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「はぁ、はぁ…っ。」


夜のローマ。防犯カメラのレンズが煌々と光る

大通りを避け細い路地の奥へと身を隠すように駆けていた。


いや、男のような”何か”は駆けていた。

肌は死人のように白く、眼は濁った血の色をしていた。


(クソ、クソなんだあいつは…!)

(俺は完璧にやれていたのに…!)


数分前の出来事を思い出し、悪態を吐きながら人間離れした脚力で路地を右へ左へと走り抜ける。



—男は賢かった。


悪魔に魅入られ契約したあの日から、血と肉を貪り多くを殺した。だが、その行動は無秩序ではなく常に冷静に計画を立てていた。


『住処の近くでは獲物を選ばない』

『痕跡を残さず、女や子供を狙いリスクを減らす』


今回もこの条件に当てはまる獲物を見つけた。

—見つけた”はず”だった。


その女は異様なほど美しかった。


背中にまで伸びる金糸のような髪。

陶器のように白い肌、それとは対照的な真紅の瞳。


一瞬、男の体は硬直した。


気を取り直し、背後から忍び寄り、錆びついた古ぼけたナイフを大きく振りかぶる。

逃げられぬよう女の膝裏を薙ぐと、女は崩れ落ち苦悶に呻いた。


男はその姿にさらに昂ぶり、仰向けにした女に馬乗りになって刃を突き立てる。腹、胸、そしてまた腹。


何度も、何度も。


女が血に塗れ動かなくなると、ようやく男は手を止めた。


「しまった…我慢できずに殺してしまった…」


生きたまま嬲り、苦悶の表情を楽しむはずだった。

自らの浅ましさに舌打ちしつつも、なお女の“特別さ”に心を奪われる。


(普通なら川にでも投げ捨てて住処に帰るが…これほどの獲物となると…)


「住処に持ち帰って…楽しむか…?」


独り言を呟いたその時だった


—「それは困る、彼女をこちらに渡してくれないか……。 ”悪魔憑き”。」


背後から響いた声に、男は飛び上がるように振り返った。そこには長身の男が、静かに立っていた。


黒いスーツを見に纏い、首からロザリオを下げている。聖職者を思わせる面立ちだが、その背には自身の身の丈ほどはある古めかしい銃を背負ってた。


次の瞬間、スーツの男は背中にある銃を即座に構え、発砲した。


警戒していたこともあり、弾丸をギリギリで避けた”悪魔憑き”は反撃のため一足で距離を詰める。

古びたナイフで首を狙うが片手で容易く捌かれ、逆にスーツの男が腰から抜いた銀のナイフで腹を刺されていた。


スーツの男はトドメを刺さんと、突き立てた刃を引き抜き心臓へと狙いを移す。

だが悪魔憑きは傷口から溢れた血を掴み、目へと叩きつけた。


一瞬の隙に、悪魔憑きは必死にその場を逃げ去る。



——そして冒頭に至る。


後方から銃声がすると同時に、横に着弾し壁が砕ける。破片が頬を裂き顔を歪める。スーツの男は、一発、また一発と確実に悪魔憑きの行く手を塞ぐように壁を撃ち抜き、逃げ道を狭めていた。


しかし、悪魔憑きは口元を微かに緩ませていた。


(最初の腹の傷は痛いが、まだ致命傷じゃない!

 それに、後少しで大通りだ。適当なやつを人質に

 逃げ切ってやる!)


「セレナ頼む。」


スーツの男が背後で何か言うと同時に、目の前に”殺したはずの女”が降ってきた。セレナと呼ばれた女の腹に傷はなくなっていた。そして、彼女の背後から大量の蝙蝠が現れこちらに向かってくる。


「何でお前が…⁉︎これは吸血鬼の…」


悪魔憑きが言葉を言い終わる前に蝙蝠の群れに包まれ、群れが散った後には瀕死になっており、掠れた声で問いかける。


「あぁ…くそ、俺の血が…。」

「…なぜ…吸血鬼とエクソシストが…一緒にいる…?」


「師匠、どうしますか?」


“師匠”と呼ばれたスーツの男、”イグ”は何も言わず悪魔憑きに近づき額に照準を合わせた。銃声が響き、男は絶命した。


イグはセレナに諭すように低い声で告げた。


「街中で魔術を使うなと言っているだろう。教会の奴らに見つかったら、地の果てまで追われるぞ?」


セレナは視線を逸らし、バツが悪そうに小さく答える。


「……すみません。相手が急にこっちに来て慌てて…」


イグは短く息を吐いた。

「……まぁ仕方ない。帰ったら課題を追加だ」


「うぅ……分かりました……」

セレナは肩を落とし、しょんぼりとうなずいた。

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