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監視対象コード:LIKE

本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。


一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。


頭が痛い。

別に、どの異能種のせいで、なんてことはない。ただの気圧痛である。なんとなく体もだるい気がするが、この程度はまだ許容の範囲内であり休むことも許されないだろう。全くブラックな組織で困ってしまう。


優秀な職員はいたわって欲しいのだけれど。


「職員コード『監視人』、業務を開始しまーす」


* * *


「おかえりー、わぁ!顔色ゾンビみたい!」


確認

監視対象コード:LIKE(Original)

    危険度:Unknown

    友好度:High


LIKE(Original)(以下からLIKEと表記する)は幻獣種スライム型の異能種である。柔らかな茶髪と藍色の瞳をしている。比較的友好度の高い個体ではあるが、それは当方や子供と呼ばれる年齢の人間や異能種のみにだけである。当方が幼少の頃に出会った為、現在でも子供扱いをしてもらえているがそれもいつまで続くのか分からないのが恐ろしい話だ。


「こんな子供を働かせるなんて、

 やっぱり君の周りの大人はダメだよ。

 ね?大人しく俺のお嫁さんにおいで」


何があったかは分からないが、LIKEは大人と呼ばれる年齢の人間に対して敵意を抱いているらしい。その上で当方を嫁にもらおうとしている。


「そうは言っても…」


「もー、君は相変わらず責任感が強いんだから」


接触確認。LIKEの手が、当方の頬に触れる。ひんやりとした体温というものを感じられないそれに鳥肌が立ちそうだ。見た目は十数年前から変わらないが、いつまでたってもその温度になれることができそうにない。


「この檻、壊したくなったらいつでも言ってね?

 俺は可愛いお前の味方だよ。

 外に出たら、いっぱい子供を作ろう。

 そうしたらきっと幸せになれるよ」


LIKEはスライムである。故に、その手が濡れているように感じるのも恐らく間違いではないのだろう。


子供の有無が幸せにどう関わるか、なんて言うのは無粋だろうか。昔から、LIKEは『子供が欲しい』と当方に要求することは変わらない。


「愛しい愛しい君、早くひとつになりたいなぁ。

 その為なら、俺はどんな敵だって飲み込んであげる」


「今の私は『監視人』だ。

 その役目を返上なんて出来ないよ」


「もう、昔は照れてくれたのに、今はいけずだねぇ」


寂しそうに言うが、LIKEの感情度に変化は見られない。嘘、とまでは行かずとも冗談の部類であることに違いは無いのかもしれない。優しく頬を撫でられていれば、まだ小さかった時のことを思い出す。LIKEのロリコンは昔から変わらない。もし、私のことを大人だと認識してしまえばこの甘やかな対応も手のひらを返したように酷いものになるかもしれない。


「私は、子供のままだよ?」


LIKEの友好度は高い、なのに、未だ危険度は未定のまま。それがどれだけ恐ろしいことか分かるだろうか。


「うふふ、やっぱり勘違いしてるよなぁ。

 知ってるよ?知ってるけど、そのままでいいよ。

 …俺達スライムは繁殖欲が高いからさぁ、

 番ってのは一人に絞らないのが基本なんだけど。

 でもね、俺はお前だけでいいと思ってるよ」


「何を言って、」


「俺は別にね?子供じゃなくたっていいんだ」


「そんな訳…」


今までの交流実験で、LIKEは子供以外の全てに対して攻撃的であった。逆を言えば子供なら等しく友好度が高いのだ。なのにそれを覆されると、今までの実験の記録が全て無駄になるかもしれない。


「そんな訳あるの、可愛い俺の愛し子。

 俺は例えお前が大人になっても構わない。

 飲み込んで、ひとつになりたい」


思わずまだ頬に触れているその手を弾けば、それでもLIKEはにこにことこちらを見下ろしている。そこに怒りも、悲しみすら見受けられない。


「お前は俺の子だよ、そこだけは間違えないで」


どいつもこいつも、当方のことをなんだと思っているのか。自分のものだと勝手に主張されたとしても、こちらとしては困るばかりだ。DUSTやPLANTのように扱い安ければもっと楽なのだけれど。ARTSやERROR、そしてLIKEのように長い年月を生きた異能種は扱いづらい。


「ライク、私は誰のものにもならないよ」


「ふふ、だって俺達(異能種)が怖いんだもんねぇ」


…。


接触、確認。気が付けば足元にたぷん、とLIKEと思われるスライムが触れる。鮮やかな藍色をしたそれに足を取られた。


「小さいお前は可愛かったよ。

 弱くて、無力で、可哀想なくらい可愛い。

 それを思い出すから子供は好きなんだ。

 でも、俺からお前を取り上げる大人は嫌い。

 君をすり減らそうとするやつは嫌いさ」


制服にじわりじわりと粘液が染み込んでくる。

_不愉快だ。


ぱん!と弾ける音。手の内にある、拳銃型の固有武器から硝煙が立ち上る。足元のスライムが弾け飛んだ。なのに、LIKEの表情は変わらない。いつも通りの気が抜けるゆるゆるとした笑みを浮かべたままだ。


「わぁ、痛いなぁ」


「離れて」


「はいはい、分かったよ」


LIKEが離れていく。それに少し安堵して息を着けば、くすくすと笑われてしまった。睨み付けても意味が無い。ただ楽しそうに見守られてしまうだけだった。


「お前は確かに子供のままだね。

 小さくて、丸呑みにできそうなくらいだ」


本当に丸呑みにしようとしたくせによく言う、と再び睨みつければ「わぁ怖い」なんてわざとらしい演技でかわされてしまう。やはり、感情度の変化は一切なく、こちらをからかっているだけだと思われる。これはLIKEだけではなくSEEやWITHER等にも見られる反応だ。


「大人になるのは、俺と番になってからでもいい。

 いっぱい甘やかしてあげるからね。

 お前にそっくりの可愛い赤ちゃんを作ろう、

 俺がパパだから、きっと上手に『化けられる』。

 そうしたら、お前の代わりになってもらおう。

 お前は俺のものであるだけでいいんだ」


ぞ、と鳥肌が立つ。


「何を言って、」


「お前は可愛いから、他からも声がかかるでしょ?

 だから、それに嫉妬しなくていいようにね。

 いっぱいお前を作るんだ」


…、LIKEが、子供に執着している理由も判明し、会話により反応に問題がないことも確認できた。今日はもうこれくらいでいいだろう。LIKEの粘液に触れた箇所を今すぐに洗浄して着替えたいという理由もある。


「…今日は帰るよ、お前と話もできたしさ」


「そう?じゃあ、またおいでね。

 俺はいつでも待ってるから」


暫くは近寄らないだろう、なんて言えなかった。




《通信終了》


-----


じゃぷ、と湯船に浸かる。

まだLIKEの粘液の冷えた温度がやけに鮮明に残っている気がした。それが嫌で、いつもより高い温度でお湯を張ってしまった。皮膚がひりひりする。上がる頃には真っ赤になっているかもしれない。でも、それでもいい。


「どいつもこいつも重たいんだよなぁ」


好意だとしても、過ぎれば恐怖になりうる。はた迷惑な異能種からの愛情なんて以ての外だ。


「早く辞めたい…」


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