リクエスト
-さてさて。リクエストですね。
たくさん来てますよ。
-まずは、岡崎市の、悩める男子高生さん。
「DJよっすぃーさん。こんばんは」
-こんばんは~。
「僕には隣のクラスに好きな子がいます」
-おお!
「好きになったのは、
一年前の春くらいなのですが、
隣のクラスということもあって、
何も言い出せないままに、
とうとう、今週末は卒業式になってしまいました」
-今週末って今週末ですか?(笑)
はがきのリクエストだと、
こういうことが起こりますね~。
えーと、消印が3日だから……、
5日の金曜が卒業式。先週末ですね!
えーと、それで?
「僕は、今まで告白などは
したことはないのですが、
どうやら、彼女は遠くの大学へ
行ってしまうらしいのです。
彼女に会えなくなってしまう前に、
なんとか気持ちを伝えたい」
-うんうん。わかる。そうだよな~。
「そこで、僕は勇気を振り絞って
手紙を書いたので、
明日の帰りに、彼女の下駄箱に入れるつもりです」
-なかなかこの、
下駄箱っていうのが古風でいいですね。
「卒業式の次の日に、
名古屋駅の時計の下で待ってます、と書きました。
彼女が来てくれるかとても心配です」
-卒業式の次の日ってことは……、
一昨日の土曜日ですね。
悩める男子高生さん。
彼女と会えたんでしょうか。
「来てくれるにしろ、
くれないにしろ、
思いを伝えることができたので、
それでとりあえずは、満足なのです。
でも、欲を言えば、
彼女が遠くへ行ってしまう前に、
直接会って、
”去年よりずっと、きれいになった”と
言いたいのです。
『なごり雪』は昔から知っている曲ですが、
この頃になって、
自分の身に照らし合わせてしまうせいか、
心に染みます」
-悩める男子高生さん。
高校生なのに、なんだか渋いところがありますね~。
結果はどうだったんでしょう。
気になるところです。
リクエストは、『なごり雪』。
今頃二人で聞いているといいですね。
~♪『なごり雪』流れる♪~
-いやあ、名曲ですねえ。
3月。別れの季節。
切なさいっぱいですね。
さてさて。次のリクエストにいきましょう。
えーっと、次は……。
豊田市の、あっちゃんさん。
「DJよっすぃーさん、こんばんは」
-こんばんは~
「今日、嬉しいことがあったので、
初めてリクエストを書いてしまいます」
-嬉しいこと。
何かなあ?
「今日の朝、うちのポストに、
手紙が入っていたんです。
それが、前から気になっている人からの
手紙だったんです」
-ほお~
「去年の春の球技大会で、
クラス対抗戦のドッジボールで、
私はボールを当てられて、
転んでしまったのですが、
私にボールを当てた男の子が、
後でとてもあわてて気にしてくれて、
保健室へ連れていこうかとか、
洗った方がいいとか、
すごく心配してくれたんです。
すごく悪いことをした、という顔をしていて、
なんだか子犬みたいな感じで、
いい子だなあ、と思いました。
でももうその子とは話す機会もなくて、
向こうも私のことを
忘れてしまったと思っていました。
でも、今朝、うちのポストに、
その人からの手紙が入っていました。
今日は卒業式です。
私は遠くの大学へ行ってしまいますが、
悲しくはないです。
明日、初めてのデートをします。
離れても、大丈夫ですよね?
私は大丈夫だと思っています」
-こちらは下駄箱ではなく、ポストに手紙ということで、
メールアドレスも知らない相手から
手紙が届くのはときめきますね。
リクエストは、キロロの『好きな人』。
どうぞっ!
