第Ⅲ章:再会の光
白きドレスに包まれた凛は、黒の封印が砕けたその日から、微かな“呼び声”を感じていた。
それはまるで心の奥底から響く歌のようで、懐かしさと痛みを含んでいた。
彼女は、旅に出る。
失われたはずの過去を、その手で確かめるために。
* * *
古都リュミエールの最果て、静かな森の奥。
風に揺れる白い花々の中に、それはあった――白き庵。
戸口の前で、凛はふと足を止める。
心臓が高鳴っていた。記憶の彼方で泣いていたあの日の少女が、静かに手を伸ばす。
きぃ、と木の扉が開いた。
そこにいたのは――
「……リア様、お客……あら……」
振り返ったのは、白髪を編み込んだ一人の女性。
優しく穏やかな瞳。そして、同じ形の目を持つ少女の顔を見て、彼女の手が震えた。
「……凛、なの……?」
「……母様……」
時間が止まった。
再会の言葉は必要なかった。
二人はただ、そっと抱き合った。
凛の肩にそっと触れるリアの指先は、もう震えてはいない。
かつて刻んだ封印が、今はぬくもりへと変わっていた。
「ずっと、会いたかった……ずっと……」
「……我も、ずっと……違う。わたしも、ずっと……」
その日、凛は初めて“我”ではなく、“わたし”として泣いた。
母の胸の中で、過去の罪も孤独も、すべて涙とともに流れていった。
* * *
やがて、リアは語った。
封印の真意――それは、凛の力を封じるためではなかった。
「あなたの中にあった“白”を、壊さぬように守るためだったの。黒に侵されぬよう、白を眠らせていたのよ」
だからこそ、黒の封印が砕けたとき、白が目覚めた。
それは呪いではなく、母が込めた祈りの魔術だったのだ。
――母の愛は、ただ一度も途切れてなどいなかった。