第18話 その装備は呪われていた
一転して、迷宮。
――と言いたい所だが、その前に俺には寄るべき所がある。
ローとリーブラを交えた朝食の会合も無事に終わり、俺達は準備に向けて一度解散した。
重傷を負っていたローは、自身の荷物と身体の回復具合を確かめに、例の森の中へと向かったという。
見た目のヒョロヒョロッとした印象とは異なり、随分と肝が据わっている少年の様だ。
自身が死にかけた事実すら大した事の様には感じていない様である。
事のあらましを聞いている間も、今後の事に関しての話をしている間も、年齢不相応にずっと落ち着いていた。
案外、リーダー職に向いているのかもしれないと感じてしまった程に。
なお、件の腕輪は、結局ローにも俺の腕から腕輪を外せない事が分かったため、今でも俺が装備している。
ロー自身が「呪われていますね」と言った事には、流石に俺も驚いたものである。
一方、俺の飼い主であるリーブラは、結局朝は一言も喋らずに部屋へと引き上げていった。
昨日もそうだったが、あの少女はかなりの人見知りなのかも知れない。
俺と出会った時もそうだった。
リーブラが無口ではないのは、昨日、夜の森での事を思い出せばすぐに分かるだろう。
ただ、初対面であるローは少し困ってはいたが。
そしてシルミーと俺は、約束通り村の万屋にやってきていた。
万屋と言うか、何でも屋と言った方がいいのか。
村で唯一の物品販売所なので、兎に角、何でもあった。
生活雑貨や女性用下着が並んでいるエリアがまず一番多く、続いてよく分からないガラクタの山が場所を占めている。
俺達の目的である武器防具が置かれているエリアは残念な事に3番目という広さであり、それは同時にこの店で一番狭いエリアとなっていた。
「ハモハモ、この下着、私に似合うと思わないー?」
見るのも憚れる質問を平気で投げかけてくる思春期真っ盛りの年頃の娘は、明らかに俺の反応を楽しむために、存分に巫山戯ていた。
店員が女性である事と、俺達の他に客がまったくいない事も彼女の助長を手助けする形になっているのか、シルミーは商品である下着を身に着けては俺の前へと踊り出てきて見せびらかしてくる。
当然、俺は目線のやり場に困りすぐに視線を逸らすのだが、その一つ一つの反応の違いによってシルミーは俺の下している評価を吟味している様だった。
「うーん……この下着はいまいち、っと」
シルミーの姿は、下着一枚という訳ではない。
いつでも他の客が来ても良い様に、上には隠し用のローブを羽織っている。
それ以外にも普段から身に着けている装飾具は付けっぱなしだったり、下着以外にも何か気に入った物を見つけた場合には、色々コーディネートしては身に着けていた。
中には胸がすけて見えてしまう薄絹の羽衣装備だったり、女王様気分に慣れる様な際どく怪しい装備だったり、かなり選択の自由度が高い。
いったい何でそんな物が売っているのか俺には不思議でならなかったが、何故かこの店はそういう類の物の充実感が凄かった。
「何かお気に召した物はありましたか?」
同時に、店員が美しい女性であった事も怖かった。
シルミーの方は兎も角として、流石に俺の方はお目当ての武器防具関連ばかり眺めていたので、不審な点など微塵もない。
ごく普通の買い物客だ。
――一緒にこの店を訪れた少女の奇行さえなければ、ではあるが。
店員の目には、さぞ面白可笑しいカップルに見えている事だろう。
「痛んでいる物や使い古された物ばかりに見えるんだが、基本的に中古品しかないのか?」
「はい。全てこの村を訪れた方達が売り払っていった物や、残していった物になります。必需品や嗜好品であれば新品も扱ってはいますが、通常のお店とは異なり、私達の村では新品の商品を仕入れてまで儲けを出そうという気はありませんので。たまに旅の商人さんが訪れた場合には、手間暇も掛かりませんので仕入れる事はあります。生憎と、ここ最近はそういう事はありませんでしたが」
