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監視対象コード:BANG

本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。


一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。


区域外にまで及ぶアルコールの匂いに、ぐ、と眉をしかめてしまうのも無理は無い話だ。相変わらず、すごい匂い。忙しそうに区域に酒を運ぶ他の職員を見ながら「(今からあそこにはいるんだよなぁ)」なんて監視対象になんとなく気後れしている。つまみ、という名の差し入れを持ってきたが、この様子じゃ必要なさそうにも思える。


まぁ、こればっかりは気持ちだから。恐らく受け取ってくれだろうとも思うし、他の職員と交代の手続きをして、区域の中に入って監視対象がいる対応部屋に向かう。


「業務を開始する」


* * *


「おー!来たか監視人、ほれこっちへ来い!

 儂の隣に座ってもいいぞ!

 お前も一緒に酒を飲め!そっちの方がいい!」


確認

監視対象コード:BANG(Original)

    危険度:High

    友好度:High


見た目は、放り出されている空の酒瓶とは似つかわしくないくらいに小さく押さないように思える。小等部の高学年、中等部の低学年のような小さい背丈。白い髪に、目を惹かれるほど美しい銀河色の瞳をしている。


「バン、何度も言うけど私は飲めないよ」


「なんじゃあ、面白くないのう。

 まぁいい、じゃあ儂の酒の肴になれ!」


アルコール臭が強く、傍から見ると未成年飲酒の現場のようで少し気まずい。


_BANGは推定500歳を超えています。


…。確認、助言ありがとうございます。


BANGは元素生物の中でも幻獣型であり、額に生えた日本の角からわかる通り『鬼|オーガ』種である。施設にこの種はBANG一体のみであり貴重な素材のため大抵のわがままや要求は許されている。


「ふふん、儂はお前を気に入っとるんじゃ。

 いつかは娶って妻にしてやってもいい!

 なんで儂がそこまでお前を気にかけるかわかるか?」


回答を要求されている。


「私が、ウィザーの弟子だからだよね」


BANGはWITHERの弟子を公言しており、この施設に所属している理由もWITHERがここにいることをよしとしているからであると思われる。


故に、WITHERが教え子だと公言している当方に興味を示しているのだと思われる。全て情報から考えられる想像であるため確実性はないが、強さを至上とする『鬼|オーガ』種がここに収容されることを選ぶのはそこまでの理由がないとあまり信じられる話ではないだろう。


「ううむ、それもあるがのう?

 なんじゃあお前、勘違いしとるのか」


…。


「違うの?」


「違う、儂はお前を個人的に気に入っとるんじゃ。

 人間にしては強いその腕も、

 人間とは思えぬその負けず嫌いも、

 儂は戦場で一度相まみえたお前の瞳を忘れられん」


確かに、当方は一度異能戦線でBANGと戦ったことがある。が、それは数年前の話であり、現在当時のように戦えるかと言われれば否。これがバレればせっかくの利用価値があるBANGからの興味を失う可能性が高い。


「そう、…ありがとう」


虚偽申告をしてでもその強さがあることを確認するか、それとも事実を話すか、誤魔化すか、判断を委ねます。


_…誤魔化してください。


確認。


「まぁ、認められてるのは嬉しいかな。

 あ、ほら、私もおつまみ持ってきたよ。

 手作りなんだけど、食べる?」


「おお!貰うぞ!ふふん、らっきーじゃ!

 未来の妻の手作りなぞ喜ばぬわけがなかろう!」


感情度上昇、心から喜んでいると思われる。渡したものを食しながら酒を飲むBANGは顔色一つ変えない。それなりに度数の高い酒だと思うが…。『鬼|オーガ』種の特性かもしれない。見下ろすBANGの背丈は小さく、やはりなにかちぐはぐなように感じる。これに慣れる日はくるのだろうか。


「あぁ、勘違いするなよ監視人。

 確かに儂はお前が強かったから興味が惹かれた。

 が、弱くなったからと見捨てたりはせん。

 寧ろ、戦士だったお前に敬意を評し、

 これからの未来を永劫守ってやると誓おう」


…。


「なんじゃあ、目を丸くして。あざといのう?

 人間なんじゃから、弱いのは当然じゃ。

 じゃから、儂の領地で囲って、大事に守ってやろう。

 ウィザーのやつにも邪魔だてはさせん。

 時が来れば、ここを出て祝言といこう!

 ふふん、派手なヤツがいいのう!」


これは、…まずいのでは?


「お前もそう思うじゃろう?」


現在の発言で確認される注意項目は複数。一つ、外にBANGが領地を所持していること。一つ、WITHERに対抗する手段があること。一つ、当方を手に入れることを確定的な未来として認識していること。


幼い、と言うより、小さい姿からは想像もできないほどの破壊性能と戦闘能力を保持てしているBANGは、施設でも危険指定されている。


「バン、そ、れは、」


「うむ!お前は答えなくともいいぞ!

 鬼の本分は奪うことじゃ、

 嫌がられると手酷く知らしめたくなる。

 儂に酷いことをさせてくれるな、

 伴侶には優しくしたい、優しくされたいじゃろう?」


「…!」


_至急、誤魔化してください。

_虚偽申告も許可します。

_決してBANGの思う通りにさせないように。


確認。


「…よ、酔っ払いの告白は、嫌だなぁ?

 バンが、お酒に頼らずそう言ってくれたら、

 まぁ少しは考えるけど…。

 今日はもうダメだよ、飲み過ぎ」


「……」


これで、あっているか。


「うっはは!いいのう!

 それでこそ儂が見込んだ女じゃ!

 分かった、次に想いを告げる時は酒は抜こう」


_流石です『監視人』。


…いえ、こればかりは、規定量以上の酒を飲ませておいた前作業員の手柄かと…。


「くふふ、儂に『酒を抜け』と、なぁ?ふふ。

 お前じゃなければ縊り殺していた。

 可愛い未来の伴侶からの我儘は聞いてやろう」


感情、低下は見られない。今は機嫌がいいのだろうと思われる。でなければまだごねられていたであろう。無理やり手篭めにされていたかもしれないと思うとゾッとする。なにより今の状態では対抗手段がない。されるがままに殺されてしまうのはごめんだ。


「じゃが、覚えておけ?」


追記:接触確認。

BANGの右手が当方の左頬に触れている。


「その誤魔化しは、次は効かんぞ」


…、本日のコミュニケーション作業はもう十分だと判断し、直ぐに撤退する。これ以上は当方の精神衛生上多大な損害を招きかねない、よってこれより帰還する。




《通信終了》


-----


「なにしてるの?」


「あ、『掃除屋』…」


まだぞわぞわと鳥肌の収まらない二の腕をさすって、その場に座り込んでいれば掃除屋に声をかけられた。


「いや、ちょっと休憩、っていうか」


バレないように、話をこれで切りあげてくれるように視線を逸らせば何故か一緒にかがみこんだ掃除屋が手を握ってくれる。人らしい温もりに、少しだけ落ち着いた。


「腰抜けちゃった?

 可哀想な『監視人』、可哀想に、ね」


なんだか、含みがあるような。


「監視対象にばっかり好きなようにされて、

 可哀想な監視人を、俺見逃せないなぁ」


鳥肌が復活。思わず立ち上がろうとしたが、手を取られているせいで引っ張られそのまま掃除屋に抱き止められてしまった。ぎゅう、と力強く抱き締められて、掃除屋の心臓の音が耳元で聞こえるのに何をしているんだと振りほどこうにも、男女の力の差は歴然だった。


「ね、監視人。『俺の心においで』」

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