第Ⅴ章:討伐の刻(後編)
爆ぜる黒雷。揺れる白光。
森の静寂は完全に崩れ去り、空間はひび割れたように歪んでいた。
討伐隊の先陣が倒れ、最後まで残った一人――銀髪の男が、血を滲ませながら立っていた。
「……変わってないな、凛。戦い方も、“魔力の質”も」
凛の目が揺れる。
その声――どこかで、聞いたことがある。
「……我を、知っているのか」
男は口元をかすかに笑みの形にし、右手の手袋を外す。
そこに刻まれていたのは、凛と同じ“魔封じの刻印”。
「兄弟弟子の一人だよ。“白を喰らい、黒に堕ちた”と言われたお前を、誰よりも信じてた」
凛の中に、ざわりと過去が蘇る。
小さな頃、魔術院で共に学び、魔力暴走を止めてくれたあの少年――名は、カイン。
「なぜ……そなたが、討伐隊に……」
「お前を守るために、ここに来た」
その言葉に、凛の瞳が見開かれる。
「抹殺命令を受けて、それを“拒むために”先に仲間を倒した。――それでも、俺も限界だ。今すぐ逃げろ、凛」
「……我は、逃げぬ。我は、もう……」
白と黒が、彼女の背に翼のように広がっていく。
「……“我”が何者か、今度こそ見極めねばならぬ。もう“力”を恐れてはならぬと、母に教わったのだ」
その瞬間、胸元の封印が砕けた。
黒魔術が弾け飛び、空に吸い込まれていく。そして代わりに広がるのは、透き通るような白の輝き。
白黒調和魔術――それが、凛の“真の力”だった。