第Ⅴ章:討伐の刻
静寂を破ったのは、風のない森で吹いたはずの風音だった。
凛は庭先で白いハーブを摘んでいた。けれど、その指先がふと止まる。
「……我の結界に……触れた者が、いる」
ゴスロリの袖を揺らしながら、彼女はゆっくりと立ち上がる。
森の奥から、数人の気配――いや、“魔力”がこちらへ向かって歩いてくる。
やがて姿を現したのは、黒と銀の装束に身を包んだ男女の集団。
その中央に立つ男が、一歩前に出る。
「白黒魔術融合体、“凛”。魔術評議会の命により、お前を拘束する」
「……“拘束”と申すが、それは穏やかな意味での言葉であろうか?」
「拒めば、その場で処分する」
凛は、静かに息を吐いた。
「……これ以上、我から“生きる”を奪うのであれば……」
彼女の背後、空間が“裂けた”。
白と黒の魔力がぶつかり、咆哮を上げる。封印が解けた後も、彼女は完全にその力を解放していなかった。
だが今――彼女は“意思”で魔力を解き放つ。
「……ならば、応じるしかあるまい。我が魔法、白と黒の間より――」
次の瞬間、光と影の魔法が森を貫いた。
討伐隊の盾が砕け、空が一瞬だけ、白黒の斑に染まった。