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不死賢者の迷宮  作者: 漆之黒褐
第参章 『迷宮創世』
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第54話 死ぬ者、殺される者

 さっき遊んであげたばかりの強情な細剣使いの赤髪ポニーともう一度遊んでみるも、俺の質問に答えてくれる様な事はなかった。

 口を開きやすいように今は亡き盾役の金髪ツインテール嬢や杖持ちの法術使いと同じ扱いをしてもいいのだが、今はあまり時間を掛けたくないので、仲間の4人は既に亡くなっている事だけを告げて隣の部屋へと向かう。

 その4人の中に男が混じっている事は伝えない。


 荷物持ちの金髪ショートの口は簡単に開いた。

 分かりきっていたのであまり面白くない。

 もともと5人の中では一番年下でその性格も控えめだったので、他4人と比べて人生に諦めるのが早く出会う前から従順だった。

 色々と俺の要望に応えてくれるのは有り難いのだが、その分、俺の方も甘くなってしまう部分も多く、その油断が命取りにならなければいいのだが。


 拘束していない状態の金髪ショートと話す。

 彼女は生まれた時から奴隷だったらしく、同じく奴隷だった母親からこの世に生を受けたらしい。

 父親は誰か知っているかと聞くと、候補が多すぎて分からないと言う。

 容姿が良いのは母親譲りか。

 その母親が主を喜ばせる程度には稼ぎ頭だった事と、その母親から生まれた事によって将来性が有望視された事により、今の今まで生きてこられたのだと彼女は考えていた。

 彼女の身に刻まれている奴隷紋の主は誰かと聞くと、あの男だと言う。

 有名な奴隷商を懐に抱えている富豪を父に持つ一人息子だとか。


 拘束して痛い目にあわせた後の金髪ショートと話す。

 彼女は最近になって借金のカタとして父に売り払われたらしい。

 それまでは地方の三流貴族として、日の目はないがそこそこの暮らしをしていた。

 その人生が一変した理由は、見目麗しかった平民出の母とその愛娘である彼女自身が社交の場で有力貴族に目を付けられてしまった事。

 あれよあれよという間に父は事業に失敗し、路頭に迷いかけた所をその有力貴族が父に手を差し伸べ、彼女と母を買い取ったという。

 母はその後、子供を身籠もって自殺。

 彼女自身はその有力貴族の息子に、自由にしていい玩具として与えられた。

 そして今に至る。

 彼女の主は誰かと聞くと、俺という解答が返ってきた。


 拘束を外して部屋を出る。

 どこまでが本当で、どこまでが嘘なのか。

 恐らく、すべて真実だ。


 生まれた時から奴隷、母も奴隷。

 三流貴族の家で育ち、その貴族の事を名目上、父と呼んでいた。

 それなりに稼ぎ頭だった母が有名貴族の目にとまり、欲しいと思ったその有名貴族によって三流貴族は罠に填められ、生き残るために二人を売却。

 その後は有名貴族の奴隷として次の人生を送る。

 但しそこでの扱いは非常に悪く、母は子供を身籠もるとその未来を憂いて自殺した。

 尚、その有名貴族はかなりの富豪で、懐に奴隷商を抱えている。

 そんな所か。


 とりあえず、迷宮に侵入してきた者達の事は分かった。

 実働部隊は奴隷商、その背後には富豪貴族。

 年齢も性別も種族もバラバラな使い捨ての奴隷達を前面に押し出して迷宮の造りを探り、主力は後ろに控えている奴隷使い達。

 腕に覚えのある荒くれ者や用心棒ぐらいはいると思うが、恐らく国抱えの騎士や貴族配下の兵士は含まれていないと推測する。


 となると、あの大量の侵入者達の中には牢屋送りを期待出来そうな者はいなさそうか。

 適当な所で成果を与えてお帰り頂くのが無難だな。



「状況はどうなっている?」

「一階層の中頃まで侵入されましたが、不死者達に行く手を阻まれて膠着状態に陥っています。それと、スライムプールの上を飛んで奥に向かった者がいましたが、ユー・イ・チリーの攻撃を受けて現在は壁に張り付いて戦闘になっています」

