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不死賢者の迷宮  作者: 漆之黒褐
第伍章 『心の剣』
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第97話 幻

 何となく予想していた事ではあったが、実際にそんな言葉を向けられても俺はどうして良いか分からなかった。



「何をしておる。ほれ、構えよ」



 などと言ってくる美少女に対し、俺はいったいどうすれば良いというのだろうか。

 ユフィは、その小さな体格には似付かない武器を片手に俺を威嚇している。

 獣の様に、狐の様に。

 夜空に浮かぶ満月色の双眸で俺の事をじっと見ている。


 これがまだ同条件下で、しかも相手が俺と同じ男性であればあまり悩む必要は無かっただろう。

 筋骨隆々だったり勲章傷だらけだったりする男性が相手ならば1も2もなくお手上げ。

 全身をガチガチに鎧で固めた相手ならば逃げの一手を取るだけである。

 相手がか弱い少女に見えるユフィであるため、普通なら少しぐらいは相手をしてやろうかなと思う所なのだが、しかし圧倒的な武装の差によってその考えは微塵も浮かぶような事はなかった。


 片や全長2メートルを軽く越える斧槍。

 片や丸腰。

 ハンデもいいところである。


 だからといって、逃げる選択肢も思い浮かばない。

 ユフィは軽い冗談を興じられるだけの器量を持ち合わせているし、つい先程にその物々しい得物の先端で心臓を軽く一突きされるという冗談みたいな光景を見たばかりでもある。

 今見ているこの光景すらも、冗談だとも言えるだろう。


 身の丈よりも長い得物、しかも自身の二の腕よりも長い金属の刃が先端ついた武器を、ユフィは片手で軽々と持ち上げていた。

 それも柄の中央ではなく端っこの方を持ち、少しも先端がぶれる事なくずっと持ち続けている。


 これが三国志の歴史に代表される豪傑、呂奉先や張翼徳、関雲長などであったとすればまだ十分に納得のいく光景だっただろう。

 持っていたのが年端もいかない子供に見えるユフィではなく、鍛え抜かれた筋肉を持つ身長180センチぐらいの女戦士であれば、ファンタジー的に十分ありな光景でもあるため、その疑問を飲み込むことは出来た筈だ。


 しかし現実には、ユフィという小柄な体格をした美少女が、俺でもまともに持つのは不可能だと思える武器を軽々と携えている。

 疑問を通り越し、畏怖を通り越して、もはや呆気の域に達してしまった俺はただただ言葉失い、狐の姫君風な容姿をしているユフィを見ている事しか出来なかった。


 というか、むしろ可愛いとさえ思う姿だった。



「早く構えろと言うておろうに。いったいどうした事じゃ。まさか我の勇ましき姿に見惚れているとでも言う訳でもあるない」

「どちらかというと、可愛いユフィの姿に見惚れているといった所なんだが……」

「かわっ……な、ななな、なんじゃだと? もういっぺん言ってみよ」



 僅かに斧槍の穂先がぶれ、ユフィの頬に薄く赤身がさす。



「なんだ、意外に可愛い所があるじゃないか」

「……先程と言ってる意味が違うんじゃが、それは素直に喜んで良いのかのう?」

「なでなでしてやるから、その物騒な物はしまってこっちに来い」

「……何故かのう。今度は馬鹿にされた様な気がするんじゃが」



 じとっとした瞳に変わってしまったユフィが、その顔から笑みも消す。

 どうやら不機嫌にしてしまった様だった。

 さて、どこで台詞を間違えたのやら。



「これで3度目じゃ。構えよ。そして我と死合うがよい」



 不機嫌となったユフィが不穏な空気を纏いながら言い放ってくる。

 それでもその愛らしい姿は変わらず俺の心を鷲掴みにする。


 こんなフィギアがあったら部屋に飾っておきたいと思う程に。

 そんな部屋も、そんな趣味も持ち合わせてないので、売っていても買わないと思うが。



「そう言えば俺の方の自己紹介はまだだったな。ハーモニーという。ハモ、と略す奴もいるが、呼ぶならそのまま呼んでくれ」

「お主、我を馬鹿にしておるじゃろう」

「そんな気は毛頭ない。そしてユフィと闘う気も毛頭ない。その武器を降ろしてくれると嬉しい」

「断る!」



 1度目の交渉は決裂に終わる。

 交渉というよりはただの願望だった訳だが、ユフィには俺と死合いたい何らかの理由がある様だ。

 ふむ、困ったな。

 こんな分の悪い戦に身を投じても、勝てる確率など皆無だというのに。


 現実逃避せずに現実を直視すれば、あの重量級の得物を軽々しく扱っている時点でもはや俺に勝算などありえなかった。

 加えて、気が付かないうちに心臓を突き貫くという技……恐らく幻覚幻術の類だろうが、そんなものまで織り交ぜられたら、例え勝てる戦だったとしても最後に立っているのはユフィの方だろう。

