第10回
「えーと、お前らが言ったとーり、多すぎんじゃねえかと思うくらい多い学校行事で校則をどうするかを決めるんだとさー」
「それで?」
佐藤先輩が返す。
「え、まだ説明必要?」
「当たり前だ!!」
風紀委員達の反応は皆同じであった。
「・・・・・定期テストや文化祭、体育祭、合唱祭、その他諸々。それらで競って、総合的に勝った数の多い方が勝利。勝利した方の考えの校則になるってさー」
木田先生はあからさまに不機嫌な顔と声色でそう言った。目で早く終わらせてくれ、早くもう1回寝させてくれと訴えている。
でも、そんなことさせまいと言わんばかりに、俺はふと思った疑問を投げかける。
「先生、生徒会と俺達の人数って釣り合ってないじゃないですか。どうやって競うんです?」
先生はそれを聞いた瞬間、俺をギロリと睨み付ける。そんなに寝たいんですか、先生・・・・。教師としてどうなのだろう・・。
「テストは風紀委員全員の、全教科の合計点の平均点。体育祭などは生徒会の人数と釣り合うよう、委員長と副委員長、1・2年の代表、あとの3人は先生達でくじ引きで勝手に決める」
「え、待てよ、てことは―――」
風紀委員の1人がそう言う。それに続いて、風紀委員が口々に言う。
「俺達、バカだから・・・・」
「テストの平均点が・・・・」
「終わったな・・・・・・・・・」
そう。
風紀委員会は、赤点常習者ばかりであった。
それに対し、生徒会は学年トップ10に入る人間が3人もいる。
「初戦は5月半ばの中間テストだ。ま、精々勉強して勝つんだな」
鼻で笑う木田先生。なんかイラッとくる。風紀委員会の顧問なのだから、応援とかしてもらえないのだろうか。
でも、赤点取る人だけしかいない訳ではない。
「委員長様、勉強教えてくださいませー!!」
「はは、よかろう、教えてやる!!俺が教えるから皆心配御無用!!」
佐藤先輩が皆に向かい、そう言った。
「委員長が教えてくれるなら安心だな!」
「ああ!」
外見から想像もつかないが、佐藤先輩は学年1、2の学力で、悪くても学年3位より下になったことはない。
ちなみに、俺は平均をちょっと上回るくらいである。
「生徒会が準備し始めているようだし、俺等も猛勉強して絶対勝つぞー!!」
「オー!!」
佐藤先輩の声に風紀委員全員が声を上げ、拳を天井に突き上げる。
「・・・オー!」
俺も拳を遅れて突き上げた。
委員会が終わり、ぞろぞろと風紀委員達は帰宅、あるいは部活動に合流していった。
廊下に出ると、西に傾いた太陽が、眩しい光をこちらに向かって放っていた。
思わず手で陽の光を遮断し、目を瞑った。
「お、優!」
俺の親友――――穂崎 翔平が声をかけてきた。
「あー、翔平・・・何であんなこと頼んでたんだ?」
「そんなの決まってるだろ!超貴重な、優の女装姿を俺のスマホに収めたいからだ!!」
「しっ、声デカい!」
人差し指を俺の口の前に立てる。誰かにこの会話を聞かれたくない。聞かれていたら、とんでもないことになる。特に、生徒会には。
周りに人がいないか、確認する。幸い人はいなかったので、話を再開する。
「・・・まさか、それを誰かにメールで送ったり、見せたりするつもりだった?」
「正直言うと、そのつもりだった」
「・・・・・・・」
危なかった・・・!消しといて本当によかった・・・!!
「話変わるけどさぁ・・・・」
「ん?」
突然翔平が話を変えてきた。
「現代社会のレポート、写さしてくんね?」
「・・・は!?!?」
「頼むよマジで!」
レポートの期限は明日だ。現在17時を過ぎている。今からやっても、量が多くて終わるのが厳しい。
「写したら絶対バレる!無理だって!!」
「そこを何とか!!一応用紙は持ってるから!」
・・・なんかこうしていると佐藤先輩と翔平って似てると思う。共通点が多い。あ、でも違うところもあるな。
例えば、こういう提出物。佐藤先輩の場合、遊んでばかりのはずだが、余裕をもって提出物を仕上げ、レポートなどの内容もとてもいい。一体どうやったらそうなるのか。
「頼む!なんか奢るからさあ!」
手を合わせ、頭を下げてきた。奢りは別にいらないが、放っとけないので
「・・・・・・・・・・協力するよ」
写させはしないが、協力はすることにした。
「マジ!?サンキュー!!」
よっしゃ!と言ってガッツポーズする翔平。呆れる俺。そこに、佐藤先輩が現れた。
「優ちゃ~ん・・・・・」
どんよりした雰囲気を身の周りに纏い、浮かない顔をしている。と言っても、シリアスな雰囲気ではなく、ギャグ漫画とかに出てきそうな感じだ。
「どうしたんですか佐藤先輩?」
「帰ろうとしたらさ~・・・・昇降口で美化委員長が包丁3本持って待ち構えてた・・・・・」
「!?!?!?」
忘れてた・・・。こうなると、無事に帰るのがとても厳しい。
「やっぱり怒りは俺だけに向けられてるみたいでさ、他の人達は平和に帰ってる・・・・」
「あの美化委員長マジ恐ろしいですよね~」
翔平も最近、美化委員長の怒りを買って散々な目に会っていたのであの恐ろしさを理解している。
「だからさ、学校の脱出方法を皆で考えよう!」
「そうですね・・・・」
俺も被害に会いたくないので、同意する。
「いいですけど、風紀委員長に交換条件があるんですよ!」
翔平はそう言った。何を言うかもう分かり切っているけど。
「?何?俺にできることならドンと来い!」
「現代社会のレポート手伝ってください!」
やっぱり。
「いいぜ♪快く引き受けよう!」
「ありがとうございまーす!」
「さ、レポート進めつつ方法考えるか!まず校内の図書館行こう!」
外はもう青に近い紫の空が広がり、赤に近い橙は太陽の周りにしかない。
校舎の周囲の葉桜の葉は成長途中。
学校にまだ残っているたくさんの生徒達。
そしてこんな感じのグダグダな俺達の日常。
普段と何1つ変わりない光景。
――――――けど、この日常の中で、これから何かが変わっていくような気がする。
『穂崎 翔平』・・・優介の親友。2年4組・風紀委員。169cm。性格は基本瑞生に似ているが、相違点もある。あと、御調子者。優介とは小学校からの仲であり、とても仲がいい。よく優介と遊んだり、勉強(但し常に優介が翔平に教えているだけ)したりしている。迷惑なことに、よく会話の中に割って入ってくる。