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「『天使』だよ。」

「いや、正確にはその末裔か。」


「天使って…。師匠、どう言うことですか!それに、エクソシストである師匠が私たちの事を天使だなんて……。」


静寂を切り裂くようにセレナは言葉を発する。その瞳には、困惑と信じられないという感情が滲んでいた。


「セレナがそう思うのも無理はない。多くの宗教や神話において悪として語られる悪魔……人狼、そして吸血鬼が、神の使者である天使と同一であると信じるのは難しいだろう」


イグは煙草を指先で弄びながら続ける。


「だが、それが『教会』の見解とは大きく異なる。」


彼は言葉を区切り、煙草に火をつける。


「……。教会は魔物と人間の間に産まれた子供をエクソシストにしたのさ。その子供達は通常のエクソシストの力を大きく凌いだ。その力は『御業の再現』なんて生易しいものじゃない…『御業そのもの』だった。」

「魔物と人間の子供…?」


「あぁ、教会が作ったのさ……。人為的にな。」


セレナが驚きに言葉を失うが、イグは構わず続けた。


「その事実は、ごく一部の人物しか知らないがね」

イグは煙を吐き出しながら、淡々と語る。


「…近代末期の教会は追い込まれていた。エクソシストの死者は増えるばかりで、教会は追い詰められていた。焦った教会はエクソシストが魔物の力を使えればと考えたんだよ。そして、その目論見は的中した…彼は『半魔』と呼称され、戦況を一変させた。」


「そこからは圧倒的だった…。半魔を作成した教会は、総力を挙げて掃討作戦を決行した。君もよく知っているだろう、『聖戦』を」


「あれは、魔物が仕掛けた戦争じゃ…。」

「歴史は、勝った方が作るものさ。」


しばらくの沈黙の後、セレナはイグに質問した。


「今、半魔の人は…?」

「…彼らは短命だったよ。人の身で神と同じ力を扱うんだ。皆、悲惨な最期だったよ…。」


セレナは悲痛そうに顔を歪める。


「…話は大きく逸れたが、教会はこの事実から君たち魔物が神に近しい能力使える存在、『天使』の末裔だと推測している。」


「話は分かりました…けど、なんで今その話を?」


イグは本題に移前に、手に持っていた煙草を咥え火をつける。


「『半魔』は神の力を全て行使する事で負荷が掛かり、死んでいった…。では、力を一部行使し、負荷を軽くするには?」

「まさか…!」


セレナにある予測が立つ。だが、その予想はあまりにも深い、人の業を示していた。


「恐らく君の予想通りだろう…。魔物の一部を移植したのさ。血液、臓器そして”腕”なんかをね。今ではもちろん禁呪の類だ。」

「…じゃあ、あの目撃情報は?」


「白王であれば驚異的な嗅覚で、目撃者なんて残らなかっただろう。ということは、ローブの人物は人狼の腕を移植した聖職者で間違いない。」

「なら、アンドレ司祭の腕の包帯は…。」


イグはセレナの言葉に小さく頷く。

煙草を灰皿に置いたイグはセレナに何か言う。

「いいか、セレナ——。」


イグの声は低く、そして真剣だった。

「以上だ。明日、アンドレ司祭を訪ねるぞ。」



翌日、大聖堂のその部屋は、天井に描かれた、神が悪魔を罰する荘厳なフレスコ画が印象的だった。


イグとセレナは人気のないその部屋に招かれた。


「おはようございます、アンドレ司祭。」

「おはよう。イグナティウスさん。昨日は驚いたよ、内密に会いたいなんて……。」

アンドレは隣に立つセレナを怪しみながらも、笑顔で話しかける。

「隣の美しい女性と関係があるのかな?」


「いえ、彼女は弟子兼付き添いです。今日はアンドレ司祭に尋ねたいことが幾つかありまして。」

「ほぅ、尋ねたいことですか?」


「えぇ、それより今日は”お友達”はいないのですか?」

「”お友達”ですか…。はて何のことを仰ってるのか。」


イグとアンドレ司祭は互いに確信する。アンドレの表情から笑顔が消え、室内の空気は一気に凍りついた。


「とぼけるな、アンドレ司祭。いや、アンドレ。」


アンドレ司祭の後ろに控える、煌びやかな扉が開く。そこには、イグ達が戦った白王が立っていた。そのまま、アンドレ司祭の側に控える。


「どこまで知っているか、聞いても?」

(このエセ神父!どこまで知っている!)

アンドレ司祭は内心焦りながらも、鋭い目でイグを睨みつける。


イグは煙草に火をつけ、アンドレ司祭に語りかける


「ルネ司祭は実力も人望も厚い。お前一人では、とても司教選では勝てず、敗選していただろう。そんなお前は敗北の未来を受け入れられず最悪の手段に手を染めた…。」


イグは煙を吐き出し、アンドレをまっすぐ見つめる。


「お前は、どこで知ったか知らないが『白王』に協力を求めた。奴の住処を黙認し、捜査を遅らせ、隠蔽することを対価に、ルネ司祭を始末してもらうといったところだろう。」


アンドレは何も答えず、ただ憎々しげにイグを睨みつける。


「だが、お前はそれだけでは満足しなかった。司教になり、さらに上の『教皇』を目指すには、自身の実力が足りないと悟った。だから、お前は人狼の力を欲した。」


イグの言葉に、アンドレの顔がわずかに歪む。


「お前は白王にかつて仕えていた人狼たちを殺し、腕が適合するまで何度も移植を繰り返した。そして、その力を試すために、街の人間を襲った。ローブ姿で、人狼の腕をむき出しにして……」


アンドレの苦悶の表情が、イグの言葉が真実である事を物語っていた。

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