第56話 悩める日
眼が覚めると、また乱れた日々が始まる。
――と、俺は思っていた。
同じベッドに横たわっていた二人の身体を押しのけて、身体を起こ……そうと思ったら、突然に俺の頭の上で「キュイ」という聞き慣れない言葉が聞こえ、そしてすぐに顔の上へと何者かが転がり落ちてきた。
しかもその何者かは、思わず驚いて開いた俺の口の中へとそのまま入っていく。
二度驚いて、俺は慌ててその口の中に入ってきたものをどけようとするが、左右でガッチリと俺の腕を拘束していたウィチアとイリアの腕に阻まれて、すぐにはその何者かを俺の口から助け出す事は出来なかった。
「あ、おはようござ……え?」
俺が急に動いたために目を覚ましたのだろうウィチアがいつものように朝の挨拶を行おうとするが、目の前に広がっていた理解しがたい光景に驚いてウィチアの言葉が止まる。
その間もバタバタと俺の口の中で暴れる何か。
俺の瞳にはその小さな姿の下半身がアップで映し出され、何も身につけていない可愛い足が逆様にバタ足をかいている奇妙な光景が続いていた。
「えっと……何を食べているんですか?」
そんな訳がない。
しかしウィチアの質問に違うという解答を返そうにも、口の中に半身を潜り込ませたその何者かのせいで口を動かす事が出来ない。
その何者かは逆様になって体重を口の中へと向けているので、下手をしたら喉の奥へと向かってしまいそのまま丸呑みに飲み込んでしまいそうなほど危ない状態だった。
言葉を出そうにも、その頃には口の中に入っているその何かが人型をしていると理解していたので、こんな超至近距離で声を出すと最悪はその何者かの鼓膜が破けてしまうだろう。
呼吸はなるべく鼻でしたが、どうもその鼻から吹き上げる風をもろに腹部へと受ける事となったその何者かは、そのたびにちょっと激しく暴れた。
くすぐったいのだろう。
なので、目でウィチアに訴える。
しかし残念ながらウィチアには通じなかった。
だがウィチアが目覚めた事で、拘束していた俺の片腕が解放されて自由を得る。
すぐに口の中に突っ込んでいたその何者かを俺は救い出した。
「キュイ~」
体液でベトベトになったその何者かが、俺の手の中で力なくそう鳴く。
見ると、そこには予想通りの小さな存在が鎮座していた。
「あ、可愛いですね。ピクシーですか?」
「……みたいだな」
なんでそんな存在がこんな所にいるのか。
観察スキルで確認すると、やはり種族を示している部分にルーンピクシーと表示される。
名前やレベルは?表示だった。
「いったいどこから紛れ込んだのか……」
「ピクシーですからね。彼女達ならどこからでも入ってこられるんじゃないでしょうか」
「キュイ」
ウィチアの言葉に同意するかの様に可愛く鳴くピクシー。
どこからでもという事は、この世界でのピクシーは死霊の様に精神生命体に近い存在なのかもしれない。
もしくはナチュラルに壁抜けが得意なだけか。
それにしても、ウィチアの言から察するにピクシーは女性限定の種族なのだろうか。
ウィチアがどこからか取り出したピクシーサイズの拭き布を使ってピクシーの身体を器用に拭いていく。
一歩間違えればその身体を壊してしまいかねない体格差なのに、ピクシーは痛がる様子もなく喜んでウィチアに拭かれている。
時々嬉しそうに鳴いてウィチアに感謝の意を告げている様だった。
「名前、どうしましょうか?」
「名前って……飼うつもりか?」
「え? 飼わないんですか?」
それこそ意外だという言葉を返してくれるな。
確かにピクシーはとても可愛くて思わず手で弄ってしまいそうになるぐらい愛らしかったが、それなりに知性を宿しているのが見て分かるのでペット扱いするのはどうなのだろう。
むしろ気に入った所へと勝手に住み着きそうな気がしてならない。
それ以前に、名前を持っていないのか?
名付けて良いのか?
