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不死賢者の迷宮  作者: 漆之黒褐
第参章 『迷宮創世』
67/115

第63話 花飾りの真名

 牢屋の数は今も変わらず6つある。


 その一つを細剣使いの赤髪ポニーに宛がい、もう一つを荷物持ちの金髪ショートに宛がっている。

 だがあの広さにしてずっと個室扱いというのもそろそろ考えなければならない頃合い。

 という訳で、思い切って二人を同室にしてみる事にした。

 ついでに呼び方もそれぞれ短くして赤髪ポニーと金髪ショートにする。

 この牢屋に来てからは細剣は使っていないし、荷物持ちでもない。

 それにいつまでも昔に拘っている必要もない。


 二人を同室にする際、さてどちらを移動させようか少しばかり悩んだのだが、やはり従順な方を移動させる方が何かとやりやすいだろう。

 そう思い、ちょっと放し飼いにしていた金髪ショートを再び拘束し、目隠しをして赤髪ポニーの部屋に移動させる。

 そしたら赤髪ポニーが「ねぇさん!」と叫び、それを聞いた金髪ショートが「ミナナ!」と叫んだ。

 そうか、赤髪ポニーはミナナという名前で、しかも金髪ショートの妹だったのか。

 などと思ってみたりする。


 しかし身長はどう見ても赤髪ポニーの方が高い。

 その事を二人に聞いてみると、金髪ショートの方が先にあの男の奴隷として仕えていたため、そこから姉妹の関係になったらしい。

 奴隷に身を落としたのもまだ彼女達が小さい頃だったし、当時は身長もほとんど変わらなかったとか。

 しかし悪環境下でも赤髪ポニーはすくすくと育ってしまったと。


 尚、年齢を聞くと、あの従順な金髪ショートですら牙を剥いてきた。

 勿論、俺の主観での感想だが。

 さて、本当はどっちが年下なんだろうな。


 ペットな幼女は変わらず個室扱いのまま。

 あれはちょっと他の者と一緒にするには危険すぎる。

 お腹が空くと誰彼構わず肉さえ付いていれば喰おうとするし。


 そんな食欲旺盛なペットだったが、たまに戦闘訓練の相手をしてもらっていると、困った事に俺よりも遙かに成長が早かった。

 頭が空っぽだからなのか、それとも食に対する欲の効果が大きすぎるのか。

 そろそろ俺の方が限界だ。

 新しい住人も大量に増えた事だし、そろそろ本当に何とかするべきか。


 流石に飢え死にさせてしまう様な事は出来ないが。

 事故ならば兎も角、直接手をくだす事だけはしたくない。


 残る4つの牢屋の内、とりあえず1つはターチェユとフォーチュラの母娘のために使ってもらう事にした。

 赤ん坊の世話は面倒だし。

 母乳もまだ必要だろう……たぶん。

 また、どうやら他12人との間には何やら確執があるらしく、どうやっても仲良くは出来なさそうだから。


 但し、常にその部屋を使わせる様な事はしない。

 あの12人が同じ部屋にいる時に限り――やたらとその部屋だけ人口密度が高い訳だが――ターチェユをその部屋から連れ出す、という形にしている。

 もしあの12人の中で誰かを外に連れ出したいと思った時には、必ずターチェユにはあの部屋にいてもらう事になる。

 つまり、ターチェユだけ特別扱いしているという事を秘密にしつつ、部屋から連れ出されたら何をされるか分かったものではないと印象付ける。

 そういう小細工もターチェユに協力してもらって行った。


 ちなみに、当然ターチェユには赤ん坊の事をちらつかせて、この事は決して口外しないように口止めしている。

 別にハッキリと人質にするとは言っていない。

 だがターチェユは察してくれた様だった。

 これで秘密共有という罪悪感がターチェユに芽生えてくれる。

 あの12人にとってはターチェユはもう仲間ではない様だったが、ターチェユの方はあの12人は今でも仲間だと思っているらしいので、その辺りも利用させてもらう。



「貴様! ターチェユに何をした!」



 久しぶりに手に入れた新しい話し相手と存分に語り合った翌日。

 今度はカチューシャをあの牢屋から連れだし、空いている牢屋の中へと連れ込んだ。

 連れ込んでみた


 空いている牢屋は二つ。

 その内の一つを、こうして密事を行うために使用している。


 残り一つの部屋は、これからまた捕らえられてくるだろう者達用に空けておく。

 まだ迷宮の中にはカチューシャが瑠璃森から連れてきた者達が20人以上も残っているからだ。

 今朝確認した限り、まだ彼等彼女達は狩人3人に襲撃を受けていないし、誰かが死亡した訳でもない。

 順調に迷宮2階層中央付近を彷徨いている。

 最高踏破者の記録を塗り替えながら。



「御前は随分とターチェユの事を心配するんだな。他の奴は目も合わせようとしないのに」

「わ、私は別にあんな汚れた女を気にしている訳じゃない。私は長だ。他の者達のために、ターチェユが貴様にいったい何をされるのかを知っておかなければならない。ただそれだけだ」

