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監視対象コード:ERROR

本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。


一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。

今日はろくな日にならないだろう。なんてどこの予言者でもないが予想を立てておく。こうしておくことで、面倒なことが起こった際に「ほらね」と現実逃避をすることができるのだ。全く要らない人生の知恵である。


溜息をつきたくなるのを抑えて、区域の出入口の前で数分ウロウロした後、『博士』からの冷たい_さっさと入れ、に促されて扉をくぐった。


「業務を開始する」


* * *


「よぉ、随分待たせるじゃねぇかい」


確認

監視対象コード:ERROR-1

    危険度:High

    友好度:Low


部屋の中は白んでいる。


「エラー、またタバコの量が増えたの?」


「あぁ、どこぞのいけずな想い人が、

 どうにも俺のことを避けてるみたいでなァ」


白む煙の向こうから、ゆっくりと人型が歩いてくる。それは黒髪に、まるで血の池のような赤い瞳をしている。どこか威圧感のあるその姿に少しだけ身体が震えるけれどそれを隠して視線を合わせる。ERROR-1の手には、火のついたタバコが白い煙を燻らせていた。


「なぁ、監視人?こっちにおいで」


かたん、と近くにあった椅子に腰掛けたERROR-1が膝を叩いて名前を呼ぶ。


恥を忍んで言うが、私はERROR-1が苦手である。当方に好意を示してくれる監視対象は多々いるが、その中でもERROR-1は群を抜いて当方に執着している。


「エラー、今日はお願いがあって…」


「知ってらァ、また大っきい捕獲作戦があるンだろ?

 それに俺を使用したいってところかね。

 いいぜ?お前さんのお願いならやってやるよ。

 でも、その前に俺のお願いも聞いてくれよ」


渋々、ERROR-1の膝の上に乗る。感情度上昇を確認。すりすりと確かめるように、タバコ臭い骨ばった手のひらが頬を撫でつけていく。その感覚にぞ、と背筋が冷えていくのがわかった。かたかたと震えている当方の指先と、ERROR-1の冷たい指先が触れ合えば思わず唇の裏をかみ締めてしまう。


「ふっくく、あぁかわいい…。

 寒いか?俺があっためてやろうね」


確かにこの部屋の室温は低いが、当方が震えているのはそうではなく、ERROR-1に対する恐怖からだと思われる。知ってるだろうと言いたくなるが、下手に刺激するのも恐ろしいので取り敢えず黙っておくけれど。


_ざぷん


水音に視線をあげれば部屋の中央に陣取る大きな大きな水槽に居る『それ』と目が合った。


確認

監視対象コード:ERROR(Original)

    危険度:High

    友好度:Low


巨大なシャチ型の元素生物であるERROR(Original)は、その存在感も相まって本能的な恐怖を感じる。どん、と水槽にぶつかったERROR(Original)に、まさか水槽を壊して出てくるのではと焦ってERROR-1の膝からおりる。急いで水槽に向かえば、後ろから近付いてくるERROR-1に捕まってしまった。


「お前さんがお利口にしてくれんなら、

 俺だってお利口に捕まってやるさ、そう怯えんな」


後ろから抱きすくめるように己の体を捕まえているERROR-1が囁くように耳元で笑う。目の前には、ERROR(Original)が水槽にぴたりと鼻をくっつけるようにこちらを見ている。


「なァ、監視人、もっと俺に会いに来てくれよ」


「わ、たしの仕事は、上層部が…」


「仕事で来るんじゃなくて、な?

 暇な時間でも、空いた時間でも、会いに来ればいい。

 お前は俺の監視人なんだから、

 休暇の時に会いに来たって怒られやしねぇだろ」


そんなの嫌だ。


「いいだろ?俺とお前の仲じゃねぇか。

 焦らされると俺だって傷つくんだぜ?」


ERRORの危険性は施設内でのトップクラス、戦闘能力もWITHERやDUSTと変わらない程。知能もARTSやSEEと同程度という高い能力を保持していることが確認出来ている。その為扱いも難しく、新たな元素生物の捕獲の際には協力を願い出ている程である。


「協力、して欲しいんだろ?」


_『監視人』、頷いてください。


ぎしりと、体が強ばる。


「……、わ、かった」


「ふくく、いい子だねぇ?よしよし、かわいい。

 通信が入ったか?ったく、気に入らねぇな。

 俺とお前との間に割り込もうなんざ。

 聞いてんだろ、『博士』…だったか?

 二度と邪魔するんじゃねぇ、殺すぞ」


機嫌が良さそうに、でも殺意を持って圧をかけるERROR-1に肩が跳ねるほど怯えてしまう。


「あぁ、怖がらないでいい。

 お前さんにはなぁんにも怒っちゃいねぇさ」


なぜ、ERRORほどの個体が当方に執着しているのか、それは全くの不明である。出会った当初からERROR-1は既に当方だけに対して友好的でありそれ以外に対しては攻撃的、とまでは行かずとも興味が無いようだった。


「強がるな、弱くたって構いやしねぇ。

 寧ろ弱いつがいの方が愛おしいもんだろう?

 牙を折られた、俺のかわいい監視人」


牙を、折られた…。


「わたし、は」


「上層部と契約した甲斐があるってもんだ。

 お前さんとこうして近くにいられンだもんなァ」


当方は、上層部とERROR-1及びERROR(Original)との契約を知らない。が、ERROR-1は元々『記録係』の管理対象であり、それがなんの取引かある日突然当方の管轄となった。


元より、同期として仲が良かった『記録係』から憎まれるようになったのは恐らくERROR-1が関係している。


「俺の可愛い監視人、俺がずうっと守ってやるから」


ぞ、と体温が下がるのがわかる。


「き、協力は、してくれる、んだよね?」


「ああもちろん、お前が望むならね」


「じゃあ、帰るよ。

 次は、…休みの時に来るから」


「寂しいな、でもいい。またいつでもおいで」




《通信終了》


-----


まだ鳥肌が収まらない。


「こっわ」


それでも、精一杯茶化して震えを収める。まだ、肌を這うERRORの冷たい体温が忘れられないでいる。


逃げたくて、ERRORと上層部との契約を探ろうとしたことはある。それでも何一つ教えてもらえず、ERRORに対しては頷くだけの上層部に人身御供のように扱われて心が折れかけたのも確かだった。怖い、ERRORの施設に行くたびに、生きて帰れるだろうかと恐怖を覚えてしまう。


やはりろくな日にならなかった。


「『飼育員』と『掃除屋』と飲みに行こ…」


そのくらいの楽しみがないと、また次を考えて気が重くなってしまう。本当に、なんであんなに強大な個体が私なんて前線からも追い出された無能に構うのか分からない。


今日の報告は私的な恐怖でぐちゃぐちゃだっただろう。割り切らないと、と分かっているのにどうしても出来ない。


「早く帰って寝よう」






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