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2 スフィーリオ・パルヴィスについて

私スフィーリオ・パルヴィスはヴィヴァーチェ王国のパルヴィス子爵家の長女として生を受けた。

この国では長子であれば女性でも爵位を継ぐことができる。

しかし、政治は"男性が行うもの"という風潮が根強く、実際には養子を取ったりして男性が跡継ぎになることがほとんどである。

本来であれば私以外に子をもうけるべきなのだが、

政略結婚で結ばれた両親の仲は冷えきっていた。

さらに付け加えると、父は婿養子であり、母と結婚する前から愛人を囲っていた。

「スフィーリオ」という跡継ぎができてからというもの、父は愛人宅に入り浸り、屋敷に帰ってくることは殆どなかった。

そんな父だったからこそ、母は娘の私に厳しい教育を施したのだった。


「いいこと、スフィーリオ。いつ如何なる時でも完璧に振る舞いなさい。

貴女は唯一の、この家の跡取りなのだから。」

「はい、お母様。肝に命じておきます」


失敗したら鞭で打たれるし、辛かった。

けれど、それが母の愛情であることもきちんとわかっていた。

だからこそ、私も母の期待に答えるために淑女教育も政務の勉強にも力を入れた。




私が10歳の夏、母が病死した。

数年前から徐々に体が弱り初め、最期はベッドの上で静かに息を引き取った。

父は、葬儀にさえ姿を現さなかった。

数年単位で家に帰ってきていないから、ただ私が父を見つけられなかっただけかもしれないけれど。




母の葬式から3ヶ月後、突然父が帰ってきた。

仕事に追われる私に向かって、

あり得ない、

いえ、

ある意味予想していた言葉をかけてきた。


「昨日法務院に再婚手続の書類を提出してきた。1週間後、ロジェンナもこの屋敷で一緒に住む。お前の妹と弟もな。部屋の準備をしておけ」


実質的な領主として、父の動向は把握していた。

ロジェンナとは父の愛人の名前だ。

義妹と義弟の存在も知っていた。

だけど、これはあまりにも、


「お久しぶりでございます、お父様。

大変お元気そうで何よりです。

それにしても、ロジェンナ様たちもこちらに移り住むとは、些か急ではありませんか?」

「ふん、今は俺がこの家の領主だ。決定権は俺にあるる。黙って従え」


領主だと名乗るならば相応の仕事をして欲しいものである。

私のこの机の上(書類の山)が見えていないのだろうか?

とはいえ、今の私はまだ未成年であり、社会的にも、物理的にも父に勝ち目はない。


「一先ず了解いたしました。使用していない客室を急ぎ整えます。」

「不備がないようにな。

ああ、そうだ。当然ロジェンナは俺と同じ寝室を使う。"あれ"の使っていたものは全て処分しておけ」


この、男は………!

手に力が入る。


「っ………了解、いたしました」


まだ、牙を剥く時ではない。

人脈を作って、成人して、地盤を固めてから一気に叩いて追い出してやる!


こうして、新しい家族を迎え入れることになった。



義母ロジェンナは表面上優しく接してきたが、私を見る眼は明らかに疎ましい者を見るそれであった。

平民から子爵の妻に。その夢が叶ったなら、次に願うことなど容易に想像できる。

前妻の子どもが憎い、自分と血が繋がった子どもを跡継ぎにしたいというのは良くあることだと思う。


義妹アリスティーネは良く言えば天真爛漫、なのだろう。

淡い金髪に私よりも色の薄い碧の眼をしていて、風が吹けば拐われそうな、儚い見た目をしている。

それだけならば良かったが、彼女はよく他人の物、とりわけ私の物を欲しがった。

「このネックレス素敵ね!私も欲しいわ!

