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ケア行為記録【ARTS】

本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。


一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。


硬く、冷たい、ARTS(Original)の鱗に触れれば、がたがたと震えている体が更に冷えるようだった。まぁ、この震えは寒さからではないのだけれど。


「あ、アーツ、少し落ち着いて?」


まるで鈍い凶器のような尾の先が、ぐぅ、と下腹部を押す。このまま貫かれて死んでしまうんじゃないかと、さっきからずっと震えが止まらなかった。何度かつつくように体に触れる尾の先、いや、切っ先は鈍い痛みを伝えてくる。蛇の体は一万個以上程の筋肉で構成されていると聞くが、確かにその通りなのだろうとわかる。自分の胴ほどあるARTS(Original)に巻き付かれた体はピクリとも動かない。


「うーん?うん、もうちょっと待ってね」


なんでこんなことになっているのか、状況を整理しよう。


* * *


今日、当方はARTS両体の健康診断に来ており、その際、気になることがあるとARTS-1にARTS(Original)の居る本体収容施設へと連れてこられた。なにごとか、と思えば、そのままARTS(Original)に巻き付かれ現在に至る。なんなのか、とARTS-1に問うても返事は返ってこない。


「もう少し、もう少し、な?」


ずっと、それである。


「アーツ、つつくのはやめて?

 少し痛いからさ、ね?お願い、離して」


当方からの懇願は聞こえていないようで、ぐいぐいと押し付けられる尾先の加減は変わらない。


「君には尾っぽがないでしょう?

 だからさ、どうやって交尾しようかなって」


「こ、!」


距離を取ろう、としたが出来ない。ぎちりと肌に食い込む鱗が、身動ぎ一つ許さない。交尾、と言ったか。まさか、FRILLに続いてARTSまでもが当方の貞操を狙っているとは。頭が痛い。少し吐き気もする。


「何言って、私はアーツとは、」


「うん?君の意見は今はどうでもいいかな。

 人間って交尾のことを敬遠しがちでしょう?

 だから、君の意見は孕ませてからでいいよ」


ぞ、と体温が下がる。


「アーツは、私を孕ませたいの、?」


ようやくARTS-1と視線が合う。深海のような、どこまでも深く続く青い瞳が、じぃとこちらを見ている。それを見ていると頭の中がぼんやりして、息がしずらくなる。


「は、っは」


「勘違いしないでね?

 別に、種の存続も子供もどうだっていいんだ。

 ただそのくらいしないとさ、

 つがいの君はふらふらと落ち着かないでしょ?」


頭が、ガンガンと痛む。震える指先でARTS-1の手を掴んでも抵抗にすらならない。


「私は、つがいじゃ、」


握り返されてしまえば、まるで自分から縋ったようだ。それが嫌で振りほどこうとしても、ARTS-1の力からは逃れられない。震えが止まらず吐き気がもっと強くなった。応援、応援を求めます、このままでは、


「いいや、つがいになるよ?

 ふふ、どこぞのフクロウじゃないけど、

 予言してあげようか、ねぇ、監視人」


まるで蛇のように、ARTS-1の指先が腕を這うように登ってくる。ARTS-1の熱い体温が、まるで火傷痕のようにじんじんと残っている。腕はそうやって熱いのに身の内だけが凍りついたように冷たくなっていく。怖くて、怖くて、どうしようも無い、なんで通信が届かないの、!


「君は、俺のつがいになる。

 ふふふ、ねぇ?この薄い腹で、何匹産む?

 何匹引き渡せば上層部は君をくれるかな」


こいつ、ARTS-1は、まさか、私が産んだ子供と引き換えに私を要求しようとしている、?


「なん、なんで、そんなこと」


「だって好きなんだもん、君のことが、どうしても」


理解不能、異能種とは、そこまで倫理観が無いものなのか。


「そんなことしても、私はお前を好きにならない、!」


ぴたり、とARTS-1が、ARTS(Original)も動きを止める。その視線が、凍てつくように冷たくなっていく。今までの熱の篭った視線との温度差に鳥肌が止まらなかった。それでも、良いようにされるなんてあっては行けない。


「じゃあ、食べちゃおうか」


「え」


しゅるしゅると、その大きな体に見合わない静かさで動いたARTS(Original)が、こちらに顔を向けている。それから、ゆっくりと口を開いた。


自身の背丈の半分はありそうな、巨大な牙が見えた。


「は」


「そんな酷いこと言うつがいは、食べちゃおう。

 頭から、ぱくんと一口でさ。

 そうしたら永遠に一緒だね?」


ARTS(Original)の口の中、なんて見た事がない。写真、記録を、とらないと、でもそんな場合じゃなくて。


「俺のお腹の中でなら、君もいい子にできるかな?

 ほら、どうするの?可愛い俺のつがい」


あやまら、ないと。でも、


「私が死んで、悲しいのはアーツでしょう」


「へぇ?」


ぱくん、とARTS(Original)が口を閉じる。ARTS-1が楽しそうにこちらを見ている。そうか、コイツにとって私は音のなる玩具でしかないのか。つがいだなんだと言っておいて、結局はそうやって力で押さえ込もうとする。異能種とは、そういうものか。そんな、酷いものなのか。


「面白いこと言うね、でもその通りだ。

 ふふ、よしよし。今日は引いてあげようね」


これで引いてくれる、のか?


_応答してください、応答せよ、聞こえますか?


き、こえます、聞こえます!こちら職員コード『監視人』、現在ARTSの本体収容施設に居ます。


_こちら職員コード『博士』、

_一時的に通信がジャミングされていました。


確認、ARTS-1からつがいになるよう要求されており、襲われていました。ですが、どうやら拒否に納得していくれたようで応援の必要はないと思われます。


_確認。


「ふふ、安心した顔しちゃってさ。

 可愛いね?通信戻って良かったね」


…ジャミングはARTSによるものであったと確認できた。通信に介入できる異能種として新しく登録する必要がある。これはRYTHEM、TIMEに続いて三体目である。他にも出来る可能性がある異能種についても調査が必要だ。ARTSは今まで何も言わなかったが、それでも盗聴していた可能性があるためそちらにも調査がいると思われる。


「俺のつがい、予言は撤回しないよ。

 いつか、君は必ず俺の元に帰ってくる。

 必ず俺の力が必要になる、それを覚えておくといい」


これ以上は、当方の精神的衛生上良くないため撤退する。




《通信終了》


-----


吐き捨てるように着いたため息に、ほんの少し心の内側の重たい部分が溶けていくような感じがした。


「また厄介なの引っ付けてんの?」


思わずびくりと肩を震わせてしまった。声をかけてきたのは同僚の『記録係』だった。相変わらず嘲笑するようにこちらを見ておりあまりいい気はしない。が言われたことはその通りなので「あぁうん」だなんて適当に相槌を打ってタバコに火をつける。


「アンタの頭お花畑みたいなところ、

 ウチは結構好きだったのに。

 今の状態を見るにそんなこと言えないみたいね」


「よく言うよ、いつもバカみたいって言ってた癖に」


記録係は笑う。


「あったりまえじゃん、バカみたいだったもん。

 アイツらと分かり合えることなんてないんだよ。

 わかってくれて何よりだよ」


癪だったので、そうだね、とは言わなかった。


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