーランが創りだしている隔離空間に住んでいたルリアルヴァという民が、どれだけ長という肩書きを重要視していなかったかがよく分かる。
カチューシャが長であるのは、恐らく単なる年齢によるものだろう。
あんまりこの辺りを考えると、他のルリアルヴァ達も実は……という事が発覚しそうなので、出来る限り考えないようにしておく。
「それよりも、だ。御前、いつ死ぬんだ?」
「貴様……言うに事をかいて、私の死を望んでいるというのか。そんな事で責任逃れが、出来ると……本気で思っているのか?」
そんなつもりで言ったつもりはないんだがな。
俺のその質問にとてもショックを受けたのか、カチューシャが瞳に涙を浮かばせながら応える。
「しかし残念だったな。私達に明確な寿命はない。大樹カーランの加護がある限り、病気や事故以外では命を落とす事はない」
「不老長寿ですらないのか?」
「老いはする。しかし、老ける事はない。というよりも、そこまで生き続ける事がまずないと言った方がいいか。病気にもかからず事故にもあわず、何万周期もの規模で生き続けるというのは流石に難しいからな」
それを俺達の感覚で言えば不老長寿と言うんだがな。
しかしそうか。
そもそも彼女達は外界との接触自体を行っていないので、こちら側に住んでいる俺達の感覚とは全く相容れないという事なのだろう。
「そういえば、貴様はいったい何歳ぐらいなのだ? 二百か? それとも実は千を軽く越えていたりするのか?」
「推定18歳といった所だろう」
希望も込みで。
「ふん、何を馬鹿な事を言っている。その形でたった18歳な訳がないだろう? 嘘を吐くならもっとましな嘘を吐け」
「嘘というか、実年齢は俺にも分からないだけなんだがな。ただ、それぐらいの年齢だとは思う」
「それは絶対にない。貴様ぐらいまで成長するには、最低でも百周期は必要だ。私の目算だと、貴様はその倍の二百といった所だ」
という具合に、相容れない部分がこうして噛み合わない話として浮き彫りになる。
さて、この辺の情報を再確認するのは、これで何度目だったか。
話相手が成人ルリアルヴァ13名、プラス赤髪ポニーと金髪ショートもいると、誰とどの様な会話をしたかたまに怪しくなってしまう。
しかも最近では、幼少時まではやたらと成長が早いという2歳児ぐらいに見えるフォーチュラと、それ以上に成長の早い混血児の四姉妹も加わっている。
おっと、ウィチアとイリアを忘れていた。
しめて、都合22名。
随分と大所帯になったものだ。
「待て、それこそ絶対にあり得ない。俺達は基本的に百歳まで生きるのはほとんど稀だ」
その理由を知ってはいるものの、カチューシャ自身からその情報を聞き出すために俺はそれを隠す。
この行為を個々に行う事で、誰が本当の事を言い、誰が嘘を言っているのかを見分ける。
それは同時に、誰が信用に足る者であり、誰が信用ならない者であるかを分ける作業でもあった。
「……どうやら、私達と貴様との間には、情報の食い違いがあるようだな」
「みたいだな」
「この世界では、一周期は何日になるんだ?」
駆け引きはこの辺りから徐々に始まってくる。
どちらが質問し、どちらが先に答えるのか。
話の主導権をどちらが持ち、果たしてそれが本当に真実の情報なのか。
同時に、ここではカチューシャの反応も良く観察しておく。
何故なら、もしカチューシャが俺の知らない所で他の者達から情報を得ている場合、俺が嘘を吐いた時に訝しむとか疑問に思う等の反応を見せる可能性があるからだ。
勿論、嘘を吐く場合には、他の者達には本当の事を言っておく必要がある。
もしくは、複数人に同じ嘘を吐いて、一人だけ本当の事を告げる。
そういう会話を、あらゆる状況下で行う。
今みたいにただ会話だけをしている時、湯浴みをしてリラックスしている時、娯楽室で責め苦を与えている時、落ち込んでいたりあまり元気がない時に優しく接しながら、等々。
一人一人に心理戦を仕掛け、その反応を見て、本当に気を許して良い相手なのかを探る。
「いや、それを確認する前に、一日という時間の周期を確認する方が先だ」
「そんなもの、いったいどうやって確認するというのだ。私達は時間を正確に計る術は持ち合わせてはいないぞ。明るくなれば起き、暗くなれば寝る。ただそれだけだ」
「まぁ、そうだな。なら森の外に出てきた時に、時間が短いとか長いとか感じたりはしなかったか?」
「フォーチュラを探し出すために皆を率いていたからな。忙しくて全く気にしていなかった」
「森から出てきた時、森の中にいた時と比べて日の昇り具合はどうだった? 同じだったか?」
「そもそも、森の中にいる時に日を見る事はない。年若い者達なら兎も角、私ぐらいになるとわざわざ木を登ってまで日を見ようとは思わない」
「八方塞がりか。となると、同じという仮定の上で確認するしかないのか」
この辺りの情報も、個々によって多少の差異はあるがほぼ似たようなもの。