「汚れた女、か」



 その辺りの事は既にターチェユから聞いている。

 簡単に言えば、種族外の者と関係を持ったために、瑠璃森にある大樹カーランから受けていた加護を永遠に失ってしまった。

 その加護は二度と戻る事はない。

 故に、ターチェユはもう瑠璃森の民ではなく、ただの忌むべきはぐれアルヴァ。

 瑠璃森の加護を失ったため、もうルリアルヴァという種族ではない。


 ターチェユも別に望んでそうなった訳ではない。

 襲われての事だ。

 ただその理由を聞くと完全にターチェユの不注意だった事から、誰も擁護しないし哀れみもしない。

 突き放すだけ。

 何とも薄っぺらな仲間意識だ。



「長としての責務、それにしては随分と感情が籠もっている様に思えるんだが?」

「そ、そんな訳がないだろう! 私は至って普通だ!」

「無理して強がるな。今なら誰もいない。他言しないから本音を言ってみろ」

「信じられるか!」

「そうか。それは残念だ」



 かなりバレバレな気がするんだがな。

 俺が気付くぐらいなのだから、今あの部屋の中にいる全員が恐らく気が付いているだろう。

 カチューシャだけは、ターチェユの事は完全には突き放していないという事を。

 長がそんなだから、種族の結束も大した事がない。

 これは意外と簡単に心を屈服させる事が出来るかもしれないな。



「なら、本題に戻そう。カチューシャ、本当に知りたいんだな?」

「……え? ……な、何をだ?」

「何を、とは知れているだろう。ターチェユが俺に何をされたかを、だ。一晩中、俺が彼女に何をしていたかをだ。だから教えてやろう。勿論、その身を以てだがな」

「や、やめろ! それ以上近づくな! 私に触れるな!」

「遠慮するな。知りたいんだろう? 御前が治める村の民達が……あの娘達が、これからずっと俺に何をされ続けるのかを。知っておかなければならないんだろう?」

「来るな来るな来るな! その汚れた手で私に触れるなっ!! ひぃっ!?」



 俺がちょっとその肌に触れると、カチューシャはそれまでの威勢が嘘だったかの様に悲鳴をあげる。

 出来ればきゃぁと可愛く鳴いて欲しかったが、その辺は年を取っているせいか。

 見た目にはまだ二十歳ぐらいの美貌なのに、精神年齢は分かったものではない。

 流石、長寿の一族だ。


 それにしても。

 カチューシャは昨日のターチェユと同様に、拷問具へと拘束されている。

 但し、仰向けにではなく俯せの四つん這いという姿勢で。

 その状態にするまでの間に、俺がいったいどれだけカチューシャの肌に触れたと思っているのだろうか。

 まるでつい今し方触れたのが実は初めての接触だと言わんばかりに、カチューシャは震えあがっていた。

 他の者達がいない所では頑張って張っていた去勢も、こうまでされると簡単に剥がれ落ちてしまうらしい。

 今、俺の前にいる女性は、ただ恐怖して怯えるだけの美女に成り下がっていた。


 ……床に暖かいものが流れ落ちていく。

 たった一日で、いったいどれだけの恐怖を想像したというのか。



「答えろ。御前にとってターチェユとは何だ?」



 今ならば簡単に答えてくれるだろう。

 そう確信し、俺はカチューシャの顎を掴んで俺の瞳の前に彼女の怯える瞳を無理矢理に向けさせる。



「いや……やめろ……」

「答えろ。答えなければターチェユにした事よりも遙かに酷い事を御前にするだけだ」



