魔ノモノ
「沙夜ー。こっちよ!」
待ち合わせの祭りの入口。
魔ノモノの住まうという森の入口に生えている木でつくられた、その時だけの門がある。
入口の木は、魔ノモノを森に封じ込めておいてくれるのだ。
魔ノモノを封じ込めておく程強い魔力がある木で作られたその門は、祭りの間中人々を魔ノモノから守ってくれるという言い伝えがある。
「ごめんね。仕度に手間取っちゃって」
「ま、いいわ。ほら行きましょ!今年こそ、いい人見つけなくちゃね」
咲夜に手を引かれ、祭りの雑踏の中へと足を踏み入れていく。
遠くから、カミへの祈りの唄が聞こえてくる。
時折響く、甲高い声はばば様のものだろう。
あちこちの店で物珍しい異国の品が売っている。
「ちょっと沙夜!お店見るのもいいけど、ね」
「わかってるってば。ちゃんといい人探せ、でしょ?」
いい人と言ってもなぁ・・・・・・。
沙夜は正直なところ、恋愛にはこと疎い。
好きな人など、できたこともないし、想われているわけでもない。
いい人を探せと言われても、困るのだ。
そうこうしているうちに、空気が変わった。
鬱蒼と茂る木々の匂い。
―――魔ノモノの住まう森の匂いだ。
「ちょ、咲音!駄目よ!」
「いいのよ。毎年、ここで密会があるんですって」
密会!?聞いていない、そんなこと。
「なによ密会って!?早く出よう?魔ノモノが住まう森なのよ?」
沙夜が焦ってそう言っても、咲音は聞く耳ももたない。
「大丈夫よ。年頃の男女が寄り集まって、お喋りするの。里長達も、黙認してくれているから」
そういう問題ではない。
魔ノモノの住まう森に長くいるなんてまっぴらだ。
「ねぇ、でも・・・・・・!」
「もう!なら沙夜だけ帰りなさいよ。私はいい人見つけたいの。そんなに奥まで入るわけじゃないんだし、大丈夫よ」
そう言うと咲音は一人で奥へと行ってしまった。
どうしよう・・・・・・。
この感じ、前にもあった。
そう、あれは確か―――。
「はぁ・・・・・・」
一人立ち尽くしていても仕方がない。
ここに一人で待っているのも嫌だし、帰ろう。
そう思って立ち上がったとき・・・・・・。
『ここで、なにをしている』
「え?」
『我の森で、なにをしている!』
まさか・・・・・・。
魔ノモノ!
気がつくと沙夜は走り出していた。
(どうしよう、どうしよう。魔ノモノが・・・・・・!)
一心に走るが、いつまでたっても森の外に出ない。
来るときはあんなにはやかったのに!
「痛っ!」
太い木の根に躓いて、転んでしまった。
『答えよ。我の森で何をしていた。今日は祭りのはずであろう。何をしていた』
お久しぶりです。
魔ノモノ、沙夜はどうなってしまうんでしょう。