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交流実験記録-2

本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。


一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。


「トリック・オア・トリート!」


「ふふ、監視人、だそうですよ?」


「お前お菓子とか持ってるのか?」


上から、楽しそうにはしゃいでいるBELL、得意げな顔をしたSEE-1、心配そうなMINE-1である。そして、生憎と今手持ちにはお菓子(トリート)は無い。心配してくれているMINE-1にゆっくりと首を振り助けを求めれば、MINE-1はがりがりと頭を掻いて溜息をつき、しょうが無さそうに差し出されたままのBELLの手のひらにお菓子の小袋を置いた。


「あー!ダメなんだよ!

 俺は監視人に言ったんだからさぁ!」


ぷんぷん!と言わんばかりにむくれたBELLは、それでもお菓子の個包装を開けてもぐもぐとそれを咀嚼している。


「でももう食べただろ?

 監視人からってことにしといてくれよ」


MINE-1はやはり優しい。前の交流作業で試すような真似をして本気で悪かったと思っている。そうキラキラした視線をMINE-1に向ければ、いいんだと言わんばかりに頭を撫でられ、相手が監視対象の異能種だと言うことも忘れて胸がときめいてしまう。いや、閑話休題。


「もう!マイン邪魔をしないでください!

 監視人の悪戯をされる姿が見たかったのに!」


なんだかんだお菓子を食べて満足そうなBELLとは打って変わって不機嫌そうなのはSEE-1だ。その花のように美しい顏を顰めて先程のBELLのようにむすくれている。


今日の交流会も騒がしくなりそうだ。


業務を開始する。


* * *


「私は!監視人が困っている姿が見たいんです!」


未だ不機嫌なSEE-1の意見はこれだ。その歪んだ愛情表現は別に構わないが、それが当方に向けられているとすればほんの少し、…面倒くさい、ごほん。対応に困るというかなんというか、感情度の変化が同時に行われているので、それらの報告に困る。


「シーは困った子だな」


「本当だよ」


宥めるようにSEE-1の頭を撫でてやれば、当方が困る姿が見れなかったことで下がっていた感情度がみるみる数値を上げていく。扱いやすくていいことだ。


MINE-1がその面倒臭さを笑って当方のぼやきに頷いてくれていれば、他人事なBELLが「そこがシーちゃんの面白いところでしょ?」なんてソファの上で溶けている。この三人の交流実験は過去に何度か行われており、相性も悪くないらしくこうして好きなように振る舞うのだから対応が難しい。今更それをどうこういうつもりは無いし、他の問題児たちの交流実験よりも比較的安全で何より簡単だからいいのだけれど。


「シーはどうして私に困って欲しいの?」


いい機会だ、と常々聞きたかったことを聞く。


それを聞くとSEE-1は困ったような、恥ずかしそうな顔をして、むすりとした表情で一言呟いた。


「貴女の色んな顔が見たいから、ですが?」


「ひゅう!」とBELLの口笛、「やるな」とMINE-1の感心したような感嘆。それぞれが囃し立てようとしているのは何となくわかる。当方を負かしたいだとか、困っている姿が見たいだとか言うけれど、SEE-1は基本的に当方に対する好感度が非常に高いことが確認されている。


「わ、悪いですか!」


「…悪くないよ、うれしい、」


できる限り照れたような顔をしながら、そうやって言ってやれば先程までの不機嫌な感情度の低下はなんだったのかと言うほどの感情度の上昇が見受けられる。


「シーちゃんばっかりずるーい!

 俺も監視人のことだぁい好きだよ!」


いつの間にか近くに来ていたらしいBELLが抱き着いてくる。それを受け止めて、よしよしと頭を撫でていればBELLはふにゃふにゃと笑っている。これが嘘か本当かは判断が難しいが、BELLから当方への評価はあまり悪くはないのだろう。


「お前ら恥ずかしくないのかよ…」


一番難しいのはMINE-1からの評価だ。いつも大人然としていて、感情の機微を悟られないようにと動くMINE-1は他者への評価が分かり辛い。嫌われてはいない、のだと思いたいが、それでも社交辞令で話しているだけ、なんてことは全然有り得る話だ。友人のSEE-1が仲良くしているから、自分も形だけ仲良くしよう、なんてことをやる男だから。


「恥ずかしくないよー?

 マインだって正直になればいいのに!」


「そうですよ、一人だけ大人ぶって…。

 恥ずかしいのはどちらでしょう」


「好き放題言いやがって」


三人の軽口的に、MINE-1からの評価も悪くないものだとは察することが出来る。それに少し安堵する。


「ねぇ、マイン。私の事好き?」


「…お前なぁ」


わざとぶりっ子するようにそう上目遣いで問かければ、MINE-1はさっきのように頭をがりがりと掻いて、先程よりもずっと大きなため息をついた。流石にやり過ぎたか。


「好きに決まってんだろ、

 お前のためじゃなきゃこんな実験、

 だるくてやる気すら起きねぇよ」


…。

失礼、当方の感情度が乱れました。


「そ、そう、か…。あ、ぁり、がとう?」


「あ゛ー!!そんな照れんなよ!!

 こっちまで恥ずかしくなんだろ!!」


ニヤニヤとしているSEE-1とBELLに知らないふりをしつつ、自分で淹れたコーヒーを飲む。MINE-1は急いで飲んだらしく「あっつ!!」と火傷しているようだ。MINE-1の新しい一面が見れただけ今日の実験の収穫と思っていいだろう。好意を抱いてもらえているのであれば、それらを利用して実験を頼むことも容易になるかもしれない。使えるものはなんでも使っておかなければ。


「今日はお茶会を終わりにしよっか」


実験に非協力的なMINE-1を使えるかもしれない。下手に撤回される前に、今日は終わりにしよう。


BELLは不機嫌になるかもしれないが、私がMINE-1に照れているのだと勘違いしているらしいSEE-1はにこにこしながら「良いですよ!」とご機嫌だ。当方が異能種に照れることなどありえないというのに。


「じゃあ、また集まろうね」




《通信終了》


-----


「私、おかしくなっちゃったかも…」


_そうですか、通信を私的利用しないで下さい。


冷たい『博士』からの連絡にガックリとうなだれる。まさか異能種に心を揺さぶられる日が来るとは…。このままでは仕事生活に支障をきたしてしまうかもしれない。


「MINE-1が格好よく思えたの…」


_知りませんよどうだっていい。


「あー、冷たい、染みる」


監視人はあくまで異能種達を監視する側、それが一個体に固執するなんてことはあってはならない。


そんなことはわかっている、のに。


「こんなことなら、

 BELLから悪戯受けとけば良かった」


そうしたら、MINE-1から助けてもらうこともなくキュンとすることもなかったのに。なんて、茹だりそうな思考で苦し紛れに考えたりして、終わってしまったどうしようもない過去に後悔ばかりを積み立てて頭を抱えるしかできないのであった。はー、全くこれだから異能種ってやつは困るのだ。

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