「ああ、別に新品が欲しいという訳ではない。ちょっと気になって聞いてみただけだ」
故に、俺は納得する。
仮にも店を名乗るぐらいなので、それなりにきちんと整理されているかと思っていたのだが、整理されているのはシルミーが楽しんでいる嗜好品や必需品ばかりであり、俺が見ている一角はどう見ても乱雑に置いていますといった状況となっていた。
武器も防具も適当に並べられて、種類も値段もバラバラ。
同じ物であっても同じ所には置かれずに、良い物であっても悪そうな物と一緒の扱いを受けていた。
だけでなく、積み上げられて下の方は見えない物までもある。
手で一つ一つどけていく事もしてはいるものの、刃物が剥き出して乱雑に置かれているのだから、危ない事この上ない。
上の方から短剣が降ってきた事すらあったので、今はもう配置を変えて見やすい様に整理するのはちょっと諦めていた。
「――整理はしないんだな」
「その分、掘り出し物が埋まっている事もありますので。探す楽しみを奪ってしまう様な事はしないというのが、この店のもっとうだそうです」
つまり、儲ける気はない、面倒臭いから勝手にやってくれ、という事だ。
奥のエリアで積み上がっているガラクタの山も、そういう事なのだろう。
時間がある時にでも物色してみる事にしようか。
――手持ちの金が出来てから、になるが。
ふとガラクタの山の方を見ていると、気になる一角が目に入った。
その一角の山の上には、何やら黒い服やブーツが固められて置かれている。
少々気になってので、手に持っていた件を置いてそちらへと向かう。
「これは……」
そして間近まで近づくにつれて、それが何であるのかすぐに分かった。
「それは昨日仕入れたばかりのものですね。森の中に放置されていたそうです」
「買おう」
店員の説明を聞くと同時に即決する。
俺にはこの黒い装備一式に見覚えがあった。
「ハモハモ、そんなの着るのー?」
「――ああ。これは、俺がもともと着ていた服だ。なくしたと思っていたが、どうやら誰かが拾ってこの店に売り払ってくれたみたいだな」
「もっと格好良いの買っても良いんだよー?」
「そうか? ならシルミーの見立てで、他に2着程度見繕ってくれ」
「おっけー。任せて!」
言い換えれば格好悪いと言っている様な物だが、一応は初期装備だ。
何かしら特別な特性を持ち合わせているかもしれないので、手元に置いておいても損はないだろう。
金額も、見たところ他のに比べてそれなりに安い。
相場はよく分からないが、ガラクタの上に置かれていた事もあって、武器防具の類よりも遙かに低い。
セットで合わせても、武器の一本の値打ちもない様だった。
「となると、やはり残るのは武器か」
「お客様であれば、こちらなんかお似合いかと思われますが」
そう言って店員が手に持って勧めてきたのは、何の変哲のない棍棒らしき木製の武器だった。
「これは?」
「使用者の血を吸って強度をあげるという血吸木の棍棒です。この棍棒は攻撃する際に勝手に使用者の血を吸うという呪いが掛けられています。勿論、攻撃した相手に当たった場合にも強制的に吸血します。お客様は呪いコレクターとお見受けしましたので、当店随一の呪いの品を御用意しました」
随分と禍々しそうな一品だ。
効果を要約すると、攻撃する際に少しダメージを受ける代わりに攻撃力を上げ、また攻撃した際には追加ダメージを与えるという事だろう。
諸刃の武器に武器強化と追加ダメージが付加されたものだと考えていい。
振るう度にダメージを受けるものの、武器としてはかなり利に叶っている武器と言えよう。
――但し、血がすぐに足りなくなって貧血を起こしそうだが。
そんな事よりも。
「……何故、俺が呪いコレクターだと思ったんだ?」
俺的にはこっちの方が重要だった。
確かに俺は多数の呪いを身に宿しているが、今までそれが他の者にばれたと思う様な事は一度もなかった。
