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監視対象コード:BANG、WITHER

本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。


一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。


ナイフでBANGの攻撃を防ぐ、防ぐ、というがどちらかと言えば弾かれた、と言った方が近いのかもしれない。異能種の腕力に敵うはずもなく吹き飛ばされ訓練室の壁に叩き付けられてしまう。ごほりと肺から酸素が締め出される。相変わらず異能種の戦闘能力は理不尽だ、ずっと昔から知ってるが。


「おうおう、弱ぁなったのう『監視人』。

 ええんか?このままじゃと儂の嫁一直線じゃぞ」


何がどうしてこうなったか、BANGと負けたら嫁になるという約束を無理やり取り付けられて手合わせが始まった。ただそれだけ。分かりやすい簡単な話だ。


「バン、考え直して、」


「口が聞けるならまだ行けるか」


ぶん、と風を着る音が聞こえたかと思えば、BANGが投擲したらしい金棒がさっきまで私の頭があった場所にめり込んでいる。咄嗟に避けたから良かったものの、反応が遅れていれば私の頭は爆散していただろう。


「(やらなきゃ、やられる…)」


体制を立て直して立ち上がろうと足を動かした時、す、と影が差し掛かった。なんだ、と顔を上げれば、目が合う。


「…調子に乗ってるのか、雑魚」


BANGに背を向けて、こちらを向いているWITHER。どちらにその言葉をなげかけたのか、分からないが。わしわしと頭を撫でられたことでどうやらこちらの味方をしてくれるらしいというのはわかった。「あぁ?」なんて、いつもの好々爺のような口調を投げ捨てたBANGが凄む。WITHERは何処吹く風でこちらを見下ろしている。


「(なんでWITHERがここに、!?

  すぐに業務を開始しないと…)」


* * *


圧巻、と呼ぶしかないだろう。

突如として始まったBANGとWITHERの交戦は、当方のような一職員が入れるようなものではなかった。


「だぁ!いい所邪魔してんじゃねぇよ!!」


「黙れ、俺の弟子を虐めるな」


「弟子離れしろや老害!

 若者の結婚を応援しろや!」


「監視人は望んでない」


嵐のようである、お互いに軽口を叩く暇があるのが驚きなくらいの暴力のやり取りに、自分の限界を感じる。やはり、当方はもう前線から引くべきだと理解してしまうのだ。それが苦しいようで、でも清々しいようで…。


いや、これは私情です。


当方を娶りたいBANGと、どうやらそれを庇ってくれているらしいWITHERとのやりとりは平行線のようだ。


「あと少しで連れて行けそうだったのに!

 くそ!契約までしてんだぞ!

 そこに割り込むのはマナー違反だろうがよ!」


「ぬかせ、監視人が嫌がっている。

 その事実がある限り俺は認めんぞ」


契約は絶対。上位種族である異能種と、下等種族の人間とでは間に交わされる契約は一方通行であろうと効力を持つ。人間がどれだけ意を唱えても、異能種に聞く気がなければそれは簡単に意味をなくしてしまうのだ。だからこそ、こうやって仲を取り持ってくれる異能種は助かる。問題児だと思っていたWITHERに助けられるとは、なんとも複雑な気分だが助かったことに違いないので黙っておこう。


「監視人!監視人!!逃げるんじゃねぇ!!

 っくそ、お前は俺のもんなんだよ!

 ………はぁー、…すまん、熱くなったのう?

 ほら、監視人、おいで、仲直りしようぞ」


BANGが吠えたかと思えば、一転してWITHERとの交戦を中断させて、いつもの掴みどころのない老人口調に戻ってにこりと笑いかけながら声をかけてくる。


それにどう答えようかと考えて、それでも、今刺激するのは不味いかとしょうがなくBANGに呼ばれるがまま近寄る。それだけで機嫌が良くなったらしいBANGが頭を撫でてくれた。それを見たWITHERの感情度が低下したのを見て、それもそうかとWITHERにも「大丈夫」と笑いかけておく。


「不用意にそれに近寄るな。

 情緒不安定過ぎて何するかわからん。

 俺の手の届かないところではするなよ」


「黙ってろボケ老人。

 儂の可愛い監視人、ほら、怖がらせたのう。

 よしよし、大丈夫じゃ、可愛いのう」


二人の間の空気は険悪だ。


「くふ、困らせてすまんなぁ。

 でもそれだけお前を愛しとるんじゃよ。

 分かってくれるな?

 金銀財宝が欲しいならくれてやろう、

 殺して欲しいやつも殺してやろう、

 何を与えてでも、儂はお前が欲しい。

 のう監視人、分かってくれるよなぁ」


接触確認。BANGの指先が頬をくすぐった。言葉も口調も声も優しいのに、圧だけが、逃げることを許さないと言わんばかりにゆらぎのひとつもなく思わず足がすくみそうになった。それでもBANGの手を振り払わないのは、『監視人』としての意地だった。


「いい加減なことを…。

 こいつは俺の愛弟子だ、忘れるな。

 俺は師として、その生き様から死まで、

 その傍で見守る義務がある。

 お前のような口先ばかりの乱暴者に、

 そうやすやすと譲るわけが無いだろう」


再び接触確認、WITHERが肩を抱くようにBANGから引き離す。それでもBANGから腕を掴まれたせいで逃げ切ることは叶わなかった。二人に挟まれて、気まずい。


_したん !


と、過去一番不機嫌そうなWITHERの尾が床を叩く。


「お前のものになる前に、

 既に俺のものになっている」


「あぁ?もうボケが始まったのかよ。

 まぁいい、それじゃあ奪うまでだくそ師匠」




「ま、まって!」


声をかける。でなければ、第2ラウンドが始まり、それに巻き込まれて怪我してしまうことは明白だった。


「…」


「…んー、なんじゃあ監視人。

 ようやく儂と夫婦になる覚悟ができたか?」


「そ、それは出来てないかな」


二人に武器を下ろさせ、その視線がお互いに向かないように二人共の手を握る。BANGは不満そうだが、WITHERはちゃんと止まってくれた。とてもありがたいがいつもこのように協力的であれば実験が捗るのだけれど。


「わたし、私は優しい人が好き、だな。

 だからこうやって問題行為起こす子は嫌い。

 ね、二人共自分の部屋に帰ろう? 」


「優しい人が、のう」と何かを考え始めたBANGと、ため息をついたWITHER。反応は別々だが、両者とも先程までのいつ喧嘩を起こすかも分からない殺気は仕舞ってくれた。


「むぅ、お前がそういうのなら、

 今日はひとまず帰ってやるとしようかの。

 手間をとらせてすまんかったの監視人。

 今度お詫びに良い茶菓子をご馳走しような」


「う、ん」


BANGは訓練室から出て行った。


「うぃ「監視人」なに、」


まだ後ろにいるWITHERに声をかければ、被せるように食い気味で名前を呼ばれてしまった。


「お前の『死』は俺のものだ。

 『生』は誰にくれてやっても構わん、が。

 あんな、死の先にすら干渉してくる奴はやめておけ」


いつから当方の死はお前のものになったのか、『生』とはなんの事なのか、聞きたいことは多々あれど。どれもつついたら蛇が出てきそうな藪である。あまり関わりたくないので適当に相槌を打った。






暫くお休み致します。

次の話はいつになるか不明です。

気長にお待ちください。

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