第Ⅱ章:記憶の檻
白の光に包まれた後、凛は深い眠りについた。
その眠りの中で、彼女は夢を見た。
……それは遠い、遠い昔の記憶。
* * *
「凛は、“白の子”として生まれたのよ。とても特別な子なの」
幼い少女の頬に、母の手がそっと触れた。
母の名はリア。優しく聡明で、白魔術の最高位術者だった。
彼女のもとに生まれた凛は、生後間もなくから白魔術の兆候を見せていた。
癒しの光。芽吹く草花。小鳥たちが凛の周りに集い、子供たちは微笑みを向けてくれた。
凛は幸せだった。
だが、その力が大きくなりすぎた。
彼女の魔力は、成長とともに“均衡”を越え始めたのだ。
――ある日。事故は起こった。
村に流行病が広がったとき、凛は咄嗟に力を使った。
だが、その力は癒しではなく、**“反転”**を起こした。
「お母さん、治したかっただけなのに……!」
病の者たちは一時的に快方へ向かったものの、その後、身体が崩れ落ちるように死んでいった。
癒しの魔力が暴走し、“命の支配”へと変質してしまったのだ。
凛は、封印された。
――その力は白ではない、もはや「黒」だと断じられた。
恐怖と誤解と哀しみのなかで、彼女の白は塗り潰された。
母リアは、最後まで彼女を守ろうとした。
だが、魔術師評議会の命令に従い、自ら娘に封印を刻んだ。
「ごめんね、凛……でも、いつかきっと、あなたが自分を赦せる日が来る」
その言葉と共に、胸元に最後の封印が置かれた。
以後、凛は“黒魔術しか使えない魔女”として記憶を閉ざし、ただ力の制御だけを教えられて育った。
* * *
――それが、“我”と呼んだ凛の始まりだった。
けれど今、白の魔術に目覚めた彼女は、ようやく“わたし”を取り戻しつつある。
目を覚ました凛は、ただ静かに呟いた。
「……そうか。我は――いや、わたしは、ずっと……赦されてよかったんだ」