シルミーにしてもリーブラにしても、ウィチアもエーベルもガルゴルも、俺と出会った者、すれ違った者、目にした者、全員が俺の呪いに気が付いた様子は全くなかった。
にも関わらず、この女性は何故、俺が呪いコレクターだと勘違いしたのか。
「いえ、それは……」
言葉を濁した店員の瞳を優しく睨め付けながら、続く言葉を待つ。
店員は、躊躇いがちにその言葉を口にした。
「先程お客様が迷わず買われた服なのですが、法術鑑定を行ってもそれが何で出来ているのか分からなかった物だからです。そういう類のほとんどは呪われており、鑑定を受け付けない呪いも同時に掛けられている事がほとんどです。勿論、鑑定を拒んでいる呪いを先に解除すれば鑑定も出来る様になりますが、そこに罠となる呪いが更に仕掛けられている事もあります。ですので、そういうリスクも踏まえた上で、あちらの一角に取りあえず並べておいたのですが……」
俺が即決で購入してしまった、だから呪われている物が好きな人なのだと、この店員は思ったと。
そうか、別に俺が掛けられている呪いに気付いた訳ではないのか。
少し安心した。
「あの一角に置いてあるのは、ほとんど呪われているのか?」
「いえ。どちらかというと、売り物にはなりなさそうな物を置いている場所です。まったく価値のない物、呪われている物も数多くありますが、先程言いました通り掘り出し物も恐らくは埋もれているかと思います。もしかしたらお客様が選ばれたあれも、ただ鑑定出来ないだけで特別な物なのかもしれません」
「いや、さっきも言った通り、あれは以前に俺が着ていた服だ。確かに何で出来ているかは不明になっていて俺にも分からなかったが、これといって不都合な効果はなかった様に思える。レアアイテムではないだろうな」
「そうなのですか」
どこか納得がいっていない様にも見えたが、この話はここで終わりにしておくとしよう。
で、この店員が勧めてくれた呪いの一品な訳だが、勿論俺は謹んでお断りした。
代わりに、不快を与えてしまったという事で、少し買い物の合計金額が安くなった。
さて、俺はこの買った武器をどこまで上手く扱えるのか。
装備が整った所で、一度ステータスを確認しておく。
戦闘準備の基本、まずは自らの力を正確に把握する事に努める。
■ハーモニー 男 人
■《星の聖者》の従者:Lv1
■HP:14/14
■MP:4/4
■欲望解放 痛覚麻痺 死の宣告 死後蘇生(不死者化)
■欲望半減 欲望減衰 理性増幅 痛覚10倍 感覚鋭敏化 生命共有化(隷属)
■武器:鋼鉄の剣 ダガー
■頭:
■体上:謎のシャツ(黒) 謎の上衣(黒)
■体下:謎のジーパン(黒) 謎の下着(黒)
■手:指貫の革手袋(黒)
■足:謎の靴下(黒) 謎のブーツ(黒)
■他:《蒼天の刃》の腕輪
■職業一覧:剣士Lv1 闘士Lv1 盗賊Lv1 《星の聖者》の従者Lv1 強姦魔Lv2 色魔Lv2 奴隷Lv1
■特技一覧:片手剣術Lv1 短剣術Lv1 二刀流Lv1 脚撃Lv1 投擲Lv1 逃走Lv1 警戒Lv1 観察Lv2 分析Lv3 熟考Lv3 現実逃避Lv6
■才能:
真新しいものといえば、剣士、片手剣術、短剣術、二刀流になる。
まさか鋼鉄の剣とダガーを同時に振るったら、それだけで二刀流のスキルが増えてしまったのには驚いた。
まぁ、レベルが最低値の1なので、今の状態のままではあってもなくても何も変わらないといった所だろう。
ダガーを装備しても新しい職が追加されていないのは、少し残念である。
尚、職業と特技は覚えた順に最初は並んでいたが、意識を向ければ自由に配置出来る事が分かったので、分かり易くするために配置換えをしておいた。
配置換えをしたところで、俺はふと思う。
脚撃があるのに、格闘術の有り触れたもう一方のスキルがどこにもない。
念のため、覚えておくとしよう。
「ハモハモ、準備出来た―?」
