行商人
「ねぇ、本当に伊吹を見ていないの?」
沙夜は2人の言うことが信じられなかった。
いや、信じられるはずがなかった。
沙夜はあのとき確かに、伊吹の手を引いていたのだ。
その感触ははっきりと覚えている。
「ほんとだってば!ねぇ、千早?」
「うん、沙夜どうしちゃったの?」
2人にそういわれると、沙夜もだんだんと伊吹がいなかったように思えてきた。
いや、そもそもあの森の奥から人がでてくるわけがない。
祭り着の紐から千早の匂いを嗅ぎ取ることなどできないのだ。
でも・・・・・・。
黙り込んでしまった沙夜に少々困った様な顔をしながらも、咲夜が場の空気を変える様に明るい声で言った。
「今考えてても仕方ないよ!それより、今日はお祭りだよ?出店いこう!」
「そうよ、沙夜。行こう?」
沙夜も祭りの夜を伊吹のことだけを考えて過ごすよりも、そっちの方がいいと思った。
「うん、行こう!ごめんね、なんか」
「いいの!ほら、あっちに飴があるよ?」
飴はこの里では貴重品だ。
砂糖がまず手に入らないから、祭りのときだけくる行商人から買うしかない。
あの甘い味をはじめて食べたときから、沙夜は大好きになった。
3人は人混みを掻き分けるようにして進んでいった。
「飴、3つ」
咲夜が小銭を渡すと、人のよさそうな行商人は笑って飴を渡してくれた。
「お嬢さんたち、この里の子かい?」
「えぇ、そうです」
「じゃぁ、気をつけなさい」
「なにに?」
咲夜が不思議そうな顔をして尋ねた。
無理もない。
いきなり「気をつけなさい」と言われても何に気をつけたらいいのか、分からない。
沙夜も千早も反応は同じだった。
「この祭りの晩には、狐がでるんだ。毎年、狐に化かされた娘がでる。それは決まって、この里の娘なんだよ」
・・・・・・。
皆が黙り込んだ。
「ねぇ、おじさん。どんな風に化かされるの?」
沙夜は思い切って尋ねてみた。
「さぁ、わからない。ただ、俺は毎年ここにくるんだが、その度に化かされる娘がでるのでな。こうして、忠告してるんだよ」
「そう・・・・・・・」
そうこうしているうちに、飴屋の前には行列ができ初めていた。
「ごめんよ、お嬢さんたち。お客さんがいるのでな」
そう言われて3人は、その店の前をそっと離れた。
え~~~、今日は学校が休校なんで書いてみました。
ちょっと補足を。
この舞台は日本ではありません。
日本っぽいけれど、全然考え方も文化も違う場所です。
どこにあるのかもわかりません。
けれど、確かに存在する世界なんです。
それを踏まえたうえで読んでいただければ幸いです。