監視対象コード:MINE
本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
一部に暴力的描写・性的表現・過激な言動が含まれる場合があります。苦手な方は閲覧をお控えください。
監視対象、もとい異能種には三種類存在する。
1.常識が無いもの
2.独自の常識を語るもの
そして3、『常識があるもの』である。
「職員コード『監視人』、業務を開始する」
* * *
「っと、本読んでた、出迎えに行けなくてすまん」
「大丈夫だよマイン」
確認
監視対象コード:MINE-1
危険度:Low
友好度:Low
黒髪、茶色い瞳の至って平凡な成人男性の見た目をしている。また身長は成人男性の平均であり、特出して高い訳ではない。また威圧的でもないため男性恐怖症であったりしない限りは監視対象の中で最も親しみやすい個体だ。
性格も至って平均的な人間のような性格をしており、人間の一般常識が通じる珍しい個体である。
「なんの本を読んでたの?」
「チェスの教本、シーのやつが読めって煩くてな」
またMINEはSEEと関係の深い異能種であり、その交流はこの施設に入る前からであると確認が取れている。完全に切り離すのは両個体の精神衛生上よくないという博士の考えから定期的な交流が認められている。MINEは比較的施設に非協力的な個体であるが、SEEと関わった際のみ深層調査を許可するためこれからも積極的にSEEとの交流を認めることが推奨されるだろう。
「そう言えば監視人、ウィザーの奴と会ったか?」
…。
MINEとWITHERの仲は悪くない。前々回の異能種交流実験にて初対面のはずだったが、何度か話をして気があったらしい。以降、WITHERの教え子(仮称)である当方のことも気にかけてもらっている。不本意だが、調査を拒否していることの多いMINEに近付く理由付けには丁度いい。
「あぁ、あったよ。少し前だけど。
元気そうにしていたよ、お菓子も食べてくれた」
「お、またアンタの手作りか。
それは俺も羨ましいんだがなぁ」
「はは、お利口に調査を受けいれてくれれば、
マインにも何か好きなものを作ってくるよ?」
「ふ、辞めてくれ。利口なんて柄じゃない」
MINEは、一定量の強さを持つ相手にしか興味を示さないという生態が確認されている。
故に、基本的に弱い人間という種族には興味が無い、ないし対応が冷たくなると思われる。その上で、異能種の中でも最強格のWITHERの弟子という存在を気にかけずにはいられないらしい。
当方には比較的気のいい性格であるため、この立場はもう暫く活用ができるはずだ。やりようによってはMINEの生態調査ももっと捗るかもしれない。
「どうしたら協力してくれる?
欲しいものとか、会いたい相手とか居ないの?」
未だ謎の多いMINEの調査は優先順位が比較的に高い。そのため気に入られることは悪いことでは無い。EATやRYTHEMのように、当方を特別だと認識してくれればまた幾分かやりやすいのかもしれないが、MINEの性格上それは難しいと思われる。が、必要であれば集中ケアによる刷り込み作業もやむを得ないのかも知れない。
「無いよ、俺にそういうのは無い」
「そっか、残念だな」
「監視人は俺に何を望んでる?」
確認
虚偽申告をしますか?
_いえ、あまり刺激したくありません。
了解
「私はマインの特別になりたいな」
「それ、他の奴らにも言ってんだろ。
ったく悪い女だな?」
接触します。
拒絶はなし、が、感情度の変化もなし。
「嫌い?」
「強かな雌は嫌いじゃねぇよ」
接触確認、右手に触れられている。MINE-1の力を持ってすれば簡単にへし折られるかもしれないが、おそらくされることは無いだろう。
「俺のお気に入りになりたいってんなら、
それ相応の覚悟はあるんだよな?」
確認
虚偽申告をしますか?
_気に入られる回答を。
確認
「私はマインを信じてるよ」
「お前なぁ、俺が優しいからって、
あんまり信じ過ぎると痛い目見るぞ。
俺だって異能種なんだよ、分かるだろ」
少なくともこうして事前に忠告してくれるMINE-1は他の異能種と違って善意があると思われる。
「マインみたいな強いオスのつがいになれたら、
なぁんて、マインは優しいから人気なんだよ?」
「俺のつがいに、ねぇ?」
確認
監視対象コード:MINE(Original)
危険度:High
友好度:Low
MINE(Original)は、巨大な鷹型の元素生物だ。目立った特徴はないが酷く攻撃的であり、現在も収容区域の奥に陣取ったまま動きは確認できない。ただ、『つがい|番』という単語に反応してかこちらに視線を向けているように感じられる。殺気にも近い何かを感じる。
「なりたいのか?」
「してくれるの?」
「俺達の種族は、生涯同じ相手と居るんだ。
なぁ、何が言いたいのか、わかるな?」
これ以上刺激しないことを推奨。
_いえ、新しい反応を確認したいので、刺激して下さい。
…了解。
「それでもいいよ、って言ったら、っ!」
攻撃、いえ、接触確認。
腕を掴まれ無理やり目を合わせられている。MINE-1及びMINE(Original)に精神干渉の能力がないことはまだ調査が不十分で確認できていない。万が一のことがあるため応援を要請します。
_了解。
「煽ったのはお前だからな?
俺は、純情な心を弄ばれたんだ。
応援呼んだよな、そりゃあ、普通呼ぶよな。
でもほら、俺は異能種だから、なぁ?
欲しいものは、
手に入れたいと思うのは当たり前だろ?」
「…マイン、思ってもいないことは、
言うべきではないと思うけど」
「…」
感情度、低下。
「…はー、はいはい、冗談だよ」
拘束が解けた。MINE-1は諦めたように距離をとる。少し息がしやすくなった。やはり異能種に近付かれると息が詰まる。
「驚かせて悪かったな、でもお前も悪いだろ?
ま、いい教訓になっただろ。
あんま雄を煽るんじゃねぇよ、痛い目見るぞ」
…。
「あぁ、気を付ける。
『先生』に、マインは危険だと伝えておくよ」
「ちょっ、と。それは待て、俺が悪かった。
ウィザーのやつお前に関しては口煩いんだ、
怒られるからやめてくれ、酷いと殺される」
この位の仕返しは許容範囲内だろう。
今日のコミュニケーション作業はこのくらいにして、もう引き上げる。区域内から離脱するため通信機器の電源をオフにする。緊急時の連絡の際は館内放送にて。
《通信終了》
-----
常識が無い監視対象を丸め込むのは容易い。独自の常識を持つ監視対象にも、適当に話を合わせることは難しいことではない。こうして人間のことをよく理解しているものを相手にすることに比べれば、前者二つはどうって事ない。
「痛いなぁ、もう」
MINE-1に掴まれた腕が、まだ痛む。
「なにが常識のある個体、だよ。
結局はただの化け物じゃねぇかよ」
目を瞑れば思い出す、MINE-1の、熱を持った視線に背筋は冷えたままだ。ため息をついても恐怖は消えない。
「やっぱり異能種なんてろくな奴がいねぇ」