「地の利があっても押し切れないだけの実力者か。さて、どうするか」



 あの場所での戦闘はほとんどユー・イ・チリーの独壇場だと考えていたのでほとんど考慮していなかった。

 ユー・イ・チリーも死霊(ゴースト)も法術を使う事が出来るので、遠距離戦闘は得意だ。

 にも関わらず討ち取れないとすると、飛べた事からしても敵は法術使いの類。

 接近して接触しさえすれば並の金属でも簡単に溶かしてしまうユー・イ・チリーの身体だったが、その接近すら出来ないとなると生半可な支援では片手間に倒されるだけだろう。

 となると、支援が可能な魔者は限られてくる。


 画面を操作して、プールの終着点付近に魔者発生ポイントを追加する。

 これで殺られてくれれば楽なのだが。



「膠着状態に陥っていた戦況に変化があります。どうやら一点突破を試みる模様です」

「いや、間違いなく奴等は正解の道を知っているので、どちらかというと後方に控えていた者の誰かが前に出てきただけだろう」



 その道をあの男は進んでいないんだがな。

 もっと前にあった行き止まり部分の落とし穴に落ちて死んだというのに。

 あのパーティーが何かの目印でも付けていれば、こんな所に駆り出された彼等もこんな苦労はしなくて済んだのだろうが。


 一点突破した通路に向けて大集団が移動する。

 それに続いて不死者達も続こうとするが、狭い通路に数名が残り、不死者達のそれ以上の侵攻を阻む。

 同じ事が数度繰り返されたが、暫くして封鎖していない通路から現れた不死者達がその居残り組へと攻撃を仕掛け挟撃状態に。

 一つ、また一つと光点が消えていった。

 居残りさせられたのは奴隷達だけだったらしい。


 スライムプールの方では、ようやく決着が着いていた。

 先程設置した魔者発生ポイントから現れた黒い影(ブラックシャドウ)がしっかりと働いてくれた様だ。

 ブラックシャドウの見た目は人型をした黒い影なのだが、移動中はその身体を倒して進む。

 影という程に薄い訳でもないので、灯りがある場所ならば注意していれば彼等の発見自体は容易なのだが、問題は彼等の移動方法にある。

 彼等は壁であっても普通に難なく進む。

 凹凸があってもその凹凸に沿って粘体生物の様に移動する。

 つまり、ブラックシャドウはスライムプールの横にある非常にデコボコした壁であっても問題なく進む事が出来た。


 眼下のスライムプール内から時折姿を現しては攻撃してくるユー・イ・チリーと、スライムプールの上を浮遊しつつ時折に壁の中へと逃げるゴーストの攻撃に悩まされ続けている法術使い。

 徐々にその法術使いの位置はスライムプールの奥へと移動していたが、流石にその様な状況では第三の敵である壁を張って進んできたブラックシャドウの存在には気付くのが遅れた様だ。