「とりあえず保留だ。このピクシーが勝手に此処に住み着くようなら、その時に改めて名前を付ければいい」
「そうですか……分かりました」
と言った後で、こっそりウィチアが小声で「これから宜しく、キュイちゃん」と言っていたのを俺の耳はしっかりと聞いていた。
ウィチアの中では飼うのは確定事項か。
――っと。
ピクシー改めキュイが急に前触れもなく俺の掌を離れてパタパタと宙に羽ばたいていく。
いったいどこに行くのかと眺めていたら、俺の真上まで飛んできて視界の外に消えたなと思った瞬間、突然に頭に僅かな重みが加わる。
そして再び「キュイ」という鳴き声。
それは間違いなく俺の頭の上から聞こえてきた。
「どうやらハーモニーさんの頭の上を気に入ったみたいですね」
「……眼が覚めた時に頭の上から転がり落ちてきたのは、それが理由か」
「可愛いですよ、ハーモニーさん」
「褒められても嬉しくない」
ツンツンと髪が引っ張られる感覚を感じる。
草むしりの様に髪の毛を抜かれないかと少しだけヒヤヒヤしたが、どうやら俺の髪の毛で遊んでいるだけの様だ。
感覚からしてなんだか結ばれている様な気がしてならない。
結ばれたらどうやって解けばいいのだろうな?
ちゃんと後で解いてくれよ、キュイ。
「おはようございます、ハーモニー様」
などと思っていると、背後からもう一人の同棲者の声が聞こえてくる。
「珍しいな、イリアがこんな時間に目を覚ますとは」
「誰かが私を呼んでいる様な気がしましたので」
いや、誰も呼んでないんだが……。
振り返ると、イリアの瞳が当然の事ながら俺の頭の上へと注がれていた。
「ようやく出現したみたいですね。おめでとうございます」
「ん?」
「キュイ?」
不思議がる俺を真似してか、キュイも疑問形の声をあげる。
首を傾げているキュイの愛らしい姿が脳裏に浮かんだが、残念ながらここには鏡がないのでその姿を確認する事は出来なかった。
少し悲しい。
「なぜこのピクシーが此処にいるのか、イリアは心当たりがあるのか?」
「何故そのピクシーがこの部屋にいてハーモニー様の頭の上にいるのかは分かりませんが、迷宮の奥に設置していました魔者発生ポイントからそのピクシーは出現したのではないでしょうか? でなければ、ただのピクシーがこの迷宮に存在出来る理由が私には思いつきません」
「ああ、なるほど。そういう理由か」
それなりに強いが発生にかなり時間が掛かる永久発生タイプの魔者発生ポイント。
それは確かに迷宮の最奥にある大部屋に俺は設置していた。
だがそれを設置してから今日に至るまでにそこから何らかの魔者が発生した事はない。
半ば諦めていたのだが、どうやら一月という長い時間を経て、ようやくこのピクシーという妖精型の魔者?が発生した様だった。
「随分と時間が掛かったな」
「ハーモニー様の迷宮はかなり瘴気の濃度が濃くなっていましたので、それでより時間が掛かったのかと思われます。ピクシーは本来この迷宮の様な瘴気の濃い場所では生きていけませんので」
「だからこの部屋に逃げてきたと?」
「ここも迷宮の中と大して変わりません。恐らくそのピクシーは迷宮の中で生まれたため、瘴気に対する耐性を持っているのではないでしょうか? ただ、肌の色が普通のピクシーと変わりませんので、ダークピクシーなどの亜種とも思えません」
この部屋も瘴気が濃いいのか。
その瘴気の濃さが人体にどの程度の影響を与えるのかは知らないが、そんな中に一月もいてよく俺は生きていられるな。
いつの間にか俺も耐性を得ているのだろうか?
