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監視対象コード:DUST

本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。


一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。


今日の仕事は骨が折れるだろうなぁ。

なんて、考えながら、館内に鳴り響く警報音を茶菓子に一口お茶を飲む。若干濃いめに入れたつもりだが、味がしない。それだけ緊張しているということだろう。


そりゃあ今から相手するのは危険度だけなら施設内トップクラスの監視対象なのだからしょうがないか。


まぁ本当に骨が折れないことを願うばかりだ。あの監視対象は私にはすこし、いや、だいぶん懐いているようだから、怪我をするようなことはないと思うが。何度だって言うが異能種にろくな奴はいないのだから断言はできないだろう。面倒臭い、なんて言えるならまだいいのに。


「職員コード『監視人』、業務を開始します」


* * *


_ぎしゃーー!!!


確認

監視対象コード:DUST(Original)

    危険度:High

    友好度:Low


ゴミのように蹴散らされた職員があちこちに散らばっている。一歩踏み出す度、靴裏を濡らす血溜まりがぴちゃぴちゃと音を立てるのが不愉快だ。


失敬、これは業務外です。


DUST(Original)(以下からDUSTと表記する)は、姿形を自在に変えられる特殊な異能種である。現在は巨大な角と羽の生えた蛇のような姿をしており風を操りながら暴れている。非常に攻撃的であり、殺意すら見受けられ、これ以上の被害を出さないために当方以外の職員の応援は推奨しない。


「ダスト、また暴れてるの?」


_…しゃあ


目が合う。美しい翡翠色の瞳がこちらを向くと、今までの空間を切り裂くような威嚇の声はなりを潜めて、小さく甘えるような声が降ってくる。それから、見上げたDUSTの身体からぱきんぱきんという甲高い音が鳴って、DUSTの身体から鱗が落ちてきた。


「おせぇ、今までどこに居たんだよ。

 アンタのこと探しに来たのに、見つからねぇから…」


鱗の雨が降りやんだ時、中から男が現れた。


ボサついた硬い黒髪に、先程の巨大な蛇の姿と同じ緑色の瞳をした長身の青年はDUSTの人間態だった。


「だからって、こんなに職員を傷つけて、

 脱走までしてさ。ダスト、悪い子だね」


「ちがっ、アンタが!いない、から…。

 オレはアンタを探すためにここまで来たんだ、

 なぁ、悪かった、コイツら、五月蝿くて」


感情度低下、落ち込んでいるものと思われる。DUSTは感情度に大きく左右される個体であるためケアを開始する。そのまま区域にも連れ戻すと効率的だろう。ここの清掃は『掃除屋』に任せておく。


_『掃除屋』了解。


「悪い子は部屋に帰らないとね。

 ほら、逃げないように手を繋ごうか」


右手に接触を確認、同時にDUSTの感情度上昇。


「一緒に帰ってくれるでしょ?」


「…うん」


事情聴取も帰り道で行うものとする。


「急に私に会いたくなっちゃったの?」


「…健康診断だ、とか言って、

 うるせーヤツらが巣に入ってきたから…。

 だから、追い返しただけだ」


「それで壊しちゃったのか」


「アンタは、オレが悪いって言わないよな、?

 あの巣はアンタがオレにくれたんだ、

 だから、オレは、あそこを守りたくて…」


事実確認をお願いします。DUSTは非常に不安定な個体であり、管理責任のある当方に連絡のない緊急健康診断や突発的な調査は禁止されているはずですが。


_連絡が行き届いていなかったようで、

_DUSTの発言に虚偽申告はありません。


了解。


「そっか、それは怖かったね。

 帰ったらまた部屋の掃除をしよう、

 そうしたら、また元通り、ね?」


DUSTは旧都市から回収された異能種であり、回収を実行した当方、『監視人』以外の人間種に対する高い憎悪が確認されている。故に扱いは難しく、調査等は当方を介して行うようにと上層部から命令が出ているはずですが…。今回のようなことは二度と怒らないようにお願いします。ケアや被害報告書の作成を行うのは全て当方であり、ただでさえ暇の無い現在の状態に苛立ちを募らせている異能種が多くいるという状況で、このように緊急案件を入れられても次は来れられるかも分かりません。


_以後最大限気をつけておく。


そうしてくれると助かります。


「なぁ、怒ってる、?

 確かに、外まで追いかけたのは、オレが悪い、けど。

 だってアンタから貰ったもんとか、

 ぐちゃぐちゃにしようとしてたんだ。

 クッションとか、毛布とか、

 せっかくアンタの匂い付けたのに、

 他の奴が入ってきたら薄れるだろ?

 オレは、ただアンタを奪われたくなくて、」


「大丈夫だよ、分かってるから」


正直、たかが物を触られた程度で相手を殺害するほどの激情を抱く心理は私には理解不能である。が、それだけ気にいられているということにしておこう。


「可愛いね、ダスト。

 外嫌いなのに、私を守ろうとしたんだね?」


「そっ、そう!オレは、アンタを守りたくて、!

 中に居たら、アンタが何してるかもわかんかくて。

 触られて嫌だったのと、

 アンタに会いたいのがごっちゃになって…。

 今のオレみたいにアンタが傷付いてたら、って。

 だから、守りに行かなくちゃ、って」


DUSTの当方への依存は人間では理解し難い。ただ旧都市から拾っただけ、と思っている当方にここまで入れ込めるのは異能種らしい執着と言えるでしょう。刷り込みのように、最初に出会った人間である私を親、ないしつがいだと思っている可能性が高い。だからどうということは無い、研究に利用できるため今はそのままにしておく。


調査区域変更:研究施設→DUST研究区域


「これ、これ、あとこれも」


現在、DUSTの所有物に当方が触れて匂いを付ける一種のケア行為の最中である。私には理解できないが、触れるだけで匂いが着くらしい。先程DUSTが口にしたクッションや毛布の他にも枕や監視対象用の病衣等に触れた。


「これで最後、これで、今はいい」


「うん、じゃあ、最後にダスト、ほらおいで」


ハグは簡易的であり実に効率的なケア行為の一つだ。名前を呼んで両手を広げるだけで監視対象の方から喜んで接触してくる。その上効果的でDUSTの感情度も簡単に上昇する。


「ん、ん。オレにも、アンタの匂いつける」


このまま集中的なケア行為に移行するため、万が一の刺激を避けて通信機器の電源をオフにする。




《通信終了》


-----


「はー、つっかれた。」


「お疲れ様、DUST、だっけ、凄いね彼」


『掃除屋』の労いの言葉も、今は焼け石に水だ。あれだけの危険生物を相手にしていたという気持ちの疲れの方が強い。待機室にいると、どっと疲れが出てきて肩まで痛む始末。これだから危険度が高い異能種の管理は嫌だと言っているのに。話が通じない上層部で困る。


「中身は甘ったれなんだけどねぇ、

 火が付くと止まらない、私もいつか殺されそう」


全く、こんな所では死ねない、なんて。言うけれど。あんな理不尽な存在を目にしてからはそんなこと冗談では言えなくなってしまう。


「次、とかなさそうで怖いわ」


ぼやけば、


「それは…ないと思うけどなぁ」


なんて『掃除屋』が笑った。




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