 元々不安定な体勢だったのでブラックシャドウの攻撃をまともに受け、法術使いはスライムプールへと落下。

 後は当初の予定通りにユー・イ・チリーによって身体を溶かされ、ゴーストに魂を刈り取られて法術使いはその命を終える。


 ――という光景を思い浮かべながら、その消えた光点を俺は見つめていた。

 実際にはどうだったのかは当然分からない。

 分かるのは結果のみ。

 やはりこの目で実際に見る機能が欲しい。

 迷宮がレベルアップした際の追加ボーナスにあると良いのだが。



「迷宮のレベルはいつになったらあがるんだ?」

「それは私にも分かりかねます。ですが今回の侵入者達には死亡者が多いので、今夜辺りにはレベルアップしているのではないでしょうか?」



 前回は俺が寝ている間に迷宮はレベルアップしていた。

 イリアの言葉を聞く限り、その判定は俺が寝ている間もしくは日付が変わると行われるらしい。

 ただこの空間では昼夜の区別はつかないし、迷宮とこの空間は時間の進み方も違う様なので、夜という時刻がいつになるのか俺には未だに分からなかった。

 と言っても、だいたいは分かる。

 迷宮内で寝泊まりした侵入者達の動きによって。


 まぁどうでもいいことだが。

 寝たい時に寝て、やりたい時にそのやりたい事をすればいい。

 出来る事が少ないのがこの空間の難点か。

 太陽の光も随分と見ていないな。


 その数を半分以下まで減らした侵入者達は、その後も色々な罠に引っかかっては更に数を減らしていく。

 魔者に遭遇した場合は強い連中が前に出てきてくれるのか、数が減るような事はなかった。

 時間を惜しんだか、それとも数の減ってきた奴隷達を効率良く使い始めたのか。

 どっちにしろ、奴隷達の運命は変わらない。


 スライムプールの対岸へと辿り着くと、そこで彼等は一端休憩をし始めた。

 そこには先程設置したばかりの魔者発生ポイントが存在するのだが、彼等がいる間にはそこからブラックシャドウは現れない。

 人が魔者発生ポイントにいると魔者はそこから出現する事が出来なくなるというシステムらしい。


 魔者達はどこから発生するのか?

 詳しく調査すればそのだいたいの場所を絞る事は出来るだろうが、しかし同時にそのポイントを俺は変更する事が出来るので別にあまり困らない。

 ただ今の所、それを動かした事はない。

 フェアプレー精神だ、というつもりはないが、別に公平を気にしている訳でもない。

 ……そういえばそういう事も出来たな、と今になって思い至っただけだ。


 それはそれとして、ブラックシャドウの発生ポイントを塞いでしまった侵入者達だったが、また一人法術使いらしき者がスライムプールの上を飛んでいった。

 恐らく、そこが迷宮入口付近で見たプールと繋がっているか確認するためだろう。

 結論から言えば、間違いなく繋がっている。

 但し、当然その道中ではユー・イ・チリーとゴーストの歓待を受けて、今度は問題なく水に沈んだ。

 一度目の失敗を学習して、奇襲が上手くなったのだと思っておく。


 また少しして、異変が起こり始める。

 魔者発生ポイントを塞ぐ事によるデメリットがようやく現れ始めた様だ。


 魔者発生ポイントを塞ぐとメリットとして魔者が発生しなくなるのだが、それは別にキャンセルされている訳ではない。

 出られないから溜められているだけである。

 それも、長く塞げば塞ぐほど加速度的に溜まる様になっていく。

 そしていつしかそれは、普段は低確率でしか単体発生しない上位派生種を、複数同時に広い範囲で突然に発生させてしまう仕組みになっていた。


 上位派生種の出現ポイントは、魔者発生ポイントを中心とした広範囲になっている。

 但し確率としては魔者発生ポイントが一番だ。

 平時はほぼ間違いなくそこから出現する。

 しかし現在の様に魔者発生ポイントが塞がれている場合には、上位派生種はランダムでその広範囲のどこかに出現する。


 画面上に、その上位派生種の出現を示す光点が一斉に至る所に現れた。



「これは?」



 しかし、俺が異変だと思ったのはそこではなかった。

 上位派生種は光の強さが若干大きいのだが、その中に一つだけ異なる色をした光点が画面上に現れていたのを俺は見つける。

 観察スキルを使用すると、影鬼(シャドウデーモン)の名が一覧リストに追加されていた。



「変異種ですね。非常に珍しい事です」

「強いのか?」

「私には分かりかねます。見ていれば分かるのではないでしょうか?」

「まぁ、そうだが……」



 この一ヶ月の様子を振り返るに、上位派生種の発生率が1%弱ならば、変異種の発生率は更にその百分の一といった所か。

 1万匹の同種の魔者を倒してようやくといった魔者。

 魔者発生ポイントを塞いだ事によって、その発生確率も高くなったのだろう。


 まるで魔者発生ポイントを塞ぐ事による上位派生種狩りを意図して行うという行為に対しての対策と言わんばかりのデメリット性。

 それを物語っているかの様に、大量の上位派生種には多少苦戦していた侵入者達が変異種に遭遇した瞬間にその陣形を乱し始め、その変異種に近寄られた侵入者達の光点は次々と消えていった。