まさに聖拳突きを放った瞬間に現れた猫娘達の姿に、俺の動きがそこで固定されてしまう。
そういえば着替えたらすぐに合流する予定だった事を忘れていた。
「――行くか?」
「ムフフ。ハモハモ何してたのー?」
「装備が変わったからな。動き易さを確認していただけだ」
「本当にー?」
「嘘を言ってどうする」
勿論、嘘だが。
「では、出発しましょうか」
「――了解した」
「はいはーい」
暫定リーダーのローの言葉に、俺とシルミーが返事を返す。
リーブラはほんの少し首を縦に振っただけで、言葉は出てこなかった。
宿を出て、村の入口へと向かう。
それなりに世話になっているウィチアには会っておきたかったが、宿屋の隣にある酒場兼食事所に彼女の姿はなかったので、残念ながら出発の挨拶は交わせなかった。
狭い村の中とはいえ、そうそう簡単に出会える訳ではない。
途中、シイナと出会ったが特に挨拶する事もなく通り過ぎていく。
わざわざウィチアの居場所を聞く必要もない。
あのハーフエルフの少女の事を、俺は別に何も気にしていないのだから。
寂しいなどとは絶対に思っていない。
村の入口を越え、道なき森の中へと入っていく。
これから俺達が向かうのは、森の中に立てられた教会だという。
ならばそこまでの道ぐらいは整備してあってもいいものだが、それは逆に村の危険度が格段に跳ね上がるため、建設当初より作っていないらしかった。
道があれば、それにそって人は動く。
しかし、なにも動くのは人だけとは限らない。
この付近の森の中で最も脅威となる存在、不死者。
夜ともなればどこからともなく無尽蔵に現れては、森の中を徘徊し続ける者達。
道なき森の中であれば彼等は適当にウロウロするだけなのだが、もし歩き易い道を見つけると、歩き易さ故にその道に沿って行動し始め、結果的に村へとわらわら殺到してしまうという。
毎晩そんな事態に陥っては、おちおち寝てもいられない。
故に、不死者達発生の中心点である教会への道は、作られていなかった。
そんな話をシルミーから聞きながら、俺達はまだ明るい内に森の中を進み、一刻ほどかけて目的の教会へと辿り着く。
「でかいな」
俺の率直な感想に、ローが同意する。
こんな森の中にどうやってこれだけの規模の建物を建てたのか不思議に思う程、その教会は堅牢で巨大だった。
石造りの壁に、丈夫そうな入口――というか、門。
森から抜けてすぐに見上げなければならない程の高さの壁が姿を表し、その壁が邪魔をして中が全く見えない。
鉄格子の入口に来てようやく中を覗き込めたのだが、それはまるで城砦の様な様相をしていた。
門を越えたらまた門、更に先にも門、そこを越えてようやく建物の本当の入口へと到着する訳だが、またその広さが随分とばかでかい。
にも関わらず、実際に人が通れる扉のサイズは標準といった有様。
壁が邪魔して全周の広さは分からなかったが、入口だけを見る限り巨大建造物なのは間違いない様だった。
「ふえー、大きいねー。凄いねー」
「いったい何を想定してこんなものを作ったのでしょうね」
この世界の住人であるシルミーにしてもローにしても、この教会は驚きの建造物らしかった。
彼等でさえそうなのだから、俺が驚かない訳がない。
「不死者対策だろう。数で攻めてくる奴等に対して、鉄格子越しの攻撃や何重もの囲いはかなりの効果が期待出来そうだ。一番奥の入口にしても、一度に入れる人数が限定されていれば数で圧倒されていても対処しやすい。恐らく、建物の中の通路も狭いだろうな」
「それだけにしても随分と過剰な様にも思えますが。まるで大規模な攻城戦を想定している様な頑強な造りです。不死者相手には過ぎている様に僕は思えます」
それには俺も同意したい。
昨日見た不死者達が相手であれば、これほどの物は絶対に必要としない。
例え見渡す限りがあの不死者で埋め尽くされていたとしても、一番外側の門さえあれば難無く侵入を阻止出来るだろう。
