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交流実験記録-1

本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。


一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。


頭が痛くなる光景が目の前に拡がっている。


「わー!!こ、っ来ないで!食べないで!!」


「誰も君みたいな美味しくなさそうなの食べないよ」


「助けて監視人!!」


「ねぇ、俺の監視人に近付きすぎじゃない?」


腰にまとわりつき、悲鳴をあげているEAT-1。それにウンザリしたような顔をしながら受け流すARTS-1。なんとも真逆な2体だ。これらを合わせようだなんて思った最初の人間は恐らく2体をよく知らない研究員だろう。でければ、見るからに相性が悪そうなこの2体と私を3人きりにするなんてそんな非道なことは思いつかないだろう。


_監視人、仕事をしてください。


嘘だろ、?

いや、やるしかないのか…。


「職員コード『監視人』、業務を開始します」


* * *


「あ、っあんたの、アンタのだけじゃないだろ!」


「いいや俺のだね」


確認

監視対象コード:EAT-1

    危険度:Low

    友好度:unknown


続いて確認

監視対象コード:ARTS-1

    危険度:High

    友好度:Unknown


いがみ合う2体に挟まれている。また、2体ともOriginalとは切り離されてこの研究室に連れてこられている。EAT-1は拒んだが、当方が常に一緒にいることを条件として連れてくることに成功した。ARTS-1も同様である。


「か、監視人〜、」


「ねぇ、近いんだってさっきから」


仲介が最優先される。


「大丈夫だよ、イート。落ち着いて、アーツ。

 2人共、取り敢えず自己紹介しようか。

 今日は何かをする訳では無いから、ね?」


背中に隠れているEATはARTSとの対面を嫌がっているようだったのでソファに共に座り、頭を撫でながらケアをする。ARTSの視線は痛いが、ちょうどよくに煽れている可能性が高い。ARTSは優位に立つことが上手い個体であるため、こうして余裕をなくしてやると素が見やすい。


「イート、よしよし、頑張ってここまで来たもんね。

 あとは一緒に居てくれるだけでいいから、ね?」


EATは扱い易い個体であるため、このようにして甘やかすと調子に乗る。今の発言はその状態にするための虚偽申告でありこの後にはARTSとの作業が残っています。


「ほ、ほんと?俺、偉い?」


「とっても偉い、ほら、もっとぎゅってしようか。

 お利口なイートにはご褒美あげないと」


「えへ、えへへ、うん、♡…ぎゅってする…♡」


EATとの接触確認。同時にARTSからの敵意を確認。瞬時に対応が求められる。


「ねぇ監視人、それは度が過ぎるんじゃない?

 俺のことを放ったらかしにしといて、

 なんでそんな酷いことができるの?」


「アーツ、落ち着いて。

 …賢い貴方なら、どうすべきか分かるよね?」


「…わかるよ、分かるけど。

 それ、いやだな。

 どうして俺にだけそんな距離のある話し方をするの?ねぇ、俺にも優しくしてよ、寂しいでしょ?」


ARTS-1の感情度低下を確認。ARTS-1は人間よりも優れた知能を持っており、言葉や策で勝つことは不可能。だからこそ、有効打は沈黙である。これはマニュアルもある通りであり特に当方からのこの手段はARTSには思ったよりも効くそうだ。


「…」


「分かった、分かったよ。

 …ねぇそこの気に入らない君、自己紹介をしよう。

 俺はアーツ、A、R、T、S、でアーツ。

 ただの蛇だよ、仲良くはしないでね」


「…監視人、お、俺もしないと、?」



「…アーツ、わがままを聞いてくれてありがとう。

 やっぱり優しいね、アーツにもハグして欲しいな」


接触確認、ARTS-1の感情度上昇も同時確認。


「良かった、こんな試し方はもうやめてね。

 いくら俺でも、君のことになると我慢が効かないんだ」


「うん、アーツがそういうなら」


ARTS-1のこのような感情度の変化は大変珍しく、前回このような波長の変化を確認できたのはお気に入りである当方が大怪我をした際以来実に2年と半年ぶり。


「そうやって、俺を1人にっ、!

 っ、お、俺だってそのくらいできるよ、!

 俺はイート!え、えっと、E、A、Tでイート。

 ただの、蜘蛛。俺もアンタとは仲良くしない!」


EAT-1がこのように積極的に他人に意見を言うことは、同じく大変珍しい行動である。


「よく出来ました、イート。

 2人共私のために頑張ってくれてありがとう。

 アーツも、イートも、悲しいこと言わないで。

 『私のために』、仲良くしてくれるでしょ?」


これからの研究において、知能種である2体の協力は必要になってくると思われる。そのための土台作りが今日の業務であり長期になると思われるこの実験兼研究は、現在の自己紹介だけでも十分な成果だろう。


「まぁ、監視人が言うなら、俺はいいよ?

 乗り気じゃないけど、君のためならね」


「お、俺だって出来る!

 監視人のためになるんでしょ、?

 なら、俺、頑張るから…」


2体のストレス値から、今日の業務はこれで終了することにする。次の交流実験はまた時間を置いてからを推奨。あまり良い初対面であるとは思えなかった為、次は何らかの共同作業を行わせると良いと思われる。またストレス値が高いEAT-1からケア作業を行うためその間のARTS-1の監視を他の職員に任せたい。


_拒否。

_今のARTS-1はは非常に気が立っている。

_『監視人』以外の職員を殺しかねない。


…了解。

できる限り早くEAT-1のケアを終わらせることにする。


2体をそれぞれの区域に戻すため、一時的に通信機器をオフにする。緊急時連絡の際は館内放送にてお願いします。



《通信終了》


-----


「おれ、俺、頑張ったでしょ?

 監視人、監視人のために、頑張ったんだ。

 だからいっぱい褒めて、いっぱい抱き締めて、?

 俺その為なら何だってできるから」


広いソファの上、自分よりも大きな男に抱き締められるというのはほんの少しだけ怖い。相手がEAT-1だとしても、自分より強いのはよく分かっているからこその恐怖だ。


「偉いね、頑張ったよ。

 私の自慢の子、流石イートだね。

 よしよし、大好きだよ」


「っお、おれも、俺も監視人のこと大好き…♡」


好き、大好き、なんて嘘も着き慣れればただの単語だ。それも、異能種を効率的に動かすことの出来る便利な言葉。


この後きっと、ARTS-1にも同じことを言わされるのだろう。別にどうだっていいが。早く終わらせる、と上に言ってしまった以上もっと早くケアを終わらさせたいのに、これじゃあEAT-1の気が済むまで時間がかかりすぎる。


「イート、もっとぎゅってして?

 私、イートにぎゅってされるの好きだな」


喜んだEAT-1が腕に力を込めたことで、みしり、と骨が悲鳴を上げる。異能種はどれだけ気弱だろうと当たり前のように力が強いから困る。ここで「痛い」と言えば、謝るEAT-1を宥める作業が入るだろう。それも時間のロスだ、優しく背中を撫でてやるくらいでいいか。


「イート、イート、こっちを向いて?」


これが早いか。


「っあ!!!っぇ、?ぁ、あ、♡

 い、っいま、いま、ちゅーしたの、?」


頬にキスすれば、EAT-1は処女のように顔を真っ赤にして照れている。嫌がらないどころか、縋るように服を掴まれるが、ここまでは想定内だ。


「まだ仕事が残ってるから、ね?

 ねぇ、また明日もここに来ていい?」


「……うん、俺、我慢するね、♡」


今日の仕事が終わったら、絶対に有給を取るのだ。


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