監視対象コード:TIME
本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。
今から向かう監視対象は、ほんの少しやりづらい。いや、怖い、だとかではなく。面倒くさい。大抵の監視対象に言えることだが今回のは面倒くささならトップクラスだ。
ず、と最後の最後まで飲み干した紙パックのジュースを屑籠に捨てて重たい体を動かす。はぁ、今からでも誰か変わってくれないかと思うくらいだ。悪い奴ではない、…監視対象である以上良い奴でないことは確かなのだが、…本当に、なんと言ったらいいか分からないがただただ面倒なのだ。
入ると絶対に頭痛を起こすので、先に痛み止めを飲んでおく。それくらいしか対策法がない。
「業務を開始しまーす」
はぁ。
* * *
「よっっしゃー!!今日こそ俺の番!
やったね!!監視人とようやくイチャつける!
きてきてきてきて!!こっち!こっち!
えっへへ!!うっっれしー!
なぁなぁなぁ!何の話する!?
今日の俺のかっこいいところの話とかする!?」
確認
監視対象コード:TIME-1
危険度:Low
友好度:Unknown
続いて確認
監視対象コード:TIME(Original)
危険度:Low
友好度:High(?)
接触確認、感情度急激上昇、続いてTIME(Original)を、情報量が多い、!
_落ち着いて、一つずつお願いします。
了解、…。
TIME-1の見た目は白髪、ペールブルーの瞳をした少年の姿。無駄に表情筋が発達しており表情豊か、そして無駄に身振り手振りが大きい。見るからにうるさ、…大変騒がしい監視対象である。声が大きいせいで頭が痛くなる。
またTIME(Original)は白い体毛の小さいネズミであり、現在足元を忙しなく走り回っては当方に体を擦り付けるように懐いていている。…なんなんだ?
「た、タイム、おちつ、」
「落ち着けないよ!!だって来てくれた!
ってことは俺の事好きってことでしょ、!?
俺も監視人のこと好き!両思い!
ほら、イチャつこ!イチャついてこ!」
…、……救護部の『医師』からもらった頭痛薬の効き目は悪いようだ。もう既に頭が痛い。
「え、えーと、その、ね?
私はこれが仕事だから、そういうのは、」
「でっ、で、出来ないの!?出来るって聞いたのに!」
「……………、誰に?」
「リズムの兄ちゃん!」
どこで、どうやって連絡をとったのかの確認を行う。これは脱走に含まれるかもしれない行為であり、TIME-1の能力に関わることかもしれないため最優先事項で行われるべきだ。
「どうやって、聞いたの?」
「ええ!?聞いちゃう?俺達の秘密の連絡手段!
異能種だけの連絡手段聞いちゃうの!?
いいよ!俺監視人好きだから教えてあげる!」
…この場合は、喜んだ方がいいのか…。
「兄ちゃんとは他の職員のインカム越しに話すの!
俺達がよく使うのは『博士』って人のチャンネル!」
確認します、『博士』、それは事実ですか?
_恐らく、事実かと思われる。はぁ。
これからはそんなことが無いように、いえ。RYTHEMとTIMEは特別電子機器に強い異能を持っているため、制御のしようが無いかもしれない。それを現在この場で決めることは難しいので上層部の指示に委ねるとする。
「兄ちゃんは監視人のこと『俺の嫁』って言うけど、
そ、そんな事ないよな!?
俺の事の方が好きでしょ!?俺の方が可愛い!
そんでもって人間体も俺のがカッコイイ!」
確かに、RYTHEM(Original)とTIME(Original)とでは、どちらかと言えばTIME(Original)のほうが愛らしいような気がする。どちらとも監視対象であるため愛玩と言うふうに見たことがないためはっきり言えない。人間体は…、それこそ人によるだろうとしか言えないだろう。
膝に乗ってきて、「ちう!」とTIME-1のように大きい声で主張するTIME(Original)は(その鳴き声がなければ)愛らしい。
問題にならない程度の虚偽申告をします。
_許可します。
「あはは、確かにタイムは可愛いね。
小さくて、妖精さんみたいだ」
「むー!!妖精なんかより俺の方が可愛い!」
「そうかな、妖精をあんまり見ないから、なんとも。
でも、タイムが言うならタイムの方が可愛いかもね」
「でっっしょ!話が分かるなぁ監視人は!
っって違う!はぐらかさないでよ!
俺とリズム兄ちゃん、どっちの方が好きなの!」
_ザ、ザザ それ俺も気になる!!
_失礼、RYTHEM-1が乱入してきました。
それは、つまりどちらを選んでもどちらかの暴走の恐れがあるということでは?早急にRYTHEM-1を通信から追い出して欲しいのですが。
_RYTHEMの異能です。
_拒絶命令が弾かれて効きません。
_ザー あ!この話題終わったら出ていくから!
…。
「リズムのことは、とても仲のいい友達だと思ってる。
タイムは、可愛い後輩、ってところかな?」
_ザザ 『とても』!『仲のいい』!
_ザザザ 聞いたタイム!?俺の勝ち!
「はぁ!?それは違うでしょ!
俺は『可愛い』って言われたんだから!
ただ『仲のいいだけ』な兄ちゃんとは違うの!
俺はこれから発展していくから!」
_ザー はー!?聞き逃せないなぁ!
「話は終わり、『契約』だよリズム」
_ザザ …はーい、出ていきまーす
『博士』、金輪際こんなことがないようにお願いします。二度もこんな板挟みに合えば労基に訴えるのも吝かではありません。二度と、二度と無いように。
_了解。
「ほら、タイム拗ねないで?
私の意見はさっきのから変わらないから」
「…ねぇ、ねぇ、俺の方が上でしょ?
上だよね?上だって、上って言ってよ監視人…」
「…」
「やだ、やだやだやだ!俺が1番じゃないとやだ!
なんで兄ちゃんばっかり、なんで、
俺の事も見てよ!もっと俺にも構ってよ!
監視人、監視人!!俺の監視人なのに!」
「タイム、その演技はまだ続ける?」
TIME-1沈黙、図星をつかれたことで鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして固まった。
「…えへ!監視人にはバレちゃうかぁ!
おっかしいなぁ、他の職員は騙せたのに!」
先程は激しい声色で怒鳴りましたが、感情度に一切の変化は無し。膝の上で寛いでいるTIME(Original)も感情度と同じく一切の反応はなく、ただ伺うようにこちらを見ているだけ。
「今日は帰るよ」
「うん、まったねー!
次は明日でも、今日の午後でもいいよ!
…ふふふ、待ってるね?」
やはり、監視対象は油断ならない。
《通信終了》
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ぼうぼうと燃えるタバコの吸殻から登る煙を見上げて、ぼんやりと喫煙所の中で時間を潰す。報告書も書き終え、特にすることもないので別の仕事をふられる前にこうやって逃げるのだ。昔は、こんな事しなかったけれど。
時間とは、思ったよりも早く過ぎ去って消え行くものだ。