知力のない、力のない不死者達だけであればの話だが。
「――だが、不死賢者の住まう土地だ。外からの攻撃だけではなく、中からの攻撃も想定されているのかもしれない」
「つまり、外へ出さないための造りという訳ですか?」
「さぁな。これはただの予想だ。正解はこの教会の主あたりに聞いてみた方がてっとり早いだろう。無論、教えてくれればの話だが」
むしろ俺達に会ってくれるのかすら怪しいものだ。
怖ろしく権威ある教会の、しかも枢機卿がここにはいるという。
そんな雲の上の存在が、いちいち一介の冒険者?パーティーと会う様な真似はするまい。
「――で、これはどうやって通るんだ?」
鉄格子の前で談話するのはいいが、いつまでもそうしている訳にはいかない。
とはいえ、地面にしっかりと突き刺さっている鉄格子は、何らかの動力を使用して持ち上げるなりして動かさないと、とてもではないが人が通れる様な代物には見えなかった。
「はいはーい。ちょっと待ってね―」
どこまでも浮ついてそうなシルミーが、てててっと鉄格子の端の方へと走っていく。
何か仕掛けがあるという事なのだろう。
それを知っていさえすれば簡単に通れるという事か。
シルミーが壁に向けて手をかざす。
昨日の夜、エーベルが部屋の扉をロックする時にしたあれと同じ原理か。
と、納得した所で。
「ちりんちりーん♪」
シルミーが、まるでドアベルの音色を真似するかの様に、鳴いた。
刹那。
鉄格子の一部がゴゴゴゴっといってゆっくりと動き、人が十分に通れるだけの隙間が生まれた。
「あまり長くは保たないから、急いでねー」
現れた隙間はシルミーのすぐ側だったため、俺達はシルミーの言葉に少し急かされながらその隙間をくぐり抜ける。
最初は当然シルミーが、次にローがくぐり抜ける。
俺も通り抜け様とした所でリーブラが暢気にゆっくり歩いて向かっていたので、仕方なく踵を返し、彼女の身を抱いてまた踵を返す。
少女の身を抱いて通るには少し苦労したが、通り抜けた後で鉄格子が再びゴゴゴゴっと鳴り始めたので、急いで正解だった様だった。
「お姫様抱っこ良いなー」
そっと地面にリーブラを降ろしながら、その少女の顔を覗きこむ。
相も変わらずにそこには表情はなく、俺が触れた事にも抱き上げた事にも何ら感じる事はなかった様だった。
何事もなく、先程までと同様にぼーっとしている。
ちょっと悪戯心を擽られてしまう程に。
勿論、そんな事はしない。
俺は紳士だ。
「ハーモニーさん。別にそんなに急がなくても大丈夫だったのですが。閉じたらまた開けば良いだけですし」
「ちょっと力を節約し過ぎたかなー」
ああ、そうか。
そういえばそうだ、少し考えればすぐに分かる事だった。
さっきの隙間は俺達ならば通れる大きさだったが、あれでは体格の大きい者や一度に大人数は通る事は出来ない。
制限時間にしてもそう、あれはシルミーの言う通り、注ぐ力を節約したが故の大きさと時間。
この世界の常識にまだ慣れていないのが災いした様だ。
「さて、気を取り直して行くとしようか。手続きを終えたら、すぐに迷宮に入るのか?」
「そうですね。少し潜ってみてもいいかと思います。無理はしない程度に」
「ハモハモだけはいっぱい無理してねー。早く成長して役に立てる様になってね」
俺とリーブラのスキンシップに刺激されたのか、シルミーが俺の背中にぴょんっと抱きついてくる。
「――了解している」
成長のアルゴリズムが分かれば対応しやすいのだが、残念ながらまだ見つかっていない。
宿を出る前に試した聖拳突きも、新しい特技を得るための条件には一致しなかった様だった。
そういえば昨日、人形と戦闘した時にも拳による攻撃はした様な気がする。
まだまだ検証するべき事は多そうだ。
「重たいな」
「殴るよー」
どうやら離れる気のないシルミーを背負いながら、俺達は教会の中へと入っていった。
2013.05.26校正
2014.02.13校正