 精一杯の悪質な笑みを浮かべてみる。

 ……柄ではないな。

 笑うのは得意ではない。



「わ、分かった」

「ん? 分かりました、ではないのか?」

「わわわ、わかりましゅっ!? ――た……」



 舌を噛んだ。

 カチューシャの意外に可愛い部分を垣間見てしまった。



「たーしぇゆは……わたしゅの……その……はじゅめてのしと、でしゅ……」



 そしてちょっと予想していなかった斜め回答が返ってきた。



「……愛しているとでも?」

「はい……初恋です。しかも、成就もしています……。そして今でも私はターチェユの事を愛しています。その思いは決して誰にも負けません!」



 頬を赤らめながらカチューシャは言う。

 聞いているこっちが恥ずかしくなるぐらいに。

 随分とぶっちゃけた話だった。


 まぁ、それならば言いたくないのは仕方がないだろう。

 本人以外には誰にも言えない筈だ。



「あーっと……。フォーチュラは……ターチェユの娘であって、御前の娘ではないよな?」

「いえ、私とターチェユの愛の結晶です! 少なくとも私はそう思っています!」

「……思っている、という事は、実際には違うんだな?」

「……残念ながら。同姓の私では、ターチェユに子種を植え付ける事は出来ません。その逆も無理です」



 男性口調だったのがいつの間にか一変。

 女性らしさを滲ませた麗若き恋する乙女がいつの間にかそこにはいた。

 その豹変に、それをしてしまった俺の方が少し対応に困ってしまう。



「フォーチュラの父親は、今回の救出作戦には参加しているのか?」

「はい。ですがもう死にました。仮にも私から奪い取ってまで妻にしたターチェユに対して、幾ら汚れてしまったからといってあまりにも許し難き態度を取っていましたので、死んでもらいました。この迷宮に入ってすぐに」



 ……あれか。

 双子の人食い箱に単身手を出して、スライム四天王カッコ仮に瞬殺というか瞬溶解させられた犠牲者第一号。

 あの死は、そういう経緯で起きたものだったのか。



「長という肩書きの特権を、個人的な感情で乱用してないか?」

「本来、男という種は私達の民には不要なものですので」



 理由になっていない気がするが。



「……それだと次代の子供を作れないだろうに」

「問題ありません。私達は大樹カーランの加護によって、百年の間に最低一人以上、男性の子種なく子供を身に宿す事が出来ますので」



 世界の神秘という訳か。

 だとしても百年で一人だと、種を存続させるには随分と苦労しそうだな。

 長寿だったり隔離社会でないと解決が難しい問題だ。



「男性も、女性の子種なく身籠もるのか?」

「それはありません。先程も言いました通り、私達の種族には本来男性という種は存在しません。ですので、大樹カーランの加護によって子を宿す事が出来るのも女性だけであり、その子供も必ず女性として生まれます」

「……なら何で種族の中に男性がいる?」

「遙か昔に……私もまだこの世に生を受けていない時代に、外の者と交わり生まれた子供を、不憫に思った当時の長が村でその子供を引き取ってしまいましたので。その子供は男だったため、長い年月の間に村の女性達と徐々に関係を持ち、少しずつ大樹カーランの加護以外で子供を産む様になってしまいました。今でもその血の名残があり、交配した場合に限り男が産まれてしまう事があります」



