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監視対象コード:GREEN

本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。


一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。


「はぁー」


「うわ、朝から縁起でもねぇな」


「うるさいよ」


大きなため息をついていたところを『飼育員』に見られてしまった。どうということは無いけれど。


「行きたくないなぁ…」


「あ?今日の担当は…、あぁ、アイツか」


私の持っている書類を見たのか、飼育員が哀れみを含んだ目でこちらを見てくる。やめてくれ、とも言えないのが悲しいところだ。今から向かう監視対象は言いようがなく厄介で、担当するとなるとこうして気が重くなるのだ。


「頑張れよ、適度に」


飼育員からの応援を受け取って、歩みを進めた。


「職員コード『監視人』、業務を開始します」


* * *


「よぉ俺の金の成る木!元気なさそうだなぁ!」


確認

監視対象コード:GREEN-1

    危険度:Unknown

    友好度:Unknown


「そんなことは、ないけどね」


GREEN-1は深い緑色の髪をしており、瞳は星空のような藍色をしている。見た目はいいが、その内面は欲深く、何故だか使う道もない金を集めることに執着している。


カシャ、とシャッター音。


「ねぇ、勝手に写真撮らないで?」


「だって監視人の写真アイツらに高値で売れるんだもん」


アイツら、とは他の監視対象のことである。彼らは個々で財宝や宝石類を所持しており、GREEN-1はそれらと引替えに当方の写真を売り付けているようである。脱走などではないため特に問題は無いが、現在進行形で肖像権を侵害されている身としてはあまりいい気分では無い。


「健康診断また断ったんだって?」


それはもういいか、と本題に入ればGREEN-1は素知らぬ顔で「そんなことあったっけ?」なんて笑っている。


「だあってダルいし?面倒だし?

 異能種はそんな簡単にどうにもならねぇって。

 俺が1番よぉく知ってんだからさ」


確かに、GREEN-1は異能種については管理しているこの施設のどの人間よりも理解していると言っても間違いは無い。ただだからと言ってそれで健康診断をサボられるのもこちらとしては受け入れられないのだ。


「でも、」


「じゃあ!監視人が俺になんかちょーだいよ。

 そうだなぁ、髪?あとは…爪とか?

 アイツら(異能種)が喜びそうなもんちょーだい」


「…売るの?」


「それしか使い道ないじゃん」


GREENがなぜお金を集めているかは未だ不明である。


「俺だって監視人のことは好きだぜ?

 でもそれより金の方がだーいじ!

 分かる?いや、わかんなくていいよ。

 俺はこの世の何よりも金が好きなわけよ!」


外に出ることの無いGREEN-1がお金を集める理由は、…脱走を考えているかもしれない。そうなれば管理責任を問われるのは己であるためあまり推奨したくないのだけれど。


「私じゃ、お金の代わりにはならない?」


「ならないね。

 俺には生殖本能なんて無いし、金に勝るものは無い。

 つがいなんてほとほと要らないしさぁ。

 あー、でもそうだなぁ?

 アンタなら、共同経営者にはなれるかもよ?」


GREEN-1には揺さぶりもハニートラップも効かないだろう。が、共同経営者という言葉には興味がある。


「俺の金稼ぎに協力してくれんのなら、

 俺だって相応の対応くらいするぜ?」


「例えば、グリーンの本体と合わせてくれるとか?」


GREEN(Original)はカメレオン型の異能種であり、かなり情報が少ない。他の異能種と違い、対面したことのある職員は片手で数えられるくらいだ。


「会いたいの?ふうん、会ってあげようか?

 でも、そうだなぁ、なに差し出す?」


確認、これは対価を要求されている。恐らくだが『監視人』としてのなにかしらを求められているのだろう。GREEN-1がここまで積極的に交流を仄めかすことはないのでそれに応えたいとは思うが、何を差し出せばいいのか…。やはり、この場合は他の異能種からお金を巻き上げられるような行為が良いのだろうか。財団から渡せる金額にも限りがある。


「私の、衣類、とか?

 他の異能種なら買い取ってくれるんじゃない?」


これは渋々だ。


「お!良いねぇ!どこぞのコレクターが喜びそう!

 折角だしさぁ、オークションやろうよ!

 異能種共に中継して、

 リアルタイムで監視人の服を売り飛ばしてくの!

 最後に金払ったヤツに裸の監視人差し出したりしてさ!

 それなら俺は儲かるし、

 上層部は異能種の子種回収できるし、

 アンタは俺の本体と会えるしWIN WINじゃん!」


「そ、れは…」


絶対に嫌だ。いくら情報が取れるとはいえ、自分の身をみすみす異能種に差し出すなんて考えたくもない。


「いいじゃん!ねぇ?

 アンタは愛されてるんだからさ、金になるよ。

 だって、俺の記録が欲しいんでしょ?

 それくらい差し出してくれないと、俺は高いよ?」


体の芯から冷えていくような、どうしたらいいのか分からない不安に押しつぶされそうになる。GREEN-1の発言には、それだけの圧があった。


「じゃあそうだ!俺と交尾しとく?

 俺の子供、上は幾らで引き取ってくれるかなぁ?」


狂ってる。


対応を求めます、私は、どうしたら、


_GREENの思惑通りにはさせないように。

_最近のGREENは勢いが着いてきて扱い辛い、

_それを増長させない為にも気を殺いでください。


確認。


「その話は遠慮させてもらうよ。

 この話はここまでだ、今日は帰る」


「あり?もういい訳?」


「グリーン、勘違いしたらダメだよ。

 お前はただの監視対象で、私以下の価値なんだ。

 そこを間違って線引されると困る」


「……ふぅん?」


GREEN-1は口が回る。その為、無意味な会話は彼を優位に立たせるだけである。


「いいね、強気な商材は黙らせたくなる」


頭や口が回るからと言っても、所詮は異能種。凶暴なその本性は隠しきれない。だからこそ、敢えて生意気に対応することで彼の興味を引くことが出来るのだ。


「ま、今日は終わりってことで。

 帰るんなら止めないさ、またね監視人。

 でもさ、」


これから区域を出るため通信機器の電源をオフにする。何かある場合は館内放送にてお願いします。


「お前も、所詮は商品なんだって覚えておいて」





《通信終了》


-----


「私の値段って、いくらぐらいだと思う?」


珈琲を飲んでいる『飼育員』にそう問いかければ、また始まったと言わんばかりのウンザリした表情をされてしまった。失礼な奴だ、なんて思いつつ、やっぱり突拍子もなかったか、なんて後悔してみる。


「知らねぇよ、人に価値なんか付けんな」


「もし、もしでいいよ」


「俺はお前が二束三文でも買わねぇよ」


返ってきた軽口に、なんとなく気が緩む。


「そっかぁ、買ってくれないのか…」


なんとなく、安心した。肩の力が抜けて、ついでに力の抜けた手のひらの中のコーンポタージュの缶が机に落ちてからんと音を立てる。


「それなら、自分でなんとかするよ」


いつまでも対等で居てくれるのか、と。なんとなく、嬉しくなったのは秘密の話だ。




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