但し、一人だけ断定の言葉で答えてきた者がいる。
推定の言葉も一人。
前者は他の質問の受け答え内容や状況によっての真偽の差異から、全く信用ならない者として要注意人物扱いしている。
「まだ私の質問には答えてもらってないな。貴様の知るこの世界では、一周期はいったい何日になるんだ?」
このままこちらからその質問を仕返して先に聞き出そうと思っていたのだが。
残念ながら失敗してしまった。
まぁ、カチューシャはほとんど駆け引きの事など頭になく、ただ素で聞いてきただけだろうがな。
今日までの間で、カチューシャは完全に白である事は分かっている。
故に、最近ではだいたい最後の方に情報確認の質問を回している訳だが。
「流石に正確な所は分からないが、だいたい360日ぐらいだろう」
「360日だと? 何故そんなに長い周期を使っている。数えるのが面倒じゃないか」
「長いのか? なら御前達の一周期は何日なんだ?」
「14日だ」
「随分と短いな……」
つまり、二週間。
しかしそれは俺が最初から知る別世界での知識でいう言葉。
こちらの世界の言葉で言うと、二週源となる。
一週間では、月火水木金土日という曜日で区切られた計七日間で数えられている。
しかしこちらの世界は違う。
一週源では、【月】【火】【水】【星】【風】【地】の六日と、【光】か【闇】か【幻】の一日の、計七日間を各属性の力が強くなる日が順に巡っていく。
第一から第六までの【月】【火】【水】【星】【風】【地】属性は固定だが、第七日目だけはその月の始まりより順に【光】【闇】【光】【闇】【幻】属性と巡る。
もう少し分かりやすく言うと――。
第一週目の日曜日にあたる日は、こちらの世界では<光源>となる。
第二週目の日曜日にあたる日は、こちらの世界では<闇源>となる。
第五週目の日曜日がある場合は、その日はこちらの世界では<幻源>となる。
ついでに言うと、それぞれに別称もあるらしい。
月曜日にあたる<月源>が、『九十九』。
火曜日にあたる<火源>が、『炎焔』。
水曜日にあたる<水源>が、『水無瀬』。
木曜日にあたる<星源>が、『華雅璃』。
金曜日にあたる<風源>が、『薙凪』。
土曜日にあたる<地源>が、『我亞螺』。
第一、第三日曜日にあたる<光源>が、『神羅』。
第二、第四日曜日にあたる<闇源>が、『虚無』。
そして第五日曜日にあたる<幻源>が、『十六夜』。
これに加えて、久しぶりに思い出すが、各月にも属性が振られている。
一月が、【水】属性が強くなる<水月>。
二月が、【光】属性が強くなる<光月>。
三月が、【天】属性が強くなる<天月>。
四月が、【風】属性が強くなる<風月>。
五月が、【陽】属性が強くなる<陽月>。
六月が、【封】属性が強くなる<封月>。
七月が、【火】属性が強くなる<火月>。
八月が、【闇】属性が強くなる<闇月>。
九月が、【陰】属性が強くなる<陰月>。
十月が、【地】属性が強くなる<地月>。
十一月が、【星】属性が強くなる<星月>。
十二月が、【聖】属性が強くなる<聖月>。
更にイレギュラーとなる、13年に一度だけ突然にやってくる<幻月>――別称では<裏月>なる月もあるらしいが、こちらはまだ詳しくは知らない。
兎も角として、この『月の巡り』と『源の巡り』によって毎日の属性バランスが変わるため、この世界では属性が一年にとても密接に関わっている。
以上、今は懐かしきドワーフ老のガルゴル情報だ。
「その周期換算だと、俺の年齢はだいたい四百歳ぐらいになる訳か」
「四百? 二百ぐらいじゃないのか?」
「種族が異なるという事を忘れている。俺達はルリアルヴァほど成長が早い訳じゃない」
「そうなのか……貴様達の成長は随分と遅いんだな」
異種族とのコミュニケーションをしていなければ、他の種族の生態など知っている訳がない。
「しかし、そうか……御前達には寿命はないのか。ならあの話は嘘だったという事か」
「うん? いったい何の話だ?」
「いや、な。他の者達より、御前が寿命を半分にしてしまう森の秘術を二度も使っているのでもう余命いくばくもない筈だ、だからせめて死ぬ前に御前の願いを叶えてやってくれ、と何度か嘆願された事があったんだ」
その話を初めて聞いた際には少し本気で悩んだものだ。
カチューシャと一時的にでも夫婦の関係を築けば、ルリアルヴァの民全員は俺に従わざるをえなくなるという話もある。
既に好き勝手をしている訳だが、信頼信用関係なく彼女達全員が裏切られなくなるというのは十分に魅力的だった。
そうなれば別に彼女達をこの牢屋内に隔離する必要もなく、まだまだ狭い空間ではあるがもう少し自由にさせて色々と働いて貰う事が出来る。
炊事に洗濯、他の牢屋にいる者達の世話等々。
ウィチアとイリアがしている仕事も随分と楽になる事だろう。
しかし。
もしその情報が嘘であった場合を考えるとかなり怖い。
ルリアルヴァという種族は女性主体の一族。