 元々勝てない戦なので、零の勝率がより確実な零となるだけだ。



「構えぬか。ならば死ぬがよい」



 その宣告と共に俺の首が断ち切られ、体がどさっと大地に倒れる。

 いつの間にか振り抜かれた刃には血の跡が残り、そして地面には血の池が作り出された。

 にも関わらず、俺の視線はそのままで固定されて動かない。


 これが斬られた瞬間に刃の上に乗って移動したならばまだ分かる。

 しかし現実には、首を斬られたのに、その首から上は変わらずその場にあり続けていた。



「見事な幻術だ」



 その言葉を口に出すと同時に、幻覚が霞の如く消え去り元の世界が俺の瞳に再び映し出される。

 ユフィは変わらず得物を携えた姿勢で俺を威嚇しており、首から離れた筈の俺の胴体もそこにちゃんと存在していた。



「名は体を表すというが、それがユフィの力か? そしてその武器も幻という訳か」

「……何故にそう思うのじゃ?」

「現実味がなさすぎる。そんな重い物をユフィの様な小さくて可愛い女の子が持てる訳がない」

「可愛いという評価には素直に喜んでおくとしようかの。じゃが小さくてというのは余計じゃ。これでもこの体型の事は少しばかり気にしておるんじゃ」

「その胸もか?」



 ついその言葉を口にしてしまった瞬間、ヒュンっという風の音が小さく鳴った。



「たわけ! 気にしておると言うておろうが!」



 何となく幼女という言葉に格下げしたくなったユフィが咆える。

 思わず笑みが零れてしまう。



「……それとな。これは本物じゃよ」



 だがその笑む動作が左腕を刺激し、そこに繋がっていた骨と肉の結合を崩れさせる。

 それに気付く前に、鋭い痛みが俺の左腕に発生し、その現実を俺に知らしめた。



「痛ぅっ!?」



 咄嗟に当てた右手に生暖かい液体が触れる。

 見なくともそれが何であるのか俺はすぐに分かった。



「まさかこれも幻術か……?」

「本物じゃと言うておろうに。その痛みもその傷も、すべて本物じゃて。お主があまりにも我を舐めておる様じゃからな。少し分からせてやったわ」



 左前腕の中央付近から訴えてくる酷い痛みに、全身から汗が噴き出し始める。

 本日何度目となるのか

 この新しい器に魂が移されてからは初めての出来事のため、元の肉体と同じ様にちゃんと反応するんだなという感心はどこかへと追いやり、傷口を手の平で塞ぐ。

 感触からして、腕の半分をスッパリと斬られている様だった。


 呪いの効果で痛みが抑えられていなければ、今頃地面の上でのたうち回っていてもおかしくないダメージ。

 ステータスを確認すると、HPがごっそりと減っていた。



「今の我が出来るのは、お主の目を騙す事ぐらいじゃよ。ほれ、こんな風にな」



 まるで自慢するかの様に行われた幻覚は、しかし腕の傷と流れ出る血を消し去るのみで、痛みや血が滴り落ちていく感覚は全く消えていなかった。



「このままの方が良いかえ?」

「……元に戻してくれると助かる。傷が見えていないのは却って困るような気がする」

「ならそのままにしておくかの。その方がお主もやりやすかろうて」



 ユフィの顔に笑みの彩りが戻る。

 但し、小悪魔的な表情として。


 化け狐、いや妖狐となったユフィに新たなステータスが追加された。

 妖艶という、俺の様なダメ男を更に虜とする危険なステータスを。

 ――などと冗談でも考えなければ、この痛烈な左腕の痛みを忘れる事は出来なかった。


