00 前触れ
後から付け足した話です。
ある日の夜、夢を見た。
氷で覆われた皇宮。身を刺すような冷気に包まれる皇都。
これまで経験した事のない程の寒さに凍える国民を見下ろすのは、“氷の悪女”リーチェ・シルベスター。
「あ、」
白銀の髪が風に舞い、彼女の赤い唇は弧を描く。更に魔力が研ぎ澄まされる。
「やっと来たのね。見て、キリアン。雪だわ。」
「…」
彼女の後ろに現れたのは皇帝であり、彼女の夫、キリアン・シルベスターだった。鎧を身につけ、腰には剣を携えている。
「…何故皇太后を殺した。」
「…」
「あの人は、お前を娘のように可愛がっていた。お前だって本当の母のように慕っていたじゃないか。」
「…さぁ、どうしてかしら。」
「…俺にはお前がそんなことをしたようには思えない。」
「あら、意外ね。貴方だって私を、義母を簡単に殺せるような悪女だと思っている筈なのに。」
「ただ一言、『やっていない』と言え。俺は…」
「言ったって信じない癖に!!」
リーチェは叫んだ。彼女自身の体に霜が降り始め、それで彼女の感情の昂りが見て取れる。
「ねぇ、私が本当の事を話したとして貴方はそれを信じてくれる?信じられる?私は、貴方が信じてくれる事を信じられないわよ!!」
青い瞳から涙が溢れ出るが、直ぐに凍って地面で割れた。降り始めた雪はいつの間にか吹雪として吹き荒れている。
「こうするしか無かったの。誰も信じてくれないから。」
「…信じたよ。」
皇帝は、一歩女に近付いた。その顔は悲しみに歪められている。
「俺は信じれたんだ、リーチェ…お前が言う事なら全て。」
女は男の腰から剣を抜き取り、彼の手に握らせた。
「…なら、貴方の手で終わらせて。」
今覚えばこの夢は、前触れだったのかもしれない。