第XI章:記憶が紡ぐ未来へ
“すべてが終わった後の世界に、何を遺せるか”――
それが、彼女の最後の問いだった。
戦いは、神殿の崩壊と共に幕を開けた。
黒と白、そして青が混ざり合い、空間が悲鳴を上げる。
《デューク=ラディア》はその力で“法則”そのものを食らい、世界の骨組みを崩していく。
記憶も時間も、人の名前すら――意味を失っていった。
「このままでは、すべてが消える。
凛、君の“真なる魔法”を使え!」
カインの叫びに、凛は頷いた。
もはや刻印は砕け、抑制の魔具はすべて外れている。
だが、黒魔術の奔流は暴走寸前。白魔術の“核”を解放しなければ――彼女自身が世界を壊す。
「――我が名は、“アリア=リュミエール”」
「光と闇の交差点に立つ者。“記憶を継ぐ者”」
「この身、この魂、この想いを賭けて――未来を願う!」
最後の詠唱が、空へと放たれた。
《オリジン・コード=リライト》――
それは、黒でも白でもない、“想い”によって書き換えられる魔術。
記憶を核とし、世界を未来へと書き換える“調停の書き換え術式”。
デュークの身体が崩れる。
彼は最後に言った。
「……ならばせめて願おう。君たちの“未来”が……何度でも、壊れないように」
そのまま、光となって霧散した。
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すべてが静まり返った神殿跡。
凛は――いや、“アリア”は、崩れた石の上に立っていた。
カインは隣で微笑みながら言う。
「終わったな」
「……いや。始まったんだ。ここからが、わたしたちの世界」
世界は変わった。
記憶に基づく魔法は“想い”に基づくものへと変質し、誰もが小さな魔法を使えるようになった。
争いは消えたわけではない。だが、選べるようになった。
奪う魔法か、与える魔法か。
彼女は歩き始める。
“記憶を紡ぐ者”として、新たな世界の語り部として。
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【完】