 呪いで痛みが抑えられていても、焼けるような痛みが常に発生していれば辛い事には変わりない。



「どこまでを信用すればいい?」

「んん? いったい何をじゃ?」

「ユフィの言葉をだ。真実である確証も、嘘である確証もない。幻術を使ってくる者の言葉をそのまま信用出来る程、俺の性格は素直じゃないんでね」

「どちらかというと天の邪鬼じゃの、お主の性格は」

「それは褒め言葉として受け取っておく」

「そんな所もまさに天の邪鬼じゃな。鬼じゃ鬼じゃ」



 ユフィの言っている事に嘘が混じっているならば、この痛みも実は幻術の仕業だという希望も持つ事が出来る。

 視覚を騙す事しか出来ないというユフィの言葉が嘘だとすれば、他の五感も騙す事が可能だという事になる。

 痛覚まで騙す事が出来るなら大したものだ。


 実際にはそう思い込まされているだけであり、痛覚を騙すというよりも第七感の心覚あたりを錯覚させているといったところか。



「残念じゃが、我は冗談は口にしても嘘を口にするのは嫌いでの。真の事しか話さぬ。じゃからお主が考えている様な都合の良い話はないと思うてくれの」

「既に2度、俺の事を殺すと言っておきながら俺を殺していないのは嘘に入らないのか?」

「別に我はお主の事を殺したとは言っておらぬじゃろうが。死ぬがよい、という願望を口にしておるだけじゃ」

「……それは勿論、冗談という意味での死ぬがよい、だよな?」

「さて、どっちかのう」



 ケラケラとユフィが愉快に笑う。

 どうやら不機嫌な気持ちはどこかへといってくれた様だった。


 とりあえず、チビとナイチチはユフィには禁句、と。

 命の安全が保証されるまでは心の奥にしまっておくことにする。


 そんな不埒な事を考えていると、視界の端から突然に鋭い刃が迫ってきた。



「なっ!?」



 咄嗟に避けようとするも間に合わず、その刃は俺の右腕を浅く斬り裂く。

 回避動作を行っていなければ、間違いなく二の腕から先を失っていただろう軌跡だった。



「あら残念。傷口を押さえている右腕が随分と疲れているみたいだったから、その疲れを取り除いてあげようとしたのに」



 もう一人、近くに怖い女の子がいる事をすっかり失念していた様だ。


 実に楽しそうな怪しい笑みを浮かべたシェイニーが、やはりというべきかユフィと同じくその重量級の武器を軽々と手に持ち、まるで羽虫でも見るような瞳を俺へと向けている。

 それは妖艶というよりも、恐艶と言うべき怪しさ。



「……そういう疲れの取り除き方は好まないな。出来ればもっと一般的な方法で疲れを取りたい」

「なら、お望み通り楽にしてあげるわ」



 予想出来ていた動きだったため、今度は問題なく躱す。

 それまで俺の首があった場所を、介錯よろしく槍刀の鋭い刃が綺麗な弧を描いて通り過ぎていった。


 今度は幻覚なんかではなく、間違いなく俺の命を狩り取りにきた本物の軌跡。

 刃は届いていないというのに、そこから発生した風の刃が俺の身に届き、首の皮を薄く斬り裂かれた……様な痛みが首筋に発生する



「冗談じゃ、ない様だな……」



 もう一歩、更に後ろへと下がりながら俺はシェイニーの一挙手一投足を警戒する。



「蠅が近くを飛んでいたら殺そうとするのは当然でしょう? 蠅に冗談を言って楽しいと思う人がいないのと同じ事ね」



 その理屈でいくと、ユフィは蠅に冗談を言って楽しいと思う変人だという事になる。

 俺に毒を吐いているつもりが、実はユフィに対して毒を吐いていたという事にシェイニーは気が付いているのだろうか?

