ケア行為記録【DUST】
本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。
本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。
「ダスト、ダスト、こっちにおいで」
ベッドに積み上がった布の山、曰くDUSTの巣の近くに腰かけてそうやって呼びかける。もぞ、と動いた山の中から、角の生えた蛇、DUSTの変身した姿がひょこりと顔をのぞかせた。「近付いてもいい?」と聞けば、まるで許可を出すように頷いてゆっくりと近寄ってくる。
その巣の、入口らしいところにそっと腰を下ろせば、姿を現したDUSTが膝の上に乗ってくる。今日の大きさは、そこら辺の蛇と変わらないくらいの小さいサイズのため膝に乗られても問題は無い。
_しゅう、しゅう
DUSTがちろちろと頬に舌を当ててくる。こう見れば愛らしいが、この区域の入口には、ずたずたに切り裂かれた職員が山のように乱雑に積まれていた。
「ダスト、怖かったね。
よしよし、ケアしにきたから、もう大丈夫だよ」
業務、開始。
* * *
接触確認、DUSTを研究室まで連れてくることが出来た。またケアのため、DUSTには人間体になってもらっている。ぱきぱきと音を立てて鱗が落ち、空気中の不可視元素と思われるものがDUSTの招集に応えきらきらと輝きながらDUSTに集まり人間体に変態していく姿は正しく幻想的であった。
地面に跪き椅子に座る当方を椅子ごと抱きしめるようにしてお腹に顔を埋めているDUSTは、余程他の職員から命令されたことが気に食わなかったと思われる。
「ダスト、可愛いね。びっくりしたんだよね、
いっぱい人が来て怖がらせちゃった。
最初から私が来ればよかったね」
当方がDUSTの今の状況を聞いた時、既に別職員達がDUSTの区域に侵入しており、実験に利用しようとしていたことも後から聞いた。金輪際DUSTに関する勝手な行動は控えるようにと再三にわたり忠告しているはずだが、どうにも上層部と意見が食い違っているようである。DUSTは非常に扱いづらい立場にある個体であるためこちらの忠告を聞いて欲しい。
_…理解しました。
確認。
「…俺の巣に来ていいのは、アンタだけだ。
アンタ以外は巣に入れたくねぇ…。
殺した、のは、悪かったけど、
でもオレはアンタとの巣を守っただけだ」
機嫌を損ねたDUSTの懐柔は特に難易度の高い任務ではない。当方が少し優しくするだけで、DUSTはころりと謝り自分の非を認めてくれる。強いて言うならば当方は別にあそこを己のテリトリーだと思ったことは無いことだ。
「うん、私とダストの大切な場所だもんね。
守ってくれてありがとう、ダストは悪くないよ」
虚偽申告である。けれど、そう言うことでDUSTは暗かった表情を明るくさせ感情度を上昇させる。
「あ、アンタなら、そう言ってくれるって、
信じてた…。よかった、オレは間違ってなかった…」
「よしよし、他の人達にはちゃんと言っておくね。
すれ違いがあったのはこっちだから、
私達の方が間違ってたんだよ、ごめんね」
「アンタは悪くねぇ、アンタは、」
ゆっくりと頭に触れる。少し固さのある黒い髪を撫で付けてやれば気持ちよさそうに目を細めてとろりとした顔をしている。感情度もかなり高く、幸福感を感じていることが確認されている。すりすりとまた当方のお腹に顔を埋め始めたDUSTは好きにさせておくとして、これではまだケアが足りていないので次の段階に進む。
「ダスト、今日はダストのお願いを叶えに来たの。
なにか私にやって欲しいことややりたいことはある?」
最近は落ち着いていたDUSTの警戒心をいたずらに擽った代償は大きい。DUSTは非常に攻撃的であるが、それでも最近は当方の為だ、と落ち着いて実験にも協力的であった。それを今回の事故の一件でまた協力を拒むようになられると、こちらとしては非常に困る。その為、今日は徹底的に幸福度を高めて再び協力してくれるように懐柔しなくてはならない。
「、っな、なんでも、してくれる、のかよ」
「うん、ダストが望むことなら、なんだって」
ゆるりと再び頭を撫でてやれば、期待に輝くDUSTの緑色の瞳がこちらをジィっと見つめている。無茶のない範囲なら全て叶えろ、というのが上の指示だ。
「アンタと、アンタとご飯が食べたい。
アンタにご飯を食べさせたい、な、なぁ。
それでも叶えてくれる、?」
「…、いいよ、ご飯を取ってくるね?」
要求は『給餌』であると思われる。DUSTは常々当方のことをつがい、ないし親兄弟だと思っている節があるので、恐らくそれの延長線上の要求であると思われる。比較的簡単な『お願い』に肩の荷が降りた。
「あ、あーん」
すい、と差し出されたスプーンの上には、DUST用にと作られた食事の肉団子が半分乗っている。
「ん、あーん」
差し出されるがままに口に運べば、DUSTは非常に嬉しそうに咀嚼する当方を見ている。まるで恋人のようだ、とは少し皮肉が過ぎるかも知れない。ただ馬鹿らしいのは事実だ。
「あ、アンタからも、食べさせて欲しい…」
「いいよ、ほら、あーん」
「ん」
現在当方に提供される食事には、DUSTのものより小さいサイズのミートボールが小鉢に入れられていた。DUSTならば丸呑みにできるだろうとそれをスプーンですくって差し出せば、DUSTはまた嬉しそうに口を開いて食べた。DUSTは根本が蛇に近しい種族であるため咀嚼は特に必要ないらしいが、噛み締めるようにして食べている。それに意味はあるのだろうか。問題は無いので放っておくが。
「『前』も、こうやって食べさせてもらった。
アンタの膝の上で、ふわふわのやつ食べた」
…DUSTが言っているのは、当方がDUSTを旧都市から回収した帰り道の捕縛車の中での出来事だろう。
そう言えば、膝の上から降りない蛇に対して攻撃をさせない為にせっせと手持ちのパンを与えていたような気がする。それは懐柔するためであり、特に深い意味は無いのだが。あぁそれで…。恐らくその行為を給餌だと思い込んだDUSTが己に懐いていると思われる。
「懐かしいね?」
「ん、俺を見つけて、ご飯までくれて、
アンタのお陰でオレは今生きてる。
それは、アンタが、俺のことを好きだって証だ」
別にそんなことは無い。
「だから、オレもアンタが好きだ。
気が変わって、俺以外にお気に入りを作っても、
アンタが帰ってくるまで、待ってるから」
当方は別に監視対象にお気に入りを作ったことは無い。
「だから、またオレの所に戻ってきてくれ」
これ以上は話が通じないだろう。だから何を言っても無駄だと思われる。ただそれでDUSTが扱いやすくなるのなら、当方としてはその行為を十分に利用させてもらおう。
「私は、ずっとダストが好きだよ」
虚偽申告も、今更心が痛むなんてことは無い。それでDUSTが喜ぶのだからwin-winだろう。
「これからも、私の為に協力してね」
これでケアは終了だ。
「分かった」
《通信終了》
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小さく欠伸を零す。
暴れている、と聞いた時は身構えたものだが、やはり扱い易いDUSTとの仕事は気が抜ける。
「まだ暫くは利用できるな」
休憩室でコーヒーを飲みながら、そうやって呟いた。




