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「……人狼の詳細を教えてくれるか。」


カミーユは端末を取り出し、画面を見ながら人狼についての情報を伝えた。


「ヴァンセンヌの森を中心とした半径100km圏内で、顔や喉を大きく噛みちぎられた犠牲者が確認されているだけで100名、未確認のケースを含めれば

150名以上にのぼります。」

「…最初の犠牲者はいつ発見された?」


イグの問いに、カミーユは即座に答えた。


「3ヶ月前です。」


「異常な頻度だな。人狼は一匹だと聞いているが?」


「はい。歯形やご遺体に付着していた毛をDNA鑑定した結果、確認されたのは一匹のみです。それに加えて、教会関係者の目撃情報があり一匹だけだと証言しています。」


「目撃者?」


イグは眉を少し上げ、少し驚いたように聞き返す

すると、エマがこちらを見つめながら口を開いた。


「アンドレ司祭とルネ司祭。二人は、人狼が男性の首を噛みちぎる場面を直接目撃し、交戦してるわ。ただ……奴は下水道を使い逃走したの。」 


「司祭クラスが二人いて、逃げ延びるか…。かなり手強いな。」


カミーユは端末から目を外しイグに問いかける。


「お二人からお話をお伺いしたいのであれば、こちらで予定を合わせますが…?」


「わかった、近いうちに頼むと思う。」


エマは背を向けたイグに声をかける。


「どこに行くの?」


「聞きたい話は聞けた。あとは――俺のやり方で動くだけだ。」



エマは去っていくイグの背中をしばらく見つめ、唇を噛んだ。カミーユが「また始まるぞ」と小さく息を漏らすと、彼女は急に声を上げる。


「……ねぇ!私、イグの前で変なこと言ってなかった!?突然だったし、久しぶりだったし……本当に

心臓止まるかと思った!でも……悪くなかったよね?ちゃんと会話できてたよね!?」


目を輝かせながらまくしたてる姉に、カミーユは肩をすくめた。

「…うん。…いつも通り。厳格な姉さんだったよ…」


「いつも通りって何よ! もっとこう、再会を喜んでいる風に見えてなかった!? 彼、私がまだ教会に戻ることを諦めていないって思ってくれたかな!?」


エマは自分の髪が少し乱れていることに気づき、乱暴に直した。その瞳は興奮と、わずかな後悔で揺れている。


「姉さん、落ち着いて。イグさんは僕たちのことをよく見てくれているよ。姉さんが必死で、教会に忠実であろうとしていることも、きっと理解してくれている。」


「そ、そうかな……」


エマは顔を赤くし、カミーユの言葉に少し安堵したように見えた。ただ、目を節目がちに小さく呟いた。


「……ねぇ、イグ……教会に帰ってこないかな。」


カミーユも姉と同じ気持ちだったがそれが叶わない事を二人は”あの時”から理解している。沈黙が漂うなか和ませるようにカミーユが姉に苦言を呈する。


「イグさんに帰ってきて欲しいなら……姉さん、

もうちょっと頑張らなきゃね…。」


「えっ、どういうこと?カミーユ?」


「そういうところを……。」


「?」


エマは頭を抱えながら考える。

カミーユは姉の恋路が前途多難なことを改めて悟った。



イグはヴァンセンヌの森を出ると、即座に裏路地に入る。


「セレナ、出てきてくれ。」


イグの影からセレナが顔を出し、音も立てず着地する。

そのまま歩きながら二人は会話する。


「話は聞いていたな?この頻度の高さから今夜にも、新たな犠牲者が出る可能性がある。被害者が襲われた場所から傾向を求め、そこで張るぞ。」


「はい、ホテルに帰ったらすぐに支度します。」


「いや、その前に昼食にしよう。せっかくのフランスだ。美味しいガレットを出す店を知っている。」


そう言うと、足早に路地を抜け目的の店へ向かった。


香ばしい焼き上がりの匂いを立てながら、ガレットがテーブルに置かれた。セレナは品のあるナイフ捌きでガレットを切り分け、口に運ぶ。


「…!、すごく美味しいです。そば粉とバターの風味が相性バッチリですね、師匠!」


「ここは、教会に所属していた時によく来た店でな。礼拝の際はあの姉弟とよく来ていた。」


セレナとイグが食事を終え、コーヒーをゆったりと飲んでいる時に、セレナはイグに質問した。


「師匠って、…エマさん?と…カミーユさん?と、教会に所属していた時はどんな関わりがあったんですか?」


「そうだな…、あの姉弟とはエクソシストになるための修行を共にした仲だ。カミーユはロレンツォの弟子で、エマは俺と同じ先生に支持していた。」


「ロレンツォさんですか、前に師匠の影に潜んでいた時にバレるかと思ってヒヤヒヤしました…」

セレナは過去のことを思い出す。

「それより、師匠の師匠ですか?、どんな人だったんですか?」


イグは昔を思い出すかのように考え、懐かしむように話す。


「ふっ…、とんでもない人だった。『汝、隣人を愛せ』を、地でいく人で随分振り回された。善人、悪人全ての人に許しを与えるような人で敵が多く、苦労させられた。」


セレナは知っている。師匠は『先生』の話をする時、毎回悪態を吐くが、顔は優しく、懐かしむような顔をすることを。


セレナが生暖かく見ていることに気づきいたイグは、気を取り直すように煙草を取り出して吸い始める。


「……。そろそろ人狼狩りの準備を始めよう。」


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