もしくはもう慣れてしまったか。
「迷宮の中で生まれたなら、そのうち迷宮に戻ってくれるかな……」
「え? 飼われないのですか?」
何故、イリアまでさもそれが不思議そうにウィチアと同じような事を言ってくるんだ。
猫ならば兎も角、それ以外の種は別に俺は飼いたいとは思わないんだがな。
まぁいい、この件は保留にしておくとしよう。
どっちに転んだとしても別に構わない。
このピクシーが多少は強かろうが、侵入者達と闘って五体満足でいられるとも思えないし、迷宮にいなくてもあまりデメリットはないだろう。
これまでと一緒だ。
此処に住み着かれたとしてもウィチアとイリアが勝手に世話をしてくれそうだし。
そんな甘い事を俺は考えていた。
迷宮がレベルアップしていた事を確認し、念のため昨日見た夢が正夢でない事を確認するために牢屋にいる三人の生存確認を身体を使って念入りに確認した後。
部屋に戻ると……。
「キュー」
今し方、頭の上に乗ってきたキュイとは別のピクシーがパタパタと部屋の中で飛んでいたのを俺の双眸が発見する。
「何故、増えてる……」
「恐らく、レベルアップした事に加えて一度魔者を発生させた事で魔者発生ポイントが正常に機能し始めた事によるものかと」
「それにしては早すぎないか?」
「レベルアップボーナスによる時間短縮ではないでしょうか?」
――と、イリアが不吉な事を言った側から三匹目のピクシーがパタパタと壁の中から現れてきた。
その鳴き声は「キュン」と、また少しだけ異なった言葉と声の高さではあったが、見た目はほとんど変わらないため区別をつけにくい事この上ない。
迷宮画面を見ると、今まさに4匹目のピクシーを表す光点が生まれた所だった。
早すぎるにも程がある。
そんな速度で発生していたら、すぐに水溶の粘体生物や血吸幼虫の様にピクシーで部屋が埋め尽くされてしまうだろうに。
「……いえ、この発生速度は流石に異常ですね。どちらかというと、一月の間ずっと溜めていたのを一気に吐き出そうとしているのかもしれません」
そのイリアの言葉が正解であるかの様に、その魔者発生ポイントは15匹のピクシーを排出というか発生させると、それ以降は沈黙してくれた。
それでも15匹。
部屋の中がパタパタという可愛らしい音と「キュー」とか「キュン」とかいう可愛い声で満たされる。
間違っても心休まるような光景ではなかった。
そういう光景は一面のお花畑とかでやってほしい。
――そうか、迷宮の中にお花畑でも作れば良いのか。
確か、レベルアップボーナスで追加されたパーツの中に、それを可能としそうなものが幾つかあったな。
「気は進まないが、迷宮の中にお花畑を作って追い出す」
「え? 飼わないのですか?」
いや、だからイリア。
何故そんなに意外そうな言葉を俺に投げつけてくる。
「そうですね……私も気は進みませんが、流石にこの数では世話をするのも大変ですし。出来る限り綺麗なお花畑を作って下さいね、ハーモニーさん」
ウィチアの方は流石に同意してくれた様だが、気が進まない理由が俺とは異なっている気がしたのは気のせいではないだろう。
やはりウィチアも出来れば飼いたいのか……この数のピクシーを。
頭の上にキュイを乗せたまま、迷宮画面の前に腰を下ろす。
目の前をパタパタとたまにピクシー達が飛び交うが、出来る限り無視。
キュイが髪の毛を引っ張ろうと、それを真似して他のピクシーが髪の毛を引っ張ろうと無心を決め込む。
至る所に結び目が出来てそうでなんだか怖いが、今はこのピクシー達を追い出すためのお花畑を作る事に専念する。
ブチッといってちょっとした痛みがたまに走ったが、泣く泣く俺は目の前にある迷宮画面に集中し続けた。
やめろ……俺の髪を草むしりしないでくれ……頼むから……。
さて、追加された迷宮パーツを確認する。
敵パーツとしては『毒蛇・弱』『擬態草・弱』『小鬼』と、やっぱり弱めの魔者が多い。
