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監視対象コード:PLANT

本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。


一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。


「なんっなんだよあのクソ監視対象!

 口を開けば『監視人』『監視人』って!!

 ほんっとウザイ!さっさと行け!」


珍しく、でもないか。激昂している『記録係』にほんの少しざまあみろと嘲笑が湧いてくる。いつもマウントを取られてバカにされるだけなので、そうやって思うくらいはきっと許されるだろう。


「ドンマイ『記録係』」


「うるさい!さっさとウチの視界から消えて!」


逃げるように区域に足を踏み入れた。


* * *


「あぁ!ご主人!やっと来てくれたんですねぇ!」


確認

監視対象コード:PLANT(Original)

    危険度:High

    友好度:Unknown


PLANT(Original)(以下からPLANTと記載する)は、青緑色の髪に赤い瞳、高い身長が特徴的な青年型の異能種である。威圧感は全く無く、穏やかな雰囲気を纏っている。


その正体はWITHER、BELL、BANGと並ぶ幻獣種の一種であり、カテゴリーを『ドラゴン』と名目されている人型の元素生物である。なぜか当方を『主人』として認識しており、全幅の信頼を向けられ懐かれている。その理由は、当方が彼を旧都市から回収したからであろうと思われる。


「主人、主人、今日も俺はお利口でしたよぉ」


「よしよし、偉いねぇ」


「はい!俺は主人の為なら何だってやりますから」


PLANTは自在に姿を変えられる為、ドラゴン形態の時と人間形態の時にはあまり区別がない。が、当方に褒められると嬉しいのか接触行為と反応して頬や手の甲などに鱗が現れる。そこを確認するのが今日の作業だ。


「ふふふ、主人は撫でるのが上手いですねぇ。

 あ、鱗も撫でてくれるんです?

 嫌いな人間共に従った価値がありますねぇ、

 ふふ、ふふふ、主人、主人」


大きいソファに座って、顔、手、それからお腹、とPLANTの素肌を撫でていく。気持ちよさそうなのでおそらく問題は無いだろう。


「ん?ここの鱗、欠けてる。

 いつ怪我したの?プラント」


「あー、ここですか。

 人間共が鱗が欲しいと言うんで引き千切ました」


…。通信、

PLANTは貴重な個体のため、その扱いは他の幻獣種や協力個体と同じように丁重に扱わなければなりません。また、その実験のことを管理責任のある私に許可を取らずに行うというのは如何なものでしょうか。


_PLANTの治癒力を試す実験でもあります。

_事前に報告を怠ったのは確かですが、

_この実験に問題はありません。


確認。


「痛いでしょ、?手当しようか」


PLANTが固まる。


「しゅ、主人、が手当してくれるんですか?

 あぁ!怪我してよかった!」


「プラント、」


「本心ですよぉ!ふふ、主人、ここ痛いです。

 主人の手で手当してくれないと治りません」


恐らくそんなことは無いだろう。前のPLANTの耐久力を調べる実験では鱗を数枚抜いても3日後には治っていた。また、痛みにも強いらしく、その他の拷問染みた実験にもケロりとして参加していたことが記録されている。


手当しますか?


_…してどうぞ、暴れられてはかないません。


「プラント、痛かったら言ってね」


PLANTの当方に対する執着心は強く、何者かが当方とPLANTの間に割り込もうとするだけで大暴れする。前に当方の行動に口を挟んだ上層部の通信役が3名ほど呪いに近い魔力干渉で意識不明の重体に陥ったことがある。そのお陰でPLANTに魔力干渉の力があることが分かったが、それでも手痛い勉強代になった。


「主人の柔らかで小さい手が、俺を慰めてくれる…。

 …ふふふ、ここに来てよかったぁって、

 つくづく思っちまいますねぇ」


「いつもありがとう、プラント」


「ふふふ、なんのことでしょう」


PLANT程の強力な個体が暴れれば施設は無事では済まない。こうして信頼を向けられ、協力してくれるのはありがたいことだと思う。


「主人、俺はね?

 アンタの為ならなんだって出来ますよぉ。

 例えば、さっき入ってきた女、

 『記録係』とか言ってましたっけ?

 あの女、主人のことを舐めてますよねぇ…。

 ほんの少し、呪っておきましょうか?」


心臓が嫌な音を立てた。


「アンタは俺の宝物、ふたつと無い宝玉。

 その為なら、何人だって呪い殺しますよぉ」


「プラント、そんなことはしなくていいよ」


「ふふふ、主人は優しいなぁ。

 でも、俺は主人以外の人間なんて大嫌いですから。

 今更一人殺そうが百人殺そうが、

 そんなのどうだっていいんですよ?」


PLANTの倫理観は著しく欠如している。『研究者』の話によれば、『ドラゴン』という種族は元々執着心が強い生き物らしいため、おかしなことでは無いらしいが。それでも、当方個人の意見だけで人の命が揺らぐ様を見るのはあまり気持ちがいいものではない。


「あぁそうだ、それとも、

 俺以外の異能種を殺しちまいましょうか

 そうしたら主人は、

 もっと俺に構ってくれるでしょう?」


接触確認、PLANTの鱗が現れた左手が、優しく当方の頬に触れる。固く、当たると少しだけ引っかかる。


「そんなことしたら、プラントにはもう会えないよ」


「そんじゃあ世界を滅ぼしちまいましょう」


感情度上昇を確認。


「アンタが居ない世界なんて要らない」


これは、ショックを受けているのではなく、興奮しているように思える。恐らくだが、PLANTの根底にある人間への憎悪に由来する破壊衝動。


「プラント、私と世界と、どっちが大事?」


「…、それは、…アンタに決まってるでしょ」


攻撃意思鎮静、扱い易い個体で助かる。


「はぁー、また丸め込まれちまいましたね。

 アンタには敵わない、ま、それでいいんですけど」


感情度が平均に戻ったのを確認、接触行為に移る。PLANTの柔らかな髪に触れて、よしよしと撫でてやれば鱗を撫でた時よりも喜んでいるように見える。頭も鱗もどっちでも変わらないと思うが。


「可愛いプラント、ずっといい子でいてね」


「…アンタが、それを望むなら」


PLANTは当方以外の人間に対して攻撃的であり、友好度の測定不能はその当方を含めた場合のみである。当方を含めないのならHighで間違いない。まぁ、頭を撫でてやっている限りなにもしないので扱いやすいことには変わりないが。また大掛かりな実験をやると聞いたから、それに協力してくれるように頼まなければいけない。


「ねぇ、プラント」


「…いいですよぉ、アンタのためなら、なんだって。

 アンタは俺の逆鱗、俺の宝玉。

 俺に望んでくれるんならなんだって叶えますよぉ」


そっと、PLANTの喉元に触れる。『ドラゴン』であれば、恐らくここに本来の逆鱗があるのだろう。


これからは交渉に入るため一時的に通信をオフにする。緊急の連絡がある場合は館内放送にてお願いします。




《通信終了》


-----


ころり、手の中で藍色の宝石のような鱗を転がす。昔、まだ出会ったばかりのPLANTにもらった、PLANTの中で1番古い鱗らしい。


「こんなの貰ったって、何も返せないのにねぇ」


異能種ってのは、つくづく馬鹿らしい。



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