夫婦の契りを交わした瞬間、逆に俺の方が行動を縛られる可能性もないとは言い切れない。
――まぁ、この夫婦契約に伴う長権限の移譲話自体の情報を俺に教えてくれたのがカチューシャなので、それなりに信用出来る情報な訳だが。
しかしそこまで計算した上で全て芝居だったとする線もまだ零とは言い切れない。
逆に、俺自身がとても疑心暗鬼で小心者だというのも否定出来ない訳だが。
「ああ、その件か。それは私も不思議に思っていた所だ」
「ほう?」
「本当なら、私は貴様と顔を合わせる前に死んでいた筈なのだがな。どうもその情報は間違っていたらしい。森の秘術を二度使っても寿命は零にはならない様だ」
「秘術の話は誰から聞いたんだ?」
「勿論、先代の長からだ。この秘術は寿命を半分にしてしまうため、絶対に二度連続して使うな、と。一度使った場合は最低でも三十周期は待てと聞いた」
「にも関わらず、御前は二度連続して使ったのか?」
「ああ」
カチューシャは淀みなく答える。
少しは先代の長の言葉を破ってしまった事に対して申し訳なく思えよ。
「ルリアルヴァに寿命はないんだったな。なら御前は、その話を聞いて疑問に思わなかったのか?」
「ん? そういえばそうだな。私達に老いはあれど寿命はないんだったな」
「寿命がない理由は知っているのか?」
「まず寿命が尽きて死んだ者がいない。そういう話も聞いた事がない」
「御前が知らないだけという場合もある」
「だとしても、現に森の秘術を連続して使用した私が今も生き続けてられている事が証明になる。そもそも寿命がないため、半分になっても寿命は無限のままだ」
その辺は矛盾といった所か。
無限を2分の1にしても無限。
無限から無限の2分の1を引き、その後に無限の2分の1を引いたらどうなるか。
そもそも無限の2分の1という数値自体が曖昧なのだから、無限から無限の2分の1を引いた後の数値が成り立たない。
無限から無限の2分の1を引いた後の数値は無限。
その無限から無限の2分の1を引いても無限になるしかない。
理屈ではそれはおかしい、零になる筈だと思うが、そもそも無限という数値自体が理屈の外にある数値なので、理屈が通じるものではない。
仮定が真である事を証明出来ないのだから、仮定によって成り立っている計算も真である事は証明出来ない。
ただ、やっぱり心情的には零と考えるべきだろう。
もしくは、そもそもの仮定が間違っていると考えるとすれば。
森の秘術を使用すると寿命が半分になるが、二度連続で使用したからといって残りの寿命が奪われるのではなく、更に寿命が半分になるだけだとするならば。
簡単な理屈、カチューシャの寿命は4分の一になったとすれば。
今もまだカチューシャが生きているという理由としてはとても分かりやすい。
「とりあえず、今の所御前が死ぬ前兆はまるでないんだな?」
「とても嬉しい事にな」
いつ死ぬのか、という俺の質問の意図を察して、カチューシャがようやく涙を零すのをやめて微笑みを浮かべる。
今の今まで、涙を流しながらカチューシャは会話を続けていた。
話難いにも程があるだろうに。
「つまり、私はすぐに死ぬという事はない。だからもし貴様が私の寿命の事を思ってずっと私と契りを交わす事に躊躇っていたのならば、これで問題は解決だ。さぁ、私と契りを交わそう。今すぐに交わそう。私と一緒にルリアルヴァの民を率いて、今までにない繁栄を築きあげようではないか」
そして一転。
またいつものように、やたらと興奮しながら俺へと迫ってくる。
襲い掛かってくる。
ちなみに、ルリアルヴァでいう所の夫婦の契りは、互いの手を取り合い見つめ合いながら、決まった文句を互いに言い合った後に口吻を行うという、とても難易度の高い儀式の事だった。
間違っても肌を重ねるという事ではない。
大樹カーランの加護を持っていない者とそんな行為をしてしまうと加護を失ってしまうため。
但しこれにも裏があり、カチューシャと夫婦の契りを交わすと俺にもほんの少しだけだが大樹カーランが加護が宿り、その後でならそういう行為を行っても問題なくなるという。
ついでに、その後に加護を失ったターチェユやファムシェ、リトゥーネと契りを交わせば、彼女達にも加護が少し戻るという美味しい話もある。
きっと初代ハーフルリアルヴァの男性も、それを利用して子を成したのだろう。
最初のお相手は、当時の長辺りか。
まぁ、それはいい。
カチューシャと見つめ合いながら決まり文句を言って口吻するなど。
そんなとても恥ずかしい求愛行為を、例え二人きりで行うとしても俺はやりたくない。
この堕ちに堕ちた俺には、とてもではないが出来る訳がない。
「……だから俺にその気はないと言っている」
良心が耐えきれないので、いつもの様に俺はそう断った。
――俺にもまだ、人の心は残っているらしい。
それを毎回知る事になるので、やはりカチューシャはどうも苦手だ。
2014.02.15校正




