祭り着の紐
「沙夜の友が身に着けていたものはあるか?」
唐突に伊吹が問うてきた。
沙夜は少し戸惑ったが、すぐに祭り着の紐は咲音と千早とともに作ったものだと思い出した。
身に着けていたものでなくても・・・・・・いいのだろうか?
「ねぇ、一緒に作った紐・・・・・・でもいい?」
「それに、沙夜の友は触れたか?一瞬でもいい」
沙夜は懸命に紐を作っていたときのことを思い出していった。
4つの糸巻きがころころと耳に心地の良い音を立てている。
隣りでは不器用な咲音が真剣な顔で糸をまわしている。
その向こうでは千早が早くも作り終わろうとしていた。
沙夜がぼうっと物思いにふけりながら糸をまわしていると、糸どうしが絡まりあってしまった。
『千早、悪いんだけどほどいてもらえない?』
千早は3人の中で一番手先が器用だ。
千早が沙夜の紐に触れた―――。
「触ったわ!千早が・・・・・・。ほんの少しの間だけれど・・・・・・」
「友の名は千早と云うのだな」
伊吹はそう言うと、面越しに微笑んでみせた。
「沙夜、悪いがその紐少し俺に貸してはもらえないか?」
沙夜は悩んだ。
これは咲音と千早と作った大切な紐だ。
あって間もない伊吹に渡しても、大丈夫だろうか?
けれど、そんな不安は伊吹の微笑みを感じるとすぐに消えた。
沙夜は祭り着の腰に巻いていた紐を少しもたもたとしながらほどくと、伊吹に差し出した。
紐を受け取った伊吹は、それを鼻の辺りまで持っていくと、すぐに沙夜に返してくれた。
「うん、大丈夫だ。きちんと、沙夜意外のヒトの匂いがした」
匂い・・・・・・?
この紐に千早が触れたのはほんの僅かな時間だったはずだ。
そのときに千早の匂いがついたとしても、今まで残っているものなのだろうか?
そして第一、その微かな匂いを嗅ぎ取ることなど、できるのだろうか?
沙夜の中には疑問しかなかったが、再び伊吹が手を引いて歩き出したので沙夜もまた、人混みへと戻っていった。
はい、伊吹は犬かよ!?って自分でも突っ込みたくなりましたww