『掃除屋』とのやりとりについて
本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。
「掃除屋、!なに、して、…」
「可愛いねぇ、俺の可愛い監視人♡
可哀想に、力だけの人外連中に懐かれて、
自由を奪われて、心まで引き裂かれそうで…。
可愛いよ、とっても、とぉっても♡
ほら、甘やかしてあげるよ。
俺の腹の中で、溶かして、愛してあげる♡」
っ!これは、『掃除屋』の固有武器、!?
「うっ、ぁ、」
「おやすみ、おやすみ、愛おしい子」
* * *
意識浮上、周囲確認。
何が起こっているのか理解は出来ないが、『掃除屋』の暴走に巻き込まれたと思われる。職持ちの発作は個人でどうにかするのが暗黙の了解だが突発的に来たのならばしょうがないだろう。掃除屋の性格上、監視対象に疲弊していた当方への哀れみで調子が狂ったに違いない。
博士、聞こえますか。
_…。
通信不可能。
現在、辺り一面が暗がりの特殊空間に放置されているが、このままだと戻ってきたこの空間の主、正確に言うとこの空間を作っている固有武器の持ち主、掃除屋が戻ってきてしまうため早急に対応をしなければいけないと思われる。
「(逃げる、が先決か…)」
が、この空間から持ち主の了承を得ずに逃げることは不可能である。当方の固有武器を使うか、否か。
私の固有武器を使えば脱出は可能だが、それによって起こる二次被害が大きいため躊躇される。けれど、帰ってきた掃除屋が正気である可能性は著しく低いため武力行使は避けられないものと思われる。
「んふふ、まぁた考え事?
いけないんだぁ、悪い子だね監視人。
ここじゃ難しいことは考えたらダメなんだよ?
俺に愛されて、溶けることしかしちゃだぁめ」
!?
掃除屋の出現を確認、この場から逃げることは不可能だ。
「ほら、『おいで』?よしよししてあげる♡」
この空間は、言わば掃除屋の心象世界。故に、掃除屋の『命令』は絶対になる。動かす気もなかった足が勝手に動き、掃除屋のところまで勝手に歩いていく。
「いい子!よしよし、可愛いねぇ♡
どろどろになるまで愛してあげるから、
監視人は安心して俺に委ねて?」
この暴走の元凶は恐らく『哀れみ』。掃除屋が満足するまで多分だが離してもらえないだろう。掃除屋の欲求が満たされれば暴走は終わると思われるがそれまで当方が正気でいられればの話だ。最悪の場合、当方が暴走して職員2名で衝突し被害が増えるかもしれない。
「あ、ありがとう、掃除屋。
でもわたし、私、帰らないと…」
「帰る?どこに?
俺達には帰る場所なんてないのに、ふふ。
おかしな監視人だなぁ。
俺が良いって言うまでここから離さないよ?
監視人が、素直に甘えられるまでね♡」
確かに、当方ら職員には帰る場所は無い。寝泊まりは宿舎があるがそこは仮屋であり家では無い。
「いつも頑張っててえらいねぇ♡
よしよし、俺の可愛い子、優しい同僚。
お前は俺の自慢だよ?本当に♡
大好き、好き、愛してる♡
疲れちゃったでしょ?可哀想にねぇ」
…。
「嫌だ、って言えないもんね?
上と『そういう』契約をしているから。
ふふ、ふふふ、可哀想♡」
…。
「異能種共だけじゃなくて、
俺達からも搾取されて…可哀想♡
可哀想で可愛い♡」
っ、
「う、るさぃ、」
「あれ?抵抗しちゃうの?いいよ♡
好きにしてみて?なぁんにも出来ないから♡
逃げたいねぇ?でもだぁめ♡
俺の事殺したいね?でも、だぁめ♡」
「掃除屋!」
「ふふふふ、おっきな声♡こわぁい♡」
掃除屋に掴まれている腕が、みしりと嫌な音を立てる。このままでは折られてしまう、と恐怖を抱くが、そんなこと分かりきっているらしい掃除屋に更に力を込められ、思わず動くことも出来なくなってしまった。
「ほら、がんばれ♡がんばれ♡
監視人なら出来るよ♡俺、信じてる♡」
できるわけ、
「っ、あ、…っ、ぅ、ぅ、う〜」
「わぁ!泣いちゃったの?可哀想にねぇ♡」
理解不能、理解不能!掃除屋は当方が泣いていることで喜んでいる!なぜだかなんて分かりたくもない!