おねえさま、ゆずってください!」

「そのネックレスは私の母の形見なの。譲ることはできないわ」

「そう、なのね、ごめんなさい。あきらめるわ……」

と言って去っていった後、父がやって来て私からネックレスを奪い取っていった。

「心の狭い奴だな。そういうところはあの女そっくりだ。

お前は姉だろう!ネックレスくらい譲ってやれ!」

そうしたやり取りが数回あり、私の私物はどんどん減っていった。

あの子の物になってしまった装飾品類を、あの子が身に付けているところは一度として見なかった。


義弟ラウロは、私に対して常に申し訳なさそうにしていた。見た目は双子の妹であるアリスティーネとそっくりだが、性格は控えめなようだった。

アリスティーネが私の物を欲しがる度に彼女を諫めようとしていたが、圧しが強いアリスティーネには勝てず

いつも私に謝ってきた。

「ごめんなさい、あねうえ!」

「あなたは何もしていないのだから謝る必要はないわ」

「しかし、」

「必要以上に私にへりくだる必要もありません。

堂々となさい」


彼に対して悪い感情はないけれど、少し、どう接していいのかわからなかった。



王立学院に入学した15歳の冬、婚約者ができた。

相手はミケーレ・サンチェス侯爵子息。

次男との婚約とはいえ、本来なら身分が釣り合わない。

金銭的に苦しい侯爵家と貿易拡大のためにより高い地位とのコネクションが欲しい子爵家。

完全に政略的な結び付きであった。


ミケーレ様との顔合わせは、まあまあ上手くいったと思う。何度か手紙のやり取りも行い、学園でも緩やかに交流を続けていた。

相思相愛、とまではいかなくても、仲の良いパートナーとしてこれから付き合っていく。


そう思えたのは、3年生になる直前までのこと。


義妹と義弟が学院に入学してきた。


私とミケーレ様が一緒に昼食をとっている時、アリスティーネ達がやって来た。


「お姉さま、こんにちは!私たちもお昼を食べに来たのだけれど席が空いていなくて。

もしよろしければ、相席してもよろしいですか?」

「ごきげんよう、二人とも。ええ、よろしいですよ。

入学して間もなくはこの食堂を利用する生徒が多いですから。確かに席を探すのは大変でしょう」

「ありがとうございます、お姉さま!」

「では私が席をずれるから、」

「よろしければ俺の隣にどうぞ、アリスティーネ嬢」

「ミケーレ義兄さま、ではお隣失礼します!」


私がミケーレ様の隣に席をずらすよりも、ラウロが妹の行動を止めるよりも先に、ミケーレ様の勧めでアリスティーネが彼の隣に座った。


本来なら隣は婚約者の席である。

まあ、将来的には義理の兄妹となるのだから、と。


仕方ないと食事に集中し出した私は、ミケーレ様とアリスティーネの周りに漂う甘やかな空気に気づいていなかった。




3年生の秋、パルヴィス領内で水害が発生した。

本来ならば領主である父が対応にあたるべきなのだが、

家に帰ってきた8年前からまともに仕事をしたことはない。

領主の仕事はほぼ私と家令が行っていた。

この時もそう。

被害状況の把握と対応のために私は3ヶ月ほど、学院を休むことになった。



何とか領地の問題を納め、復学した。

そんな私を待ち受けていたのは同じ学院生たちの冷たい視線だった。

私を見ては「あの方が……」とか「………サンチェス様……酷いわね」と、何かを話していた。


訳のわからない状況に混乱する。

ただ、先程から「サンチェス」「アリスティーネ」という名前が聞こえてくるから、おそらく二人が何か関係しているのかもしない。

そう考えて二人を探そうとした、中庭のベンチに視線がいった。

ミケーレ様とアリスティーネがいる。

けれど、声はかけられなかった。

だって二人のかもす空気が、どう見たって恋人同士のそれで、




周囲から聞こえてくるから話を繋ぎ合わせると、

どうやら私は陰で義妹を虐める、いわゆる

"悪役令嬢"

にされたようだった。


私が不在の間、ミケーレ様とアリスティーネは堂々と二人で過ごしていたようで、悲劇の主人公宜しく

あることないこと、いえ、無いことばかり吹聴してまわったようだ。

弁明しようにも、話が広がりすぎてもう手遅れだった。

爵位が上のミケーレ様が言っていたこと、

義母が社交界で私の性格が悪いと噂を流していたことで、学院生はみんな私が悪役令嬢であると疑っていない。

ただ、教師たちは私の事情を知っていたため、味方になってくれた。

卒業するまで、あと少しの我慢。

そう自分に言い聞かせ、残りの学院生活を耐え抜いた。


ひたすら勉強に打ち込んだ、打ち込むしかできなかった成果として、私は首席で学院を卒業した。

本来ならば研究生として進学する予定だったが、

とてもじゃないけれど、これ以上は耐えられなかった。

私は研究生になることを諦め、領地経営に専念することにした。



家に居ても、心が安らぐことはなかった。

ミケーレ様は私との交流という名目で頻繁にアリスティーネに会いに来ていた。

使用人たちも、今ではすっかり人員が替わり、

今では義母の味方が殆どであった。


どこに居ても息苦しい。

心が苦しい。

私は何のために生きているのだろう。


目の前が真っ暗になる。

狭い、苦しい、怖い、死んでしまう、


そう思ったとき、後悔が押し寄せた。


本当は、研究生になりたかった。

領主としての勉強じゃなくて、もっと趣味の勉強を。

お料理もしてみたいし、

お洒落だってしてみたかった。


でもその前に、私は死ぬんだわ。




あれ、でも私本当に死ぬの?


助かったんじゃなかったっけ?


確か、お月様が助けてくれたような………



ああ、そうだ。これは夢だわ。



そう認識した途端、私の意識は一気に覚醒した。


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