 その初代男性は、きっと楽しい毎日を送ったのだろうな。

 美人だらけの隔離社会で唯一の男性。

 ハーレム以外の何でもない。


 ……というのは外から見た者の一方的な見解だろう。

 実際には、随分と形見が狭く、酷く苦労したのかも知れない。

 女性社会というのは、想像以上に過酷で歪な世界だからな。

 長い年月の間に頑張って頑張って、男性である自身を全く受け入れようとしてくれない頑なな女性達の心を少しずつ氷塊させていったのだろう。



「……ちなみに、御前がいた部隊に女性しかいなかったのは、種族内に男性が少ないのが理由なのか?」

「いいえ。それは恐らく、私が極端な男性嫌いなのと純血のままの女性が好きなのを知っていた娘達の配慮だと思います。まぁ、娘達も私と同じ趣味をしているみたいなので、どちらかというと部隊構成を決めた娘達の意向の方が強そうですが」

「その娘達というのは?」

「チェーシアとティナシカです」

「……ティナシィカだ」

「いえ、ティナシカです。母である私が付けた名前なので、こちらが娘の本当の名前です。名前の由来も大樹の守手ではなく、大樹カーランの幹で作られた至宝の弓ティナシカから頂いています。……その至宝はもう奪われてしまい村には残っていませんが」

「なるほど。だからその名を嫌って、似ている名前のティナシィカを使っているという訳か」



 カチューシャが首を横に振る。



「いいえ、そういう訳ではありません。至宝の弓ティナシカの事を知っているのは私しかいません。ですので、皆私が単に言い間違えただけなのだと……今でもただ言い間違えているだけだと思っている様です。名の由来としては大樹カーランから直接頂いていますので十分に誇れるものなのですが、奪われてしまったためあまり縁起の良い名前ではありません。ですから、私も敢えてこの事実を伝え様とは思いません。この話は、出来れば私とゼイオン様の心の内にのみ収めておいて下さい」



 ……なんか勝手にべらべらと秘密を喋られ、カチューシャを脅せそうな弱みを握る事に成功した。

 とりあえず、活用してみる事にしよう。



「ばらされたくなければ、以後俺の言う事には素直に聞く事だな」

「そんな!」

「なに、悪い用にはしないから安心しろ。勿論、それは御前の態度次第だがな」



 記憶の中にあったそれらしい言葉を引っ張り出してきて使用してみる。



「……わかりました。私、カチューシャは……ゼイオン様に、忠誠を……誓います……」



 すると、大した秘密ではないとは思うのに、忠誠まで誓われた。

 カチューシャにとっては、その秘密を娘にばらされるよりも俺に従う方がマシだという事なのだろう。

 こんなのがよく長なんてやっていられたな。


 まぁ、だからこそ……あんな全滅の仕方をした訳なのかもしれないが。



「ついでに真名も聞いておこうか」

「そ、それは……」

「早速、反抗か。忠誠という言葉は嘘だったのだな。仕方ない。先程の話はなかった事に……」

「……ァール・アー……す……」

「ん? 聞こえなかったな。もう一度頼む。ハッキリとな」

「プリンヴァール・アーヴルです!」



 瞬間、声もなく俺は笑っていた。

 とりあえずのつもりで聞いてみただけなのに、まさか本当に答えるとは。

 この女はいったいどれほど馬鹿なんだろうな。


 真名というのは、それを他人に知られてしまうと自身の全てを牛耳られ逆らう事すら出来なくなるというものなのではないのだろうか?

