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監視対象コード:RAIN

本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。


一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。

ノックは4回、それから「職員コード『監視人』だ」と声をかけて返事を待つ。暫くしたら、若い男の声で「入れ」と告げられるので待たせないように直ぐに入る。


というのが、この収容区域での決まりである。


「(全く、格式ばってて疲れるな。

  だがまぁここの監視対象はやりやすいからいいか)」


他の職員にはもっと色々な制約や決まり事があるらしいが、なぜか私だけ上記の決まりしかない。労力を厭わず少しずつ懐に入り込んで懐柔した甲斐があるというものだ。だからと言って特別扱いがいいものであるかと問われれば首を傾げるような相手ではあるが。いつか『博士』が言っていたようにまともな監視対象なんて居ないのだ。


WITHERの件以降複雑化し、セキュリティも強化されたインカムを付けて、いつも通り心の準備をする。


「(生きてりゃ儲けもん、生きてりゃ儲けもんだ)」


死ぬこと前提のこの仕事では、こうやって複数の監視対象と触れ合っておいて生きていること自体が奇跡のようなものなのだから。その奇跡が続くよう願うしかない。


「さ、業務をはじめよう」


ぼそりと呟いて気を引き締めた。


* * *


「監視人、もう食事は終わった」


「は、はは、早いね、すごく助かるよ」


確認

監視対象コード:RAIN-1

    危険度:Low

    友好度:Low


RAIN-1の見た目は青い髪、蒼い瞳の長身の鋭い美しさを持った成人型の男である。鋭利な刃物のような男であり、一見して取っ付き辛いが懐に入れたものには甘い。群れの意識が強く、なぜか当方も彼の群れに入っていると認識されている。


この施設では珍しく『仕事』を行う監視対象であり、その仕事は『不必要になった監視対象の捕食』である。雑食の本質が強いRAIN-1は食べることに関して圧倒的なポテンシャルを保持しており、対個人戦で言えばWITHERと同程度の力があると確認されている。故に、RAIN-1の部屋に不必要個体を押し込み捕食させることで処分及びRAIN-1の強化も行える。


「おら、これをくれてやる」


確認、RAIN-1からの【贈りもの】を受け取りました。先程捕食させた監視対象の一部と思われる鼠色の少し硬い物体の処理を上層部に問います。


_…、後でこちらで処分します。

_受け取っておいてください。


了解。


「ありがとう」


「お前は小さい、もっと大きくなれ」


私はこれでも人年齢25だが、元素生物達からしてみれば子供なのかもしれない。だからと言って同じものを食べれば人間ではなくなりそうなのでその提案は却下します。RAIN-1が当方の事を子供だと思っていることを確認しました。


「それで、レイン、っ!?」


敵意を確認、RAIN-1による攻撃、…、いえ、突発的な行動を確認しました。現在私は襲われている状態であり、マウントを取るように押し倒され上にのられています。RAIN-1の情報は未だ更新中であり、先程の捕食行為によりどんな進化をしたか確認が取れるまで応援は危険です。もう暫く様子を見ることを推奨。もしもの時のために攻撃許可を。


_攻撃は極力控えてください。


…確認。


「レイン、レイン、落ち着いて、どうしたの?」


「この毛はなんだ、今までどこにいた」


…、RAIN-1が私の作業着から回収した毛は、先程まで接触作業を行っていたPLAYのものであることが確認できました。これはこちらの不手際であり、仲間意識の強いRAIN-1が怒るのも無理はない話です。


「ごめんね、さっきまで別の子の所にいて」


「…っち、おい、俺のところに来る前は、

 俺との仕事がある日は他のやつと会うな、いいな」


確認します、もちろんそんな事は出来ないため、今この場だけでの虚偽申告を許可してください。


_許可します。


「わかった、ごめんね。もうしないよ」


_がぁ!


「っひ、」


確認

監視対象コード:RAIN(Original)

    危険度:High

    友好度:Low


区域の奥に居るはずのRAIN(Original)の姿を確認しました。ARTS(Original)、EAT(Original)程ではありませんが、成人男性一人分はある大きなカラスの姿をしています。その足は刃物のように鋭い爪を持っており、攻撃されれば何も抵抗できないまま殺されてしまうでしょう。


またRAIN(Original)が姿を現すのは施設情報から確認すると約1年と少しぶりであり、今回の接触の記録情報はこれからの研究に役立つと思われる。


「次から気を付けろ」


「、うん」


「そう怖がるな、酷いことはしない。

 お前は俺の番 (つがい)になるんだ。

 俺は、番には優しくしたい」


RAIN-1からの接触確認、頬に触れられている。抵抗したり、その言葉を拒絶すれば攻撃されると思われる。


この場だけでも受け入れることを選択。


「れ、レインが、もっと偉くなったら、迎えに来てね」


この発言はRAIN-1を宥めるための虚言であり、上層部に対する反抗心、及びRAIN(Original)、RAIN-1、に対する脱走の進言ではありません。


「…じゃあ、仕事をもっと増やせ。

 もっと俺に食わせろ、

 もっと沢山、さっさと俺を強くしろ」


確認、RAIN-1の要求を受け入れますか?


_拒否、誤魔化してください。


では再びこの場限りの虚偽申告を行います。


「わかった、だから早く強くなってね。

 ずっと待ってるから、信じてるから、ね?」


RAIN-1の感情度向上を確認、誤魔化せた可能性大。接触を行いましたが、拒絶されない。RAIN(Original)の鉤爪が肩にくい込んで少し痛い。恐怖を悟られないよう、浅く息をして呼吸を整える。触れたRAIN-1の髪は思ったより固くない。


「大好きだよ、レイン。

 だからもっと強くなってね、

 私の事、番にしてね」


「あぁ」


現在からRAIN-1のケア行動に移ります。通信機器をオフにするため、これからの連絡は館内放送にてお願いします。





《通信終了》


-----



「で、どうだった?」


「くっっっそ、怖かった…」


まだ痛む。

ずきずきと、掴まれた肩にはくっきりと跡がついていて、冗談ではなく生命の危機であった事実がくっきり残っている。まだ心臓が嫌な音を立てていた。


「痛い、治療室行く…」


『飼育員』が「ドンマイ」と渡してくる缶コーヒーを受け取って、その場でごくごくと飲み干してやった。


「次こそ死ぬ、次こそ殺される」


そんなことを言ったって、精神科医を紹介されるだけなんだろうけれど。今はそんなことなんて知らない、ただ死にたくないと呟いた。体に刻まれた恐怖はそう簡単に消えない。作業着を脱いだ後はどうしたって震えが止まらなくなって、どうしたって逃げ出したくなる。…そんなこと言ったって逃げる場所なんてないんだけれども。


「仕事、辞めるか?」


『飼育員』の気遣わしげな視線に、ため息。


「いや、逃げないさ」


そう言うしか、己にはないのだから。





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