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監視対象コード:ROUTE

本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。


一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。


「ですから!是非ともよろしくお願いしますね!」


「はいはい、分かったから帰んなよ。

 お前の匂いつけていくと警戒されるから」


鼻息の荒い研究員を押しのけながら、今日の仕事先である監視対象の元へと少し急ぐ。時間が過ぎている。あの監視対象は気にしないだろうが遅刻となると『博士』が五月蝿い。


全く、どうせ残業になるんだから少しの遅刻くらい許してくれたっていいのに、頭の硬いやつだ。だから飲み会に誘われないのだ。いや、アイツの行っている飲み会に私が行ってないだけなのかもしれないけれど。そんなことはどうだってよくて。…まずいな、寝不足だからか頭が回らない。このまま報告の時に言葉が乱れたら大変だ。


「職員コード『監視人』、業務を始めます」


まぁ、そんなことどうでもいいか。


* * *


「あ、来たんだ」


「遅くなってごめんねルート」


確認

監視対象コード:ROUTE-1

    危険度:Unknown

    友好度:Low


見た目は白い髪、赤い瞳の少年で、恐らく小等部の学生くらい、身長は私の3分の2ほど。その姿には、人の耳ではなく猫の耳が付いている。音に敏感で騒がしい場所や人間を嫌う。いつもぼんやりしているが、本人曰く「考え事をしている」らしい(この発言の信憑性は低いと思われる)。


基本的に表情は変わらない無愛想な子供であり、発言も辛辣な為好みが分かれる。研究員の中には熱心なファンがおり、彼の調査の仕事を任されると「彼の一部を持ってきて欲しい」と要求されることもしばしばある。


「別にいいよ、待ってなかったし。

 アンタが来なかったら、寝る時間が増えるだけ」


要約、つまり私が来ている間は話をしてくれる、ということだろう。ツンデレ、というのはこういうものなのかもしれない。上層部に判断を委ねる。


「私はルートに会いたかったよ。

 いつもみたいにブラッシングさせてくれる?」


「…また僕の毛を持っていくの?」


思惑がバレている、が、特に問題はなし。


「うん、君の熱心なファンから頼まれた」


虚偽申告の必要はありません。ROUTE-1はこの事実を理解しており、自分の価値もよくわかっているそうだ。嫌な顔はするが特に拒絶したりすることは無い。接触確認、床に座る私の膝にROUTE-1の頭を乗せます。所謂膝枕です。


「それがアンタの為になるなら、別にいいよ」


ROUTE-1からの承諾を確認。ブラッシング行為と並行して猫耳からの毛の採取を行う。


「今日もふわふわだね」


「毛繕いはアンタがしてくれるから」


「自分や、他の職員には?」


「僕はしない、他のやつに触らせるのもヤダ」


当方の好感度は思ったよりも高いらしい。ブラシを置いて、揉むように耳に触れても拒絶されない。触り心地は、ふわふわとした被毛が心地よく、厚さの薄い耳はいつまでも触っていられそうなくらいに最高だ。特に猫が好きな訳では無いがこれならば飼いたいと思う。


「撫でるのが好きなの?ふーん。

 別にいいんじゃない、アンタにだけ特別」


追記:ROUTE-1からの『特別』を取得。


『特別』を取得することでこれからの作業の効率化が可能。また、ROUTE-1は大変珍しい猫型亜種の元素生物であるためこれからの研究が捗るだろう。


_にゃーん


確認

監視対象コード:ROUTE(Original)

    危険度:Unknown

    友好度:Low


ROUTE(Original)は猫型の元素生物である。真っ白な体毛に赤い瞳、尻尾は二つに分かれている。東洋では『猫又』と呼ばれるらしいが、本施設では『猫型亜種』と簡易的に分類されている。監視対象も異論は無いらしく、特に呼び方について何かを言われたことは無い。


「オリジナルまで来たの?ほら、おいで」


「…僕のこと、他の野良猫と同じだと思ってる?」


「思ってないよ、ルートは私にとっても特別だよ」


「ふうん」


虚偽申告ではありません。業務の行いやすさ、及び扱いやすさについて当方は彼を特別視しています。


「触っていいよ、毛、研究するんでしょ?」


ROUTE-1の感情度の高揚を確認。


「うん、触らせてもらうね」


…もふもふです。


_もっと細かに説明してください。


了解。

触り心地は耳と同じく豊かな被毛に包まれていてとても撫でやすい。肉付きは薄らとしていますがそれなりに脂肪と思われるもちもちした部分が確認できる。また、毛は柔らかく、とても触り心地がいい。長毛種であるからか毛の絡まった部分もあるためブラッシングを行う。


「あー、そこそこ、上手じゃん」


「お気に召したようでなによりだよ」


「…あのさぁ、言っておくけど」


ROUTE-1からの接触、ブラシを持つ方と逆の左手。それを揉むように、撫でるように触れてきています。ROUTE(Original)も腰の辺りにすり寄ってきています。


「アンタだから、許してるんだよ?

 ねぇ、そこをちゃんと理解しておいてね」


理解、不可能。どれだけ愛情表現をされようと、当方と監視対象は決して相容れぬ存在であり、当方がROUTE-1及びOriginalに抱く感情は愛玩動物に抱くものと同じです。故に理解は決して出来ません。次の発言に虚偽申告を混ぜることを許可してください。


_許可します。


確認。


「私も、ルートのことが大好きだよ。

 傷付けたくないから、これからもいい子にしててね」


こちらからの頭部への接触に気持ちよさそうに目を細めるROUTE-1は納得したようだ。


「いいよ、僕も、アンタと離れたくないから」


懐柔成功。


今日の業務は終了、以降からケアを始めます。ケア時は監視対象の気を緩ませるために通信機器の電源をオフにします。緊急時の連絡の際は館内放送で。




《通信終了》


-----


チャック付きの袋に入れたROUTEの毛を差し出せば、朝鬱陶しく絡んできた研究員は至極嬉しそうにしている。


「これで良かったわけ?」


「そりゃもう!ばっちりです!」


何に使うのか知らないし、なんならただのコレクションかもしれないが、私にはどうだっていい話だ。これで若干上乗せされる給料で美味しいお酒を飲もう。それくらいしかこの生活に楽しみはないのだから。


「それにしても、監視人は羨ましいですねぇ。

 あの人嫌いのROUTEに気に入られるなんて」


ここが研究室でなかったらタバコを吸っているところだ。じゃないとこの胸の中の苛立ちはどうしようもない。


「好かれているからなんだってんだ。

 こっちはいい迷惑だよ、異能種の相手なんざ」


それは本心だった。


「でも、『殺す側』から『管理する側』になった、ということは愛着が湧いた監視対象でも居たんじゃないんですか?」


「馬鹿言え、割に合わなくなっただけだ」


まさかあんな化け物共を好きになるなんて、有り得るわけが無い。愛着ひとつで身を滅ぼしてきた同僚を星の数ほど知っているのだ、今更そんなこと言えるわけもない。


「こんな依頼は二度とするなよ『研究者』」


「…はぁ、全く冷たいですね『監視人』」


好きに言え、と踵を返した。








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