 気付いていてそう言っているという事であれば、それはつまりシェイニーは冗談を言っているという事になる。


 しかしシェイニーは実際に俺を斬ってきた。

 それもユフィの幻術であったならば俺は別に避けなくとも良かったのだが、まさか自分の命をかけてそれが現実であるか幻術であるかを見分けようとは流石に思わない。


 故に――。

 軽く跳躍し、再び俺の身へと槍刀を振るってきた薄い微笑みを浮かべた黒髪の殺人鬼のその一撃を、俺は全力で回避した。



「遠慮しなくても良いのよ?」

「いや、絶対に遠慮させてもらう!」



 優雅な動きで通り過ぎた刃が返され、刹那の間に横一文字へ一閃される。

 まともにくらえば腰の位置で体が二分されるという恐怖は実に効率良く俺の逃走本能に火を付け、四の五も言わずに踵を返して全力疾走を開始する。

 こんなやばい状況では、闘争本能なんかには火は灯らない。



「無様ね。だから死になさい。滑稽だわ。なら死ぬべきね」



 当然の様に追いかけてくるシェイニーの死の語も聞かずに、いったい何処にいるのかも分からないままに俺は石床の上を走って逃げる。


 満点の星空の下。

 夜闇の帳が落ちた時刻。

 まさか鬼ごっこをやる羽目になるとは思いもよらなかった。


 凶器を持った美女に追いかけられるという悪夢。

 これがもし逆転した立場であったなら、いったいどれだけ楽しい鬼ごっことなった事か。

 捕まえた後で行う行為はきっと心躍るものであり、そして当然の事ながらそこに生死などは一切関わらない。



「フフフフフフッ。待ちなさい、クズ」



 しかし現実には、その鬼ごっこには生死しか関わりそうになかった。

 兇悪な刃物を事あるごとに振り回しながら追いかけてくる鬼の顔には随分と涼しげな笑みが浮かんでおり、逃げる俺の方が鬼気迫る形相となっている。


 というか、シェイニーが普通に怖い。

 静謐な笑みと、冷たく刺す瞳。

 一回一回丁寧に振るわれる刃と、まるで逃げる俺の速度に合わせているかのような付かず離れずの距離。

 スパッと断ち斬られていく障害物。

 まるでわざとそうしているのではないだろうかと思わせる事が更にその恐怖を増長させていた。



「これ。我を置いてゆくでない」



 そんな事を言いながら忽然と目の前に現れてくるもう一方の美少女に大きな癒しを感じるほど、後ろから追ってくる美女から感じる恐怖が半端無かった。



「なら、あれを何とかしてくれ」



 何の前触れもなく現れたユフィは幻術だと思ったので、半ば無視しながら先を急ぐ。

 この場合、その場に本物のユフィはいないと思うので、果たして俺の言葉が伝わったのかは分からない訳だが。


 伝わっていればいいのだが……と思った矢先。

 今度は本物らしきユフィが目の前に姿を現した。

 というよりも、適当に逃げていたら建物の上をぐるっと一週でもしてしまったのだろう。

 俺の方からユフィのいる場所へと近づいていく形になったというべきか。


 そのユフィが、ゆっくりと斧槍を後ろに引く。

 いったい何をしようとしているのか、などという疑問を浮かべてすぐに、そのユフィが地面を蹴って俺の方へと飛び寄ってくる。



「ほれ、避けぬと死ぬぞ」



 そして唸りをあげて大振りに振るわれた斧槍の一撃を、その忠告を受ける前に俺は避けていた。


 急停止では間に合わないため、進行方向をカクッと90度曲げて刃の軌跡上から待避する。

 急激な負荷に筋肉が悲鳴をあげたが、髪の毛を数本斬り裂いていった刃に恐怖を感じる事に忙しすぎて、そんな痛みに意識を割く余裕はまるでなかった。


 それも束の間。



「避けたら死ぬわよ。いえ、違ったわ。殺すわよ」



 どっちにしても殺される未来しか待っていないだろうに、というツッコミを入れたくなるような台詞を吐きながら追いついてきたシェイニーが嬉々として得物を振るってくる。

 思わず白羽取りをしてしまいそうな、真上から振り降ろされてきた刃は、しかし避けるまでもなく空を斬った。

 無茶をした代償として、痙攣した足が石床を上手く踏みしめる事が出来ず、お尻から転倒する。

 その俺の眼前を、上段からの斬撃が鋭く走った。


 思わず息をのむ。

 その後に俺の瞳に映った光景は、地面すれすれでピタリと止まった刃の先端が、俺の急所へと真っ直ぐ伸びているという、背筋に怖気の走る一コマ。

 ギラリと煌めいた槍刀の切っ先がそこから突きに転じれば、間違いなく俺の男としての運命は終わりを迎えただろう。


 勿論、すぐに後ろへと待避した。



「死ぬよりも残酷な運命って、本当にあるのかしら」



 一瞬後を、まるで思わせぶりのように槍刀が石床の地面を豆腐の様に突き刺す。


