第Ⅹ章:境界を喰らう者(イーター)
神殿の空が裂け、異形のものが現れた。
それは人の形を模しているが、明らかに“ヒトではない”。
全身は煤けた肉のように脈打ち、顔の半分は仮面で覆われていた。
その仮面には“逆さの天秤”――かつて禁忌とされた印。
「お前が、“調停者”か」
「……我は、調停など望んでおらぬ。ただ、己の在処を探していただけだ」
「ならばその力、喰わせてもらう。お前が“均衡”なら、我が“崩壊”だ」
異形はその名を名乗った。
《デューク=ラディア》――世界の初期化を司る神のクローン体。
かつて、白と黒が争い滅びかけた世界。
それを“無かったこと”にするため、禁術によって生み出された存在。
「……人は、秩序と混沌の狭間で、何度でも同じ過ちを繰り返す。
ならば、全てを“始まり”に戻せばいい」
凛は、静かに杖を握る。
「その始まりに、希望がないのなら……我が否定しよう」
世界が色を失い始める。
デュークの放つ“無の波動”は、生きとし生けるもの全ての記憶を消去していく。
だがそのとき、カインが凛の前に立つ。
「凛。いや――アリア。俺の中にも、君と同じ力がある」
彼の左腕が変質し、**“青の刻印”**が浮かび上がる。
「俺は、君の“護衛者”として生まれた存在なんだ。
最初から、君を守るためだけに創られた命だった」
凛の目が見開かれる。
カインは、人ではなかった。彼もまた、“境界”を守るために残された調停者の一部――
「……ならば、共に行こう。破滅を超えて、“未来”へ」
2人の力が交差する。
白と黒、そして青の融合――三重詠唱術式:アストラル・ブレイク
デューク=ラディアが咆哮をあげる。
「選ばれし魂よ……境界を喰らいし我を越えてみせろ!!」