狐のお面
「魔ノモノがでる・・・・・・!」
沙夜は急に恐ろしくなってきた。
魔ノモノは皆の魂を奪っていく。
魂は天へはいけず、そのまま魔ノモノに食われてしまうのだ。
どうしよう、どうしよう・・・・・・!!
恐ろしさのあまり、足がすくんで動けない。
ザッザッザッ・・・・・・。
足音がする・・・・・・!
きっと魔ノモノだ・・・・・・。
沙夜は膝を抱え込み、ギュッと体を硬くした。
その間にも足音はどんどん近づいてくる。
沙夜はもう、生きた心地がしなかった。
魔ノモノに魂を奪われることは、なによりも人々が恐れていたことだったから。
沙夜の怖がるのも無理はなかったのだ。
ふいに足音が止まった。
トン。
肩をつつかれて、沙夜は飛び上がった。
「いやぁっ!!」
そう叫んで払いのけた手は、意外にも沙夜とそう変わらぬ年頃の子供の物のように思えた。
「え・・・・・・?」
「どうかしたのか?」
問うてきた子供の顔を見て、沙夜は絶句した。
その顔が、人間のものではなかったからだ。
「どうか、したのか?」
もう一度問われ、沙夜ははっと我に返った。
よくよく見ると、その顔は狐の面であった。
面と分かっても、沙夜はその子供が恐ろしくてならなかった。
こんな人気のない真っ暗な木立のなかを、あんなふうに躓きもせず、一定の速さで歩くことなどまず無理だからだ。
「名は、なんという」
「沙・・・・・・夜。沙夜」
やっとの思いでそう答えると、面の子供は沙夜へと手を差し伸べた。
「沙夜か、いい名だ。わたし・・・・・・いや、俺の名は伊吹という」
沙夜がためらいながらもその手をとると、伊吹は強く、けれど優しく握り返してきた。
「どうして、祭りの夜にこんなところにいる?」
沙夜は話そうかどうか迷ったが、その手の温もりに心が少しずつ温かくなってくるのがわかった。
「友達と・・・・・・はぐれちゃって・・・・・・。魔ノモノが・・・・・・怖くて動けなかったの・・・・・・」
切れ切れにそう話すと、伊吹はゆっくりとうなずいた。
「それはさぞかし恐ろしい思いをしただろう。けれど、友とはぐれたとて、決してこの森に一人で足を踏み入れてはいけない。沙夜の言う魔ノモノが、この森には住まうのだから」
沙夜は心底震え上がった。
もし、伊吹がきてくれなかったら・・・・・・!!
自分は魔ノモノに魂を食われていたかもしれない。
「さぁ、おいで。俺と一緒に沙夜の友を探そう」
「え・・・・・・?」
戸惑っている沙夜に伊吹はこう続けた。
「大丈夫、きっと見つかる」
「うん・・・・・・!」
沙夜は伊吹に手を引かれながら再び人の波へと足を踏み入れた。
新キャラ、ってはやっ!!
2人目の主人公、伊吹です。
お面の子ってただ顔が見えないだけなのに、なんとなく一線引いてしまいませんか?