勿論これらのパーツは、非情に弱いながらも永遠に無限にモンスターを発生させるタイプの敵パーツだ。
ちなみに、魔者だとかモンスターだとかたまに呼び方がコロコロ変わるが、基本的に同じ様なものと考えていい。
モンスターの事も含めて魔者と呼んでいる様だが、あまりそこに明確な区分けはされてない様だ。
どちらかというと、最初はそれぞれ異なる言語で異なる使い方をされていたものが、時が経つ内に混ざってゴチャゴチャになってしまったという事か。
尚、一般的には魔者の方をよく使うらしい。
モンスターというのは、見た目からして化け物な存在や危険な動物に使われる。
魔者という言葉は、ピクシーの様な人型をしてはいても、エルフやドワーフ、ホビット、獣人などの様に人の種として世間に認識されていない存在の事も含めてそう呼んでいる。
魔物という言葉もあるにはあるらしいが、こちらはほとんど使われていないらしい。
それはそれとして、今は敵パーツの設置は後回しにして、お花畑を作るにあたって有効そうなパーツがないかの確認を続ける。
ピクシーを住まわせるのだから魔者はあまり設置したくないが、近くには護衛らしきものとして設置しても問題ないだろう。
まぁたまにピクシーがそれらに襲われてしまう可能性があったとしても、そもそも迷宮内は危険な場所なのであまり考えすぎない方がいい。
ピクシー用の隔離された専用部屋を作っても良かったが、それはちょっと勿体ない気がしたので止めた。
一応、ピクシーは侵入者達を排除してくれる魔者……の筈なので。
集団幻惑とかでサクッと一網打尽に気絶、とかしてくれないかと密かに期待していたり。
罠パーツの方には、『混乱茸・低』『スイッチ・石』『微風』『気温上昇・微』『気温低下・微』『粘着エリア・狭』『麻痺エリア・微/狭』『滑床・狭』と、やたらと数は増えていたがやはり微妙なものが多かった。
単体での効果はほとんど見込めないが、組み合わせと重複でまた凶悪なものへと仕上げられないか後で考えてみる事としよう。
『滑床』を並べた先に『矢』『落とし穴』『落下天井』があるとか。
滑った先を壁にして、そこに『回転扉』『隠し扉』で地獄にご案内でもいいかな。
『一方通行路』でも侵入者パーティーを分断しやすくていい。
そう考えると『滑床・狭』の使い道はなかなかありそうだ。
どこにどうやって罠を仕込もうかという思考に危うく没頭しそうになった所で、髪が強く引っ張られブチッといって痛みを発したので現実に返ってくる。
その引っこ抜いた髪を綱用として利用した綱引き合戦が視界の隅で繰り広げ始めるが、まるでそれに感謝する事は出来なかった。
綱はすぐに切れて両者ドロー。
俺の髪だしな、そんなに強度はない。
では、本命の宝パーツの確認を行う。
『毒消し草・粗悪』『毒麦・微毒』『妖蘭の種』『紫蘭の種』『枯れ草』
『錫鉱・微』『銀鉱・微』『方鉛鉱・微』『火成岩・小』『深成岩・小』
『沸き水・高温』『沸き水・低温』『噴水・小』
『呪われた折れた剣』『呪われた折れた槍』『呪われた斧』『呪われた弓』
『呪われた鎧』『呪われた兜』『呪われた手甲』『呪われた靴』
『呪われた布服』『呪われた腕輪』『呪われた首飾り』『呪われた耳飾り』
『錆びた銅貨』『吃驚箱』『空箱』
例によって色々とツッコミたい部分もあるが、有用そうなものも結構ある。
特に『沸き水・高温』などは、是非に俺自身が使いたいぐらいだ。
そろそろ一月経つ。
風呂に入りたいと思うのは、俺だけじゃないだろう。
という訳で、お花畑そっちのけで夢に見た手法を期待を込めて試してみる。
牢屋パーツの横をちょちょっと操作して、通路とかが出来ないか探る。
結果は、そんな都合の良い事はやはり起こらなかった。
ならばと思い、今度は牢屋の中もしくは直近に『沸き水・高温』を設置してみる。
おっ……設置できた!?
