■2■ZERO
ZERO
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昏き月夜の下で、それはあまりにも唐突に訪れて右腕に喰らい付いていた。
「な……なんだ!?コイツッ!離れろ、離れろよぉっ!!」
え?喰われた?と、そう知覚したときには全てが遅かったのだが、どうやら痛みというのはダイレクトに繋がっているわけではないらしい。
「え……え…?なん、なんなんだこの生き物はっ!!」
恐怖と動揺が生み出すアドレナリンに満たされて痛覚を忘れている内に、首の部分を僅かに持っていかれていたことに気づく。
「くっ!?…がっ……はぁ……」
認識したとたんに痛みの奔流が脳へと突き刺さる。苦痛。
その激痛のあまり視界が歪み、意識が世界から急激に遠のいていく。
い…やだ……死…にたく…ない……リリィ…は…俺………が……殺…………────
視界と意識が世界から暗転した。
「あーあ、派手にやられてしもてるなぁ。手当てしてやるけどな、腕も何もかも治るけど、オマケがついとるさかいソレだけ了承してや?……聞こえとらへんかな?」
シルバーグレーのサングラスをかけた赤髪の青年はよっこらしょ、と彼を担ぎ上げる。
「……A-HA★見かけによらずこの子重いわっ!!どういう事やねんなっ!!近頃の子は着痩せする子が多いんかなァっ!?ホラ、やっぱり筋肉質★」
独り言をポロポロ、いや爆音のごとく零しながらその場を歩き去っていく。
テンションが高めな青年の背中には音符を模したイラストが刻印されていた。
それは、とある存在を狩りとる集団のシンボル。
一つの音を聴き入れないのならば、数多の音で塗りつぶせばいい。そう、それはまさに轟音の如き旋律。
彼らの名は──
ノイジィビート。
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