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監視対象コード:CLOSE

本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。


一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。


ここ最近、面倒くさいの、面倒くさいの、と並んできたからか今から行く監視対象が比較的穏やかに思える。まぁ、面倒じゃない監視対象なんていないのだけれど、それでも比較的マトモな方だとは思う。


貢ぎ物、もとい差し入れを持って戸を叩く。


気に入ってくれればいいのだけれど、もしくは、いっそ気に入らずに激昂してくれればまた新しい情報が取れる。どちらでも構わない。彼は、あまり情報が無いから。


「業務を、…開始、する」


* * *


「遅いな、二分十三秒の遅刻だ」


確認

監視対象コード:CLOSE-1

    危険度:Unknown

    友好度:Unknown


見た目は暗めの茶髪にバイオレットカラーの瞳。潔癖そうな顔をしていて、中身もそれらしく細かい。本を好み、差し入れとして新しい本を要求することが多いと確認されている。この区域内には大量の本が山積みになっており、これは珍しい種でも危険な訳でもない凡庸な異能種には有るまじき待遇だ。その理由は、CLOSE-1の異能にある。


予知、もしくは予言。


彼は新しい本を受け取った時、未来の出来事を一つだけ助言してくれる。それがピタリと当たるため、彼を個人的に使おうとする就業違反の職員が現れる。


「ふむ、レーベン著作の『ナリア』か。

 読んだことがある、これは要らん。

 後は…、柴町?知らん作家だな、気に入った」


持ってきた本を検閲しているCLOSE-1は楽しそうだ。一度読んだことがあるらしい本も、「要らん」と言いつつ近くに置いているため返却するつもりは無いのだろう。別に、与えるつもりだったので構わないが。


「五冊中二冊、その分だけ予言をしてやる。

 今日は…、ふん、上からのお使いか。

 お前もつまらない存在になったものだな」


当方は面白さでこの業務に着いていないため、別にどうとも思わない。安い挑発だ。


ただ、何も言う前に上からの命令で予言を貰いに来た、と理解されている以上その能力は本当だろう。疑ってはいなかったがやはり不気味さはある。


「はは、痛いこと言うなぁ。

 でも私は人間だからね、しょうがない」


「しょうがない、な。

 お前が、あの日、あの時あれを選ばなければ…。

 ふむ、また違った未来もあっただろうよ」


…、これは、当方個人が、まだその異能に制限がかけられる前に彼から貰った助言の話であり、守秘義務があるため深い内容について話すことは避けます。ただ、彼の助言を貰ったからこそ、今の私があることは間違いない。だから、と肩入れすることは無いが、つつかれて痛い場所であることにも、また間違いは無い。


「それより、今日の予言の話なんだけど。

 一つ目が『次に脱走を考える異能種』のこと、

 二つ目が『それへの対策法』らしいんだ。

 お願い出来る?」


願いは簡潔に伝える方が、皮肉屋な彼の対応上早い。


「ふん、言葉遊びすらする余裕も無いのか。

 それとも、俺達『異能種』に呆れ果てたか?」


「クローズ、やめて」


「昔のお前が見たら、今のお前をどう言うだろうな?

 『もしも』の未来から予言してやろうか」


「…やめて」


CLOSE-1は、こうして当方を追い詰めるのが好きらしい。これは攻撃行為ではなく、彼の期待を裏切った当方に対する正当な辺りの強さだと言い訳をしておこう。


「…はぁ、冗談だ。葬式のような顔をするな」


分かりずらい冗談だ。気を揉んだ時間を返して欲しい、が。先程も言った通り、当方は既に彼の期待を裏切っているのでとやかくは言うことは出来ない。強いて言うなら、次に持ってくる本は彼が既に読んだものを持ってきて、その次まで時間を暇にしてやることくらいしかできない。


「そんな『ちゃち』な嫌がらせはやめろ」


「はは、それも、また予言?」


「自慢じゃないが、

 俺はお前とはそれなりに付き合いがある、

 …つもりだ。そのくらいの想像はつく」


付き合い、とは言っても、彼と出会ったのはほんの数年前な気がするけれど。異能種の中でも古株なCLOSE-1に言われるのならそうなのかもしれない。


「あぁ、本体は?もふもふさせてよ」


「…」


げ、と嫌な顔をしたCLOSE-1の背後を探すように視線をやれば、こちらが見える少し離れた止まり木に居た。


確認

監視対象コード:CLOSE(Original)

    危険度:Unknown

    友好度:Unknown


巨大なフクロウの姿をしている。羽毛の色は茶色、その辺にいるフクロウをそのまま大きくしたような姿だ。ぱちぱちと大きな目を瞬かせ、こてんと首を傾げる姿はあざとい。声をかけようとしたがCLOSE-1が目の前に手を差し出して来たので声を出すのをやめた。


「なに?」


「お前は、…また俺をつけ上がらせる。

 そんな風に積極的に本体に声を掛けるな、

 好かれているのだと、勘違いする」


…理解、不能。ただCLOSE-1の感情度は確かに上昇していることが確認された。これは、悪い感情ではないのでは?もしかすると、利用できるかもしれない。


「好きだよ?私、ずっとクローズのことが好きだけど」


にこりと、作りなれた笑みを向けてやれば、CLOSE-1が分かりやすく顔を赤らめている。他の異能種同様当方に何かしらの感情を向けているかもしれないと想定すれば、これは好都合かもしれない。


「クローズ、ねぇ、好き。この未来も見えてた?」


「っみ、えて、は、いた、…が。

 お前は、本当にプライドが無いのか。

 そんなことを、無闇に言うな。

 俺だって、恐ろしい異能種なんだぞ」


「怖くないよ?」


こちらから接触に嫌がる様子はない。


「だって、ずっと私の事助けてくれるでしょ?」


予言の力を代償無しに使えるのであれば、それに超したことはない。彼の調査も丁度進めたいと上から言われていた。


「ね、クローズ。私に力を貸して?

 また、前みたいに」


これから予言の確認と懐柔に入る、予言は録音してはいけないため、このまま通信を切るので緊急時の連絡は館内放送にてお願いいたします。




《通信終了》


-----


黒歴史など作るものではない。なんて、よくわかる一日だった。ただ、その黒歴史が意図して作ったものじゃない場合の対処法を誰か教えて欲しい。もふもふしたCLOSE(Original)の羽毛の感触がまだ手に残っている。ふわふわだった。


あそこで羽の一本でも貰ってきたら新しい固有武器の素材になったかもしれないが、そこはやはりCLOSEというか、そこまで簡単に気を許してはくれなかった。


「どーしたものかね」


CLOSEとは、友達、いや。昔は、そう思っていたかもしれないけれど。いつからか、異能種とは分かり合えないと知った時から、もうそんな風には思えなくなった。戻れるのならば、あの時まで戻りたいのに。もうきっと戻れないだろう。次は、どんな顔をして会いに行こうか。


「もっと気楽な筈だと、思ったのになぁ」




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