結果を確認するべく、すぐにその場所へと向かう。
部屋を出ようとするとキュイが頭の上から離れる。
牢屋にいけないのか、それとも牢屋を嫌っているのか。
どっちでも良いが、それはそれで好都合だ。
部屋を出て真っ直ぐ奥へと向かう。
拷問器具が陳列する場所を通り過ぎ、3人の少女がいる牢屋を通り過ぎ、突き当たりの壁を左へと曲がる。
瞬間、瞳に飛び込んできた光景に思わず口元をにやけさせてしまった。
「後は、これを上手く処理するだけだな」
壁と床の境目から湯気を出しながらチョロチョロと湧き出ている高温の水。
それは何ら遮る物も流れる先もない牢屋の一角を、徐々に浸食していく形で増え続けていた。
このまま放っておくと、暫くすればこの牢屋の床はそのお湯で満たされ、更には俺の寝所である部屋も浸食する事だろう。
踵を返し部屋へと戻る。
そして迷宮画面へと再び向かう。
『沸き水・高温』が設置できたのは牢屋の内部ではなく、牢屋のすぐ隣。
今はまだ壁しかない空間にそれは設置されていた。
そのため、そこから湧き出た高温水は行き場を求めて牢屋の中へと流れ込んでいるのだろう。
この原理から、沸き水系は何もない壁空間内でも設置でき、時間と共にその場所を圧迫し続けていくと思われる。
放っておけば徐々に内部の圧力が上昇し、そのうち地割れや地崩れ、崩壊爆発なども起こしかねない状況に至るのではないのだろうか。
故に、もし迷宮内の壁空間内に設置するのであれば、どこかに逃げ道を作っておかなければ、迷宮内はおろか最悪は俺のいるこの場所や牢屋にまで影響を与えてしまう事態を引き起こしてしまう可能性がある。
という訳で、設置した『沸き水・高温』の逃げ道を作るべく、牢屋には繋がってはいないが『沸き水・高温』には繋がっている物凄く細い通路を迷宮内に作っていく。
迷宮初期に作ったビー・スティンガーの通り道と同じぐらいに細い道。
その道が繋がる先は迷宮内ではなく迷宮の外。
道を作り終えてまた牢屋へと足を運ぶ。
そしてまだそこからお湯が沸いている事を確認する。
と同時に、今度はそのお湯が湧き出てくる場所に蓋をしてみる。
湯気が出てくるぐらいには熱いお湯だったので、勿論道具を使用して塞ぐ。
すると、予想通りお湯はそれ以上沸いてこなかった。
塞いでいた道具をどけてみる。
お湯がまた沸く。
もう一度塞ぐ。
お湯は沸いてこない。
「うむ。残るはこの湧き出たお湯を溜めておく場所の作成と、使い終わった後に捨てる方法の検討か」
それと、換気も必要だろう。
風呂場の作成は宝パーツの石とか岩とかを利用すれば問題ない。
お湯を捨てる方法はウィチアとイリアに相談するか。
風呂の掃除はその二人に任せればいいな。
あと必要なのは、牢屋に捕らえている者達をここまで拘束したまま連れてくる方法か。
いや、牢屋の外に出すと他の牢屋が全て見えてしまうのでそれはまずい。
しかし出来れば彼女達にも風呂には是非入って欲しい。
となると、全ての牢屋に風呂を作り、そこへお湯を引く方法を検討するべきか。
考えるべき事は山ほどある。
さっきはお花畑の作成を優先させようと考えていたのに、今では風呂の作成に頭を悩ませている始末。
迷宮の拡張も考えなければならない。
ああ、だんだんと楽しくなってきた。
レベルアップするたびにこういう事態が起こってくれるのならば、これはこれでこの迷宮生活も悪くないものだな、と思い始めていた自身を改めて発見する。
暫くは退屈に悩まされる事もなさそうだ。
牢屋の中に今し方イリアの手によって回収されてきたらしい新しい居住者を眺めながら、俺はこの後に待っているだろう至福の時に思いを巡らせていく。
2014.02.15校正