 ただ、それも最後までは続かない。

 3つの光点が自らその変異種の前に出てからはピタリと犠牲者がいなくなる。

 腕の立つ者がやはりまだ後ろに控えていたか。



「この三方の動きには見覚えがあります。この前までハーモニー様の迷宮に居座っていた方々だと思います」

「なら、その経験と腕を買われて雇われたと見るべきだな」



 しかも金を積まれてといった所か。

 女を宛がわれるなどの好待遇を受けている可能性もある。

 それなりに倫理観のある者であれば、目の前で奴隷達が使い捨てにされるのを黙ってみている訳がない。

 当初はそれなりに腕の立つ青年風パーティーをイメージしていたのだが、この分だと金さえ積めば何でもする流れの中年冒険者パーティーだな。

 放っておいても害の方が大きそうだ。

 上位派生種と変異種の出現方法を理解されると、嬉々として迷宮に籠もってしまいそうで怖い。


 そう思った所で、別に俺は迷宮に手を加えるつもりはやはりない。

 変わらず眺めているだけだ。

 新しい発見を行うには無駄に動くべきではない。

 迷宮を踏破されてしまった時に何が起こるのかも俺は知っておきたい。

 その時にはもしかすると俺の命は亡くなる可能性もある訳だが。


 ……ん?

 そういえば、罠に掛かった者は全員が死んでいるな。

 今の迷宮レベルで設置出来る罠には死亡率の高い罠はない筈なのだが。

 この侵入者達がこれまで通ってきた道をもう一度見渡してみても、気絶を示す薄い光点はどこにも見あたらない。

 それはつまり、使えなくなったと判断された奴隷達はその場で処分されていったという事なのか。



「侵入者が同じ侵入者達の手によって殺された場合は、迷宮に経験値が入るのか?」

「私には分かりかねます」

「そうか」



 そんな細かい部分まではレビスから伝えられていないか。

 ここでの役目は自然と別れたが、レビスから伝えられている情報は同じだろうウィチアに確認しても返ってくる答えは同じだろう。

 念のため確認してみたら同じだった。


 用件が済むと、再びウィチアは部屋から消えてしまう。

 イリアはまるで従者の様に俺へとひっついているが、ウィチアはメイドの様にあらゆる身の回りの世話をしてくれる。

 その中には牢屋にいる女性達の世話も含まれていた。

 宿屋で働いていた事からしても、そういうのが基本的に得意なのだろう。

 その分、少し寂しく感じる事もあるが、呼べば必ず相手をしてくれるので今のところ問題はない。

 感情もイリアより豊かだし。

 四六時中付きまとわれるよりは、たまに顔を見せてくれる方が新鮮でいい。



「……なにか?」



 そんな事を思いながらイリアを見ていると、少し不機嫌そうな顔をされた。

 俺に見られる事には別に抵抗がない様なので、女の勘でも働いたのだろう。


 その後は画面を眺めていてもあまり真新しい事はなかった。

 変異種が襲ってきた際に集団から離れてしまった者達も、迷宮の中で迷った挙げ句、不死魔者達の包囲網にはまって刈り取られる。

 その包囲網から生き残る事が出来たそこそこの強者達も、そのうちに罠に引っかかって気絶。

 イリアを向かわせたら予想通りにスライムプールへと投げ込まれた。


 そのスライムプール付近まで侵入した者達はというと、少し道を戻って安全地帯に逃げこんだ。

 どうやらそろそろ夜なのだろう。

 数は随分と減った様だが、まだやる気が感じられた。

 明日には1階層を突破してくれる筈だ。


 動きもなくなったので、俺も画面から離れる。

 泣き疲れて眠っていた細剣使いの赤髪ポニーを叩き起こすのはやめて、まだ元気な荷物持ちの金髪ショートと戯れる。

 食事をして少し休憩した後は、ペットな幼女と稽古。


 部屋に戻る前に細剣使いの赤髪ポニーが起きていたので少し会話。

 執拗にあと一人生き残っているのが誰なのかを聞いてきたが答えない。

 もしかしたら、姉妹もしくはそう思っているぐらいに親しい者がいるのかもしれない。

 彼女の中での生存確率は20%。

 生き残っているのが誰かを知っている俺の中では約33%。

 これをネタに、また色々と楽しめそうだ。


 そんな事を考えながら、ウィチアとイリアをベッドに呼んで、俺は眠りに就いた。

 明日には迷宮のレベルが上がっている事を予感しながら。







 起きた時、何故か別の場所が激変していた。

2014.02.14校正

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