 それをこうも簡単に教えてくれるとは。



「意外と可愛いな、御前は」



 瞳の端から零れ落ちていく涙を手ですくいながら、カチューシャの頬を撫でる。

 背けた瞳は悔しさに染まっていた。



「だがまぁ、とりあえずその言葉遣いは戻せ。御前は威勢が良い方がよく似合っている」

「……屈辱だ。貴様如きに私の真名を教えなければならないとは。くそっ! この責任、ちゃんと取ってくれるんだろうな!」



 ふむ、ちゃんと言葉遣いが戻ったな。

 やはりカチューシャは第一印象といい見た目の印象といい、こっちの方がそれらしい。

 にしても……。



「責任? いったい何のだ?」

「しらばっくれるな! 真名を教えたのだ。それはつまり……」

「つまり?」

「その……ええい、そんな事まで私に言わせるつもりなのか。恥を知れ!」



 ……さて。

 この世界の常識なのか、それとも彼女達の種族にとっては常識なのか。

 しかし俺の持つ知識の中には該当しそうな案件は見つからない。



「最後まで言ってくれなければ、俺が御前にいったい何の責任を取らなければならないのか分からないな」

「あーもう! だからだな! それは……わわわ、わたっ、わたっしの……」

「うん?」



 カチューシャが顔を真っ赤に赤面しながら俺を見る。

 何だか嫌な予感。



「私の真名を聞いてきて、私がそれに答えたんだ! それがどういう意味を持っているか貴様にも分かるだろう!?」



 ……そして理解した。

 俺は意図せずカチューシャにプロポーズをし、カチューシャがそれを受けたという事を。

 ティナシィカの名前の秘密を盾にカチューシャへと結婚を迫り、カチューシャは断る事も出来ず仕方なくそれを受けた。

 つまり、形はどうあれ、晴れて俺は彼女と婚約を結んだという事だ。


 ……マジで?



「……ちなみに、御前は誰かと契りを交わした事はあるのか?」

「ない。純血は長であるための必須条件だからな」

「さっきターチェユとの恋は成就したとか言ってなかったか?」

「それとこれとは別だ」



 推定何百年も守り続けた処女?

 これは萌えていいのか、それとも萎えていいのか。

 理解出来ず苦しむ。



「それにターチェユは女性だ。だからついてない」



 それはもう確認済みだ。

 下着越しでも十分に分かる。

 カチューシャにもそれが付いていないのはしっかり見えていた。



「長としての責務は放棄するのか?」

「……私としてはまさかこんな事になるとは思っていなかったんだがな。実の所、その点に関しては問題ない。ここに来る前に、簡易的ではあるが継承の儀式は済ませてきた。だから……大変不本意だが、私が貴様の嫁になる事には何の問題もない」

「何故そんな事をわざわざ……」

「森の外に出るんだ。その覚悟ぐらいしておかなくてどうする」



 意外にも、一族の長として最低限必要な事ぐらいはしていた様だ。

 何故そんな所だけきちんとしている。

 そんなフラグはいらなかったというのに。



「だからと言って勘違いするなよ! 私は貴様の事など、好きでもなんでもないんだからな!」



 しかもツンデレフラグまでたった!?



「……とはいえ、私に残されている時間ももう少ない。フォーチュラを探すために二度も寿命を半分縮める秘術を使ってしまったからな。だから、その……せめて死ぬ前に一回ぐらいはだな……結婚というものを、経験してみても良いとは思っていたりもする……のだが……」



 続けて、ずっと秘めていた思いの成就、死ぬ前の最後のお願い、不本意だけど我慢する、みたいなフラグイベントが。

 悪役を演じていたというのに、いったいいつから恋愛イベントに切り替わったんだ。

 噛んだ所からなのか。

 可愛いと思ってしまう様な瞬間を垣間見てしまったからなのか。



「……カチューシャ」

「はい!?」



 シチュエーションとしてはちょっと良い雰囲気だというのに。

 彼女の両肩に手を置いて真正面から向き合ってみるも。


 ――四つん這いに拘束した女性を前にして、ロマンチックになれる訳がない。



「暫く考えさせてくれ」



 とりあえず、俺はその場から逃げる事を選択したのだった。

2014.02.15校正

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