「よしよし、怖かったねぇ?
腕痛い?ごめんね?やめるからねぇ♡
ほら、あーあー、…可愛い♡
異能種共の前じゃいつもツンってしてるのに、
俺達同僚相手だと甘えんぼになって♡
最初からそうやって泣いてたら優しくできるのに♡
監視人が悪いんだよ?強がるからさぁ♡」
こわい、怖い、全部が。信じられない異能種達も、掃除屋も、利用してくる上層部も。全部怖い。言える訳無いだろ、助けてって言ったって誰も聞いちゃくれないのに!
「ほら、落ち着いて?よしよし、ふふふ♡」
「ぅ、〜!掃除屋なんて大っ嫌い!」
「え」
「大っ嫌い!出して!ここから出して!」
要求!
「ご、…ごめんねぇ!!俺何してんの!?
やばっ、ごめ、ほんっとごめんね!?」
「ばーか!ばーか!」
恐らく掃除屋に正気が戻った。ばきん!と音を立てた目の前の黒い空間にひびが入って外の光が入り込んでくる。泣いてしまったのは自分でも予想外だが、それでもこれで解決、ということでいいだろう。傍迷惑な同僚にお酒を奢らせる仕事がまだ残っている。これは業務外です申し訳ありません。
「お酒、お酒を奢らせていただきます!
本当に申し訳ありませんでした!!」
謝罪している掃除屋を放ったらかしにして空間の割れ目から外に出る。どうやら運んでもらったらしい、出たところは待機室だった。
_通信を確認、何か問題が?
…。失礼します、『掃除屋』がBANGの収容区域前にて暴走を起こしており、それに巻き込まれていました。
_解決しましたか?
解決しました。
_そうですか、気を付けてください。
…《通信終了》
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「あれほど体調管理には気をつけろっつったろ」
「この度は、…本当に申し訳なく…」
『飼育員』に怒られている『掃除屋』は、つい昼の出来事だったあの暴走とはかけ離れているように見える。縮こまっていて、しょんぼりしている。
「俺まで巻き込むなよ」
「ねぇ、そこは巻き込まれてでも私を助けてよ」
「やーだね、俺ァそんなめんどくせぇことはしない」
酷い言い分の同僚に不満を言えば、飼育員は掃除屋の頭を掴むと「はぁ」とため息をついてタバコを吸う。
「コイツを訓練場に叩き込んでくる。
飲み会は明日だな、報復しといてやるよ」
「えっ!?」
「任せたぞ飼育員!」
* *
監視人が去っていったあと、その後ろ姿をまだ見続けている掃除屋を飼育員がどつく。拳をその額にめり込ませ、ぎりぎりと万力のように圧をかける。悲鳴をあげる掃除屋だが、悪いと思っているのだろう抵抗はしないようだ。
「で、実の所どうなんだよ」
「だって!だって監視人が可愛すぎてさぁ!
虐められて、しょんぼりして、可愛いんだよ!?
そんなの拾っちゃうじゃん!
俺捨て猫とか見捨てられないタイプ!」
「うるせー、知るかよ」
全く反省していない様子の掃除屋に、今度こそ本当に飼育員がため息を着く。
「…次は、止めないからね?
嫌いって言われても、好きって言わせればいいんだ。
ふふ、んふふ、可愛い、可愛い俺の監視人…♡」
面倒な同僚を持ってしまったと、飼育員は頭を抱えた。