 ――と思ったら、刃はすぐに元の位置へと戻っていた。

 石床にも、突かれた跡が見当たらない。



「……少し遅かったかや」



 そんな小悪魔な言葉を聞いた時には、俺はもう脱兎の如くその場から逃げ出していた。



「それにしてもよく逃げるのう。我としては、例え負けると分かっていても少しぐらいは勇ましい所を見せて欲しいんじゃがの。これではまるで弱い者虐めではないか」

「あら、私は弱い者を虐めているつもりはないわよ? ゴミを捨てやすいように小さく細切れにしようとしているだけ。ほんと、大きなゴミね」

「……まぁあんな願いを平気でしてくるんじゃから社会のゴミには違いないかもしれんの。じゃが、それにしてはぬしは随分と楽しんでおるように見えるのは気のせいか?」

「その言葉、そっくりそのままあなたに返してあげるわ。久しぶりに外へ出たのだから、私のこの気持ち、分からないあなたではない筈よ」

「そうじゃの。久しぶりの娑婆じゃ。ちぃとばかし空気は淀んでおるが、空がこんなにも綺麗に輝いとる姿を見るのは何十年ぶりか」

「なん……じゅうねん、だと?」



 聞き捨てならない言葉を聞いたため、俺は思わず立ち止まって振り返る。

 というよりも、逃げた先が袋小路であったため立ち止まざるをえなかった訳だが。


 どこかの誰か達の様に、壁があったら斬り壊せばいいとか、ジャンプして越えればいいという訳にはいかない。

 袋の鼠とされた俺の目の前に、仲良く立ち並んだ鬼二人が立ちはだかる。



「どうやら本気で死にたいようね、あなた」



 薄ら寒い笑みを浮かべたシェイニーが槍刀を振り上げる。

 間違いなくそこから繰り出される一撃は俺の命を狩り取るだろうと確信出来る、まるで必殺技でも放つかの様な構えをシェイニーは取った。


 まるで居合い斬りをするかの様な構え。

 下段から斬り上げる斬撃といった所か。



「やれやれ、これで終いとなるのは困るんじゃがのう。さて、どうしたものかの」



 そしてその横では、少し困った表情を浮かべたユフィの姿。

 トドメの一撃はシェイニーに譲るつもりなのか、ユフィは重そうな斧槍を肩に担いだまま攻撃姿勢を取る様な事は無かった。



「お主、少しぐらいは抵抗してみせてはくれんかの?」



 まるで懇願するかの様にユフィが言う。

 それに対し、俺は――。



「戯れる程度ならば兎も角、見惚れた女と死合う気はないな。俺は……例えその可能性が零であったとしても、絶対に御前達をこの手にかけたくない」



 そう言って、ユフィの申し出を拒絶した。



「くだらない自己満足ね。反吐が出る。綺麗な女だから殺したくない? 抱きたいと思うような良い女だから、殺すのは勿体ない? あなたの物言いだと、気に入った女の人以外なら誰でも平気で殺します、と言ってる様にしか聞こえないわね」



 すると、シェイニーの癇に障ってしまったのか、途端にシェイニーの機嫌が劇悪化した。



「それが私達に対するただの侮辱だって事にもあなたは気が付いているのかしら?」

「……やめよ、シェイニー」

「私はまだ良いわ。私はただあなたの様な人間の屑を殺したいだけだもの。でもそんな屑のあなたでも、隣にいるチビは死合いたいと望んでいる。その貧乳チビの思いすらもあなたは、ただちょっと容姿が気に入ったからというくだらない理由で拒否するの?」



 ……ユフィの機嫌も劇悪化した。

 理由は、まぁ言うまでもないだろう。



「……もう一度言う。やめよ、シェイニー。それぐらいにしておけ」

「いいえ、やめない。この屑の中の屑にちょっと言いたい事が出来たわ。だから殺す前に自分がどれだけ屑なのかを……どれだけ屑で、どれだけゴミ屑で、どれだけゴミ屑害虫なのかを教えたくなったわ。だからとめないで、ユフィ」

「いや、とめさせてもらうかの。つい先程まではぬしに譲ろうかと思っておったのじゃが、流石に気が変わってしもうた。じゃからとめさせてもらう」



 そう言ったユフィが、隣にいるシェイニーの方へとゆっくりと向き直る。

 まるで威嚇するように。


 それに対し、シェイニーが取った行動はというと。



「……そう。なら、私の気が変わらないうちにさっさと殺させてもらうわね」



 ユフィが何かをしてくる前に、俺を殺す事だった。


 構えたままずっと溜めていたシェイニーの必殺技が、俺の身へと襲いかかる。

 神速の如き一瞬で間合いを詰めたシェイニーが、下段に構えた槍刀を刹那の間に振り抜く。


 そして次の瞬間。

 周囲を取り囲んでいた石壁が、俺の身ごと綺麗に真っ二つへと斬り割れた。

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