~♪『好きな人』流れる♪~
-別れの歌でも、かなり前向きで
元気がでますね。
あっちゃんさんには
がんばってもらいたいものです。
さて。次が最後のリクエストになります。
豊田市の、ラジオネーム、
りらっくま次郎さん。
「DJよっすぃーさん、こんばんは」
-こんばんはー
「今日は、よっすぃーさんに
聞いてもらいたいことがあります」
-聞きますよ~。なんでしょうね。
「嬉しくもあり、
悲しくもあり、
でもやっぱり嬉しいことです。
今日、僕は失恋をしました。
告白もしていませんが、
失恋をしました。
でも、とても嬉しいのです」
-おっと。なんだか複雑だね。
僕の隣のクラスに、
クールだけど、根がまっすぐで、
目がきれいな奴がいます。
彼は、女の子に人気がありますが、
誰かを好きになったりは
しなさそうなクールな奴なんです。
僕はと言えば、彼とは正反対で、
運動神経もにぶいし、
人気なんて全然ありません。
そんな僕は、同じクラスの女子を
好きになってしまいました。
彼女をAさんとします。
Aさんはとても優しくて、
いい子です」
-りらっくま次郎くん。
先が読めないぞ。
えーっと、なかなか長いはがきだな……。
「去年の春の球技大会で、
ドッジボールをしました。
僕は運動神経がにぶいので、
真っ先に的にされます。
ただ、そのときは、
始めから外野で、
最後の方になって、やっと人を当てて
中に入りました。
中に入っているのは、
僕と、Aさんと、数人だけです。
案の定、僕が的にされました。
なんだか、隣の組の奴らは、
僕があわてて逃げ回っているのを見て、
面白がっているようなんです。
その、僕が前からかっこいいと思っていた奴も、
他の奴らと一緒になって、
何も思わずに、僕を的にしていたので、
僕は幻滅しました。
でも僕は、
Aさんも見ているし、
うちのクラスのために、
なりふり構わずにがんばって必死によけました。
そうしていたら、
どうしても逃げられないボールを、
あいつが投げてきました。
そのとき、バーンと音がして、
何が起こったのかと思ったら、
全然標的にされずに遠くにいたAさんが、
僕の前に飛び出してきていて、
ボールが脇腹にあたって、
勢いよくはねかえっていました。
Aさんは転んですりむきました。
「いったーい……」
あいつはびっくりした顔をしていました。
周りはみんなびっくりした顔をしていました。
僕ばっかりを的にして、
悪かったという気持ちになったらしくて、
みんなの顔がばつの悪い顔になりました。
でもAさんは
砂を払って立ち上がりながら
明るく言いました。
「あ~あ。取ろうと思ったんだけどなあ」
それは嘘です。
僕はそれを聞いて、
泣きたい気持ちになりました。
長いはがきですみません。
文章が下手ですみません。
卒業式の前日の話です。
僕は、あいつが、
Aさんの下駄箱に、
手紙を入れるのを見ました。
僕はショックでした。
僕は、彼女にあげるお菓子を用意していました。
もちろん、名前は書いていません。
どうしようかと思って、
気持ちが混乱して、
そこから離れられずにいました。
すると、Aさんが部活が終わって帰るようで、
友達と話しながら下駄箱を開けて、
そのまま、友達の方を向いて話しながら
靴を出して、
靴をはいて、
行ってしまいました。
あっちゃんは気づかなかったんです。
手紙が床に落ちていました。
そのままにしておけば、
誰かが拾って、
明日の卒業式には、
あのクールな奴が、
下駄箱に手紙なんかいれたぞ、と、
噂が広まるのに違いありません。
たぶん、奴は、
まっすぐできれいな目をして、
あんまり僕みたいな奴の気持ちが
分からなくて、
たぶん無防備に、
自分の名前なんかも、
中にはっきり書いてあるに違いないんです。
僕は、その手紙を拾いました。
僕は、自分の気持ちは、
伝えなくていいんです。
ここに、正々堂々とした、馬鹿な、
強くてかっこいい奴がいるから、
そいつの気持ちを、
あっちゃんに届けるんです。
あっちゃんの家は知っています。
昔からうちが近所なんです。
本当は、ずっと前から好きなんです。
長くなってすみません。
僕はどうしたらいいのか分からないけれど、
嬉しくて、悲しくて、
でもやっぱり嬉しいんです。
僕はあっちゃんをずっと見てきたから、
あっちゃんが誰を好きか知っているんです。
僕は今、うちでお菓子を食べています。
卒業して、あっちゃんになかなか
会えなくなってしまうのが
さびしいです。
リクエストをお願いします。
ビートルズの、She Loves You」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
2015.7.21 リクエスト≪後書き≫を、別の短編として投稿しました。
本編の解説と、簡単な執筆経緯を書いていますので、
興味のある方はぜひご覧になってください。
よろしくお願いします。